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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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FirstContact
きっと、トモダチ付き合いってこんなもんよね、等と思っていたのかもしれない。
都連は神魔戦が終わって後、学校へと通いだすようになっていた。
が、これも戦いが終わったから行くのであって、都連自身は何故学校へ行くのか、何の必要があるのかは見出すことが出来ずに居た。
人付き合い、と言う物が良く解らない。
慣れて、いない。
如何すれば良いのか解らない―――………だから、学校で同じ学年の女の子たちはと言えば、取り巻きだし、男だったら下僕のような感じにしか扱えず、まともな友人関係を作れずにいた。
(……つまんないな、学校って……)
必要なことだから行きなさい、と言われて早数ヶ月。
けれど一体あの集団の中で何が必要になるのだろう?
行かなくても困りもしない。
そんな風に考えた時、都連の視界に何かが入ってきた。
いつもなら、特に何も考えずにすれ違っていただろう風景。
良く、ある風景だ。
弱い者が強い者に何かを強制させられている風景など。
だが。
この時ばかりは話が違った。
都連は学校の事などでかなり機嫌が悪かったのだ――、この苛つきを何処かにぶつけたいほどに。
「誰か……っ」
「―――!」
少女が助けを求めるのと都連が叫び、殴りかかったのは同じタイミングだ。
実際、自分自身が何と言いながら男たちをぶちのめしたか都連は覚えていない。
多数に対して一人が醜いと思ったのか、その言葉を叫んだかどうかも解らない。
が、都連の目の前、座り込み瞳を煌かせる少女を見ると、多分、そのような事を言ったのだろう。
(でなければ、此処まで喜ばないよね……?)
きっと、そうだ。だから、
「野郎ごときに怖気づいてんじゃないわよ」と、都連は手を差し伸べた。
嬉しそうにこちらを見上げ手を掴む少女のぬくもりが通常より低い――冷たいような気がして、一瞬不思議に思う、が直ぐに思考を変え、笑う膝をどうにかしたくて空いた手を都連は膝を掴む。
僅かながら、膝の震えは収まっていき「ね?」と漸く首を傾げる余裕も出てきて。
「うん……ありがとうっ!! あのね、あのね、詩亞、貴方に何かお礼がしたいな……」
「はあ!? お礼なんて……」
別に良いわ、むしゃくしゃしてただけだから――、そう、言おうとしたのに。
「あ、お礼が要らないなんて言わないでね? 詩亞が、すっごくすっごく怖いところ助けてくれたし、ぶちのめしてくれたし、これだけは要らないなんて言われてもお礼がしたいの。迷惑だって言われても絶対絶対、お礼するの……これは詩亞の中で決めた絶対的決定項目なの」
……息継ぎは一体何処でしてるのだろう、と思えるような言葉に都連は瞳を丸くし、言葉を無くした。
今まで周りにいる人物といえば静か、と言うか無駄な言葉をたたく者も無く、都連自身が何か言うまで黙っている者が多かったのに、何と言う違いだろう?
「仕方ないわね……其処まで言うなら付き合ってあげても良いわよ?」
「ホント!? 嬉しいな……じゃあ、早速♪」
掴んだ手を軸に詩亞は立ち上がり、ふわりと腕を都連の腕へ絡ませ歩き出した。
あまりに自然な動きに都連は気付く事も無かったが、こうして、歩くことがとても不思議で、優しく感じられた。
まるでお気に入りの毛布に包まっている時のようだ。
詩亞は楽しげに、街の事を解説して行き様々なものを見せたりする。その度、都連は「物知りね」と頷き、詩亞は「うん」とにっこり同じように頷く。
「詩亞、少しでも自分の住んでる街の事は良く知っておきたいの。保護者さんには心配されるんだけど…知らない方が不安でしょう?」
「そんなものかしら……都連は知らないことが多くても平気だけれど」
「自分の身にならなければ知らなくてもいいんじゃないのかな。ただ、知ってたらもっと楽しくなるよ。ほら、あそこが美味しいアイスクリーム屋さん…詩亞は暑いのに弱いから一年中やってくれてるお店があって助かってるの」
