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<東京怪談ノベル(シングル)>


百鬼夜行  後編

第三章 黄泉の扉


 汗を舞わせ、上気する頬を行燈の明りがオレンジ色に染め直す。
「これだけ数が多いと、さすがに、暑いですね」
 そうセーラー服のスカーフを引くと、しゅるりと音がして胸元が露わになった。
 そして一刻に参閃。目の前の敵を肉塊に変えていく。
 にやりと微笑む綺花。
 その唇が、肌が、行燈の明りを反射して輝いた。
 「テンポを上げます」
 そう綺花はスカートを翻して右足を後ろに、階段に足を置きばねのように軋ませて、そして、飛んだ。
 はじかれたように綺花は百鬼夜行の中心へ飛ぶ綺花。
 そして綺花は通過した個所からは血しぶきが上がった。
 その血にまみれるよりも早く綺花は動く。
 落ち武者の刀を、天狗の矢を避けて、いなし、はじいて、止める。
 退魔刀が収まっていた鞘も左手に持ち、両手で悪霊たちを粉砕していく様は。もはや暴虐の嵐であった。
 綺花はさらに加速していく、下がるソックスを上げて、口に紐を加える。靴ひもを結び終ると、くるりと反転しながら立ち上がり、後ろから迫る刃を回避した。
 それは石畳を割ったが、当たらなければどうということはなく、綺花はその刀を右足で押さえつけると、体をひねり、横なぎに落ち武者の頭を蹴りつけた。
 骸骨頭が吹き飛んで森の中にポーンと跳ねていった。
 そして加えていたひもを手に取って髪をまとめると、さらにギアを上げる。
「は!」
 一刀、毛むくじゃらの妖怪に叩きつける。
 しかし、ここで初めて綺花は攻撃がよけられてしまう。
「お前は、なぜ避けられた、と思っているだろう?」
「サトリですか。厄介ですね」
 綺花は飛ぶ。大鬼の攻撃を空中宙返りで回避すると、その胸元から札を取り出し、放った。そして。
「爆!」
 印を結ぶと其れが爆ぜ、鬼もサトリもまとめて吹き飛ばしてしまう。
「わかっていても避けられない攻撃にどう対処するか見たかったのですが」
 そして綺花は着地、舞い上がるスカートを左手で抑えながら、逆手にもった刀で大蛇の首を切り落とす。
 そして、伏せた目をゆっくり持ち上げ、見下ろす階段。
 そこには、死体の山が気付かれていた。
 魑魅魍魎立の血はそれだけで穢れを持つ、それ故に階段からは陰炎が立ち上っていた。
 邪悪な陰炎だ。
 それを一瞥すると綺花は開け放たれていた門をくぐる。
 綺花が門をくぐると一瞬ヒヤリとした空気をその身に受けるが、綺花は表情を変えることもない。
「霊王、あなたが。そうなのですね」
 そう綺花は何も観ずに告げた。
 その声は誰もいない、何の変哲もない社に、境内に。しんと響く。
 だがその言葉は確かに届いていた。
 この世を滅ぼさんとする、霊王の耳に、確実に。
「あの群はどうした」
「一匹残らず、倒しました」
 地獄の底から響くような低温が、境内にこだまする。
 それに綺花は淡々と答えた。
「お前は何者だ」
「退魔師です、あなたを倒しに来ました」
「退魔師?」
 その時、声が揺れた。
「おおおおおおお、忌まわしい、忌まわしい退魔師よ!」
 次いで地面が揺れた、同時に境内の真ん中に陣が出現する。紫色の輝きを放ち、何かの紋様が浮かび上がる。
 そしてその中心に、真っ黒な袈裟を黄金の紋章であつらえた、僧のような人物が、地面から湧き出るように現れた。
「あなたが、ヨミサカ……」
「死ぬがよい! 小娘!」 
 直後ノーモーションで爆炎が放たれた。
 蒼い呪詛の炎が綺花を飲み込んだ。
「まだだ、まだ我の怒りは収まらぬ」
 次いで空から降り注いだのは鋼鉄の杭。
 その杭がイカヅチを纏い、砂を巻き上げる、雷と砂縛の牢獄。
 その中心に綺花は囚われてしまう。
「ふははははは、まずはお前の魂の味から確かめてやろう」
 霊王の瞳が光った。
「魂の髄まで嘗め尽くし、お前の胸に暗黒を植え付けてやろう。絶望を孕ませてくれるわ」
 次いで、境内の石畳を引き裂いて氷山が出現した。その頂点は鋭くとがっており、それで串刺しにするつもりだったようだ。
 だが。
「これは、もはや魔法の域ですね」
 綺花はその氷山を砕いて綺花は一歩、歩みを進める。結んでいた髪は解け。冷気に髪がなびいて広がった。
「寒いのは苦手です」
「お前!」
 そう霊王が叫んだ瞬間、綺花の両脇に巨大な手が出現した。
 それが綺花を押しつぶすように飛来する。しかし。
 綺花はそれを刀で切り捨てた。
 そして、かける。
「封印なんて中途半端な真似はしません。ここで倒します」
 直後、霊王は分身。無数の影となると共に本体はいずこかへ消え去った。
「そんなもの目くらましにもなりません」 
 その時綺花の左目に銀色の光が灯る、まやかしを跳ねのける、退魔の輝き。
「見えた」
 綺花は反転、鞘に手をかけると浄化の力を塗布、そして。
 勢いよく心臓に突き刺した。
「ぐあああああああ!」
「終わりです!」
「この程度で!」
 違う。終わりではなかった、霊王の首が伸び、鋭い牙をむき出しに綺花へと迫る。
 だが、その右手には退魔刀が握られていることを、霊王は忘れていた。
「いえ、終りです」
 勢いよく退魔等を振り上げると。
 その首を一刀のもとに両断する。
 頭は勢い余って吹き飛び、裂けたホースのようにその首から血を噴出した。
 だが、綺花の纏う浄化の力の前に、その邪悪な血は焼け、音を立てて蒸発していく。
「ああ」
 そして綺花は空を見上げた。
 本殿の中に満ちていた邪悪な空気、それが。晴れていく。
「これで、また一つの悪を滅ぼせました」
 そう空を見つめて微笑む綺花はとても美しかった。

第四章 終着

 百鬼夜行を一人で討伐したというニュースはたちまちその界隈に広まった。
 綺花の実力を証明する出来事として、これから長く伝えられるだろう。
 そんな綺花は、荒れ果てた境内を見つめながらつぶやいた。
「次の仕事は?」
 その背後から歩み寄るのは大僧正。
「うむ、それは考えているのだが、この一件の後始末が済むまでは休暇だ」
 荒れ果てた境内を修復し、周囲に散らばる肉片や血を掃除し、ここの管理体制も検討する必要がある。
 だがそれは綺花の仕事ではない、それ故に綺花は微笑んで歩み出した。
「どこへ行くのだ?」
 大僧正は問いかける。
「私の力を必要としている場所に」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『 芳乃・綺花 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ノベル発注ありがとうございます、鳴海です! 
 お世話になっております。
 今回は綺花さんの活躍するノベルと言うことで躍動感を意識して書いてみました。
 気に入っていただけたなら幸いです。
 また何かあればよろしくお願いします。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。