<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


ある正月の風景

 深紅色の瞳を持つ少女――橘・朔耶が、大きく伸びをしながら10畳ほどの和室に現れた。
 部屋の隅に置かれている書斎机に向かって、がっしりとした体格の青年――祇亜・ヴォルフが書き物をしている。
 その隣には、高齢を思わせる老人がブツブツと小言を呟いている。
 朔耶は、襖をゆっくりと閉め、彼らとは対角に位置する所に座り込んでいる金髪の青年を見た。
「お世話になります」
 青年は、朔耶を見るとペコリと頭を下げた。
「……えっと?」
 見慣れぬ顔に、首をかげる朔耶に、大老が振り向き「手伝い募集の貼り紙を見て来てくれた青年じゃ」と告げた。
「ああ、それは助かる」
 ニッコリと微笑むと、朔耶は宜しく頼みますと頭を下げた。
「リザイアと呼んでください」
「俺は朔耶と」
 自己紹介を済ませた後、朔耶は視線を祇亜に向けた。
「なんでもお経にふりがなをふっているとか」
 リザイアがこっそりと耳打ちする。
「ふりがな?」
 ここは、祇亜が住職を勤める寺である。
 今日は正月で、現在早朝ではあるが、外には参拝者がちらほら現れている。
 とはいえ、実際寺が機能し出すのは、もう少し時間が必要である。
 朔耶は祇亜の妻という立場にある為、 寺の用事を何かと手伝ってはいるのだが――。
「お経って坊さんが読むあれだろ?」
 朔耶も、ひそひそとリザイアに語りかける。
「私は、お坊さんなら読めるものだと思っていたのですが」
「俺もそうだと思った」
 ひそひそと呟きながら、2人は同時に祇亜の背を見つめた。
 そんな2人の視線を感じたのか、祇亜の肩を揺すって、嫌な視線をはねつけた。
「普通は読めるもんじゃ。読めんのは、普段遊んでばかりいるせいじゃ」
 クスクス。
 どこからか笑いが零れた。
 朔耶がふと視線を上げると、廊下に面した障子が数センチ程開いていた。
 そしてそこから、ヒラヒラと手が現れた。
「……高耶?」
「ういっす。遊びに来た」
 朔耶の声に答えるように、障子が勢いよく開き、そこから漆黒の髪に赤い瞳を持つ色っぽい少女が姿を現した。
「この状況で何が遊びに来ただ」
 ちゃっかり朔耶の隣に座り込んだ高耶に、祇亜は振り向くことなく叫んだ。
「どうしたの? 今日の祇亜って怒りん坊なんだけど」
 高耶は肩を竦めながら、からかうように朔耶に耳打ちした。
 もちろん、祇亜に聞こえるような音量でである。
「俺はお前なんかに構っている暇はないんだ」
 せっぱ詰まっているのであろう、その声には余裕が感じられない。
「祇亜に構ってなんか欲しくない。俺は朔耶を誘いに来たんだ」
 ケラケラと笑うと、朔耶に視線を向けた。
「朔耶、この忙しい時期に、遊びに行くつもりじゃないだろうな」
 もちろん、視線を机に落としたまま、まるで父親のような口調で朔耶に問う。
「俺の分の仕事は済ませたんだけど」
 ぼそりと呟く朔耶に、祇亜の隣に座る大老がフォフォフォと笑い声を上げた。
「そうじゃった。朔耶はちゃあんと仕事を済ませてくれたんじゃったな」
「はあ? まだ仕事はたんまりあるだろ」
 どこかで6時を知らせる時計が鐘を鳴らした。
「何を言っておるか、朔耶はちゃんと参拝来訪者に配るぜんざいをこさえてくれたぞ。それに甘酒もちゃんと用意してくれておる。後の仕事はお前さんの仕事じゃ」
 さぼろうったってそうはいかん――などと厳しく言われ、項垂れる祇亜。
「兎に角境内の掃除を先に済ませてくれぬかのお」
「俺はこれが……」
 とはいえ、お経にふりがなをふるのは、本来の仕事ではない。余分な作業である。
「解ったよ。やりゃあいいんだろ」
 ブツブツ文句を言いながらも、手に持っていた筆を置く、ふてぶてしく立ち上がり、部屋を出ていこうとした。
「あ、私もお手伝いします」
 そんな祇亜にリザイアは声をかけると、彼の後に付いて部屋を出た。
「さてと、しーちゃんがさぼっとらんか、監視でもしてくるかの」
 そう言うと、大老はよっこらしょと言いながら立ち上がり、腰に手を当てながら部屋を後にした。