「お勧めは?」
「キャラメル系が美味しいよ♪ くどくなくて…あ、ちょっと待ってて! 買ってくるから!!」
「ちょっ……あああ……」
先ほどから本当に如何したと言うのだろう。
ペースが崩れっぱなしで、どうして良いか、全く解らない。
今も、息せき切って戻ってくる詩亞にどう言って良いか解らず差し出されたアイスを食べたりして……都連が持つ、言葉が彼女に効かないかのようだ。
かと言って、それが苦痛と言うわけでもない……
(不思議……)
学校では解らなかったことが、此処で起こってるという事に対しても。
「美味しいでしょ?」
「ん……これ、幾らしたの? 払うわ」
「え? 良いよ、そんなの……詩亞の心からのお礼だもの♪ お礼してくれるなら、それよりも名前で呼んで欲しいな。詩亞も都連ちゃんって呼ぶから」
「別に構わないけれど…じゃあ、詩亞?」
「うん、なあに都連ちゃん♪」
にこにこ笑う屈託のない笑顔。
可愛い雰囲気そのもので都連の顔に予想しえない表情が浮かんだ。
自然と口元が綻ぶのを止める事も出来ず、都連は穏やかに笑んでいた。
「わぁ……」
詩亞の見惚れた呟きが何を意味するかわからず、都連は微笑うばかり。
+
春の陽は落ちるのが遅い。
けれども、確実に陽は落ちていき――、歩いている事の時間が終わる事を誰の瞳にも明らかにしていく。
+
「ね、出会えた記念にプリクラ撮ろ♪」
「ぷりくら?」
「うん、会えた記念と今日の思い出に」
思い出に、と言われると、哀しさがこみ上げるかのようだ。
が、都連は表情を変えず、詩亞が歩くままに一緒に歩み、その「プリクラ」と言われるものを見た。
「……面白そう」
「仲良しの子と、撮りあったプリクラ交換したりするの。楽しいよ♪」
じゃあ、まずはフレーム決めよ♪
詩亞の言葉から、ふたりで、これは嫌だ、これは色が良いけど形が嫌い…等と言い合い、漸く好みのフレームが見つかり、機械へと笑いかける。
詩亞はにっこりと。
都連は何処か威圧感のある微笑。
それぞれ違う微笑を浮かべながら撮ったプリクラはタイミングも良かったのか良い仕上がりで。
その仕上がったものを見て、都連は照れと嬉しさとが入り混じった不思議な気分になった。
さっきから、いいや正確には詩亞と会ってから――少し、可笑しい。
いつもの自分とは違う。
こんな自分は知らなかった。
でも、じきに終わってしまう。
……胸がかきむしられるように、痛い。
詩亞は、そんな都連の心のうちなど知らず、嬉しそうに笑うばかり。
ふわふわとしたツインテールが喜びで揺れている。
「えへへ、嬉しいな……♪」
「都連も面白かったわ、これ」
「面白かったなら良かった♪ また、何処かで会えたら良いな……」
「縁があれば」
素直な言葉に返すのは短い言葉ばかり。
ああ、違う。こんな言葉が言いたいのではなくて。
「じゃ、またね♪」
「う、うん」
…良く後ろ髪を引かれるような、と言う言葉があるけれど今の都連の心境を語るならそれだ。
もう少し違う言葉を言えばよかった。
高圧的な言葉じゃなくて、もっと違う何かがあった筈なのに。
ふわふわ揺れるツインテールが、やがて見えなくなっていくのを確かめると、都連は一人、祖母の待つ家へと歩き出した。
+
「ああ、楽しかった♪」
凄く美人な子に助けてもらえて、一緒に歩いたり色々出来て楽しくて、詩亞は何度もプリクラを見直す。
あんなに大勢の人間に囲まれて、どうなってしまうのか、保護者の言うとおり、あまり出歩かずに居れば良かったのかもしれないと一瞬思ったが、やはり、こういう出会いは貴重だ。
先に何があるか解らない。
解らないからこそ飛び込んでみたくて経験してみたくて、時折、失敗もして。
だけど、きっと、失敗だけと言うわけでもなくて時には良い事もちゃんとあって。
だからこそ、何があっても出て行きたいと思ってしまう。
(都連ちゃん……また会えれば良いな)
物知りだと言ってくれて、嫌がらずに付き合ってくれた、助けてくれた人。
こんな人が友達になってくれたら、自慢して歩くのにな…と思った瞬間、詩亞はあることに気付いた。
それは、手に持つプリクラが、丸々、詩亞の手元にあると言うことだ。
「や…やだっ。詩亞ってば半分こするの忘れてる……!!」
追いつく、だろうか?
