<ホワイトデー・恋人達の物語2005>


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 闇に響き渡る、剣戟、銃声、怒号、断末魔の悲鳴……全てがここでは日常の出来事。魔に属する者の街デモンズゲート。破壊と暴力に満ち溢れ、平穏に飽いたアウトローの魔の者が辿り着く場所。
 彼も、そうして流れてきた魔皇の一人であった。


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「……僕は…ここでやられるわけにはいかない!」
 手にした十字架の様な大剣を横一線に振りぬく。無造作に伸びた前髪から覗く眼光は、幼さの残る外見に似つかわしくなく鋭くきつい。
 魔皇を感情の属性表す五色の色。赤、紫、黒、白……そして彼、加藤・信人の感情の色を示す金。祖はただ戦うために生きる、修羅の魂を持ちて生まれた者。故にその色を宿す魔皇は修羅の黄金と呼ばれている。
 腕の1本や2本魔皇にとって大した怪我には入らない、やるならば……一撃で首を切り飛ばし、再生不可能なぐらいの至近距離でダークフォースを内臓めがけて叩き込む。
 幾たびもの死線を潜り抜けてきた信人にとって、やられる前に殺る。それが鉄則の掟。戦いの中で躊躇することは死する事と同じ事……
 戦いに巻き込まれてどれぐらいの者を切り伏せ、どれだけの傷を負ったのか。
 信人の手にした悪即斬と名付けた、剣から滴り落ちる鮮血は誰のものなのか……すでにそれすらも分からない。自分の体の感覚まで曖昧になりつつあった。
 長い前髪をつたい、目の中に入る汗を血で濡れた拳で拭い、大剣を握りなおす。
「……もう一度……」
 君に逢うまでは……
 瞳は半眼、同じ魔族を切ることに迷いはない信人の中にあるのは生対する執着心。
 目の前に立ちはだかり刃を向けるものに遠慮する義理はない。手にした大剣で相手の肩口から斬撃を放つ。信人の猛攻に次第に地を立つものの数は減っていた。
「僕は……死ねない!!」
 全ての力を一撃にかけた、残像を残し黄金の閃光が地を走る。鬼神の様に刃を振るう信人の瞼の裏には、思い出の中に何時も夏の日差しのように輝いていた愛しい人の眩い笑顔があった。

 何時戦いが終わったのか、気が付けばその場に立つのは信人だけだった。これだけの騒ぎにも警察が駆けつける気配はない……ここはそういう場所だから。
「………ふぅ…」
 まだ辛うじて息があるものもいるが、信人以外で動けるものはいないらしい。大剣を濡らす血と油を拭うと、信人はその場を静かに離れた。
「……あ……」
 首に巻いていたマフラーに飛び散っている赤いものに目を潜める。いつの間にか浴びていた返り血が、白いマフラーを赤く汚していた。貰ったときは純白だったそれも今では、その面影も薄くなっている。
「二年前の今日、是は君に渡すはずだったのにな……」
 目を閉じれば何時も思い出すのは、笑っていた愛しい人の姿。
 けれど、遠い遠い場所に旅立ってしまった自分。そして、帰るべき場所に、最愛の人は待っていてはくれなかった。
「…僕たちは……ただ、すれ違い続けてしまったね。今、君は何処に居るんだい……?」
 愛しい人の残滓も感じなくなったマフラーに顔を埋めて漏らした呟きは、夜風に溶けて消えた……

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『……ノブくん………』
「……か!?」
 振り向いた先にあるのは切れ掛けた街灯が瞬きする、暗い裏路地。
「…………空耳か……」
 夜風の中に待ち人の幻聴を聞き、疲れたように信人は前髪をかきあげ空を見た。もう一度あの人に出会い、このマフラーを返すことができるのだろうか……
 一度でいい、もう一度でいいからあの人の笑顔を見たいと思うのは高すぎる願望なのだろうか……ただあのまぶしい笑顔でもう一度僕のことを呼んで欲しい……
 信人は暫く、泣きそうな寂しそうななんともいえない眼差しで、雲の隙間から覗く白い月を眺めていた……
 どのぐらいそうしていたのだろうか……やがて、彼は何かを振り切るように月から目を逸らすと、薄暗い路地裏を歩き出した。
 すれ違いというものは更なるすれ違いを生む。たった一つの小さな行き違いがその人物の人生に大きくかかわるすれ違いとなることもある。
 運命といわれればそれまでかもしれない、だからと言って信人は諦める気はさらさらなかった。
 何時か必ず……もう一度……その誓だけを胸に混沌が支配する暗いデモンズゲートの街に消えていった。




【 Fin 】



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業・種族】


【w3d191 / 加藤・信人 / 22歳 / 男性 / 魔皇(修羅の黄金)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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加藤・信人様

始めまして、ライターのはると申します。
この度はホワイトデー・恋人達の物語2005への御参加真にありがとうございました。
実は……シリアス戦闘描写というものが初挑戦でしたので、戦闘時の臨場感が美味く出せているかどうか……。
奥様…で、よろしかったでしょうか?との再会が適うことをお祈りいたしております。
今回は御指名ありがとうございました。