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<クリスマス・聖なる夜の物語2004>
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Are You Ready?
○オープニング
「さぁ、やりあいましょう」
…はい?
淺川・里緒いきなりの提案に、その場にいた全員が首をかしげた。
「そうよ、世の中クリスマスクリスマスって恋人たちの甘い色一色に染まっちゃってうらやまs…げふげふ、いいえ、クリスマスっていうのはそれだけじゃないわ!
クリスマスっていうのは、恋人たちの一大イベントであると同時に、いない人間にとっても最高のイベントなのよ!
愛が生まれないならどうしたらいい?ズバリ、それは、自分の手で勝ち取ること!」
益々もって訳が分からない。ただ、今言ったことの前半部分は本音なんだろうなぁ、ということだけはよくわかった。
「そこで私は考えたわけよ!出会いがない、ならその舞台を作ってしまえと!!」
里緒がギュッとコブシを握って言い切れば、背後でピシャーンと雷の音が鳴る。…音響係のアスカさん、ご苦労様です。
「ここに、私は第31回クリスマス大運動会を開くことを宣言します!!」
…えーと。これ、本気ですか?
○色々渦巻いて?
「プーも参加しまーす♪」
受付をしていた里緒の前に現れたのは、小さな可愛らしい女の子だった。
「あら、お嬢ちゃん一人?」
「うん、今日はプー一人なんだ。で、参加していいでしょ?」
「それは勿論♪」
里緒の顔がほにゃっと緩む。歌って踊れる子供魔皇プティーラ・ホワイトの可愛さに、既に里緒はKO寸前だった。
そんなわけで、里緒は始まるまでプティーラと一緒にいた。別段プティーラが嫌がる様子もないので、ちょーっと抱きしめみたりもしていたり。
「にしても、プーちゃんはなんでまたこの大会に?」
一人でやってきたプティーラに、里緒は興味津々。
「えっとね、『今』の状態になってからほとんど運動してなくて…それで、元々体動かすのは好きだし、色々できたらいいなぁって」
着替え終わり、体を軽く動かしながらプティーラは答えた。
『…『今』の状態…?』
と、それを聞いて里緒は一人考え出した。
まず、『今』の状態という言い方が気にかかる。普通の人間なら、そういう言い方は絶対にしないはずだ。
そこで、頭の中に出てきたのは、病院の中一人ぼっちで寂しそうにしているプティーラの姿。さすが三十路一歩手前、ドラマの見すぎである。
「そうだったの…うん、今日は思いっきり楽しんでいってね…」
涙が出そうになるのをこらえて、優しい笑顔で里緒はいった。
「うん♪」
そんなことに気がつくはずもなく、プティーラは明るく頷いた。
「それじゃちょっと走ってきまーす♪」
軽いアップのために、プティーラは里緒に手を振りながら走り出した。
「…健気ねプティーラちゃん…!」
そんな姿に、(勝手に勘違いしてる)里緒は涙をとめることが出来なかった…。
「どうかしたですか?」
プティーラが戻ってきて汗を拭いていると、何故か里緒が泣きそうになっていた。
「なんでもない、なんでもないわ…」
見えないように、里緒はハンカチでその目を覆った。里緒の中で、勝手にプティーラの美化が何処までも進んでいくのだった。
「??? ま、いっか」
そんなこととは露知らず、プティーラはまた元気に走り出した。
○開幕!!
さて、めでたく参加者が揃ったところで、早速ペア決めが行われた。
「あたしは沙羅ちゃんとね♪」
「えへへ、よろしくね祀ちゃん♪」
まぁこの二人は仲が良いのでそれでよし、残りはうまく男女になるように分けられた。
「第一のコース♪」
…里緒の言い方に深いツッコミはなしの方向で。
「ははっ、今日はよろしくな」
「任せておけ」
アスカとグラハルトという、ギタリストと軍人の夢のコラボレート!…らしい。まぁ里緒の魂胆丸見えコンビなのだが。
「第二のコース♪」
そこにいたのは、やたら身長の高い男と、反対に背の低い女の子。
「にゃはは、よろしくだすみさきち♪」
「せやからみさきちちゃう言うてるやろ!!」
洪陽&美咲…ここでもツッコミの運命に翻弄される美咲だった。(合掌)
「第三のコース♪」
ここもやっぱり正反対な二人。
「負けられない…ここでいいところ見せてアスカさんの高感度大幅アップだ、行くぜ悠姫さん!!」
「総一郎…負けるわけにはいかんな」
ケンジだけは妙に暑かった。
「第四のコース♪」
他に比べると、妙に背の低い二人。
「…なんでボクが」
「プーと一緒に頑張るです!」
プティーラとペアを組む人があまりに背が離れすぎていると困るということで、綾人、強引に参加決定。
「第五のコース♪」
何故か、悠姫がそこにいた。
「…なぁ、なんで私はこんな格好をしているんだ?」
「なんでって…いや、面白そうだったから?そういうわけで頑張ろう総一郎君!」
総一郎、得意(?)の女装で(里緒たちの陰謀で強引に)悠姫と瓜二つの姿で参戦!!後ろからは自分の逢魔や妹から「お姉ちゃんガンバレー♪」と黄色い声援がとんでいる。本当はお兄さんなのに…。
「最後に第六のコース♪」
ここは、仲良し二人組み。
「っしゃあ、参加するからには優勝あるのみ!」
「頑張ろうね、祀ちゃん♪」
…なんか、まともなのはここの二人くらいに思えるのはなんでだろう?