 *---*

「正月って忙しいんだな」
 しみじみと告げる高耶に、朔耶は「だな」となんとも他人ごとのような返事を返した。
「しかし、ここってなんもないな」
 辺りを見回すと、確かにただっ広い和室には、これといって興味を惹かれる物は置いていない。
「なんか手みやげ持ってくるべきだったかな」
 などと言いながら、高耶は立ち上がり、部屋を一周した。
 ふと、祇亜が向かっていた机の前で立ち止まる。
「なあなあ、ここにちょっと落書きしたら祇亜怒るかな」
 悪戯っ子のように瞳を輝かせる高耶に、朔耶もつられるように、机の前まで歩みを進めた。
「ちょっとぐらいなら大丈夫じゃないか。一応坊主なんだし、これがなくても読めるだろ」
 読めないからふりがなを振っていたのであって――2人からはその事実が欠落していた。
「だよな」
 ニヤニヤと顔を輝かせる高耶に、悪行でも思いついたのか、にんまりする朔耶。
 高耶はおもむろに、置いてあった筆を手に取った。

  いやあん ばかあん

 余白部分にそんな言葉を書き込んでみる。

  夜露死苦

 よく見かける落書きを真似て書き込んだ。
 それも、お経の続きにである。
「これを見ながらさ、なんとかなんとかヨロシクとか読んだら面白いよな」
 ケラケラと笑う高耶に大きく頷くと、今度が朔耶が高耶から筆を奪い、何かを書き込む。

  あいしてるワ

「これ見て吹き出すかな」
「てか、朔耶が書いたって気付かないかもよ」
 そうか――などと深刻な表情をすると、先ほど書いた文字の後に[さくや]と書き込んだ。
「他に何がいい?」
 調子に乗ってきたのか、2人は文字だけでなく、イラストなども描き込みはじめた。
 余白の全てに書き込んで満足したのか、筆を丁寧に元の所に戻し、開けてあったお経を閉じ、中の落書きがばれないように工作すると、そっと部屋を抜け出した。
 雪こそ降り積もっていないが、霜がうっすらと降りた冬の朝は、底冷えがするように寒い。
 ましてや、木造の古びた家屋のそこは、風通りもよく、寒さが応える。
 中庭に面した廊下を二人して「寒い、寒い」と呟きながら走り抜け、台所へとやってきた。
 数年前までは、そこは土間で釜が置かれていたのだという。
 さすがに、台所位はという話しから、一般的な家庭にあるキッチンにリフォームされてはいるが、扉や壁などには手を加えられておらず、寒さ加減は変わらない。
「高耶、お雑煮でも作ろうか?」
 朔耶の言葉に、うんうんと頷くと、ストーブに火を入れた。
  
