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<東京怪談ノベル(シングル)>


『ホワイトデーの贈り物』

 3月14日。
 ホワイトデー当日になっても、アレスディア・ヴォルフリートは欲しいものを決められずにいた。
 お返しは気にしなくていいと言ったのだが、ディラ・ビラジスは手作りチョコレートのお返しを絶対返すと言い張っていた。
 クリスマスのプレゼント交換とは違い、金銭面でいえば大してかかってはいない。
 同額程度のお菓子……ではディラが納得しない、気がする。
「決まったか?」
 飲み物を買いにいっていたディラが戻ってきた。
 今日は彼からの誘いで、商店街に訪れているのだが……。
「むぅ……」
 アレスディアは考え込み、ちらりとディラを見て言う。
「今日の昼食代でどうだ?」
「それは勿論奢るとして、それ以外の形に残るものを贈らせてもらう」
 ディラが即答すると、アレスディアは眉間に皺を寄せてより深く考え込む。
「……そんなに考えることかよ」
 ディラはドリンクを飲みながら、苦笑していた。
「駄目だ、思いつかぬ」
 アレスディアがため息をついてそう言うと、ディラはすぐに。
「それなら、エプロンドレスに決定でいいな? それ着て誕生日に手料理作ってくれるってことで」
 楽しげに言い、アレスディアを連れて衣料品店に向かおうとする。
「ディラ殿の誕生日に料理というのは、構わぬ。むしろ私の料理などで良いのか気になるだけで。料理は構わぬのだが……エプロンドレスでなくても、普通のもので十分エプロンとしての機能は果たせると思うがどうだろう……?」
 アレスディアが困ったような顔でディラに尋ねる。
「俺がアレスにああいう服を着せたいんだよ」
 ディラがそう言うと、アレスディアは眉間に皺を寄せたまま、首を軽く左右に振った。
「そもそも、私では似合わぬ」
 あのようなフリルがついたピンク色の服が好みということは、ディラは可愛らしいものが好みのようだから。
「私ではディラ殿の好みに添えぬ」
「好みって……」
 ディラは特に可愛いものに興味があるわけではない。
 普段着ないようなああいった可愛らしい服を恥ずかしげに着るアレスディアを見て見たかっただけで。
 普通のエプロンでは全く意味がない。
(いや、手料理の承諾をしてもらったのだから、それで十分なのか)
 アレスディアと同じように、ディラも「うーん」と考え込む。
「どうしても嫌ならあきらめるけど。どうしてもじゃないのなら、とりあえず着てみてほしい。似合うかどうかは着てみないとわからないだろ」
 アレスディアはディラが何故こんなにエプロンドレスにこだわるのか分からなかったが……他に頼める女性はいないのだろうと、不承不承ながら、頷いた。
「それで、メニューはこちらで決めていいのだな? 食べられないものは?」
「特にない。この街で食材として売ってるもんなら大丈夫だ。一応好みを言っておくと」
 野菜より肉料理が好きで、辛みや苦みが少しある方が好き。ライスよりパン。甘いものも好きだが、食後にケーキを1切れ食べる程度で十分。
 コーヒーや紅茶に砂糖はいれない。ミルクよりレモン派。
 そんな感じのことを、ディラは楽しそうに語る。
 ディラがアレスディアの料理にとても期待してくれていることが伝わってくる。
 エプロンドレス姿では期待に応えられないだろうから、せめて料理で満足してもらわねばと思うのだが……。そう得意というわけではなく。
「そうか。あとは、調理器具の問題もあるし、私の家ですることになるがいいか?」
 料理をしないというディラの部屋には、調理器具も調味料もない気がする。
 なにより、使い慣れている器具の方が美味しく出来るはずだ。
「もちろん……って、ああそうか」
 エプロンドレス姿を見るということは、料理している姿を見るということで。
 結構思い切った申し出だったんじゃないかと、ディラはアレスディアを伺い見る。
 ……彼女は普段通りであり、なんの意識もしていないようだ。
(まあ、そうだろうな)
 ため息をつきながら、当日、少しでも彼女の女性としての姿が見れればいいなとディラは思うのだった。
「では、贈り物選ばせてもらうな。けど、嫌ならすぐ脱いでいいからな。……恥ずかしいだけなら、絶対脱ぐなよ」
「? ああ」
 意味が良くわからないと思いながら、アレスディアは訝しげな顔で頷く。
(さて、誕生日いつにするか。……やっぱ、薄着の季節がいいよな)
 表情を変えずにアレスディアを眺めながら、ディラは妄想に耽るのだった。
「……なんだ?」
 不思議に思い、アレスディアが尋ねると、ディラは「いや、なんでも」と言って、目を逸らす。
(彼女の誕生日には自分で考えて、喜んでもらえるものを贈らないと、な)
 そのためにも、もっと彼女を知りたい。そう思うのだった。