『なお、実況は私橘唯奈と、霧崎玲さんの二人でお送りしまーす♪』
『…Zzzz…』
実況寝てるし!
* * *
さて、妙に軽い入場と開会式が終わり、各人アップに入っていた。いきなり体を動かすと色々と危険なのは、素人であっても常識である。
そんな中、アップもせずにただ睨み合う二人がいた。
「……」
「……」
『ゴゴゴゴ』と漫画チックな効果音すら聞こえてきそうな沈黙、殺気。
それは言うまでもなく総一郎と悠姫だった。まぁこの二人の場合、アップなんて必要なさそうなものではあるけども。
「…なんだか、大変なことになりそうだねぇ」
プティーラの呟きが、この大会の行く末を暗示しているような気がするのは何故だろう?
「…っていうか、総一郎さんを女装させる意味あったのかな?」
それは勿論楽しいからに決まってるじゃないか綾人君!
「うーん…」
そんなプティーラと綾人を見ながら、祀が一人うなっていた。
「どうしたの祀ちゃん?」
一人うなる親友に、沙羅が声をかける。
「いやね、あいつなんだけど…なんだか誰かに似てるような…」
「誰かに似てる?」
「うん…っていうか、唯奈さんとあいつの二人が、ね」
一体誰だろう?不思議な感じに、祀は一人考え続けた。
「へへー今日は負けねぇからな」
「こっちこそ!」
『アスカさんに、じゃなくて、グラハルトさんに、だけどな…』
こっそりと心の中で呟くケンジ。アスカから少し離れたところに、そのグラハルトがいた。既に体は温まり、臨戦態勢のようだ。
と、そのとき二人の視線が交わった。瞬間、グラハルトの口に小さく笑みが浮かんだ。どうやら向こうも譲る気はないらしい。
『上等じゃないか』
そんな声が、ケンジには確かに聞こえた気がした。
「なんや一部大変そうやなぁ」
そんな彼らを見ながら、美咲はのほほんと呟いた。恋愛というものをしていない彼女には、まだそういうことは分からないのだろう。
「みさきちに彼氏が出来る日は何時くるんやろうねぇ」
その横で、洪陽がしみじみと。
「うるさい、余計なお世話や!」
思わず美咲のパンチが洪陽に飛ぶ。しかし、あまりの身長差にコブシがその顔に届くこともなく、ニャハハハと頭をポムポムとされる美咲であった。
『プログラムナンバー一番、100m走です。選手の皆さんは入場口に…』
アナウンスが流れる、さぁ決戦が始まる!
さて、スタートラインに六人の選手が並んだ。『面倒くさいから一発勝負でー!』と里緒が言ったためこういう対戦形式になった。
ちなみに走者は、左からアスカ、美咲、悠姫、綾人、悠姫(総一郎)、祀となっている。…一部(というか一人)表記がおかしい気がするのは気にしない方向で、うん、気にしたらきっと負けだから。
「ちょっとまて、私は総一郎だー!!」
言葉が既に女口調になってるから却下です。
『総一郎さん美味しいですねー♪』
『…女装の鑑…』
実況もあぁ言ってるしね☆
…あ、総一郎が血涙流してる。
「祀ちゃん頑張ってー!」
「綾人君、ファイトだよー♪」
「みさきちこけるなやー」
「……」
「悠姫さんがんば…」「「「「「悠姫さん頑張ってー♪」」」」」
観客から色とりどりの声援が飛ぶ。何故か悠姫に対する(野太い)声援が異様に多いのは何故だろう…?
