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<東京怪談ノベル(シングル)>



 秘密のコーディネート

 ファルス・ティレイラはある一つの店の前に立っていた。
(確か、ここだよね?)
 ティレイラは目の前の店を見ながら心の中でそう呟いた。
 昨日。
 魔法や呪術が籠められた服、コスプレ衣装など怪しげな衣服を売っている女店主が新作の衣装の効果を試すための人材を探している。
 そうチャイナドレスに身を包んだ、少しきつめの美貌の持ち主の女性……碧摩蓮から聞かされ、ティレイラはその仕事を引き受けたのだった。
 その為現在彼女はその店に来ていた。
 簡単な話。ようは実験台である。
 ティレイラは意を決してドアノブに手を触れ、そして室内へと足を踏み入れた。
 室内に入ると同時に鈴のカランカランとした音が聞こえ、少し薄暗い室内には様々な衣服が綺麗に並べられていた。
 また棚には美しい宝石、アクセサリーなどがあり、その近くには誰もが目を引くような珍しい衣装などが飾られていた。ティレイラは思わずそれをまじまじと眺めてしまう。
(結構色々な服とか宝石があるんだ……)
 そう感じ、そして彼女はハッと自分の本来の目的を思い出す。
 慌てて店の奥にあるカウンターの方へと目をやると、丁度カウンターの奥から一人の女店主が出てきた。
「こんにちは。依頼を引き受けた者ですが」
「まぁ、あなたが。可愛らしい方ね。だったら可愛らしい衣装が沢山試せるわ」
 満足気な表情を浮かべながら女店主は新作の衣装を準備しに再びカウンターの奥へと引っ込んでいってしまった。
 暫くしてから、数枚の衣装を手にした女店主がカウンターの奥から出て来るとティレイラの方へと急いでやってきた。
「お待たせ。まずはこれを着てちょうだい!」
「えっ……あっ、あの」
「試着室はカウンター側の左の方にあるから」
 そう言われ女店主から衣装を渡されると共に彼女の勢いに押されつつ、ティレイラは心の準備も出来ないまま依頼は開始されたのだった。


 試着室に入るとティレイラは自分の身に着けていた服を脱ぎ女店主から渡された衣装に袖を通した。
 そして彼女は試着室にある全身鏡へと目を向ける。
 そこには、襟にフリルが付いた白のブラウスに、胸元には黒のリボン。そしてその腰からはコルセットに似た黒色のスカートを履いていた。
 スカートには沢山のフリルがふんだんに使われ、またその下からは黒色のパニエを履いている為ふんわりとしている。脚には黒色のニーソー、ヒールを履いていた。
 鏡に映る自分の姿を見、衣装の可愛さにティレイラは心から嬉しさを感じた。

 こんな可愛い服が着れて嬉しい。

 素直にそう感じる。だが聞いた話では衣装には魔法が籠められている。
 今のところそんな気配は感じない。
 何か特別な魔法が籠められているのだろうか……?
 そう疑問に感じ彼女は試着室のカーテンを開けながら試着室の側にいる女店主へと声をかけた。
「あの、終わりました」
 そう告げた途端。

 突如体に異変が起きた。

 ティレイラの体がみるみると縮んでいき、そして彼女は可愛らしい人形の姿へと変わってしまった。
 それを見て女店主は感嘆な声を上げた。
「まぁ! 可愛らしい。私の見立ては完璧ね!」
「関心しないで元に戻して下さい!」
 人形の姿に変わったティレイラは女店主へと慌てながら抗議の声を上げた。
 幸い口は動くようだ。
 それに対して女店主は柔らかな笑みで彼女に答えた。
「大丈夫よ。すぐに元に戻れるわ」
 そう告げられ女店主に存分に愛でられた後、暫くしてティレイラの体は元の大きさへと戻った。
 ティレイラは内心安堵する。
 だが、その直後女店主はティレイラへと一つの赤い宝石のネックレスを渡した。赤い宝石は美しい輝きを放ち、それは思わず誰もが目を奪われてしまうと、感じる程のものだった。
「付けてみて。その服にはそのネックレスが映えると思うから」
 女店主からそう促されティレイラはネックレスを身に付ける。
 すると一瞬で目の前の景色が変わり、気がつくと狭い空間の中に閉じ込められていた。
 周囲は赤く輝く宝石の表面みたいなものがありティレイラは瞬時に、ここが宝石の中だと言う事に気づいた。同時に頭上から再び感嘆の声を上げる女店主の声が響いた。
 ティレイラはあたふたと慌てながら近くの宝石の表面を叩きながら、女店主に叫んだ。
「ここから出して下さい!!」
 慌てるティレイラとは逆に女店主は余裕のある口調で、そしてどこか楽しんでいるような素振りでティレイラへと告げた。

「心配しなくても大丈夫よ。すぐに出れるわ」

 女店主の声を聞きながら、ティレイラは彼女は楽しんでいる……などと心の中でそう実感してしまったのだった。



 様々な衣装を試し続け、その度に感激し、嬉しそうに感嘆の声を上げる女店主と慌てるしかないティレイラとのやり取りが続き、ついに最後の一着となった。
「じゃぁ、これが最後の一着よ」
 そう言いながら差し出された衣装はメイド服だった。
 そのメイド服は淡いピンクのミニスカートタイプで真っ白なエプロンにはフリルが付いており、簡単に述べると非常に可愛らしい衣装だった。
「可愛い!」
 ティレイラは思わずそう言葉を漏らした。その言葉に女店主は薄い笑みを浮かべた。
「新作の中でも一番の出来なのよ。それじゃぁ、お願いね」
「はい」
 そう返事をし、ティレイラは再び試着室へと行きメイド服へと着替えた。するとその直後ティレイラ自身の体が淡い光に包まれた。
「えっ……なっ何!?」
 自分の体を見ながら驚くティレイラ。
 おそらく衣装の魔法効果が発動したのだろう……。
 衣装と一体化するようにティレイラの体は次第に陶器の像へと姿を変えてゆく。
「ちょっと……まっ……」
 驚愕し、そう言葉を言い終える前に彼女の姿は像へと変化を遂げてしまったのだった。

 暫くして、ティレイラが遅い事に気づいた女店主は彼女の様子を見に行ってみると、そこには陶器の像へと姿を変えた彼女の姿があった。
 それを目にした女店主はその像へと近づいた。女店主はあまりの可愛さに興奮しながら、そっと少女の姿をした像の頭を優しく撫で、愛でながら少女に囁くように言った。

「報酬上乗せにしておくから、もう少し居てね」

 そうして女店主は少女の像を店のオブジェとして飾ったのだった。



―― 登場人物 ――

ファルス・ティレイラ

――――――――――

ファルス・ティレイラ様

こんにちは、せあらです。
この度はご指名の方を頂き、本当に有難うございました。
ティレイラが女店主に振り回される感じにとの事でしたので、そのように重視して書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けましたら嬉しく思います。
この度は書かせて頂き本当に有難うございました。

せあら