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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― ありえない現実、やがて来るかもしれない未来 ――

「……ふぅ」
 この日、松本・太一は朝から体調が悪かった。
「あれ? こんなクエスト、昨日まではなかったはずですが……」
 新しいクエストが開放されているのを見つけ、どんな内容なのかをクリックする。
(もしかして貴婦人のスキルで開放されたのでしょうか?)
 吸血鬼の花嫁、というタイトルのクエストであり、報酬は今の松本にとって結構魅力的なものが多い。難易度はやや難しい感じだが、油断さえしなければ松本でもクリア出来るのではないかというものだった。
「よし、これを受けてみましょう」
 クエストを受理した後、ステージとなっている廃教会へと向かう。

※※※

「……これは『いかにも』という感じの教会ですねぇ」
 おどろおどろしい雰囲気を出す教会を見ながら、松本は苦笑する。
 教会の周りにはアンデッド系のモンスターが多く、聖なる魔法を使いながら松本は廃教会の奥へと向かっていく。
「……貴方が、この廃教会を根城にしている吸血鬼ですね」
 最奥に待っていたのは黒衣に身を包んだ吸血鬼だった。
(もっと強いのかと思ったけれど、これなら私の強さの方が上ですね)
 相手の力量を見て、何とか勝てるだろう、と僅かな油断が松本を襲った時――……。
 吸血鬼が黒い霧を吐き出し、それは松本の身体を覆った。
「なっ……!?」
 慌てて霧を払おうとしても、もがけばもがくほど霧は松本を包み、やがてその霧は精神にまで影響を及ぼし始めた。
(油断をした……! まさか精神系の攻撃をしてくるなんて思いませんでした……!)
 必死に自分を保とうとするけれど、霧はどんどん松本の思考を塗り替えて行き、吸血鬼の思うままの行動を取り始めてしまう。
(――あぁ、吸血鬼の花嫁、というタイトルは……失敗した時に、この吸血鬼の花嫁にされてしまうことを意味していたんですか)
 油断をした自分を後悔するけれど、既にもう松本の意識はほとんど残っていない。
(――まさか、異変のことではなく、このような形でゲームオーバーを迎えることになるなんて……私は、一体何のために今まで――)
 つぅ、と松本の頬を涙が伝うと同時に思考はブラックアウトするのだった。

※※※

それから数日後。
 他のプレイヤー達に新たなクエストが出現した。
 ――村人を苦しめる吸血鬼とその花嫁を討伐せよ、という内容のクエストが。
「ふ、ふふふふ……愚民どもは私の前にひれ伏すがいい」
 男だったことも、人間だったことも、今の松本の記憶には残っていない。
「我が愛する吸血鬼の食料でしかないことが分からないのか」
 襲い掛かって来たプレイヤーたちの屍の上に立ち、松本は高らかに笑う。
「あぁ、そこにいたのですか。まだ殺してはいませんよ。人間は貴方の大事な食糧なのですから、無駄に淘汰することはしません」
 自分の意のままに行動をする松本を見て、吸血鬼は下卑た笑みを浮かべる。
「そういえば……たまに嫌な夢を見るのです。私が人間で、魔物退治をしたりしているのですよ。しかもそれは本来の私ではなく、本物は男という意味の分からない夢を――」
 ズキズキと痛む頭を押さえながら、松本は吸血鬼に言葉を投げかける。
「――気にするな、と? そうですね、確かに夢のことを気にしても意味がありません。それより食料がやってくるのはいいのですが、こうも頻繁に来られると面倒ですね」
 はぁ、とため息をつく松本――。
 精神を洗脳されてしまったため、現実世界の松本の身体は意識不明で病院で昏々と眠り続けている。
 決して、もう目覚めはしない。僅かな油断が招いた最悪の結果――。
 今日も松本はあの廃教会で冒険者たちを迎え撃つ。
 終わりの見えないことに疑問も抱かず、かつては自分もそうであった冒険者たちを手に欠けるのだった――。

BAD END

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一様

こんにちは、いつもご発注をありがとうございます!
感想もいつも嬉しく拝読させて頂いております。
今回はバッドエンド風の内容ということでしたが、
いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていましたら幸いです。

それでは今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら宜しくお願い致します!

2017/4/18