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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>
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祈りと力と初詣
集合場所は近所の神社の鳥居で現地集合。目印は“未確認飛行物体”に載っていたと思しき生物。人ごみの中でも見つけることは容易だろう、という祇亜・ヴォルフの提案だが、あながち間違ってはいないのだろうと彼らは思った。元旦ということもあり神社は人・ひと・ヒトで混んでいたが、唯一“目印”の周辺は人が割れて景色を見渡すことが可能だった。そもそも、良識を有する人間は自らを危地に陥れることはしないだろう。と同時に、同類だと見られるのが心外だと思ってもいるのだろう。事実、地球外生物と思われるのは誰だって厭だ。
「うわっ、手ぇ振ってるよ」
はるあきらが心底厭そうに顔をしかめる。握っている神流梨乃亜の手をぎゅっと強く握り締め、少し後方に体を追いやってやる。余計な風景はないだけマシだ。梨乃亜は不思議そうに、だが素直にその行動を取るが、その実意味はよく理解していないらしい。
人外の存在、ミステリアス・グレイは笑顔で一行に向けて手を振っていた。
「待っていたある……って何するあるか!?」
橘朔耶は問答無用でその首根っこらしき部位を掴み、無言で茂みの奥に消える。その後ろに高耶と香月が続き、同じく姿を消した。
紗霧蓮は呆れた顔で、一連の様子を眺めていた。・
「あの三人も相変わらずだな。……って氷冥、それを二人に勧めるな」
持参していた手料理をはるあきらと梨乃亜に勧めようとする氷冥の肩に手をやり、蓮は草臥れたような顔を浮かべた。
「それは“決戦兵器”だ」
とは口が裂けても言えないが、兎に角氷冥の料理は不味い。先程出された分も処理するのに時間がかかったくらいだが、その余韻は未だ蓮自身の体を苦しめている。まだ残っていたのか、と思いながらふらつく体を氷冥が優しく支え、理由が分からないと言った笑みを浮かべた。
「俺が処……じゃなくて食べるから」
これも優しさだ、と。氷冥から受け取った手料理の包みを、蓮は消えた四人のいる茂みへとさりげない仕種で投げやった。申し訳なさそうな顔に、氷冥は仕方なさそうに顔を歪めた。
「また作るさ」
それは困る、とは決して言わない。それも優しさ。ついでに言えば、自らの手を汚して宇宙人の侵略を阻んでいる人間に対して“決戦兵器”を投げ入れてやるのもまた優しさだ。ひどく捩れたものではあるが。
遠く、声にならない悲鳴が響く。先程まで周囲の賑わいに掻き消されて聞こえなかった悲鳴には当然ながら誰一人として歩みを止めなかったが、今度ばかりは一瞬神社に参拝している人間の足がぴたりと止む。
「終わったぜ」
高耶が笑顔で茂みから出てくる。香月が彼女の頭に付いている葉を退けてやり、
「地球の平和は護られました」
と笑顔で言い、無言で蓮と堅く握手をした。手料理を使用したのは、恐らく彼だろう。
「じゃ、復活するまでに参拝すませるか」
朔耶が少し疲れたように言う。
そういえば今回のしばきは長かった。恐らく、復活の時間を少しでも長引かせたかったせいなのだろう。両手を空に向けて思い切り伸ばし、朔耶は精一杯の笑顔で先導していった。
「はるは何お願いするの?」
「秘密」
先に参拝を終えた朔耶、高耶は既に一番近い出店に顔を出していた。射的なので見ているだけでも親父さんは不快に思わないらしく、むしろ綺麗な女性二人に嬉しそうに射的の何たるかを語っていた。他の客が幾度となく金を落としていき、難しいんだな、と二人は他愛のない会話を続けている。
視界に二人を収めながら、はるあきらは目を閉じて手を合わせた。願うことは「家内安全」。所帯染みている気もするが、それが一番の願いなのだ。
目を開けると、一足先に祈願を終えた梨乃亜が笑顔ではるあきらに向いている。
「私はね、『早く大人になれますように』ってお祈りしたの」
「梨乃、こういうのって言ったら意味ないんだよ」
その言葉に梨乃亜はおたおたと慌て出したが、はるあきらの思考は別のことで一杯だった。父親に着せてもらった着物姿が、似合いすぎる。自身も着ているが、取ってつけたような自分とは違って梨乃亜のそれは似合いすぎるのだ。
「……着物、悪くないな」
はるあきらは誰にも聞こえないよう、小声で言った。
その後方、蓮と氷冥の二人は丁度参拝を終えたようで、二人に小走りで駆け寄ってくる。
「何お願いした?」
問う氷冥に、二人は揃って秘密と言う。
「言ったら叶わないんだよ」
残念そうに氷冥は肯き、蓮に向く。
「あ、俺氷冥の祈願したことって大体予想付くから、別に言い合わなくてもいい」
恐らく、「終戦」だろう。そう蓮は簡単に口にした。氷冥はつまらなそうにそっぽを向いた。「終戦」というのは確かに正しい。だが蓮と一緒にいられるということも大切なのだと、同時に願ったのだ。気付かないなんて、最低だ。あとで最高の料理で自分の有難さを実感してもらわないと、な。拳を小さく握り締め、氷冥は決意する。
「…………!?」
突如感じるぞくりとする悪寒に、蓮は氷冥に視線をやる。いつになくやる気の彼女には悪いことしか想像出来ず、良くなりかけた体調が再び悪化しそうな感じまでしてくる。気のせい、と言い聞かせてもあまり効果はなく、意を決したようにうな垂れた。
