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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>
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温泉へ行こう!
「温泉?」
柏葉郁人は小さく問い返す。目の前にいる少年は満面の笑顔でこっくりとうなずいた。
「この間見つけたんだよねー。秘密の温泉! どう? 行きたい? 行きたいでしょー?」
「…………」
郁人は嘆息してから微笑む。
「わかりました。年明けに温泉というのもいいかもしれませんね」
「ほんと! ヤッター! 温泉だー、おんせんー!」
両手をあげて飛び跳ねるパルファを眺めて郁人は小さく笑った。ここまで喜ぶとは思わなかった。承知して良かったと安堵していたが。
ふいに、パルファが顔を向こうに向けた瞬間。
にやり。
と……、悪魔的な笑みを浮かべたとは……郁人も気づくはずもなく。
それは、隠れ家・翡翠での元旦のやり取りであった。
*
森の中をさ迷う郁人は、すぐ後ろを楽しそうについて来るパルファを肩越しに見遣る。
「本当にこっちで合ってるんですか?」
「うん、そーだよ」
「…………」
さっきから視界を占めるのは木。草。
枯れた草などを懸命に避けて進む郁人の作った道を、パルファは進んでいるだけだ。
「こんな森の奥深くに温泉があるんですか……。もしかして、動物しか知らないとかいうものですかね? 猿が温泉に入っている図は想像できるんですけど……」
「郁人ー、足止まってるー。早く進んでよー」
「あ、すみません」
唇を尖らせるパルファに、郁人は慌てて足を動かす。そして軽く溜息をついた。これではどちらが魔皇かわからない。
「……進むのはいいんですけど、本当にこのまま進んで大丈夫ですか? 遠すぎたら……」
「あーもううるさいなあ! 早く進んでってば!」
「なんだかゲームの世界みたいだなあとか、思ってしまって。探検みたいで」
苦笑する郁人の言葉に、パルファは薄く笑う。
「探検ていうか〜、冒険みたいで面白いじゃん。最後にはボスもいるんだよ〜」
「え?」
「なんでもな〜い」
「???」
「いいからいいから。ほら、どんどん進んで」
促され、郁人は疑問符を浮かべながらも前へ進んだ。
がさがさがさ。
枝を手で払いつつ進む郁人は、やっと視界が少しだけ広くなった。そして気づく。
「あっ」
「うわー! 着いた着いた!」
ぴょんぴょん跳ねるパルファを横目で見てから、崖下の少し向こうに見える白い湯気の流れを見遣る。
「つ、着いたって、まだあそこまで距離がありますよ?」
「もうすぐそこまで見えてんだから、着いたってことじゃん」
「…………」
まあ、そう言われればそうかもしれない。
確かにこんな森の奥深くにあるあの温泉は、人間にはあまり知られていない雰囲気がする。
「じゃあ、もうちょっとですし、頑張りましょう」
「うんうん! その意気だよ、郁人!」
まるで他人事みたいな言い方に、郁人はとりあえず苦笑してみせたのだった。
だが。
ふいに湯気がゆらめいたのが見えた。
「ん?」
郁人は目を凝らす。
長い舌を垂らして、温泉のすぐ手前に陣取る物体に郁人は動きを止めた。
あれはもしかして。
「……パルファ、私は視力が落ちたんでしょうか……」
「ううん。見えてるよ、僕にも」
「……………………」
見たことのないサーバントだ。もしや、未知のもの?
(どうして温泉にいるんですかね……)
しかも、でーんと。
あのサーバントを倒さなければ温泉にゆっくり浸かることもできないだろう。どこか温泉を守っているようにも見える。
住処、なのだろうか……もしかして。
無言で立ち尽くしている郁人の周囲をパルファがウロつく。
「ねえねえなんで行かないわけ? 早く行こうよ〜。温泉がそこで待ってるのに〜」
「いえ、ですから、あそこにサーバントらしきものが見えてますけど……」
「もしかしたら大きな建造物かもよ。サーバントとは限らないじゃない」
「……」
ちょろりと長い舌を出したり引っ込めたりしているのが、見えた。重い巨体を動かしているのも。
「……動いてますよ?」
「…………」
パルファは目を細めて、下からねめつけるように見遣った。
「サーバントだったらなんだっていうのさ」
「ぱ、パルファ?」
「まさかと思うけど、こ〜んな森の奥深くまで来て、サーバントがいるからってだけで帰るとか言わないよね〜?」
にこ〜っと笑みを浮かべるパルファを見遣り、そしてまた郁人はサーバントを見つめた。
これは。
(戦えって言ってるんですか……ね)
年明け早々?
なんで?
様々な疑問符を浮かべるものの、郁人は横で「早く温泉〜」とせがむパルファを放って帰るわけにもいかない。
結論は一つ。
郁人がはあ〜っと大きな息を吐いたのを、パルファは見つめた。
「仕方ないですね。温泉に入るには、あそこにいるサーバントを倒すしかありませんし」
「うんうん」
「……戦いますよ」
「え? ほんと! さっすが郁人! いよ〜し、さっさと倒して温泉だあ〜!」
「そうですね。頑張って倒しましょう、パルファ」
パルファが眉をひそめる。
「はあ? なに言ってるの?」
「え?」
「郁人一人で戦うに決まってるじゃない」
「……殺す気ですか」
「だってめんどい〜」
しーん……。
笑顔のパルファを見遣り、郁人はぐったりとした顔で口を開く。
「一人で戦えって、何を言ってるんですか」
「大丈夫大丈夫。やる気でなんとかなるって」
「そんなものじゃ倒せませんよ」
「根性ナシだなあ、郁人は」
「…………そういう問題ですか?」
*
ばしゃーん! と派手な音をたてて温泉に飛び込んだパルファを見て、郁人は驚く。
「パルファ! 温泉に飛び込んではいけませんよ! ほかに誰もいなかったから良かったものの」
「え? そうなの? だってプールも飛び込むじゃない」
「……周りに誰もいなければ、の話ですよ」
「郁人しかいないからいいじゃ〜ん」
「そういうことではなく……」
困ってしまうが、これ以上説明してもムダだと気づいて郁人は諦めた。
温泉は熱く、郁人は浸かってからやっと息を吐き出す。気持ちいい。
「いやあ、さっきの郁人、すんごい頑張ってたねー」
泳いでいるパルファの言葉に、郁人は少しだけ苦笑した。
ここにいたサーバントはそこまで強くはなかった。だが、温泉に被害を与えるわけにはいかないと思っていたため、戦い方が限定されてしまい、苦戦してしまったのである。
それが、ついさっきのことである。
戦いが終わって荒い息を吐いている郁人を見て、パルファはつまらなそうに「ふ〜ん」と洩らしたのだ。
いくらなんでも、冷たいと思う。
しかも、「終わらせるの遅いよ」と、文句まで言われてしまった。
「も〜、郁人はダメなんだから〜。ほら見てよ、もう月があんなところだよ?」
「え……」
そう言われて、パルファが指差した方向を見てから肩まで浸かった。言われるまで気づかなかったのだが、周囲はすっかり夜だ。
「本当ですね……。すみません」
小さな声は沈んでいた。パルファは動きを止めて、郁人を振り向く。
そして。
「はあ〜」
と、大きく嘆息したのだ。
郁人の横まで来ると、同じように肩まで浸かる。
「パルファ?」
「まあ目的の温泉には入れたし、いいってことにしとくよ」
「はあ」
「はあ、じゃないよ。あ、言うの忘れてた」
郁人は首を傾げる。
パルファはにかっと笑ってみせた。
「あけまして、おめでと」
「!」
目を見開く郁人は、微笑む。
「はい、あけましておめでとうございます」
こんなところまで来させられて。
挙句、サーバントと戦って。
でも。
それでも。
温泉は気持ちいいし。
「気持ちいいね〜。あ〜、いい湯〜」
横目でパルファを見てくすりと笑った。
パルファが喜んでくれたのだから、まあ、たまには。
(こんな年明けも、いいかもしれませんね……)
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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜
PC
【w3b232maoh/柏葉・郁人/男/24/孤高の紫】
【w3b232ouma/パルファ/男/19/インプ】
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■ ライター通信 ■
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ご依頼ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
かなりパルファ様に振り回されてる感じの柏葉様になってしまいましたが、最後は仲良くを目指しました。いかがでしょうか?
とても楽しく書かせていただきました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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