いいや、追いつかなくてはならないのだ。
これから先、会えるかどうかの保障さえもないのだから。
そうして、詩亞の走りから、少しばかり場所は変わる。
都連が歩いているのは、此処を抜ければ家へ着くと言う場所である住宅街。
住宅街、とは言え、この場所は特に住んでいる人も居らずモデルルームとして建てられた物件が並ぶばかりで、街灯さえも少ない。
チカチカと点滅する街灯が、煩わしく都連の視界を遮り始める。
「…ったく、もう……此処もいい加減買い取る人が増えたら、こんな街灯のままなんかじゃないのに……」
暗くなり、明るくなり、また、暗くなる。
響くのは都連の足跡と――、それから、獣を思わせる息遣い。
……獣?
此処は、住宅街だ。
獣など、居る筈もない。
だが、確かに聞こえる、この息遣いは。
視界が明るくなる。
都連の瞳が、獣と思われる何かを、正確に捉える。
「の……野良、サーバント……!?」
腰が抜ける。
駄目だ、逃げても走ろうとしても追いつかれてしまう。
その距離、ほんの僅か。
ナチュラルディスタンスと言われる不可侵の領域を破るかのごとく、サーバントが牙を剥き――、やばい!と感じた、その時。
ギシッ。
軋む音を立て、サーバントが、気絶した。
目の前にあるのは――、氷の壁。
都連はインプで、氷の壁を作ることなど出来ない。
だとしたら、これを作ったのは。
この能力がある、ウィンターフォークだけ……今日、出会った詩亞だけだ。
「……逃げて、都連ちゃん!!」
懸命の力で引っ張られ、都連も、詩亞も走る。走り抜ける。
元居た、街の方へと引き返しながら。
「……って、ちょっと待って、倒すんじゃないの!?」
「流石に其処までは無理だよぉ!」
逃げなきゃ。
逃げて、大丈夫なところまで、気絶したサーバントが諦めるくらいの時間まで。
ダッシュにダッシュを重ね、漸く大丈夫かと言うところまで着くと二人は肩で息をするのを何度となく、繰り返した。
息を吸って、吐いて、何度も、何度も。
「…ほ、本当に驚いたよ、都連ちゃん追いかけたら……サーバントが居るんだもん……っ」
「つ、都連だって吃驚したわよ、いきなり氷の壁が出てくるなんて……っ」
「だって危ないと思ったから……」
「あ……」
怒ってるわけじゃない、と手を振る。
流石にそう言う言葉はどう言って良いのか解らない。
だが、詩亞には伝わったのだろう、安心したように胸に手を当て、また呼吸を繰り返した。
「あのね、都連ちゃん……」
「何?」
「詩亞、忘れ物して……だから追いかけてきたの」
「忘れ物?」
「うん………これ。都連ちゃんに渡してなくて、だから」
そして詩亞は忘れていたプリクラの半分を都連へと渡す。
「…これだけのために、来たの?」
「うん」
(どうしよう……)
何だか、凄く。
どうしようもないほどに凄く。
(嬉しい、かもしれない)
息を整える時でなければ飛び跳ねていたかもしれなくて。
都連は渾身の想いを込め、詩亞へと向き合うと、
「……つ、都連の友達にしてあげてもいいわよ」
と、言い、「どうなの?」と聞き返した。
答えは……聞かなくてもわかる、詩亞の微笑が何よりも雄弁に語っているのだが。
だが、それでも答えが欲しいだろう都連のため、詩亞もお礼の言葉を口にする。
嬉しくて嬉しくてどうしようもないのは、詩亞も同じなのだ。
「ありがと、都連ちゃん♪ 詩亞もお友達になりたいって思ってたの……」
「なら、良いわ。じゃあ、そろそろ帰ろうかしら…遠回りして」
「あ、じゃあ途中まで、一緒に行こ♪ また何かあったら心配」
「そう、ね……都連も心配だわ。また男に詩亞が絡まれると思うと」
「もう!」
あははっ。
お互い、笑いあいながら、手を繋ぐと仲良く帰途を辿った。
二人の背を送るように、明るい街灯が道を照らしている。
―End.
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