「で、香月は?」
見ると、香月はまだ祈願中だった。傍でちょっかいをかけるグレイを足蹴にしながら手を合わせ、
「さっさと死んでください。それが一番の俺の願いです」
と口に出す。神に祈っても叶わないことなので、実力行使をするのが最も手早い行為であることは事実だ。グレイの復活は幾度となく続き、その度に香月は笑顔で祈り続ける。
「香月、そろそろ行くよ」
蓮の声に、香月はグレイだったものを指先で摘みながら四人の元までやってくる。
笑みを浮かべたままそれを足元に放り投げ、グレイはくぐもった声を上げてバウンドした。
「……氷冥、任せた」
「分かった」
何が分かったのか、氷冥は蓮の体を支えたまま器用に短剣を投げつける。その全てが急所に当たり、当たる度にグレイはびくんと痙攣を繰り返す。それでも、死なないのが常識。面倒臭そうに氷冥が短剣を何十本目か投げた頃に、
「もういいよ」
蓮の声で動きを止める。梨乃亜が申し訳なさそうに、その全ての短剣を抜こうとする。
「梨乃、何してるの?」
「刺しているままじゃ痛いでしょ?」
いーや、抜く行為の方が充分痛いだろ、と思い、はるあきらは、
「刺しっ放しの方が血が抜けないからいいんだよ」
ともっともらしいことを言って、再度短剣を刺し直す。捻りながら刺したので、グレイは悶えていたが無視。
「新年会のときは一撃でのしてさしあげましたが、こういった風にねちねちやるのもおつですね」
笑顔で言う香月にグレイは視線を送るが全く効果がないのは確かで、逆に強烈な踵落としが入った。このまま放置しておけば周囲に迷惑がかかる、と漸く判断したのか、蓮はグレイの体を掘っていた穴の中に乱雑に収める。
「二人を追いかけようか」
提案に誰もが反対することなく、その場を後にした。
見慣れた後姿に、祇亜は声をかける。
「参拝終わった?」
「ああ、さっき。今は他の人間待ち。そっちは仕事明け?」
「そんなところだ。一足先に戻ってるから、後で合流しような」
出店から少し離れた人ごみの途切れた場所で、朔耶は了解、と微笑んだ。
「あまり遅くなるなよ」
との祇亜の声に、朔耶は肯く。丁度そのとき、高耶が手に綿飴やら林檎飴を持って駆けてくる。彼女に向けて二人で手を振り、自身の場所を示した。
「あけましておめでとうございます」
息を切らしながら、高耶に向けて祇亜は嬉しそうに挨拶をした。祇亜も返す。
「朔耶、どれがいい?」
「どれでも」
渡された林檎飴を口に入れ、朔耶は祇亜に問う。
「そういえば、こうやって落ち着いて話すのって今年初めてじゃない?」
「そうだな。新年会は護衛の気分で、正直ぴりぴりしていたからな」
護衛ってひどいな、と朔耶は笑う。
「なら、新年明けてからゆっくり話せばいいじゃない?」
高耶の言葉に、二人は苦々しげに肯いた。
「でも、さ」
朔耶の振るった右手が何かの首を掴み、振り落とした腕が何かを叩き落す。
「こういうのがいるから、な」
祇亜の何故か持っていたミニ鳥居が、何かの上に落とされ、その腹の上に突き刺さり地面と固定する。肘撃ちが鳥居を完全に一体化させ、その上に高耶が腰掛けた。
「そうだな、大変だな」
ちっとも大変だと思っていない顔で高耶は二人を眺め、愉しそうに笑っていた。
そしてすぐに合流した五人と共に即席鳥居+アルファを後にし、出店の方へと姿を消していったのだった。
【END】
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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【w3j373maoh/ミステリアス・グレイ/男性/91歳/残酷の黒】
【w3b248maoh/橘朔耶/女性/15歳/激情の紅】
【w3b248ouma/高耶/女性/16歳/インプ】
【w3d562maoh/紗霧蓮/男性/19歳/孤高の紫】
【w3d562ouma/氷冥/女性/20歳/ウインターフォーク】
【w3e496maoh/祇亜・ヴォルフ/男性/27歳/直感の白】
【w3h486maoh/神流梨乃亜/女性/6歳/激情の紅】
【w3h486ouma/はるあきら/男性/12歳/シャンブロウ】
【w3j373ouma/香月/男性/21歳/シャンブロウ】
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■ ライター通信 ■
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。
やはり書いていて、愉しかったです。
グレイをこうもしばき倒してよいのか毎回疑問にもっているのですが、今回は一層陰険にやらせていただきました。
陰険という割には、暴力に思い切り依存している場が多々あるので、実際はなんと言えばよいのか分からないですが(笑)。
しばき度数を一層上げるためにも、もっと精進せねばいけないですね。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。
それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。
千秋志庵 拝
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