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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 新年をLOSTで迎えましょう ――

「はぁ……」
 松本・太一は小さなため息をつく。
 その理由は現実世界にまで侵食してしまった身体の変化、ようやくここ最近で身体の動かし方に慣れてきたからだ。
「意外と時間がかかってしまいましたね……」
 変わってしまった身体に慣れてしまうまで、松本は結構な時間を要していた。
「LOSTをプレイするのも久しぶりですし、まずは日常的なクエストを受けましょうか」
 LOSTを起動してみると、ちょうど年末年始限定のクエストが発表されていた。
「へぇ……教会関連のクエストもあるんですね」
 教会から発注されているクエストで、訪れる人を癒したり、支援したり、情報を伝えたりなど難易度の低いクエストだった。
(これならちょうどいいかもしれませんね。難しくないなら、この身体でもちゃんとクエスト達成までいけるでしょうし……)
 松本はクエストを受注すると、キャラクターを操作して教会へと向かい始めた。

※※※

「おお、キミか……! 最近なかなか来てくれなかったが忙しかったのか?」
 最近ログインしていなかったせいか、教会で働く人のメッセージも微妙に違っている。
「年末年始の教会は忙しくてなぁ。大した報酬も出せないが、それでもいいのか?」
 男性の言葉に『はい』と『いいえ』の欄が表示され、松本は『はい』にカーソルを合わせてボタンを押す。
「それじゃ、さっそく正月の怪我人が発生しているから治癒をしておいてくれ」
 男性に指示された場所に行くと、そこには男性キャラクターがずらりと並んでいる。
(これを全員癒すとなれば、結構なMPを消費してしまいそうですね……。今現在のMPで足りないことはないと思いますけど、大丈夫でしょうか)
 松本は少し不安に思いながらも、治癒を必要としている人に魔法を施していく。
「ありがとう、助かったよ」
「いやあ、まさに天使って感じだね」
 治癒をしていくたびに、ちょっとしたアイテムを貰えるシステムになっていた。
(NPC僧侶の装備? ……あぁ、なるほど。NPCと同じ服装になれるということですか。こういうイベントで貰えるだけあって、防御力とかは低いですけど、お遊び的なものですし、それは仕方ないのかもしれませんね)
 貰える装備品がこれなのだから、情報などがあったとしても、あまり期待は出来ないかもしれない――と松本は画面を見つめながら小さなため息を零す。
「すみません、この花を教会に飾って欲しいんですけどねぇ」
 初老の女性が松本に話しかけてきて、松本は慌てて司祭室にある花瓶を取りに行く。
(これは……日常的なクエストというより、むしろ雑用クエストのような気がしてきました)
 女性に渡された花を飾りながら、松本は苦笑する。
「ありがとうねぇ、これあなたに似合いそうだからプレゼントさせてちょうだいな」
 女性は花の形をした髪飾りを松本に渡す。
(散華……? 一度だけ戦闘不能を無効化……!?)
 まさかこんな日常クエストでレアなアイテムを貰えるとは思わず、松本は少し驚いた。
(LOSTによる『死亡』まで無効化するとは思えませんけど、ゲーム的な意味の戦闘不能には効果がありそうですね)
 ある意味、松本にとって一番良いアイテムなのかもしれない。
(……しかも、非売品となっているから恐らくこのイベントでしか手に入らない。良かった、このイベントをして心から良かったと思えますよ)
 装備していないと効果がないらしく、松本はまだこのアイテムを使う時期ではないと考え、装備しないままアイテム袋へと入れる。
 その後も色々な雑用じみたことをさせられたが、このアイテム以上に良いものをもらえることはなかった――……。

※※※

「とりあえず、今日はここまでにしましょうか」
 LOSTからログアウトして、松本はパソコンをシャットダウンする。
(……散華を手に入れられたということは、恐らく異変に効果がないから。もし、何らかの効果が作用するのなら、きっと私があれを手に入れることは出来なかったはず……)
 松本はため息をつく。
 一体自分はどこに向かっていくべきなのか、と……。
 唯一答えを知っているであろうログイン・キーは淡い光をたたえるばかりだった。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
今回は新年クエスト……ということでしたが、
あまり新年っぽさが出なくて申し訳ございません……!
日常クエストでしたが、内容はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2017/1/4