 *---*

「リザイアがいてくれて、助かったよ」
 白い息を吐きながら、祇亜は勝手口から室内へと入って来た。
 その後ろにリザイアと大老を伴って。
「おう、お疲れ」
 朔耶は祇亜の姿を認めると、軽く手を上げた。
「……なんか香ばしい匂いしないか?」
「そういえば、しますね」
 祇亜が鼻をひくつかせている隣で、リザイアもくんくんと匂いをかいだ。
「寒いのお。ほれ、これは良さそうじゃぞ」
 祇亜を尻目に、大老は部屋の真ん中に置かれているストーブの前に座り込み、その上に置かれているお餅を箸でひっくり返していた。
「朔耶これいい感じで焼けてないか」
 声を弾ませながら、大老から受け取った餅を皿に乗せ、それを朔耶に渡した。
「じゃあこれは、海苔巻きにするか。大老も食べるだろ?」
「そうじゃの。おお、これも出来上がったぞ」
 プクっとふくれあがった餅を指しながら、大老は高耶に皿を要求した。
「……って、おい大老、何まったり餅なんか食べてんだよ」
 ガブリをかぶりついた餅をうにゅーと伸ばしながら、高耶は首を傾げる。
 せっせと、餅に海苔を巻き、「はい」と大老に手渡ししていた朔耶も、何をカリカリしているのだろうかと首を傾げる。
「いやあ、美味しいですね」
 いつのまにか、その輪に入っていたリザイアがホクホクと餅を頬張っていた。
「て、お前もかよ」
 そんなリザイアを見て思わず突っ込んでみるが、皆餅を手にご機嫌な表情で祇亜を見つめる。
「祇亜は餅嫌いなのか」
 朔耶は残念そうに呟くと、手に持っていた餅にパクリと食らいついた。
「あっ……」
 美味しそうに食べる朔耶につられるように、祇亜は口を開ける。
「ちょっと待て」
 祇亜の視線がストーブの上に落ちる。
 そして、その後ろにあるテーブルにも。
 ストーブの上に乗せられた網には、何も乗っていない。
 テーブルの上にある、餅を入れてあったケースには何も入っていない。
「……」
 祇亜が押し黙る中、「美味しい、美味しい」という4人の声だけが響き渡った。
「俺の分は?」
 食べ終わり、皿を片づけていた朔耶が首だけを祇亜に向けた。
「ないよ」
「はい?」
「だって、さっきのが最後だったもん。祇亜餅嫌いだって言ったから」
 なぜかしょんぼりしてみせる朔耶に、祇亜はおもいっきり首を振った。
「言ってないから。それに、嫌いじゃないし、腹減ってるし」
 思わず力説する祇亜に、大老がポンポンと肩を叩いた。
「なんじゃ、そうじゃったのか。それは残念じゃ」
 まるで残念とは思っていない表情を向ける。
「ごちそうさまでした」
 丁寧に手を合わせると、リザイアは自分が使った皿と箸を持って立ち上がった。
「なんでリザイアまで食べてんの?」
「? 朔耶さんがどうぞって言ってくださったので」
 ニッコリと悪意のない笑みを向けられ、祇亜はガクリと項垂れた。
「食べたいなら食べたいってはっきり言わないとさ」
 洗い物をしながら、朔耶は祇亜に告げた。
「さくやぁ〜」
 祇亜の甘えた声に、朔耶は軽く肩をすぼめる。
「さてと、腹ごしらえも済んだことじゃし。ほれ、祈祷の時間じゃ」
 そう言うと、大老は祇亜の首根っこを掴みずるずると引っ張った。
「さくやぁ〜腹へったぁ〜」
「男のくせに泣き言を言うな」
 ぴしゃりと言われ、さめざめと涙を流しながら、ずるずると引っ張られて行った。
「あらら」
 そんな祇亜を見つめながら、朔耶は苦笑を浮かべると、残った2人に暖かいお茶を煎れた。

 *---*

 どちらともなく、祇亜の祈祷の様子を見に行こうということになった。
 それは、後ろめたい思いがあるからかもしれない。
 あるいは、一体どんな状態になるのか見届けたいからなのかもしれない。
 朔耶と高耶は、本堂の隣の小部屋から、そっと中の様子を窺っていた。
「お2人とも、子供みたいなことをして」
 後ろから、リザイアの窘める声が聞こえた。
 しかし、2人はそれを無視するかのように、中を覗き見た。
 そこでは、凛々しい袈裟姿の祇亜がいた。
「カッコイイ」
 語尾にハートマークなんぞ付けながら、朔耶が呟くと、高耶は一瞬寂しそうに瞳を細めたが、直ぐさまこのこのっとヒジで朔耶の脇腹を突いた。

 普段とは少し違う声音が、本堂に響き渡る。
 時々鳴らされる木魚は、心の奥に染み渡り、身が引き締まる思いがした。
 途切れることなく流暢に読まれていたお経が、一瞬止まる。
 それを紛らわすかのように、木魚が連続して鳴らされている。
 ほんの一瞬の後、お経は再開された。

「今さ、絶対俺らの落書きに戸惑ったよな」
 高耶が朔耶に耳打ちした。
「……うん」
 複雑な表情で頷くと、朔耶は視線を祇亜に向けたままにした。
 さほど長い時間ではなかったが、それでも単調なお経を延々と聞かされていると、飽きてくるもので、朔耶はそっと扉を閉め、そこにゴロンと横になった。
「なんか息が詰まる」
「あれだけ皆が神妙だと、下手に騒げないよな」
 朔耶の隣に、高耶も横になると、ケラケラと笑い声をあげた。
「2人ともお静かに。あちらに聞こえますよ」
 しっと、人差し指を口に当てるリザイアに、「そうか」と頷くと、朔耶は起きあがった。
 しばらく、2人はぼけっと座り込んでいた。
 いつのまにか、お経は止み、人々のざわめきが彼女たちがいる部屋にまで届いていた。
「終わったのかなぁ」
「多分」
 のんびりと言葉を交わすと、またぼけっと寝転がった。
「眠たくなってきた」
 時刻は昼を過ぎている。
 障子から差し込まれる柔らかな日差しが、眠気を誘う。
 朔耶は1つ大きなあくびをした。
「ああ、こんな所で寝ないでください。風邪ひいても知りませんよ」
 なぜか、甲斐甲斐しく世話をするリザイア。
 そんな彼に、大丈夫大丈夫とヒラヒラ手を振ってみせ、そのまま瞳を閉じた。
 
