<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


新年会と書いて計画的犯行と読む
「よく来たアルね。ささ、ずずいと入ってくれあるよ」
新年会だから来るある、との脳への交信に導かれ、という訳ではないが、見た目宇宙人のミステリアス・グレイの秘密基地に彼らは結集していた。
新年の挨拶をと、佇まいを整え始めたグレイは、床に膝を付いて日本独特の「正座」という格好をしてみせる。手を付き、頭を下げようと視線を床へ向ける。
「あけまして……」
言いかけたその脳天に一撃の踵落としが入り、家の主は声もなく倒れる。
「言われなくても、入る」
橘月兎はグレイの亡骸一歩手前のモノを躊躇なしに踏みつけ、室内に入る。
「断っても、入るけど」
そこに橘朔耶が続き、
「むしろ断る権利が存在しない」
北条高耶も後に続き、
「存在するとすれば、これはクソクダラナイ夢か何かだ」
橘高耶が続く。
「それよりも夢の中に入ることすらおこがましいですよ、魔皇様」
最後に続いた香月の涼やかな笑みが、全身の体重と共にグレイに圧し掛かる。
見事な連携プレーで足蹴にされる主もといグレイを後に、集団は宴会場へ足を踏み入れた。

「あ、遅かったですね」
見かけに反して意外と広いそこに、女性はいた。落ち着いた声で言うと、紅雪は酌を手に来訪者達に向けて笑顔を放つ。
「お先、頂いてます」
紅雪はいつの間に着替えたのか、少なくとも月兎が最後に彼女に会ったときには着ていなかった、紅い着物を着ていた。白い肌に映える赤に、女性らしさが一層際立って見える。
紅雪がグレイに拉致され、その解放条件として月兎が呼び出されなければ、今頃は二人っきりの新年会だったと先刻までは嘆いてはいたが、その感情も紅雪の美麗な姿一発で吹き飛ぶ。誰が着せたか、この着物がどこにあったか、という質問は置いておくとして。
「……可愛い」
言葉を発した月兎が、立ち止まっていた足を進めようとする。
「で、そこ。そのおちょこは誰から注いでもらう気だ」
ぴっと指し示した先にいた、先客であるフレデリカ・ユーズテッドは当然の如く、
「紅雪」
と答える。彼女の逆隣のアルシノエは既に出来上がっているらしく、静かな寝息を立てていた。彼女の体の様々な部位をフレデリカの一方の手が撫で回していたが、さして変わった風景でもないので無視。無視というよりも、フレデリカの方もその行為を害あるものとは思っていないらしく、寝息からは時折アルシノエの名を呟いている。そういう人間には、スルーが一番だ。
と、そこまで考えていた月兎の頬が、ひくと攣り始める。
「紅雪の肩を抱くな。そしてそのままフレデリカと同じ行為に走るな」
紅雪を自身へと寄せるとひょいと軽く抱え上げ、月兎は心底不快そうにフレデリカを睨みつけた。
「ひどいわ。なら朔耶さん」
「え」
笑顔で見つめるフレデリカはぐいと、我関せず、を貫いていた朔耶を引っ張り、床に押し倒す。その上から覗き込む格好で、フレデリカは愉しそうな顔を浮かべた。が、それも一瞬のことだった。いつの間にか、朔耶は月兎の横に立っていた祇亜・ヴォルフの肩に担ぎ上げられている。
「フレデリカ、いい加減にしな」
「……祇亜、いつ来たんだ?」
朔耶の問いに、祇亜は足に付いた見覚えのあるグレイ色の肉片を床に擦り付けながら答えた。
「数秒前。仕事終わらせて来たんだよ」
笑顔で言う祇亜に向けて小さく舌を出し、フレデリカは一番初めと同じ行為に戻る。手酌なのが寂しいのか、女性二人に向けて上目使いに視線を送るが、呆気なく彼氏達にガードされる。
「一人の女性を巡って奪い合いあるな」
フレデリカはどこからともなく生えてきたグレイを冷めた目で無視し、アルシノエに没頭する。
「しかしその勝敗は既に……」
一人悦に入るグレイの腹部を、橘高耶のサベイジクローが貫く。慣れた様子で慌てるグレイを北条高耶が継いでしめあげ、室外に放り投げた。
「それにしても、最近復活早くないか?」
様々な料理を摘みながら、ぼそりと呟いた橘高耶の発言に、
「どちらにしろ、邪魔だな」
北条高耶は答える。
「耐久力付いたんじゃないか? それはそれで、やりがいがあって退屈はしないが。最近では致死量を悠に超えたクスリでも、あまり効果がなくなってきだしな……」
それはつまらない、というよりもむしろ、これから一層やりがいがある、と表所が如実に語っている。それは誰しも当然の如く思っていることだが、さらりと言ってしまう辺り自分達の常識を疑いたくなるときがある。
……そもそも、あの物体に常識を求めてはいけないが。溜息交じりに、橘高耶は苦笑した。
「そういうものなのか」
と、ふと視線をやる先には、先程のカップル三組に向けて性懲りもなく喧嘩を吹っ掛けているグレイが映る。予想通り紅雪とフレデリカ、アルシノエ以外にこっ酷くのされているが、どこからかは復活して講釈をしていたりする。構ってほしいのだろう、と。どうでもよい考えが頭を過ぎる。
「……宇宙人は、理解不能だから」
呆れたように呟いた香月の台詞に、W高耶が厭そうな顔をする。気付いていたかのような香月の笑みに、橘高耶は軽く戦闘準備を整える。
こういうヤツは、名前が呼ばれたことに気付けば必ずやってくる。愉しそうな香月の笑みはやはり裏切られることはなく、グレイは三人の輪の中に入ってきた。
「呼んだアルか……」
誰も呼んでない、と橘高耶が闇蜘糸で容赦なく縛りあげる。しゃくとり虫のように這うグレイを、やはり北条高耶に容赦なく室外に放り出される。
いない存在だと端から決めているらしく、再び祝い酒を手に三人が談笑を開始しようとするところに、四肢を自由にさせてグレイがひょいと顔を出してくる。闇蜘糸が早くも敗れたことに少し傷付いたようにしながら、橘高耶はグレイへとシンプルな目潰しを実行した。それもすぐに復活したのは、まったく素晴らしい回復力だといえるだろう。
香月は手をひらひらさせて、グレイへと笑みを浮かべた。
「宇宙人に今更理解を求めるなんて、間違っていると再認識しただけだから、お気になさらず」
「酷いアル! 私のどこが宇宙人に見えると言うアルか!?」
「……いや、全部だろ」
冷静にツッコム橘高耶は、やはり冷静に裏拳をかます。北条高耶が倒れ掛かってくるグレイの額に向けて膝を付きたて、痛さと反動で飛び上がったグレイを更なる技が襲い掛かる。
漸く反撃する体力が尽きたのか、床に伏せたままグレイはぴくりとも動かなくなる。
「死んだか?」
冗談でもなく三人で言うそれに、グレイは口だけを辛うじて動かした。
「あぁ、皆の愛が痛いある……」
「安心してさっさと死んでください、魔皇様……」
冬の空にも負けるとも劣らず、清清しい香月の笑みがグレイに向けられ、何事か遺言らしき言葉を残してグレイは倒れ伏した。