「…げっ」
見れば、いつぞやのM集団が応援席にいた。一部だけ異常なまでに濃い、これでもかというくらいに濃い!総一郎がいる手前逃げ出すわけにはいかないが、本当は一刻も早く逃げ出したい悠姫だった…。
「ファイトーファイトー♪」
でも、そんな中でもプティーラの可愛さだけは輝きを失っていなかった。というか、地獄に仏?(何かが違う)
『位置についてー』
五人がいっせいにクラウチングスタートの姿勢をとる。しかし、なぜか美咲だけはとらなかった。
「…え、そういう格好せなあかんの?」
どうやら素だったようだ。まぁ別に強制でもないので、そのまま進行していく。
『よーい…』
出走前の一瞬の沈黙。『ゴクリ』と、誰かの生唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。
『パン☆』
ピストルが鳴った瞬間、皆一斉に飛び出した――――
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
スタートダッシュで飛び出したのは総一郎と悠姫だった、それに祀、綾人、アスカと続く。
「あぅ」
美咲は…いきなりこけやがった。
『…ボケの基本…』
「ボケちゃうー!」
玲の鋭い一言に思わずツッコんでしまうあたり、やっぱり関西人な美咲…。
まぁそんな天然美咲はおいておいて、レースは勝手に進んでいく。
「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!」
というか、総一郎の独走状態だった。よく見たら、魔皇の刻印がくっきりと浮いている…。
現在総一郎のスピードは時速100キロを越えている、誰も追いつけるはずがない。っていうか卑怯臭い!!
ちなみに、オリンピック短距離走のゴールドメダリストの速度が大体時速36.5キロ程度であると考えれば、そのすごさはよーく分かっていただけるだろう。
「ふははははどうだ姉貴見たかぁ!!」
そしてそのままゴールイン☆総一郎の圧勝だった。
まぁ魔皇は常人の10倍の身体能力を持っているわけで…当然?
「あー総一郎さん卑怯だー!!」
で、それを見た抑えていた祀も魔皇化、一気に加速していく!
「なっ…!?」
そのまま二位を走っていた悠姫を抜き去りゴールイン!魔皇化はかなり反則臭い…。
「…なんなんだあの人たち」
「嘘臭ぇ…」
それを呆然と見送る綾人とアスカだった。
「あぅ」
その頃、美咲は一人こけていた…。
『100M走の順位は、一位悠姫(弟)さん、二位花瀬さん、三位悠姫(姉)さん、四位綾人、五位アスカちゃん、六位美咲ちゃんとなりました。
玲さん、このレースはどうでしたか?』
『…美咲の一人ボケ勝ち…』
「せやからボケちゃう言うてるやんかー!」
でも誰も否定してくれなかったりする。(チーン)
「おいしい…おいしすぎるでぇみさきち!」
そしてなんでお前が悔しそうなんだ洪陽。
『続いて、100Mリレーです』
なお、これはリレーなので、複合チームで勝負となる。
くじ引きの結果、Aチームはプティーラ、洪陽、ケンジ、Bチームは沙羅、里緒、グラハルトとなった。なお、順番は出走順である。
「プティーラちゃんよろしくね♪」
「負けないからね♪」
発走前、第一走者の沙羅とプティーラが挨拶を交わす。二人の美少女のほんわかした雰囲気に、観客たちの頬も思わず緩む。
しかし、それもすぐに変わってしまうとは誰も予想するはずもなかった…。
『位置について…よーい』
二人がグッと腰をかがめる。
『パン☆』
力強く足が蹴り出される、瞬間二人は一気に加速した!
『おーっと、これは物凄い加速…っていうか、さっきの悠姫(弟)さんや花瀬さんといい、あのお二人といい…凄いですね…』
『…人間じゃないみたい…』
玲さん、まさに正解です。
二人にはしっかりと直感の白と孤高の紫の刻印が浮かび上がっていた。しかしそれに気づくものはいない、一部を除いて。
「あぅ…遅れてる…」
それまでの運動不足が祟ったか、プティーラが少しだけ遅れ始めた。といっても、ほんの少しであって、魔皇二人のとって100Mという距離は短すぎた。あっという間に、第二走者の洪陽と里緒が目の中に入ってくる。
「里緒さん!」
「任せて…って、沙羅ちゃん速い速い!!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
沙羅は全力で走ることに一生懸命で、バトンを渡すとき減速を忘れ、バトンを手渡すのに手間取ってしまった。その一瞬に、プティーラが追いつきバトンを渡す!