 ドンドンドン
 廊下を走る足音がした。
 バタン
 どこかで、襖を思いっきり開ける音がする。
 バタン
 また、襖を開ける音がした。

「見つけた」
 怒りを含んだ声音がした。
「……なに?」
 眠そうに目を擦りながら、朔耶は起きあがった。
 その隣には、まだ寝ぼけている高耶がいる。
「お前ら、よくも落書きをしてくれたな」
 怒り心頭気味の祇亜が仁王立ちをしている。
「んー?」
 完全に覚めきっていないのか、朔耶はぼけっと首を傾げた。
「だから、これだ、これ」
 と、お経を朔耶の目の前に突き出す。
「……ああ」
 あくびを噛みしめ、瞳の端に涙を溜めながら、はいはいと頷いた。
「お前らのお陰で、経がめちゃくちゃになったじゃないか」
 どうしてくれるんだ――と、溜息を吐いた。
「でもさ、仮にも住職なんだし、なんとか出来るだろ?」
「出来たらこんなに怒るわけないだろ」
 結局、2人が落書きしたページは読むことが出来ず、そのページを飛ばして読んだのだという。
「2人を責めるのはどうかと思うがの」
 後からやってきた大老が、情けないと言わんばかりに溜息を吐いた。
「いいか、普段からちゃんと経を読んでおれば、いざと言う時に対処出来るものじゃ。それをワシ任せにしておるから、咄嗟の時に経が浮かんでこんのじゃ」
「そんな、大老は俺より朔耶達の肩を持つのかよ」
 不満げに告げる祇亜に、冷ややかな視線を向けた。
「自業自得じゃ」
 きっぱり言い切ると、寝こけている高耶を起こした。
「ほれ、このままじゃ風邪をひいてしまうぞ。起きんか」
 無理矢理座らせ、肩を軽く揺さぶった。
「お札を求めに来とる者がおる。ほれ、頼むぞ」
「うっ……」
 それ以上文句を言う術を無くし、すごすごと仕事へと戻って行った。
「たまにはしっかり働いてもらわんとな」
 ぽつりと呟いた。

 *---*

 冬の1日は早い。
 空を覆っていた薄青色は、闇に染まり、橙色の太陽は白金色の月へと変わった。
 カタカタカタと雨戸が冬の風に呼応するように音をたてる。
「寒い」
 小さく呟くと、テーブル中央に置かれた鍋から、雑炊を取り分けた。
「冬は鍋が一番ですね」
 リザイアはお椀を手に持ちながら、美味しそうに汁を啜る。
「ホント、美味しい、美味しい」
 人一倍美味しそうに食べながら、高耶はおかわりと椀を朔耶に差し出した。
「いつ食べても朔耶の飯はうまいのお。いつ嫁に行っても大丈夫じゃ」
「もう行ってんだけど」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」
 一同楽しそうに笑い声を上げた。
「てか、その婿殿を忘れてはいませんかねえ」
 低く投げやりな声が割って入る。
 朔耶は、カチっとガスコンロの火を止め、声のした方へ視線を向ける。
「……あ」
 しまったと言わんばかりに、顔をしかめる朔耶。
「おお、遅かったな」
 ヒラヒラと手を振ってみせる高耶。
「お先に頂いています」
 などと丁寧に挨拶するリザイア。
「なんじゃ、おったのか」
 なんとも冷たいお答えの大老。
「いましたよ。ちゃんと本日のおつとめをこなしてきましたよ。それなのに、俺はのけ者ですか」
 確かに、テーブルの上に置かれている椀や箸は4客。祇亜の存在は、そのテーブル上にはなかった。
「まあまあ、そう拗ねんともよいじゃろ。ほれ、お前さんもここへ来て座って、ほら、食べ……」
 大老はそこで言葉を失った。
 目の前にある、鍋の中は何もない。
 食べ終わり、すっからかんなのだ。
「……」
 一同無言になる。
「本気で忘れられていたって訳ですか?」
 大仰に溜息を吐き、がくっと項垂れた。