倒れ伏した……のだが、事ある毎にグレイは復活し、ご丁寧にも全てに致命的すぎる攻撃が加えられ続け、新年会は何事もなく終わったのであった。





【END】

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【w3j373maoh/ミステリアス・グレイ/男性/91歳/残酷の黒】
【w3b248maoh/橘朔耶/女性/15歳/激情の紅】
【w3c793maoh/橘月兎/男性/32歳/残酷の黒】
【w3c793ouma/紅雪/女性/21歳/シャンブロウ】
【w3d383maoh/橘高耶/男性/18歳/激情の紅】
【w3e496maoh/祇亜・ヴォルフ/男性/27歳/直感の白】
【w3h216maoh/北条高耶/男性/24歳/激情の紅】
【w3j373ouma/香月/男性/21歳/シャンブロウ】
【w3j771maoh/フレデリカ・ユーズテッド/女性/15歳/直感の白】
【w3j771ouma/アルシノエ/女性/17歳/セイレーン】

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■         ライター通信          ■
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グレイをしばきます。

そのプレイングにまず、笑いました。
(ほぼ)全員が同じことを書いていたので、笑いました。
計画的犯行だろ、これ?と。

改めまして。
初めまして、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

書いていて、愉しかったです。
盛大にしばき倒そうかという手もあったのですが、
「新年らしいものじゃなくなるかも」
と思い、随所に新年らしいものを込めていたら結果的にグレイのしばき回数が微妙に少なくなってしまいました。
「これ以上やると歯止め利かなくなりそうだし」
「かと言って、このままってのはもの足りないし」
色々考えた結果、このような感じになりました。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、次回「初詣編」にて。

千秋志庵 拝