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格闘の神を討つ者(3)
低層階から階段を上がり中層階へとたどり着いた水嶋・琴美は思わず足を止めた。
そこには数体の槍を手にした兵士達がおり、彼女目掛けて襲い掛かってきたのだった。
琴美は僅かに唇の端を緩め、襲い掛かってくる兵士達の攻撃を軽い身のこなしで次次と交わしていくと同時に兵士達の体へと打撃を与えていく。琴美の重い一撃を兵士達は受け、兵士達は言葉も発せないまま全てその場に呆気なく倒れ付していった。
琴美は倒れた兵士達を見、僅かに眉をひそめる。
……あまりにも呆気なさすぎる……まるでどこか試しているような……
そんな僅かな引っ掛かりと疑問を抱いていた彼女の耳に突如、薄暗い前方から小さな拍手と共に女の声が聞こえた。
「お見事です。さすがはあの二人を倒しただけの御方ですね」
女はゆっくりとした足取りで歩き、そして琴美の前へと立ち止まった。
琴美は女へと視線を向ける。
白の着物に紺色の袴、そして長く美しい黒髪を白の紐でポニーテール結った凛とした美しい女性だった。
「この兵はあなたがけしかけたのですか?」
「ええ。あの二人を倒していたことは知ってはいましたが、じかに貴女の力を拝見したく、我慢できずにけしかけてしまいました」
琴美の問いかけに女は小さくクスリと笑った。
「けしかけずとも直接戦えばすむのではありませんか?」
「そうですね。そのとおりです。ですが、その前に私は貴女に伺いたいことがあります」
幹部の女は一度言葉を切り、琴美へと強い瞳を向けて言った。
「なぜ神に復讐するなどと愚かな事をするのですか?」
その言葉は女にとって疑問でしかなかった。彼女にとって格闘神とは神に近い存在でありその存在を彼女は信奉していた。
それは疑う事すらない、絶対的な存在。
それがなぜ自分の目の前に立つ女は歯向かおうとするのか彼女には疑問ですらなかった。
「なぜって……私は格闘神に大切な家族を殺された。それ以外に理由なんってありませんわ」
そう低く、静かな声音で言うと供に琴美は女へと駆け出しながらクナイを放った。
「愚かな理由ですね……」
小さな声でポツリとそう漏らすと、女は自分の顔面へと向かうクナイを顔を逸らし、避けた。
クナイの刃が女の頬を霞め、同時に細く、長い髪がハラリと2、3本その場に落ちる。
琴美は女へと迫ると、素早く鞘から抜いた小刀で女の腕を斬りつけた。だが、斬りつけたと思っていた腕は女から咄嗟に避けられ、変わりに白の着物の袖に切れ目を入れただけだった。それに対し女は琴美の体へと凄まじい速さの打撃を連続で撃ち込んだ。
重く脅威に似た打撃。
それを琴美は2、 3発受けてしまうが、彼女はそれらを交わしながら女の腹部へと思いっきり蹴りを一発いれ、それに続けて体へと打撃を撃ち込んだ。
琴美の攻撃を受けた女は体をよろめかせ、琴美から距離を取るかのようなかたちで横へと跳んだ。それに対して琴美は即座に女へとクナイを放ち、女は咄嗟にそれを交わした。
(掛かりましたわね)
そう思うと同時に女が交わした先に琴美はすでに凄まじい速さでクナイを投擲していった。
最初に放ったクナイはフェイク、本命はこちらの方だ。
―――交わしきれない。
琴美はそう思った。
だが、それは簡単に覆された。
女は瞳を見開き、そして瞬時の速さで琴美が放ったクナイを顔色一つ変えずに次次と避けていった。
そして。
「貴女の技見切りました」
静かに唇を動かし、そう琴美へと告げた。
そして女は駆け出し琴美との距離を一瞬で詰めると同時に琴美の左腕と、着物を掴むと自分の身を捻りながら琴美の体を投げ技で床へと叩きつけた。
「ぐっ……」
激しい痛みと共に思わず琴美の口から苦痛の声が漏れる。
だが女はそれを気にも止めずに、倒れた琴美へと再び打撃を加えようとしたが、琴美は横に転がるようにしてそれを交わした。そして琴美は立ち上がり、女の体へと拳を素早いスピードで突こうとした。
が、女は僅かに体を逸らすと同時に琴美の腕を払った。その拍子に琴美のバランスが僅かに崩れる。
バランスを崩した琴美へと女はすかさず蹴りを入れた。琴美はそれに対し、再び倒れそうになりながらも足に力を入れ、ブーツの底を擦りながらもその場に踏み止まった。そして女の体へとクナイで突き刺そうとした。
「―――甘いですね」
女は囁くような言葉を放ち、素早い速さで琴美がクナイを手にしていた腕をガシッと掴んだ。その圧力はまるでごく一般的な女性の圧力とは違う。
それは比べ物にならないくらいの強い力。
そして女はそれに続けるように琴美の腹部へと膝蹴りを入れた。
衝撃の痛みが琴美の全身を駆け巡った。
―――……こんなところで……――
薄れていく意識の中で強くそう思いながら琴美はその場にドサリと音を立てて倒れた。
幹部の女は冷たく、そしてとこか憐憫な瞳でそれを見下ろしながらポツリと呟いた。
「格闘神様は貴女を決して許さないでしょう」
女は倒れて気を失っている琴美へと近づくと彼女を抱き抱えた。そして女は静かにその場から歩き出した。
何事もなかったように平然とした表情をして……――――。
―― 登場人物 ――
水嶋・琴美
――――――――――
水嶋・琴美様
こんにちは、せあらです。
この度はご指名の方有り難うございました。
死の塔での幹部達との戦いでの1話〜3話とありましたので格闘ゲームのような感じで書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
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