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―― カレがカノジョとして覚悟を決めた日 ――
「これは、俗に言うカンスト……というものでしょうか?」
松本・太一は自分のキャラクターのステータス欄を見て、苦笑した。
(フェロモン、笑顔、話術、誘惑、魅了……上限に到達してしまったみたいですね)
しかし、見事に女性寄りのスキルばかりで、松本は悪影響が出ないか心配になっていた。
よく見れば街への貢献度なるものも結構な数値に達している。
(もしかして最近よく頼まれごとをされるのは、この貢献度が関係あるんでしょうか)
松本の予想は当たっている。
街への貢献度と言えば聞こえはいいが、様々な雑用クエストが発生してしまう。
しかも報酬が絶対にいいというわけではなく、労力に見合わない報酬がやってくることも多々あるため、大抵の人は貢献度をあげないのだ。
しかし、松本はプレイヤー間のやり取りをしていないため、そんなことを知る由もない。
「おや、これは新しいクエスト……ですね」
NEWという文字が点滅している場所を見ると『貴婦人の優雅な社交界』というクエストが表示されている。
(このクエストをクリアすれば、スキル・貴婦人が手に入るということですか)
どんなスキルなのか分からないが、不利になるようなものではないだろう、と心の中で呟き、松本はクエストを開始する。
すると女性NPCが教会へとやってきて、松本をお茶会に誘ってきた。
(なるほど、このお茶会に参加するだけで自然とクリアになる……)
つまり、入手できる『貴婦人』というスキルは重宝するようなものではないということ。
(……まぁ、それでもどんなスキルが後々役に立つか分かりませんし、入手はしておきましょう)
そんなことを考え、松本は『貴婦人の優雅なお茶会』のクエストを黙々とこなしていく。
『クエストクリア! おめでとうございます! 報酬はスキル・貴婦人です!』
お茶会が終わった後、自動的にスキルが付与され、松本が確認をした途端――。
「うっ……!」
激しい眩暈に襲われ、その場に膝をついてしまう。
(こ、これは……?)
身体が丸みを帯び、LOSTの影響で女性寄りになっていた身体が、更に女性化してしまう。
「……これは、まさか侵食が進んだということでしょうか」
鏡を見ると、そこには絶世の美女と言っても過言ではないほどの女性が映っている。
(これが私、なんですね)
鏡に手をつき、松本は深いため息をつく。
「スキル・貴婦人を入手したことで、女性化が進んでしまったと……」
しかし、松本は最初ほどの悲壮感はなかった。
「……どこまでも女性化が進めばいい、この異変を解決したら元に戻るんですから」
ある意味開き直ったとでも言うのだろうか。
鏡の中の自分を見つめる松本は凛としていて、余計に美しさを醸し出している。
「どうせなら、人間関係が苦手ということにも影響してほしかったですけどね」
どんなに社交的なスキルを入手しようが、本来の『人間関係が苦手』というものは変わらないらしく、現実世界でもLOSTの中でも松本は少し引っ込み思案な所がある。
(まさかこんな風に考えられるようになるなんて、私って意外と強かだったんですねぇ)
くっ、と笑みを零し、松本はLOSTをログアウトする。
(変化してしまったことを嘆くより、強くなることを考えなければ……)
弱い者は強い者に踏みつぶされてしまうのだから――。
このLOSTというゲームのように。
(貴婦人で身体が変わったとしても、これを利用して強くなりますよ)
少し前までは変化や侵食に怯えていたけど、今の松本は違う。
「……身体が変わったとしても、私は私なのですから」
ある意味では心が強くなったのかもしれない、と松本は心の中で呟く。
(さて、次はどんなクエストを受けましょうか)
先ほどログアウトしたばかりのパソコンを見つめながら、松本は小さく呟くのだった。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
――――――――――
松本・太一様
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
毎回ご感想まで頂いて、いつもありがたく拝読させて頂いております。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
少しでも強さを感じて頂けたら幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!
2017/03/22
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