「洪陽さん!」
「ういーっす♪」
「…って、背が高いー!!」
「あやや、ごめんちゃいねー♪」
同じ速さで走りながら少し屈むという器用な真似をして、やたら陽気な声と一緒にバトンが洪陽の手に渡った。
「うおりゃー!!」
声は勇ましいが、ドスドスという音が似合うくらいに里緒の足は遅かった。
『…所詮は寄る年波には勝てない…』
「こらそこうるさいー!!」
玲のツッコミは一々厳しかった。
「にゅははははー♪」
一方、陽気な声を上げる洪陽。
『…何やってるんでしょうか…?』
両手を一緒に左右に振りながら、スキップを横歩きにしたようなう感じで走る洪陽、これは…。
『…キンちゃん走り…』
「何やっとんねん洪陽さん!!」
当然のごとく、滅茶苦茶遅い。美咲から怒声が飛ぶが、洪陽はこれぽーっちも気にしてなかったり。
このまま至上稀に見る低レベルな戦いが続き、そして最後の走者へ!
「後…頼んだ…」
100Mを走りきり、里緒の体力はほとんど尽きかけていた。ほうほうの体でグラハルトへとバトンをつなぐ。
『…やっぱり歳…』
「う…うるさい…」
『里緒さんマトモに反論できないようですねぇ…』
あ、ばったりと倒れた。でもグラハルトはそれを無視するように走り出した。ちょっと酷い…。
「頑張れラーメーン♪」
「だぁぁだからラーメンって言うんじゃねー!!」
それから少しだけ遅れて、洪陽がケンジにバトンを渡した。ちなみにラーメンとは洪陽が勝手につけたケンジの渾名だったりする…理由は、里緒がケンジのことを『ケンちゃん』と呼んでいるところからお察しください…。
「新発売って言うなー!!」
誰も言ってないのに、そんなことを叫びながらケンジはグラハルトを追い始めた。
「…きたか」
グラハルトはチラッと後ろを見る。少し離れて、必死な形相のケンジが走っていた。
「まぁぁてぇぇぇぇ!!」
「…競走で誰が待つってんだ?」
グラハルトはピッチをあげる、少しずつケンジとの距離が離れ始めた。
『ダメか…俺はあの人に勝てないのか…?』
少しずつ離れていくグラハルトの後姿に、ケンジの中に一瞬諦めの感情がわく。
「こらケンジ、負けてんじゃねー!」
そんなケンジの耳に、一人の女性の声が入ってきた。アスカの声だった。
負けられない。そう、絶対に。
「ちくしょぉ…負けられねぇんだよぉぉぉ!!」
ケンジは下げていた顔を上げて、ケンジは必死に足と手をふり始めた!
『…おやおや?』
『…ラヴ…?』
実況の二人が、アスカを見た。
「グラハルトも頑張れー!」
そこには、二人を応援するアスカの姿があった。
『アスカちゃんって…』
『…実は割と天然かも…』
「…何っ…?」
背後からの気迫に、グラハルトはもう一度後ろを見た。しかし、既にそこにケンジの姿はない。
「まさか…」
「ぬぁぁぁぁ!!」
声は、ほとんど真横から聞こえてきた。何時の間にか、ケンジがグラハルトと併走していたのだ。
「ちぃ…!」
まさかの出来事に、グラハルトも思わず本気になる。勝負は残り10メートル!
