<バレンタイン・恋人達の物語2005>


Sweet Dream 〜あんはっぴぃ ばれんたいん?〜

    〜レディと愉快な僕の物語〜


 2月14日……乙女の命運をかけた1大イベント。世の恋する乙女は、思いを寄せる相手へ気持ちを伝えるために様々な努力をするのだという……
 そして、それは思いを受け止める男性にとっても、明暗を分ける日でもあった……


 キッチンの方から、楽しそうな女性陣の声と時々聞こえるのは某謎の美女の高笑い。
「はぁ……」
「何、辛気臭い溜息をついているんだ?」
「だって……」
 己の魔皇に無理やりここまで引き摺られて、やってきたインプのヴェスパーは、店の主を振り返った。
「仕方ないよ、あの人イベント大好きだから……」
 こちらは膝の上に乗せたノートパソコンの画面から目を離さずに、万輝がぼそりと呟く。
「万坊まで〜」
 お願いだからとめてよぉ〜。
「無理だな」
「無理だね」
 よく似た二人は、一切の迷いも同情も無く言い切った。
「にゅ〜、そんなにはっきり言わなくても」
 その言葉にヴェスパーはしくしくと店の隅で膝を抱え床に『の』の字を書く。
『……お主も苦労をしているのであるな……』
 ヴェスパーの様子に同情したイグアナが、ポンとその腰に右手をおいた。どうやら、がっくりと下がった肩に置こうとした様だが腕が短すぎて届かなかったようだ。
「シン〜」
『分かるぞよ、我も普段から皆に蔑まれているゆえ』
 イグアナとインプは暫し見つめ会い、がばっと抱き合った。新たな友情が生まれた瞬間だった。
「馬鹿みたい……」
「どうした?お前も何か気がかりなことがあるような感じだが?」
 呆れたように、ヴェスパーとシンの種族を超えた友情の抱擁を眺めていた万輝に、珍しいなと、店主が含み笑いを漏らす。
「別に……なんでもないよ」
 万輝は視線をスッとそらすと、再びディスプレイに目を落とした。
「それならいいけどな」
 くすりと、人の悪い笑みを口元に張り付かせて、春日は冷めかけた紅茶を口に含んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ぽけーっと、キッチンで楽しそうにお菓子作りにせいを出す己の魔皇様は本当に楽しそうだ。普通にしていれば、そこそこに見れる好青年の、自慢の魔皇なのだが……
 妙なところに、全力を尽くす彼は、女装にも手を抜いたりはしない。今ヴェスパーの前にいるのは完璧に(長身だが)美女にしかみえない魅惑のレディだ。
 実際に女装をしての潜入捜査(といえるかどうかは謎)では消して、男性であることを見破られたことはなかった。相手が相手だったから、という注釈が聞こえてくることもあったとはいえ…それでも、ある程度名の知れた中堅どころの魔皇だったのだ。
 公には彼の魔皇名は既にない。一度全ての過去を抹消してしまったから………
 それでも、こそこそと暗躍する彼の魔皇の行動も少しは形に成ってきたところで……
 神魔双方の活動が下火になり、今では休戦状態になっていた。
「一体何がおきようとしているんだろう……」
『なんなら占って進ぜようか?』
「当たるの?」
 新しい親友の、快い申し出にヴェスパーが苦笑しながらその瞳を覗き込む。
『我は星の力を秘めし、聖なるイグアナなるぞ!』
 ありがたいのかどうか、ものすごく微妙な肩書きを滔々と名乗る。
「僕の名前も、星の名前から来てるんだ」
 奇遇だね。
『うむ、なにやらものすごくあたりそうな予感がするのである』
 むむむむむ……。とイグアナが、唸る。
『むむ、むむむむ。月の光が消えるとき全てのバランスが崩れる。心は壊れ思いの海は血で溢れる……全ては手を離さぬこと、可の者の心に既に未練はなし』
 次は無いと思え。
『うむ、余りパッとしたものではないのである』
 芳しくない結果にしゅんと、シンが床に頭を伏せる。
「そうでもないよ、絶対に手を離さなければいいだけの話なんだよね!」
 えいやっと、立ち上がり、それまでの寂しげな顔が嘘のようにヴェスパーは元気良くシンに笑いかけた。
「ありがと、シン僕絶対に次は兄ちゃんの手を離してやらないんだ!」
 兄ちゃんてばほおっておけないしさ。
『少しでも、何かの道標になればよかったである』
 ほっと、イグアナはヴェスパーの肩によじ登った。

「ヴェスパー、どうせ貰う相手もいないんだろ?」
 やる。っと店主が無造作に放り投げたものは、金色の包装紙に包まれた、有名店のチョコレート。
「わぁ〜」
 万輝の前にも、少し大きめの包みが見えるが、大半は千影のおなかに入るのだろうということが予想される。
「ありがと姉ちゃん」
「別にお返しなんか必要ないからな、大事に食えよ」
 ガシガシと頭を撫でるその撫で方は、朔夜にそっくりだ。
「姉ちゃん、また遊びに来ていい?」
 兄ちゃんもつれてさ。
「あの、阿呆が来たがるかどうかしらんが…何時でも遊びにくるといい」
 ルゥも待ってるしな。にやりと、わらう。
「そ、そんなんじゃないよ!?」
 慌てるヴェスパーの様子が可笑しかったのか、春日とシンが剥れるヴェスパーを尻目に何時までも笑いあっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「兄ちゃん!」
「今のわたくしは、クレセントだといってるでしょ」
 軽く睨まれて、どきりとするがここで負けては始まらない。
「そ、そんなことして気を緩ませようとしても無駄だからね。僕、絶対に兄ちゃんから離れないから!」
「……なんのことかしらん?」
「僕をここにおいて自分だけで出かけようとしていたでしょう!」
 ここならば安全だから。神帝軍の手はここまでは及ばない。それが分かっているから、朔夜はヴェスパーをここにおいていこうとしていた。
「僕は兄ちゃんの逢魔なんだよ!魂の絆をまた失うのは嫌だよ!!」
 いつの間にかヴェスパーの頬には涙が流れていた……。
「しょうがねぇ奴だな………俺と一緒にいると危ないんだぜ」
 艶やかな黒髪のウィッグをかきあげる。
「それでもいいから一緒にいく」
 つれてって!真摯な己半身の眼差しに、魔皇は降参した。
「死なばもろともか……」
 しかたないな……
「こい、ヴェスパー」
 朔夜は子犬のように呼ばれるのを待っている、ヴェスパーに左手を差し出した。
「うん!」



【 Fin 】



  
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業・種族】

【3689 / 千影 / 14歳 / 女性 /ZOA】
【3480 / 栄神・万輝 / 14歳 / 男性 / モデル・情報屋】
【w3h299 / 栄神・朔夜 / 21歳 / 男性 / 魔皇(黒)】
【w3h299 / ヴェスパー / 13歳 / 男性 / 逢魔(インプ)】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】
【NPC / ルゥ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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変則パーティーでの御参加ありがとうございます。
私の意思すらも、そっちのけでの御参加ほ・ん・と・う・に(強調)うれしく思いますw
皆様らしさを書ききれていればよいのですが・・・
よい息抜きをさせていただき本当にありがとうございました。