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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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緋想 その一歩
「………」
朝の日の光に照らされた部屋。小鳥の囀り、木々のざわめきが聞こえる。
そんな部屋の中に静かに座る女性がいる。
栗色に輝く柔らかそうな長い髪、透き通るような白い肌、褐色の落ち着きを内包した瞳。
お淑やかな雰囲気を持った女性 雁田・霧である。
霧は今日好きな人に自分の気持ちを伝えようとしていた。
その恋は初恋。
過去、霧が魔皇として覚醒して、そして産まれて初めて人を殺めた。
自分が人を殺めることなど考えてもいなかった。それでも霧は人を殺めた。たとえしかたのないことであっても…
そのことを後悔し、塞ぎ込んでいた時、霧を励まし立ち直らせてくれた人。
それが霧の初恋の相手。
「健二さん…」
霧は好きな人の名を呟くように口にする。
好きになってから4年がたっただろうか。
4年という時間は長かっただろうか?短かっただろうか?
4年という時間気持ちを伝えられなかったのにはわけがあった。
相手には、健二には霧が恋したときに既に恋人がいたのだ。
霧は波風を立てたくなかった。健二に迷惑がかかると思い気持ちを伝えずにずっとしまいこんでいた。
健二が結婚するときも
神魔戦争の最終決戦の時も
それから…3年が経っても
一歩も先へ進まない霧に、霧の気持ちを知っている友人たちは『自分の気持ちだけでも伝えたら?』と勧めた。
それでも霧は『今更、ですから…』と断った。
しかし、ここにきて燻り続けていた気持ちを抑える事が出来なくなっていた。
そしてとうとう告白することを決めたのだ。
ずっと好きだった人への4年越しの告白を…
* * *
霧は外で健二を待った。
健二が日課で午後から八代神社の裏山を散歩するということを知っていたのでそのときに、と思って待っているのだ。
しばらく待っていると健二が出てきた。
霧は咄嗟に木の陰に隠れてしまった。
『わたくし、何…隠れてしまってるんでしょう……』
そっと覗くとどうやら健二は一人のようだ。
霧にとってはチャンスということになる。
『…っ』
知らず知らずに隠れた木に添えた手に力が入った。
木の陰から出ていき、それとなく挨拶をし、さりげなく一緒していいか聞くだけ。
それだけ たったそれだけのこと。
でも、それだけのことが霧にはできなかった。
しかしできない、ではダメなのだ。そう考え隠していた身体を出し、声をかけようと――
「なにしてんの?」
いつの間に近くまで来ていたのか、健二が声をかけてきた。
「っ!? あ、いえ…」
驚いた霧は散歩という言葉も口にできなかった。
「ふ〜ん。あのさ」
「はい?」
「オレ、今から散歩行くんだけど一緒に行く?」
…誘う前に誘われてしまった。
話は進むのだからいいことなのであろうが霧は少し複雑だった。
「では…ご一緒させてもらいます」
丁寧にお辞儀をし、健二の横に並んだ。
「じゃ、行こう」
健二が歩き出す。霧もそれに伴って歩き出した。
「―――――でさ〜」
隣で健二が話している。
霧はソレをほとんど聞けていない。
「――てる? 聞いてる?」
「…ぇ?」
「大丈夫?」
聞こえていなかったことを心配した健二が聞いてきた。
「だ、大丈夫ですっ」
少し慌て気味に即答した。
少し深呼吸をし、霧は健二を見た。
会話が途切れた今なら声もかけやすかった。
「…あ、あの」
「何?」
「そ、その… 風が気持ちいいですね…」
しかし言えなかった。
「そうだね〜」
木々の間から空を見上げ風を感じながら健二が答える。
霧にはこの風のようにさらっと告白の言葉を言うことができなかった。
それからだいぶ歩いた。
その間霧は何度か告白をしようとしたが、いずれも言えなかった。
川を上った先にある湖でも、その先の滝でも。
鳥の声、水の音、動物のこと、そんなことを言っては肝心なことは何一つ言えてなかった。
霧は改めて健二を見た。
吸い寄せられるように横顔を見つめる。
『…健二さん』
霧の初恋の人。山崎健二。
普段はチャランポランしていてお調子者。
楽しいことが好きで、仲間とワイワイやっているのが好きな人。
押しに弱くて女性関係が大変なところもあるけれど…
困っている人が放って置けなかったり、戦うときはクールだったり。
そんな人。
霧の好きな人はそんな人。
彼は覚えていないかもしれない。
わたくしとの出来事を。
彼にとってたとえそれが些細な事でも、わたくしにとってはとても大事なこと。大切な思い出…
鼻緒を直していただいたあのときも。
彼は覚えていないかもしれない。
もしかしたら出会ったときに言っていただいた言葉さえも。
それでも…彼は…健二さんは健二さんだから。
だからわたくしは…
霧が健二の横顔を見つめていると急に姿勢が崩れた。
「ぁっ!?」
足元に注意が行かず躓いてしまった。
「っと」
すかさず伸びてきた腕に抱きとめられる。
「大丈夫?」
健二が優しく聞いてくる。
「だっ、大丈夫です…」
霧は慌てて健二の腕の中から抜け出し、頬を真っ赤にする。
そんな霧を見た健二は
「良い所知ってるんだ」
突然そう言うと霧の手を引っ張り、歩き出す。
「ぇっ?」
手を引かれながら歩く。
先ほどの抱きとめられたこともあって霧は妙な期待をしだした。
そのまま二人は洞穴の中へと足を踏み入れる。
ひんやりとした空気が霧の頬を撫でる。
そして洞穴を抜けた先の風景に霧は心を奪われる。
それは今にも山間に沈んでゆこうとする夕日だった。
沈み行く夕日は山を、二人を紅く染めていた。
夕日を見ながらその場に座る健二の横に霧も座る。
そして霧はもう一度健二を見、夕日に視線を戻して言うべき言葉を思い浮かべた。
最後のチャンス。
そんな言葉が頭をよぎる。
ならば言わなければならない。今日一日まったく言えなかった言葉を。
4年間の想いを。
霧は健二へ想いを伝えるために口を開く――
「この場所、あいつに教えてもらった場所でさ」
霧が言葉を紡ぐより早く健二が言った。
嬉しそうに。
この場所を教えてくれた妻のことを考えているのだろうか。
霧は出掛かった言葉を飲み込んだ…
夕日が沈む。
霧は立ち上がると健二のほうを見ずに言った。
「少し寒くなってきましたので先に帰りますね… 今日はありがとうございました」
そう言うと何か言おうとしている健二から逃げるように歩き出した。
洞穴に風が強く吹く…
* * *
霧は一人静かな部屋にいた。
何を想っているのかはわからない。
わかっていることは霧が一歩先へ踏み出す為には…まだ時間が必要だった。
<END>
――――――――――
こんにちは、閃悟でございます。発注ありがとうございました。
話は霧さん主体にしてみました。そのほうが思い浮かべやすいかと思いまして。
お気に召していただければ幸いです。
二人の口調等間違っておりましたら申し訳ございません;
これが初依頼になりますが、楽しみながら書くことができましたw
今回は本当にありがとうございました。
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