「いけーーー!!」
観客たちのボルテージも最高潮、二人のデッドヒートも終わりを迎えようとしていた。そして…。
「ずあぁぁぁぁ!?」
二人ほとんど同時にゴールイン!ケンジは勢いのあまりそのまま転がっていってしまった。最後の最後で決まらない男である。
「…どっちが勝ったんだ?」
しかし、そんなケンジは無視して、二人以外の興味はその勝敗に向けられていた。
「…そいつの勝ちだ。足が少しだけ速くラインを割った」
全力で走った疲れなど全く見せず、グラハルトはさっさと歩いていってしまった。
『えー…と、とりあえず、Aチームの勝利でーす!!』
『…ラヴの力…』
そして、観客からより一層大きな歓声が沸き起こった。
グラハルトは、転がっていったケンジの前に立っていた。そして、黙って手を差し出す。
「…ど、ども」
ライバルの行動に戸惑いを隠しきれないまま、ケンジはその手を持って立ち上がる。立ち上がったのを見て、グラハルトは背を見せ歩き出した。
「…さっきのは負けだ」
と、そこで止まり、少しだけ振り向く。
「だが、今日の競技はまだまだある…今度は、最初から全力だ」
少しだけ笑って、グラハルトはまた歩き出した。
「…かー…悔しいけど、やっぱカッコいいやあの人」
それを見送り、ケンジはボリボリと頭をかいた。
「…でも、絶対負けねぇ。俺は、あの人に勝ちたい」
恋愛云々抜きにして、一人の男として。
その頃、三人仲良く休憩中の人たち。
「…ってか、もう出会いがどうとか皆関係なくなってるよね?」
「祀ちゃんもそう思う?実は沙羅もそう思ってて…」
「っていうか、うち知り合いばっかりやから出会いも糞もあらへんで…」
女子高生三人組の言うことはもっともです、はい。でも、一部はもう引き返せないほどヒートアップしております…。
「くくくっ…どうだ姉貴」
「ふん…玉入れで勝負をつけてやる」
特にあの辺とかね。
○とりあえず、一息
と、前半いくらかの競技を消化したところで、一旦休憩のアナウンスが。皆、それを聞いて休憩へと向かう。
「えへへ、お弁当お弁当♪」
楽しそうに持ってきた弁当を広げるのはプティーラだった。やたらと豪勢な重箱が並んでいく。
「あ、プティーラちゃん。あたしたちもお弁当一緒していい?」
「うん、勿論♪」
そこに、女子高生三人組が合流してきた。やはり、食事はみんなでワイワイ食べるのが一番いいものだ。皆一様に笑顔が浮かぶ。
「…プーちゃん、凄い豪勢なお弁当だねぇ…」
ところ狭しと並べられた重箱に、沙羅は驚きの声を上げた。
「うん、愛情一杯のお弁当だって♪味は微妙だけどね」
「「「……」」」
プティーラ、何もそこまではっきり言わなくても…。
一つの箸が唐揚をつつこうとしたとき、別方向から箸が伸び、それを奪い去っていった。
「…おい、それは私の唐揚だが?」
「早い者勝ちだろ?」
二人の悠姫の間に、バチバチと火花が散る。
「さー沢山あるからどんどん食えよな」
そんなのは置いておいて、アスカの弁当の前にケンジとグラハルトが座る。
「「……」」
こちらも、なんか微妙な空気…。
「お弁当の間くらい、仲良くすればいいのにね」
「せやなぁ…」
「これだから男ってのは」
「あはは…」
女の子四人組は半ば呆れ気味だったり。
「そうそう、食事の間はフレンドリーに行こうだっちゃー♪」
そんな四人の間に、いきなり洪陽が入ってきた。
「な、何なのよあんた一体!」
「何って友情友情ー♪」
そんながなる祀と沙羅の肩に手を回し、洪陽はにゃはははと笑い声を上げる。
「何触ってんのよー!!」
正拳一発!男嫌いの祀に容赦なくぶっ飛ばされて洪陽はのびてしまった。
「男の人って、馬鹿ばっかりだね」
うんうんとそこにいる四人は洪陽を見ながら首を縦に振った。
「それじゃ、プーはちょっとお食事の後の運動してくるね」
食事を取り終わり、プティーラは一人更衣室の中へ。
数分後、そこから出てきたのは、ミニスカート姿のプティーラだった。
「今から、チアリーディングやりまーす♪」
明るくプティーラが言えば、音楽スタート♪明るい音楽と共にプティーラが踊り始めた。
「わー…可愛いー…」
愛らしいその姿に、男女関係なく頬が緩む。
「「「「プティーラちゃーん…」」」」
しかし、野郎どもが声をそろえて小さな女の子にデレデレするのは結構ヤバい気がするがどうか?
「みんな頑張れ!プーも頑張るから応援よろしくね☆」
最後にポーズを決めると、大きな歓声が沸き起こった。さすが、歌って踊れるお子様である。
「プティーラちゃん可愛かったよー!」
終わったあと、女の子全員から抱きしめられてたり。
『……』
観客の野郎どもが何かうらやましそうに見ているが、まぁそれは無視という方向で。
○最後は?
