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マイ・フレンド
孤独を愛している、わけではない。
孤高を気取っているわけでは、決してないのだ。
友達は欲しい。彼氏だって、出来れば欲しい。家族が要らない、わけはない。
「だけど……あんな家族なら、要らない」
明かりが灯る事のない、永遠の深夜の街。
そこに今、1軒だけ、電気の点いている店があった。
たった2人の客のためにだけ開いているアパレルショップ。
その店内に阿部ヒミコは、1体のマネキン人形を運び込んでいた。
「私を傷付ける友達は要らない。私だけを愛してくれない彼氏は要らない……貴女だけがいてくれればいいわ、イアル・ミラール」
マネキンに語りかけながら、ヒミコは指を鳴らした。無人の店内に、フィンガースナップ音が高らかに響き渡る。
商品が1着、売り場から消え失せた。
そしてキラキラと光を発しながら、マネキンの体表面で実体化を遂げる。
清楚な、青色のドレスであった。
その清楚さを台無しにするものが、しかしマネキン人形の身体から生えている。
それがドピュドピュッ! と何かを噴射した。
潰れ砕けた、牛乳ゼリーか杏仁豆腐のようなもの。固体か液体かも判別し難いほどに濃厚な、白色の何か。
それが、青いドレスをぐっしょりと濡らし汚した。
「もう……何なのかしらねえ、これは」
ヒミコは苛立ちながら、もう1度、指を鳴らした。
汚れたドレスが、キラキラと消えて失せる。
ドレスを台無しにしたものが、マネキンから生えて相も変わらず隆々と屹立しながら、白い汚物をなおもトロトロと滴らせている。
マネキン人形と化したイアル・ミラールの、その部分だけが生身なのだ。
「こんな、おぞましく邪魔なものを生やした貴女が……何故だか、とっても愛らしい。大概ね、私も」
自嘲しつつも、ヒミコは指を鳴らした。
桃色の、水着かドレスか判然としない衣装が、光を散らせながらマネキン人形に巻き付いて来る。
凛々しくも煽情的な、鏡幻龍の巫女の儀式装束。
それを押しのけるように生えながら、ドピュドピュと白い汚物を先走らせるものに、ヒミコは見入った。
「まったく……こんな、おぞましいもの……」
罵る口を、ヒミコは近付けていった。
おぞましいものに、唇を触れる。
ヒミコもイアルも、もろともに汚れた。
次にイアルに着せたのは、金属製のビキニとしか言いようのない、見るからに役に立たなそうな甲冑である。
それを勇ましく装着したマネキン人形が、醜悪な生身の部分を浅ましく屹立させている。
こんな汚らわしいものは、切除してしまわなければならない。
そう思いながらもヒミコは、その汚らしいものに己の唇を、胸を、擦り寄せずにはいられなかった。
「裸足の王女……イアル・ミラール、貴女は……私の、友達……」
動かぬマネキン人形に、ヒミコは奉仕をしながら語りかけた。
「友達って……どういうものか、ねえ貴女わかってる……?」
当然、イアルは答えない。
物言わぬ相手に対する、独り言のような語りかけが、ただ続いた。
「私を、傷付けない……私のする事は全部ほめてくれる、私の言う事は何でも聞いてくれる……私に、尽くしてくれる……それが、友達なのよ……」
イアルは応えない。
口答えする友達など要らない。だからヒミコは、この『誰もいない街』を造ったのだ。
「尽くすのは、私じゃなくて貴女……ねえ本当に、わかってるの……」
口答えをしない友達に、ヒミコは今、尽くしていた。唇を、手指を、胸を使って。
征服者・支配者の戦利品であり続けたのが、『裸足の王女』の美術品としての歴史である。
どれほどの暴君であろうと、この美しい石像にやがては心奪われ、魂奪われ、まるで『裸足の王女』の奴隷のようになって覇気を失い、衰え、次の征服者に倒されていった。
あの『虚無の境界』の盟主でさえ、一時はそうなりかけたのだ。
今は石像ではなくマネキン人形、とは言え『裸足の王女』である事に違いはない。
「私を……支配しよう、なんて許さないわよ……友達のくせに……ッ!」
白く濁ったものが大量に噴出してイアルを汚し、それ以上にヒミコを汚した。
桃色のレオタード。OLっぽい女性用スーツ。神聖都学園の制服。
様々なものを、着せてみた。
何を着てもイアルは、おぞましい生身部分から白いタンパク質を大量に噴射して、ヒミコを汚し続けた。
存分に汚れを浴びたところでヒミコは、イアルを生身に戻し、メイド服を着せた。
人形ではなくなったためか、イアルが白いものを放出する事はなくなった。とりあえずは、だ。
清楚なエプロンドレスの下で、しかし汚らわしい牡の器官が隆々と立っているのは見て取れる。
手で、口で、胸で、それを愛でているうちにヒミコは、切除しなければならない、という思いを失っていた。
「情が湧いた、というわけではないのよ。勘違いしないでね」
ヒミコは言った。
「その汚らしいものを、私は完璧に制御してみせる。飼い慣らしてあげるわよ裸足の王女。貴女を、友達としてね」
イアルは、その言葉には応えない。
ただメイドとして、告げただけだ。
「お嬢様、お風呂の用意が整いました……」
「ご苦労様。貴女も一緒に入りましょうね」
エプロンドレスの、浅ましく盛り上がった部分を、ヒミコは容赦なく掴んだ。
「この汚いものを、ようく洗ってあげるわ……」
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