 結局今日は朝から何も口にしていない。
 祇亜の腹の虫は、オーケストラ並にメロディを奏でている。
「はらへったぁ〜」
 何度その言葉を口にのせたであろうか。
 言葉にしただけでは、腹はふくれない。
「祇亜」
 遠慮がちにかける声と共に、襖がゆっくりと開いた。
「たいした物は出来ないんだけど」
 そう言いながら、手に持っていた皿を祇亜に差し出した。
「うっわ」
 残り物でこさえた焼き飯である。
「まじで、朔耶……ありがと」
 思わず瞳の端に涙を刻むと、皿を手に持ち、スプーンを掴み、勢いよく口の中に放りこんだ。
「うわ、うめえ。まじ、うめえよ」
 口の中いっぱい頬張りながら、しゃべっているので、口の端からご飯粒が飛び出していた。
「うっ、ごほごほごほ」
 ご飯を咽に詰まらせ、咳き込んだ。
「大丈夫か」
 朔耶の華奢な手が、そっと祇亜の背を撫でる。
「今日は祇亜が一番頑張ったからな」
 焼き豚入りだぞ――と耳打ちする。
「ああ、朔耶、お前って本当にいい女だな」
 オイオイと泣きながら、皿の中の飯を口の中へとかき込む。
「ほら、そんなに慌てて食べたらまた詰まらせるぞ」
 そっと背をさすった。

 そうして夜が更けていった。

「なんだよこれっ」
 鶏の鳴き声を凌ぐかの大声が、早朝の寺に響いた。
 どうした、どうした――と、皆がぞろぞろ起きてきた。
「な、な、なんでカニの殻が……」
 台所の流しに落ちていたカニの足をつまんで、ワナワナと震えている。
「昨日のカニだけど?」
 朔耶が告げる。
「俺は食ってない」
「だって、俺らが全部食べたし」
 な――と隣に立つ高耶に同意を求めた。
「昨日カニ鍋だったんだ」
 昨晩のカニを思い出してか、高耶は唇を舐めた。
「あ、ごちそう様でした」
 リザイアがペコリと礼を言う。
「ああ、祇亜宛てに届いていたんだが、生ものは鮮度が命だろ? だから、先に食べておいてやったぞ」
 まるで、礼を言えとばかりの勢いで告げると、大きく伸びをした。
「俺、俺のカニ、俺の……」
「さすがしーちゃん。良いカニを仕入れてくれたのお。また頼むぞ」
 大老の一言で、皆それぞれ朝の身支度へと戻って行った。
「幻の間人カニが……」
 がっくり項垂れる祇亜。
「良いダンナを持って、俺は幸せだな」
 そんな言葉を残して、朔耶はその場を去って行った。

 おわり。 
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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【w3b248maoh / 橘・朔耶 / 女 / 15歳 / 激情の紅 】

【w3b248ouma / 高耶 / 女 / 16歳 / インプ 】
【w3e496maoh / 祇亜・ヴォルフ / 男 / 27歳 / 直感の白 】
【w3e496ouma / 大老 / 男 / 100歳 / フェアリーテイル 】
【w3j300ouma / リザイア / 男 / 25歳 / レプリカント 】


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■         ライター通信          ■
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 パーティーのベルへの発注ありがとうございました。
 ライターの風深千歌です。

 主発注者の朔耶サマ、またお会い出来て光栄です。そしてご参加頂きました4名の皆さま、初めまして。
 正月商品であるにも関わらず、正月から大分時間が経っての納品で申し訳ございませんでした。もう少し早く納品出来ればよかったのですが……。

 今回、コミカル&ほのぼのとの発注でしたので、私なりに楽しく書かせて頂きました。少し祇亜サマを苛めすぎた感がありますが……。
 皆さまが楽しんで頂ければ幸いです。

 イメージ、設定と違うなどという箇所がございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付け下さい。直ちに修正させて頂きます。

 いつかまたお会いできることを楽しみにしております。今年も宜しくお願い致します。そして、皆さまにとって良い年でありますように。