昼休憩が終わった後、選手たちは順調に競技を進めていった。
「にぎゃあ!だ、誰か助けたってんかー!?」
「けふっ、あ、あかん、み、水ー!」
障害物競走はある意味美咲の独壇場だった。
『…ボケの基本…』
「せやからボケちゃうんやー!!」
そんな美咲のボケに皆和みつつ、やってきたのは二人三脚レース。
「うーん、そろそろ一位ほしいなぁ…」
「大丈夫、これならきっととれるよ♪」
点数表を見ながら呟く祀に、沙羅が答える。確かに、彼女たちはその友情パワーで息がぴったりとあっているし、何よりも二人とも魔皇という反則的な要素があった。
「…まぁこれだしねぇ」
祀が言いながら他の組を見てみる。
「こ、洪陽さん、背が…あぁ早っ…!?」
「みさきち何か言うたばい?」
ズテーン!
「そ、総一郎君速いーーー!?」
「姉貴には負けるかー!!」
ブンブンブンブン!(?)
「おい、ケンジどこを触ってる!」
「あぁ、これはちょっとした事故でブベッ!?」
バッコーン!
やたらと賑やかな音が響き渡っていた。まともに走れているのはプティーラ・綾人組とグラハルト・アスカ組くらいのものである。
そして、その二組にしてみても。
「プティーラちゃん、大丈夫?」
「う、うん…」
「やってみると中々難しいな」
「呼吸をあわせんのが大切だかんな」
いち、に、いち、に、とゆっくり進むのが精一杯の状況。
「…これなら楽勝?」
「どうかな?」
そんなことを言いながら、祀と沙羅は顔を見合わせて笑った。
さて、そんなこんなで各組がスタートラインにたつ。
『よーい…パン☆』
なんだか一番心配なレースが始まった!
「いくよ沙羅ちゃん!」
「うん!」
祀と沙羅は綺麗に二人足並みそろえてスタートすると、そのままグングンと加速していく。気づけば、そのトップスピードは60キロを超えていた!
まるで何も走っていない道路を走る車のごとく、二人は一気にコースを疾走していく!
「いち、に、いち、に…」
そのかなり後ろを、ゆっくりと走っていくのはグラハルト・アスカ組とプティーラ・綾人組。本来プティーラは魔皇だから、やろうと思えばもっと速く走れるが、しかしそうすると碌でもないことが待っていることをよく知っていた。
「だ、だから総一郎君速過ぎっ!?」
「里緒さんもっと速くってぇ!?」
その碌でもないことが起こっているのが、総一郎・里緒組。幾ら魔皇の身体能力が凄かろうと、二人三脚で求められるのは二人のチームワーク。それが揃っていないこの二人はまともに走れないのは目に見えているわけで。
「だからお前は何処を触っているんだ!!」
「だからこれは事故だへぶぅ!?」
バランスを崩して思わず悠姫の胸にタッチしてしまい、先ほどと同じようにぶっ飛ばされるケンジ。もう散々だ。
「「あぅ」」
何故か二人同時のタイミングでこける美咲と洪陽。ある意味息はピッタリだが、意味が全くないあたりがさすがというか。
「うっしゃー一位ー!」
「やったー♪」
後ろでそんなことが起きている間に、祀・沙羅組はさっさとゴールしてしまった。
「ちくしょー、なんでお前らそんなに速ぇんだよー」
「…ま、しょうがないか」
「プティーラちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ♪」
そして、大分遅れてグラハルト・アスカ組とプティーラ・綾人組がゴール。まぁ上位は順当である。
一方、下位三組は。
「にぎゃー!?」
「負けられっぷ!」
「何でお前は触るんだ!」
「だから事故でほぅ!!?」
「「あぅ」」
…全く進んでなかった。これには、先にゴールした三組も苦笑を浮かべるしか出来なかった。
『…えー…全く進む気配がないので、下位三組は全組リタイアということで』
そんなわけで、下位全組失格!
『最終競技は玉入れになりまーす』
なんで最後によりにもよって玉入れ?皆首を傾げるが、これは参加者を見たスタッフ一同が、こりゃただじゃ済まないなぁと判断したらしく、最後くらいはのんびりと行こう、ということで最後に回したらしい。
でも、この大会最後までそんな平穏に終わるはずがないのだ、うん。
「うぅ、最後くらいは優勝したいわぁ…」
「にゃはは、幾らドジな美咲でも玉入れくらいはできりゃーね」
「うっさいわー!」
でも、今日散々天然ぶりを発揮してきたため、皆否定はしてくれなかった。
なお、この玉入れはチームが多いため、二チーム一組でやることになった。チーム分けは以下の通り。
○αチーム:悠姫(弟)・里緒+グラハルト・アスカ
○βチーム:悠姫(姉)・ケンジ+祀・沙羅
○γチーム:美咲・洪陽+プティーラ・綾人
『…なんか、平和そうなチームがγチームだけですね』
チーム表を見た唯奈が、たらりと汗を流す。思いっきり競技前から不安になるチーム分けだったから、それも仕方ないだろう。
「「……」」
αチームとβチームの間には、無駄に火花が散っていたり。
『…嫌な予感しかしないのはなんでなんでしょう?』
多分、唯奈の想像とほとんど変わらない光景が、この後繰り広げられることになる―――
『パン☆』
ピストルの軽い音と共に、天高く吊るされた籠に向かって、皆一斉に玉を投げ始めた…一部を除いて。
「でぇぇぇい!!」
総一郎が、何を思ったか自分の姿そっくりの悠姫に向かって玉を全力投球!魔皇の力で投げたので、その玉は時速200キロを超えていた!
