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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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終わりと始まりの日
朝、起きて、学校に行って。学校帰りにちょっと寄り道をする。
いつもと同じ。変化の少ない、けれど平和で楽しい毎日。
今日もそんな一日だった。
――たった今この瞬間、目の前に降り立ったそれを見るまでは……。
「うわあああっ!?」
巨体が地面に降り立つ大きな音と、それにともない舞いあがる埃。
「ロボット……?」
神楽伊勇気の目の前にあらわれたのは、ぱっと見にはそうとしか見えない、数体の巨人であった。
咄嗟に物影に隠れてみたものの、対して距離が離れていないこの状況では、あまり意味はないだろう。
けれどそれ以上離れようという気にはならなかった――というより。まるでゲームの世界から抜け出してきたようなその存在に、勇気はしばし茫然としていたのだ。
しかし次の瞬間。巨人が互いに相手を攻撃しあい、ぶつかりあって辺りに轟音が響きわたる。
それをきっかけにして硬直状態から解き放たれ、勇気はぱっと駆け出した。
状況はよくわからないが、ここにいては命の危険もあるということくらいは判断がつく。彼らが一体何者なのか。
今、何が起こっているのか。
気になることは多々あれど、少なくとも今、その問いに答えてくれそうな者はいない。
巨人たちは戦いの真っ最中で、下手に近づけば巻きこまれて怪我をしてしまう。
幸いなのは、この周辺に他に人の姿がないことだろうか。学校帰りに勇気が寄り道をしたのは、住宅街から少々離れたところにある広場だったのだ。
しばらく駆けて、勇気はピタリと立ち止まって振りかえる。
ほとんど巨人の真下にいた先ほどと違い、ここからは巨人たちの戦う光景がよく、見えた。
本当ならば一刻も早くこの場を離れ、安全な場所まで行くべきだ。そんなこと、頭ではよくわかっている。
だが、どうしてか。
その戦いの様子から目を離すことができなかったのだ。
◆ ◆ ◆
戦いは誰の目から見ても明らかに、こちら側が不利だった。
いまだ魔皇と出会っていない逢魔・シリエンは、戦いに巻き込まれないよう少々離れた場所でその光景を目に留めて、ただ祈るしかできない自分を歯痒く思っていた。
せめてもの救いは戦いの舞台となったここが人の少ない場所で、一般人の被害はないだろうということだった。
だが。
「うわあああっ!?」
「え?」
聞こえた叫びに、シリエンは素早く周囲を見渡した。
ちょうど、殲機が降り立ったそのすぐ傍に、少年らしき人影がひとつ。
「大変!」
少年はなんとかその場からは逃げていったが、しかし。何故かその途中で立ち止まってしまう。
もしかして、怪我でもしたのだろうか?
戦いではなにもできないけれど。せめて、これ以上誰かが傷つくことのないように。
シリエンはその少年に手を貸すべく、彼の元へと駆け出した。
彼の元へと辿り着く前に、彼のほうでシリエンに気付いたらしい。
彼が、こちらを見る――目が合った。
その瞬間。
「……魔皇さま……」
わかってしまった。
ずっとずっと、探していたたった一人の大切なパートナー。
それが、彼であることを。
「まおうさま?」
不思議そうにシリエンを見つめる彼に、告げる。
「お願い。わたしと一緒に、戦って欲しいの。今、仲間を助けるために、あなたの力が必要なの」
「……僕?」
突然の言葉に目を白黒させながらも、自身を指して問いかけた彼に、こくりと頷く。
そしてシリエンは彼の乗るべき殲機をこの場に召喚する。
じっと。彼はしばらくシリエンと殲機を交互に見つめていたが、にこりと笑って手を差し出した。
「うん、一緒に行くよ、僕」
「ありがとう……」
二人の姿が殲機の中に消え、戦いが始まる。
一組の魔皇と逢魔が今ここに出会い、ここから新たな戦いが始まるのだ。
◆ ◆ ◆
当然だが、なにもかもが初めてのことだった。
目の前に現れた少女と、巨人。共に戦って欲しいと言われて……少女の必死の頼みを断ることなんてできなかった。
「よおしっ、行くよっ!」
「はい!」
自分で自分を鼓舞するように叫ぶと、勇気を案じる優しい声が返ってくる。
目の前には巨人が数体。彼女の説明によれば味方の巨人が一体と、敵の巨人が二体。勇気が現れたことで、一対一の戦いになるわけだ。
勇気は勢いをつけて駆け出すと、敵の一体に向けてタックルをかます。
たった今初めて乗ったこの巨人を上手く操作なんてできるわけがなく、最善の攻撃方法が体当たりであったのだ。
敵は一瞬よろけたものの、さすがに倒れてはくれず、勇気の前に立ちはだかる。
「負けないからね!!」
どうしてかは知らないが、操縦方法がわかる。戦いに慣れていない分の不利はあるが、ゲーム好きが役に立ったのかもしれない。
勇気は不利な状況とぎこちない動きながらも見事な機転で敵を倒すことに成功したのだ。
敵の巨人を倒し、勇気自身も巨人から降り。改めて、たった今自分がのっていた巨人を見上げる。
終わってみれば、まるで夢のような時間だった。だが目の前にある巨人は現実だし、勇気を誘った少女も現実のものだ。
「僕は神楽伊勇気。キミはなんて言うの?」
戸惑いはまだ消えていない。けれど、頭のどこかで理解していた。
もう、昨日までの生活には戻れないことを。
戦いは、始まってしまったのだ。
「シリエンって言います。あなたの……勇気のパートナーの逢魔なの」
微笑む表情には、嬉しげな光と申し訳なさそうな光が混在していた。
けれど勇気はそんなシリエンに気付きながらも、あえて追及することなく屈託のない笑顔を浮かべる。
「これからよろしくね、シリエン」
差し出された右手。シリエンはゆっくりと自らの右手を伸ばして、勇気の思いを受け取った。
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