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―― 彼は知る、いつかやってくる自分の運命、役割を ――
「……そういえば『貴婦人』スキルを入手してから行ける場所が増えましたね」
ポツリ、と松本・太一が呟く。
先日『貴婦人』スキルを入手してから今まで行けなかった場所、話せなかった人と接触することが出来て結構クエストにも幅が出てきている。
(まさか『貴婦人』スキルでこんなにクエストが開放されるなんて思いませんでしたね。しかもこのスキルを持っていると街の中でも結構な地位にいることになっているのか、話しかけてくるNPCの口調も違いますし……知りえなかった情報も結構入手出来たんですよねぇ)
松本がそんなことを考えていると、突然松本あてにチャットメッセージが届いた。
「やっほー! 元気してるー? 松本ちゃんってば貴婦人スキル手に入れたんだね〜♪ 色んなやつの複合スキルで結構入手度低いやつなんだよー! うらやましー!」
メッセージを送って来たのは瀬名・雫であり、対面しているわけでもないのにテンションが高いことが伝わってきて松本は苦笑する。
「もしなんか手伝えることあったら遠慮なく言ってねー!」
それだけメッセージを残して、そのまま瀬名はチャットから出ていった。
(手伝えることがあったら、ですか)
まだまだLOSTに関しては分からないことだらけで、異変に関係ない瀬名をどこまで巻き込んでいいのか分かりかねている部分もある。
だからこそ簡単に情報提供を求められなくなっているかもしれない、と松本は自嘲気味に心の中で呟いた。
(でもクエストが一気に解放されたことに既視感を覚えるんですよねぇ)
どんなクエストなのか気にはなるけど下調べは絶対にしなければならない気になるし、欲しかったわけでもないのに状態異常体制の装飾品を買ってみたりして、自分の中の何かが反応している、まさにそんな感じだった。
「そういえば、滅錆士について少し分かったことがあるんですよね。すべての『錆』に対抗する力を持つのが『滅錆士』なんだとか……ただの錆を取る職業ってだけだったらどうしましょう。結構色々悩んでこの職業にしたんですが……」
恐らくそんなことにはならないと分かりながらも、やっぱり不安に思う気持ちはある。
(錆びた剣、今は何とも出来ないけれどいつか……この剣の錆びを取れることがあるんでしょうか。そうなった時、今の私はどうなっているのか……どうなってしまうのか……)
自然と強く拳を握りしめる。まるで不安な心を握りつぶすかのように。
その時、不自然なメッセージが松本あてに届いた。
(何でしょうか。また瀬名さんからのメッセージでも届いたんですかね)
そんなことを思いながらメッセージボックスを開くと――。
『頑張りなさい。他の誰でもないアナタ自身のために』
「……差出人、不明? IDも滅茶苦茶な数字ですし、一体誰が……」
まるで戸惑う松本を笑うかのように、メッセージはゆっくりと背景の色に溶け込むように消えていく。
「……他の誰でもない、私自身のために頑張らなくてはいけない?」
何に対して頑張るのか、どんな理由で頑張らなければいけないのか、一切書かれていないけど松本はひとつだけ分かっていることがあった。
(この言葉は……決して脅しなんかじゃない。事実、なんでしょうね)
文面だけを見れば脅しのように受け止められても仕方ない。けれどそれが事実を言っているのだと何故か松本には分かった――……というより分からされたという感覚に近かった。
「言われなくても頑張りますよ。私自身が後悔したくないですからね。すべてを解決して、私は私の日常に戻る……そのためにも前に進まなければいけない」
画面を見つめる松本の表情は普段の穏やかさはなく、厳しいものだった――……。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人
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松本・太一様
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます!
今回はある意味決意を固める内容になっているのですがいかがでしょうか?
楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!
2017/5/19
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