「なっ…ちぃ!!」
目前に迫ったそれを、悠姫は持ち前の身体能力でギリギリのところで受けて見せた。
その玉を投げ捨てると、少し離れてニヒルな笑みを浮かべる総一郎の姿が見えた。
「…総一郎」
「決着つけようぜ姉貴ぃぃぃ!!」
「望むところだ総一郎ぉぉぉ!!」
総一郎に応えて悠姫が叫ぶと、悠姫の周りに無数の玉が浮かんだ。空想具現化、命持たぬものならば何でもイメージから現実へと昇華させる悠姫の力――それが、総一郎に向かって放たれた!!
「ちぃぃ!」
DF狼風旋を発動させ、総一郎はそれを寸でのところで避けきる。総一郎がさっきまでたっていた場所は、玉によって穿たれ無残に変わり果てていた。その威力の凄まじさがよく分かる。
「意地があるんだ、負けられねぇんだよぉぉ!!」
しかし総一郎もやられっ放しではない、狼風旋での加速度をつけて、その両手から負けじと玉を放っていく!
「…えーっと」
悠姫と同じチームの祀と沙羅は、その光景に玉を投げることをしばし忘れて呆然としていた。
そんな時、二人の間から流れ弾が二人のもとへと飛んできた!
「うわ、危ない沙羅ちゃん!」
「きゃあ!」
祀が沙羅に飛び掛る。玉は、二人の立っていたところを通り過ぎていった。
そして、これにブチギレたのが祀だった。
「…何すんのよ…これだから男は嫌いなのよぉ!!」
その赤い瞳に負けないくらいの怒りの炎を燃やし、祀は立ち上がる。
「ちょっ、祀ちゃん…」
「沙羅ちゃんに当たったらどうするつもりだったのよー!!」
こうなってしまっては沙羅も手がつけられない、祀はすぐさま近くの玉を手にとって総一郎に向かって投げ始めた。
「…な、なんかすげぇことになってきたな…」
「……」
そんなことを言うアスカの顔は引き攣っていた。その隣で、無言でグラハルトが玉を投げている。
『ヒュン!』
何かが飛んでくる気配に、グラハルトは少し首を横に傾かせる。そこを、玉が飛んでいった。
ゆっくりと振り向くと、そこにはケンジの姿が。
「……」
「……」
一瞬だけの沈黙。そして、どちらからともなく二人は玉を投げあい始めた。
「お、おおい、お前らもかよー!」
最早、アスカの言うことなんて二人とも聞いちゃいねぇ。
「いいぞーもっとやれー!」
「お前も止めろよ!」
里緒も面白がって一緒にやってたり。
「えい、えい」
「なんや大変やなぁ…」
「まぁ向こうさんのことはこっちには関係ないだぎゃー♪」
そんな二チームを見ながら、あくまでのんびりしているのはγチーム。
「…てい!はっ!…周り見てやらないんだから…これだから困るんだよ」
そんなぽややんした彼女たちの前で、流れ弾を必死にはじく綾人君でした。
『終了ー終了でーす、玉を投げるのをやめてくださーい!!』
唯奈の必死のアナウンスに、やっと全員玉を投げる手を止めた。勿論、最後まで手を止めていなかったのは、お互いに投げ合っていた全員である。
会場は、既に無残な姿へと形を変えていた。あちらこちらが抉れ、穿たれ、パッと見戦場のようだ。
『そ、それじゃ結果発表するので、私が数えるのと一緒に籠の中の玉を投げてくださいね』
そんな会場を必死に見ないようにして、唯奈はさっさと数えに入る。
『いーち』
ポポポーン。
『にー』
ポポポーン。
『さーん』
ポポーン…。
『えっと…αチーム、二つですね』
「お前らが真面目にやらねぇからー!!」
「「「ごめんなさい」」」
アスカ以外全員土下座。アスカの怒りもごもっともです。
『じゃ、じゃあ次行きますね…よーん』
ポーン…。
『βチーム…三つ、ですね』
「どうだ総一郎、私の勝ちだ!」
「やった、あの人に勝ったぞ!」
悠姫さんケンジ君、それは五十歩百歩と言う気がします。
「…えーっと」
「プーたちの勝ちだね♪」
「勝ちだにゃー☆」
「ホンマにこんなんでえぇんかいな…」
素直に喜ぶプティーラと洪陽を横目に、美咲は少し苦笑気味に呟いた。
* * *
こうして、全競技が終了した。いや、競技してたのか?というツッコミはなしの方向で。
で、皆点数板に目をやるが、そこには綺麗に横一線で同じ数字が並ぶ。しかし、明らかに一つだけ、他よりも低い数字が。
「ふぁ…やっぱり運動苦手や」
「残念無念ー☆」
