<バレンタイン・恋人達の物語2005>


Confession 〜クリスクリスのどっきどき☆恋愛相談室〜


 トレンチコートに目深にかぶったチューリップハット。顔の半分を隠す白いマスクに丸いサングラスで校門の中を伺う、その姿は明らかに怪しんでくださいと、言わんばかりであった。
「なにしてるの、鳴神さん?」
 一つ間違えれば、警察に通報されかれない知り合いの格好にクリスクリスは、背後から声をかけた。
「どわぁ!?ク、クリス」
 よぉ、いい天気だな。元気か?明後日の方向を向くその声は、鳴神らしくなく。明らかに動揺して裏返っている。
「?」
 赤いランドセルを背負ったまま、クリスクリスは小首を傾げた。
「元気かって……今朝もあったじゃない」
 二人は同じペンションに住む、友人同士。毎日のように顔をあわせ、家族も同然の間柄である。
「あぁ〜と…その……なんだ……いいから付き合え!」
 がしっとクリスの手を掴むと、鳴神は脱兎のごとく、その場から走り去った。年端も無い少女を強引に連れ去る、三十路男。その姿は運良く誰にも見咎められることがなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「で、結局どうしたの」
 学校帰りの女の子を、こんな所に連れ込むなんていけないんだぁ〜。苦笑しながら、クリスクリスは喫茶店のテーブルに突っ伏した鳴神の、シャンブロウ特有の猫耳をつんつんとつつく。
「………」
「もごもごいっても分からないよぉ〜。あ、お姉さんボク、ストロベリーパフェね」
「ちょっとまて待つのだ、勘定は割り勘だぞ割り勘!」
 そこで会計は別だと、出てこない辺りが実に鳴神らしい。
「えー鳴神さんがボクのことつれてきたんだから、鳴神さんもちだよぉ」
 じゃれ合う二人の前にコーヒーとストロベリーパフェが並べられた。

「それでなーに?え?お姉ちゃんが今年チョコくれるかどうか知りたいの?」
 あのねぇ‥気持ちはわかるけど………どしてこんなトコだけ受身かなぁ。クリスクリスがお姉ちゃんと呼ぶのは鳴神が密に思いを寄せている女性のことである。
「いや、あの女がチョコレートを作っていたかどうかだけでもいいのだ」
 どうやら恋する三十路男は、想い人の同行が気になって仕方がないらしい。
「チョコレートを作っているかもしれないけど、それが鳴神さんの物とはかぎらないんじゃない?」
 クリスクリスのさりげない一言に、鳴神は砕け散った。
「あれ?言い過ぎちゃった……かな………?」
「……ふふふふ、俺は大人で心が広いからな、このぐらいじゃへこたれないのだ」
 肩を震わせ不気味な笑い声をあげ、鳴神は拳を突き上げた。
「今年の俺は一味違う!!」
 どの様に違うのか、はっきりとした線引きが見えないので、聊か不安が残るが、グルタミン酸過剰分泌できっと甘みが増しているのだろう(予想)
「じゃあ自分できいたら?」
 今年のチョコを誰に作っているのか知りたいんだよね〜?本人に聞けば早いよ。
 無邪気に微笑むクリスの言葉に、鳴神は再度撃沈した。
「……自分で聞ければ…自分で聞きたいけど……自分で聞くとき……」
 鳴神自慢のアメリカンショートヘアのようなラインが綺麗な、猫耳が情けなさそうにへちゃとたれてしまっている。以外にシャイな三十路男の恋心は揺れいてた。
 目の前に置かれた、コーヒーカップに砂糖とミルクを大量にいれ、スプーンでぐるぐるとかき回し始めた鳴神をみて、クリスクリスは溜息をついた。
「鳴神さんは三十路でも若く見えるし、三十路でも腕っ節が強いし三十路でも獣耳だから、男性として魅力が無い訳じゃないんだし。ちょっとエッチなのも照れ隠しなんでしょ?」
 褒めているのかどうか、微妙な表現ではあれど、クリスクリスなりに、鳴神の美点を挙げていく。
「お姉ちゃんはブラコンだけど、無理に「兄様」の替わりしようなんて思わないでさ。鳴神さんが大人の男として優しく包んであげればいいんだよ!あぁ…もう!コーヒーかき回してても何も進まないよぉ」
 茫然自失、魂が抜けたようにコーヒーをかき回す鳴神の肩をクリスクリスが強く揺さぶった。

「……そうだよな、俺があいつを守ってやればいいんだよな」
 山のように海のように広い心で、受け止めてやるべきだよな。
「そう、その意気だよ。鳴神さん」
 半分ぐらい垂れ流し気味だった、魂を戻すと再び鳴神の瞳に力が戻ってきた。
「でも…そうはいっても実際にどうすれば……」
 再びへこみかけた、鳴神の腕をクリスクリスが引っ張った。
「よし!ボクが見立ててあげるから、バレンタインの贈り物買いにいこう!」
 お礼は来月に3倍返しでいいから♪とちゃっかり自分の分もカウントに入れて。


「やっぱり、女の子にあげるものはお花だよね〜」
「むむ、やはりここは赤いバラとかが、ダンディズムを表せてよいな」
 ものめずらしげに、鳴神も花屋に並べられた切花を見て回る。
「駄目だよ〜鳴神さんにバラは却下。お姉ちゃんにもちょっとおとなっぽ過ぎるから……うん、これなんか、いいんじゃないかな」
 クリスクリスがチョイスしたのは淡いピンクのチューリップ。
「これ、ブーケにしてください」
 クリスクリスが見立てたのは他に、鳴神そっくりの子猫の人形。
「何時までも、受身ばっかりじゃ駄目だよ、男ならどーんと」
「ぶつかって砕けたらどうしてくれるんだよ……」
 まだ釈然としないのか、子猫の人形と小さな花束を手に鳴神がおろおろと、ペンションの前で行ったりきたりする。
「まったくもぉ〜…うじうじ悩んでないで渡しておいでってば!」
 ドンッとクリスクリスがその背を押した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 バシャンっ。
「ばしゃん……?」
 普通ならするはずの無い、音に慌ててクリスクリスはペンションの入り口を覗き込む。
 そこは甘い香りと、黒い物体に埋め尽くされていた。
「おや、お帰りなさいまし」
 チョコレートでコーティングされた人型は声と、体格から察するにペンションの執事。
「クリスちゃん、お帰りなさいです」
 ボールの中に紫色のなんとも言えない、物体を溶かしているのはペンションのオーナー。
 当の鳴神はといえば……いつの間にか玄関に出来ていたチョコレートのプールの中に浮いていた。
「今年も思いを伝えるのは無理みたいだね……」
 そういえば…と毎年のようにペンションで繰り広げられるバレンタイン騒動の数々を思い出し、クリスクリスは心の中で鳴神に合掌した。
「がんばれ、鳴神さん何時か想いが伝えられるといいね」


 その後……鳴神氏の元に念願の物が届けられたか否かを知るのは、当事者のみであった。
 



【 Fin 】



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業・種族】


【w3c964 / クリスクリス / 11歳 / 女性 / 逢魔(ウィンターフォーク)】
【w3i013 / 鳴神 / 31歳 / 男性 / 逢魔(シャンブロウ)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、新人密のはると申します。
今回はご用命ありがとうございました。
バレンタイン・・・というよりも、鳴神さんの苦労の連続だったような気がいたしましたが・・・
いかがでしたでしょうか?こっそりペンション日向の皆様のファンをしておりましたので、ご発注頂き大変うれしかったです。
改善点等ございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ。