コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


 格闘の神を討つ者(1)
 
 夜の闇の中、近くの木々の間に水嶋・琴美は身をひそめていた。
 彼女はある場所へと視線をやる。その先には“死の塔”と呼ばれる巨大な塔が聳え立っていた。

 20XX年に起きた世界大戦の後、荒廃した世界で頭角を表した一人の人物がいた。
 その者は通称“王”と呼ばれており、その“死の塔”を統治していた。その塔には複数階で構成されおり、“王”……“格闘神”は最上階にいた。
 “格闘神”にたどり着く為には当然最上階まで行かなければならない。だが各階にはその階を護る守護者がいる。当然その守護者達を倒さなければ前には進めない。

 数年前。
 琴美の父親は格闘神に殺害された。
 彼女の父親は恐怖政治を行う格闘神を倒すべく彼に戦いを挑み、そして激闘の末に敗れて命を落としたのだった。
 父親は強かった。
 だが、またそれ以上に格闘神の力……強さは計り知れないものに近かった。あの時……倒れゆく父親の姿を見、琴美は誓った。

 ――必ず倒します。なんとしても……――


 あれから数年、幾度となく琴美は修行を重ね続け、かなりの力をつけた。同時に、くのいちの末裔である彼女は覚悟も備わっている。
 琴美は脳裏に浮かんだ思考を振り払い、そして真剣な面持ちで、意を決した。そして地を蹴り、その場から駆け出す。
 彼女が目指すのは死の塔だ。
 だが、彼女の行くすべを阻むかのように彼女の前へと塔を守る兵士達が襲いかかってきた。
 兵士は手に剣を携え、琴美へと容赦なく斬りかかろうとするが琴美は華麗にその攻撃を左側へと避け、または真横から凪ぎ払うかのように斬りつけようとする別の兵士の鋭い刃を琴美は即座に身を低くしながら交わした。そして彼女はどこからともなく取り出した小刀で兵士の体を斬りつけた。
 血しぶきが周囲に飛び散る。
 兵士は血を流しながらその場に崩れるように倒れる。琴美はそれに続けて自分の近くにいた兵士達へとクナイを放つ。
 彼女はその場から疾走しながらも華麗に兵士達を駆逐していった。
 そして塔の入口に琴美はたどり着く。
 そこには一人の幹部の男がいた。
 その男の姿はモヒカンパンクに筋肉質で、ボクサータイプの姿をしていた。モヒカン男は地面に倒れ伏す兵士達に一瞥し、そして琴美の姿を見ると同時に眉をひそめた。
 長く美しい黒髪に、着物の両袖を半袖くらいに短くし、帯で巻いた形の上着に下は黒のインナーが彼女のグラマラスな体に密着していた。
 そしてミニのプリーツスカートの下はスパッツをはき、膝まである編み上げのロングブーツ、手に嵌めたグローブがより一層に、どこか艶やかしさを漂わせていた。
 そんな印象の女性だった。

 ……この女が一人でコイツらをここまでしたってのか……

 内心驚愕しながらも、同時にモヒカン男はニィとした獰猛な笑みを浮かべた。
「女が来るのは珍しいな、だが相手が女であろうとぶちのめすぜ! 死んでも後悔すんなよ!!」
「その言葉そっくりそのままお返し致しますわ」
 唇の端を吊り上げ、そして彼女は不敵に笑った。
 それを見、モヒカン男は面白いと感じた。
 ちょうど退屈していたところだ。暇潰しにぐらいにはなるだろう……。
「ハッ、その強がりいつまで持つか見ものだな!!」
 吐き捨てるような台詞を投げ放つと同時に、モヒカン男は琴美目掛けて疾走し、そして彼女の顔面へと拳で殴り掛かろうとした。だが、琴美はそれをギリギリのところで体をずらして避ける。
 が、モヒカン男は琴美の動きを事前に予想していたかのように、続けて琴美の腹部へと鋭い蹴りを叩き込んだ。
 攻撃を受け鋭い痛みと共に僅かに体制を崩す琴美。だが彼女は瞬時に、地面に足を強く踏みしめ、即座に体制を戻す。そこに続けてモヒカン男は琴美の胸へと拳を叩き込もうとした。
 だが琴美はそれを即座に体を横へとずらしながら攻撃を交わすと供に手にしていたクナイをモヒカン男へと放つ。
 モヒカンの体に深々とナイフが刺さり、そこから真っ赤な血が流れる。それを見、モヒカン男は次第に顔を歪める。
 おそらくモヒカン男は女一人殺るのにそんなに手間は掛からず、自分自身無傷で殺せると思っていたのだろう……。
 それは自分自身の傲りだ。
 そう思い、琴美は即座に後ろに跳び去ると手にしていた数本のクナイを次々と投擲していく。
 素早い速さで宙を奔る数本のクナイはモヒカン男の体へとドス、ドスとした鈍い音と共に体へと突き刺さった。

「お前……よくも俺の体に……」

 モヒカン男はまるで腹の底から響くような低い声で憤慨しながら言った。
 しかしそれに怯む彼女ではない。
 琴美はモヒカン男へと妖艶に微笑みながら、凛とした声音で言った。
「あら? 私言いましたわよね? “その言葉そっくりそのままお返し致します”と。ですのであなたは倒されても文句はないのではないですか?」
「このぉクソアマがッッ!!」
 その表情は月夜に照らされ、美しかった。
 それに構わず、琴美の台詞に激情しながらモヒカン男は琴美の体へと拳を叩き込もうとした。だが体に幾つもの突き刺さったクナイが彼に鈍い痛みを少しずつ、少しずつ与えていっていた。
 それでもなおモヒカン男は琴美へと殴りかかるが琴美は即座に身を低くし、それを避け、そして懐に入るとモヒカン男の腹部目掛けて拳を叩き込んだ。

 渾身の一撃。

 小さな苦痛に似た呻きと共に顔をしかめ、そして痛みを堪えるように歯を食い縛りモヒカン男は琴美の体を蹴り飛ばそうとした。が、それを琴美から即座に避けられモヒカン男の攻撃は宙を切る。
 憎々しげに舌打ちをする。そこに再び琴美の拳がモヒカン男の顔面へと迫り、琴美から殴り飛ばされた。凄まじく強い拳での打撃で殴り飛ばされ、地面へとモヒカン男はドサリと音を立てて倒れ伏す。
 そのままピクリとも動かないモヒカン男を見、琴美は彼が気絶しているのだと瞬時に悟った。
 そして彼女はぽつりと小さく呟くように言った。

「ずっと、そこで眠っていて下さいませ」

 そう言ったのち琴美は踵を返した。
 そして彼女はその場から歩き出し、塔の中へと足を踏み入れたのだった。