それは言うまでもなく美咲と洪陽のペア。しかし、洪陽が反省する様子など微塵もなく。
「…これがパートナーだしね」
祀のポツリともらした一言に、洪陽以外の皆が一斉に頷いた。
しかし、点数が全くの横並びというのは、競技としては非常に困るわけで。
『…面倒くさいから全チーム優勝ってことで…』
「「「「「「「「まてやー!!」」」」」」」」
こうして、無事(?)真冬の暑い祭典は幕を閉じましたとさ☆
「はいはいはい、それじゃみんな記念写真撮るよー♪」
里緒が、カメラを手にやってきた。やはり、こういうお祭り事には記念写真がつきものである。
「なんだかんだあったけど、今日楽しかったね」
「うん、ホント。来年もまたよろしくね、祀ちゃん♪」
一緒に笑って、手を握り合いながら笑う祀と沙羅。
「ホンマ楽しかったわー♪ うちもまた会いたいわぁ」
「きっと会えるって♪」
「プーも凄く楽しかったー♪」
「プーちゃんもお疲れ様、また絶対会おうね」
そこに、美咲とプティーラが加わり一緒に笑う。
「お前も中々やるようになったな」
「今度会うときは絶対に勝つからな」
最後まで言葉は素直になれず、でも悠姫にも総一郎にも笑顔が浮かんでいた。
「…今度からは、負けんぞ」
「こっちこそ」
グラハルトとケンジの間には、お互いを認め合った、そんな空気が流れていた。
「それじゃ撮るよーはい、チーズ☆」
最後に一つ、皆の思い出を残して、全てが終わった。
そして、皆其々の場所へと帰っていく。その顔は、皆一様に笑顔だった。
「来年もやるからまたきてねー♪」
…え、来年に続くの?
<END>
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★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
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○アクスディア
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【w3c195/プティーラ・ホワイト/女性/6歳/魔皇・孤高の紫】
【w3e594/花瀬・祀/女性/17歳/魔皇・激情の紅】
【w3g774/風間・総一郎/21歳/魔皇・激情の紅】
【w3g792/片桐・沙羅/男性/17歳/魔皇・直感の白】
○東京怪談
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3243/風間・悠姫(かざま・ゆうき)/女性/25歳/ヴァンパイアハーフの私立探偵】
【3462/火宮・ケンジ(ひのみや・けんじ)/男性/20歳/大学生】
【3913/グラハルト・シュナイダー(ぐらはると・しゅないだー)/男性/29歳/反逆者】
【4258/一條・美咲(いちじょう・みさき)/女性/16歳/女子高生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、もしくは何時もお世話になっております、へっぽこライターEEEです。
『Are You Ready?』にご参加、ありがとうございました♪
長引く風邪のせいで、本当に納品がギリギリになって申し訳ありません…(汗)
聖夜の物語の癖に、まーったくクリスマスらしいところがありませんが、まぁそんなクリスマスもあり、ということで…(ぇ)
皆さん楽しいプレイングだったので、書いていてとても楽しかったです♪
皆さんにも楽しんでいただければ幸いです。
>プティーラ・ホワイト様
初めまして、今回のご参加ありがとうございました♪
BUを見た瞬簡に、あまりの可愛さにくらっときてしまいました(笑)
今回は本当にほのぼのとした感じで書かせていただきました、やっぱり可愛い女の子はこうでないと。
アクスのキャラを書くのは初めてだったので、うまくいっていないところもあるかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。
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