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<バレンタイン・恋人達の物語2005>
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【Love Chronicle】
『Love Chronicle』。それは、どこかに存在するレストラン。1年のうち、特別な日の夜にだけ営業するという少し不思議なお店。
今宵は聖バレンタインデイ。今日もまた、きっかけを求める者たちが訪れる……。
●
カランカラン……と、ドアについたベルが鳴り、一組のカップルが訪れた。
「いらっしゃいませ、ご予約の方は……」
マニュアル通りの対応をする店員に、金髪で長身の男性――イァラ・トレーシスが受け答えをしている。それに対して、黒髪で小柄な女性――シーラ・イルゼムリヤは、店内をきょろきょろと見回していた。
久しぶりのデートということで、イァラがいいところを見せようと予約しておいた少し格式の高いレストラン。北極圏で伝統的な生活を続けてきたイヌイットの彼女としては珍しいらしい。
対するイァラは、久しぶりのデートだということで、いいところを見せようと思っていたのだが、店に着いた時点で、食事をするだけなのにどういいところを見せるのかということに気づき、内心がっかりしていた。
しかし、いざ店員が席へ案内するとなっても、それに気づかずにまだ辺りを見回している辺り、このお店を予約しておいたこと自体、いいところを見せたことになるのではないだろうか。そう思うと少し笑みが零れる。
「シーラ、おいで」
まだきょろきょろしているシーラに声をかけ、イァラは彼女の手をひくと、店員の後を着いていった。
通された席のテーブルの上には、小さなアロマキャンドルに火が灯され、雰囲気を出していた。向かい合って座っていても、シーラはまだ少し周りが気になって、瞳がきょろきょろしている。
暫くして、前菜とスープが運ばれてくると、シーラはイァラの仕草を真似、イァラがフォークを取れば自分もフォークを取り、スプーンを手にすればスプーンを手にした。
「そんなに形式にこだわらなくても……食べたいように食べればいいよ」
「そ、そう?」
微かに苦笑しつつ、そう諭すイァラにシーラは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お料理とってもおいしいです。あっ、これも、これも!」
次の料理が運ばれてくる頃、シーラはテーブルマナーを気にしていたことも忘れ、食べることに集中してしまっていた。
イァラはというと時折食べる手を止めてはそんな彼女の様子を眺めている。
「こういう風に食事できることが幸せなんだなあ……」
イァラの呟きが聞こえたのか、シーラは顔を上げた。瞳が不思議だということを語っている。
「気にしないでいいよ」
そう言って食事を続けると、不思議そうにしながらもシーラもまた食事を続けた。
「バレンタインの由来……って、知ってるか?」
食事の方も終わりに近づき、デザートと紅茶が運ばれてくるとイァラはそう尋ねた。
「ううん……実は知らなくて……」
気恥ずかしそうに言うシーラにイァラはまるで子供にお話を聞かせるかのように語り始めた。
聖バレンタインというのはもともと聖人の名前なんだよ。
ずっと昔のこと、ある皇帝は若者たちが戦争に出て行こうとしないことに手を焼いていたんだ。
若者たちは愛する家族や恋人と離れたくなかった。
それを怒った皇帝は結婚することを禁じたんだ。
けれど、ある宗教の司祭であるバレンチノ――英語読みでバレンタインって読むんだけど――は、可哀想な兵士たちを見かねて、こっそり結婚させていた。
そのことをある日皇帝が知ってしまい、さあ大変。
当時その地域でその宗教は迫害されていて、皇帝はバレンチノに罪を認めさせ、その地域が信仰する宗教に改宗させようとしたんだ。
でも彼はそれを拒否し、今ではバレンタインデイと呼ばれている2月14日に、処刑されてしまった。
それから200年の後、もともとルペルカーリア祭という豊穣の神のためのお祭りがあったけれど、そのお祭りの内容が変えられ、くじ引きで聖人の名前を引かせ、1年間、その聖人に倣った生き方をするように励ます行事にしたんだ。
そして、このお祭りを行う頃に亡くなったバレンチノを行事の守護聖人にし、次第にこの日、恋人たちがカードや贈り物をする日になっていったんだよ……。
「だからこうやって自由に心を通わせられるのは……よいことだよな」
「そうですね」
由来の話の後にそう付け加えると、シーラも頬を染めながら同意した。
「ま、そんなわけだから……バレンタインさんに乾杯しよう?」
ミルクの注がれているグラスを手に取り、促す。シーラがグラスを手に取ると、カチン……とグラスの縁を合わせ、乾杯した。
「あ……これ、初めてだけど、一生懸命作ったんです」
思い出したかのようにシーラがカバンからごそごそと取り出したのは1つの包み。包装紙でラッピングした上にリボンがかけられ、メッセージカードがついていた。
「ありがとう、嬉しいよ……開けてもいい?」
「はい」
シーラの返事を聞いたイァラは早速メッセージカードに目を通し、そしてリボンを解くと包みを開いた。
箱の中にところ狭しと並ぶチョコレートは、初めて作ったという割には、美味しそうに仕上がっている。
その中の1つを手に取り眺めてから、イァラはそれを口へ放り込んだ。
「どう?」
シーラは心配そうにイァラの顔を覗き込んだ。
「うん、美味しいよ」
笑顔でそう返すと、シーラは安心したのか、ほっとしているようだった。
「その……日本じゃ好きな男の人にチョコレートを渡して婚約するんでしたっけ? 来月お返しが来たらOKだって……」
知り合いに訊いた際、シーラが何も知らないのをいいことに吹き込まれたのか、一部違うことまで教えてもらっているようだった。それでもシーラはそれを信じ込み、言葉を紡ぐごとに顔を赤らめ、うつむき加減になっていく。
「結納の品だって……聞きました」
「っ! ……けほっ! ゆ、結納……って」
知り合いの言葉を信じきったまま、そう告げたシーラに対し、イァラは食べかけていたチョコレートを喉に詰まらせかけた。慌てて、グラスを手に取りミルクを飲む。
「だ、大丈夫?」
「ん……」
心配して覗き込んでくるシーラに、返事してイァラは呼吸を整えた。
「婚約とか結納とかはともかく……ま、来月を楽しみにしていて」
「……はい」
店を後にする頃、外はすっかり寒くなっていた。
イァラは寄り添ってくるシーラの手を取る。
澄んだ冬の夜空にはたくさんの星が輝いていた。
終。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【w3a062maoh / イァラ・トレーシス / 男 / 21歳 / ―】
【w3b852maoh / シーラ・イルゼムリヤ / 女 / 16歳 / ―】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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イァラ様、参加ありがとうございました。
お2人のバレンタインという恋人たちにとって貴重なこの日のことを書かせていただき、とても嬉しかったです。
これからも仲良くお過ごしくださいませ。
暁ゆか
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