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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― ココロ折れぬ理由 ――

「……」
 LOSTは本当に不思議なゲームだと、松本・太一は思う。
(精神をダウンロードすると謳われているけど、これは他の人もそうなんでしょうか……)
 LOSTに選ばれた松本は強制的に精神をダウンロードさせられているけど、松本のように影響が出ているのはごくわずかの人間だけ。
 それも『次』が見つかったらその前に選ばれている人間は切り捨てられる。
 つまり、影響が出たのは多く存在しているかもしれないが、現在進行形で影響が出ているのは松本ただひとりということになる。
 松本の場合は侵食によって『男性』が失われていくという、自分自身を否定されるようなもの。
(……心が折れずにいられるのは、魔女の力のおかげ……なんでしょうね)
 松本の中には魔女の力が眠っている。
 LOSTの侵食によって影響の出た『女性化』という現象も、魔女の力によって男性から女性になるという経験があるからこそ、あまり驚かずにいられるのかもしれない。
(そう考えれば、私の日常って随分と非日常なんですよね)
 ここ最近は少し見慣れた女性の姿、しかも一角獣娘という酷く異端な姿だというのに、松本自身は特に変わる様子もなく、いつも通り出社して、仕事をこなしていく。
「……ある意味、私は既に狂っているのかもしれませんね」
 人ならざる力を持つが故に、人ならざる姿も自然と受け入れることが出来る。
 恐らく、松本以外に選ばれた人間たちは襲い掛かってくる非日常に悩み、苦しみ、やがては心を壊していくのだろう。
 それがない理由として、松本が考えられるのは魔女の力だけ。
 ある意味、魔女の力そのものが松本自身の心を守っているのかもしれない。
「……まだ、最終的なラインは超えていないんでしょうね」
 外見はほとんど女性化してしまっているが、まだ男性の部分も残っている。
(完全に女性化してしまったら、男性だった記憶も消えてなくなりそうですし……)
 自分は男だ、という意識も『男性』を象るもののひとつと松本は考えている。
 つまり男だという記憶がある限り、まだ最終的な侵食は訪れていない。
 ――と、実際はどうなのか分からないが、そう信じたい気持ちが松本の中には強くあった。
(もともと私は魔女として『男性の精神』と『女性の肉体』を持っていますしね)
 LOSTの影響が出て、女性化しても今さら驚くことではないのかもしれないが……。
(会社での皆さんの言葉や態度に困るのが悩みなんですよね)
 周りはもう自分のことを完全に女性と認識しているのか、やたらと構われる日々が続いている。
 重い荷物を持ってあげる、とか、食事に行こう、とか……。
 好意で言ってくれるのは嬉しいけど、明らかに最近は下心を持つ人の方が多い。
(最近は皆さんを避けるのも疲れてきましたしね……)
 けれど、この身体になってから便利だと思えるのは、下心がある人とそうではない人が簡単に見分けがつくということ。
 どういう原理かは分からないけど、何となく直感で分かるようになったのだ。
(一角獣娘になったおかげかもしれませんね))
 一角獣は汚れを持つ者を見破る力があると、何かの文献で読んだことがある。
(……例え、どんな力を手に入れたとしても、どれほど自分が変わってしまったとしても……私は絶対に元の身体に戻ってみせる)
 自分でも驚くほど冷たい笑みがこみあげてくる。
 こんなに冷え切った感情が自分の中にあったのか、と松本自身が驚くくらいだ。
 もしかしたら、松本の中に潜む『魔女』が微笑んだのかもしれない。
 ――いつかやってくる終わりを魔女は見えているのか。
 松本はどんな結末を迎えるのか――……。
 それを知るのは、最後のクエストに到達した時のみ。
 今はまだ松本は終わりが見えない暗い道を歩き続けるしかないのだろう。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます!
今回はいつもよりもシリアス……な感じになっていますが、
いかがだったでしょうか?
面白いと思って下さる内容に仕上がっていますと幸いです。

今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!

2017/3/1