<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


 晴れた日は、君と手を繋いで




 それはカラッとよく晴れたある日のこと。
 こんな気持ちの良い天気なのだから家に籠もっていてはもったいない、外に出なければ損だろう。
 どうせ出掛けるなら1人より2人で……
 というわけで、ハーニーは弥生の家を訪ねていた。
「おう、弥生。今日暇か? 暇ならデートしよう、デート」
 にこにことご機嫌のハーニーに対し、弥生は仏頂面で素っ気なく返す。
「暇じゃない」
「いや、そんなことないって」
「何で貴様が決めるんだ! 暇じゃないって言ってるだろ?!」
「じゃあ、いま何してたんだ?」
「そ、それは……」
「ほら、暇なんだろ。行こう行こう!」
 なかなか素直に頷こうとしない弥生だが、ハーニーはそんな彼女の手を強引に引っ張り、連れ出し……と言うか拉致した。
「な、何をする?!」
 真っ赤になって憤慨する弥生だが、ハーニーは相変わらず笑顔。
「はっはっは、そんな照れんでも良いって」
「照れてない!」
 とまあ、そんなやり取りを交わしつつ、2人は仲良く(?)街へと向かうのだった。


 * * *


 手を繋ぎ、あちこち店を見て歩く2人。
 ハーニーは洋服屋や小物屋などを見て回り、「これが可愛い」などと言っては弥生に勧めている。弥生は相変わらずむすっとそっぽを向いてばかりいるが、それはまあご愛嬌だ。まあ、本当に嫌なら手を振りほどいてでも逃走するだろうし、「嫌よ嫌よも」……といったところだろうか。
「これなんか、弥生に似合いそうだが……どうだ? つけてみないか?」
 こう言ってハーニーが手に取ったのは、銀のペンダント。余計な装飾がなくシンプルな作りだが、ちょこんと付いた花の形をした石が可愛らしい。
「……まあ、少しだけなら」
 ペンダントを受け取って、弥生は軽く首元に当ててみる。
 鮮やかな赤い石が漆黒の髪と目に映えて綺麗だが、弥生は言葉通り、ほんの少し当ててみただけですぐにペンダントを外してしまった。
 けれどもハーニーはそれが気に入ったようで、店内用の買い物トレイにペンダントを乗せてレジまで持っていく。
「ちょっと待て、それ、買うのか?」
 少し慌てたように弥生が呼び止めるが、ハーニーは気にしない。
「だって、これが一番似合ってたし」
「でも、私は……」
 なおも言い募ろうとする弥生だが、ハーニーはそれ以上言わせようとはしなかった。
「俺が買いたくて買うんだからいいんだよ」
「……なら勝手にしろ」
 こう言って視線を逸らしつつ、少し照れている弥生であった。


 * * *


 場所は変わり、今度は雑貨屋。
 ティーセットや写真立て、クッション、お風呂用品などなど色々な商品が並んでいるが、その中から「あるもの」を目ざとく発見し、弥生はにやりと笑う。
「これ、ハーニーにそっくりだな」
「え?」
 弥生が指しているのは埴輪のぬいぐるみだった。
 シリーズものなのだろうか、大中小それぞれサイズが揃えられており、他にもキーホルダーやストラップなど色々なグッズがある。
 ちなみに名前は「はにー君」。余談だが同シリーズで、馬の埴輪を模した「うまべえ」というのもある。
「この間の抜けた顔、ハーニーそのものじゃないか。それに色も髪の色と同じだし」
「確かに可愛いけど、俺のほうが美男子だぞ?」
「勝手に言ってろ」
 と言いながらも、弥生ははにー君のキーホルダーを手に取り、レジに持って行く。
「弥生……それ気に入ったのか?」
「いや、ハーニーが付けたら似合うだろうなと思ってな。私が買いたくて買うのだから、気にするな」
 さっきのお返しとばかりの台詞に、ハーニーは思わず苦笑を零す。
「ちゃんと付けるんだぞ」
 こう言ってハーニーの手にキーホルダーの包みを押し付ける弥生は、少し照れているようだ。
 埴輪だろうが何だろうが、弥生からのプレゼントであることに変わりはない。ハーニーはありがたくそれを受け取って、さっそく鞄に付けてみた。
「……ぷっ」
 ゆらゆらと揺れるはにー君を見て、思わず吹き出す弥生。
 嬉しいような切ないような、複雑な気分のハーニー。
 きっとこれも愛の試練というものに違いない。


 * * *


 やがてすっかり日も暮れ、2人は夜景の見えるレストランで夕食と洒落込むことにした。
「まあ、お約束の場所だけどねぃ」
 というハーニーの言葉通り、周りの客はほとんどカップルばかり。まさに定番のデートスポットといった感じだ。
 弥生は周囲を見回して、店内に漂う甘い雰囲気に思わず圧され気味の様子。
「……別にこういう店が好きなわけじゃないが……まあ、夜景は綺麗だな」
「ああ。弥生のほうが綺麗だけどな」
 ハーニーがあまりにさらっと言ってのけたので、弥生は一瞬理解できず、反応がワンテンポ遅れてしまった。
「よ、よくもまあそういう台詞を現実に言えるものだな! 恥ずかしくないのか?」
「でも実際そう思うし……せっかく2人でいるんだし」
「……ばか」
 弥生はぼそっと呟き、またそっぽを向いてしまった。
 こちらを向いてくれないのはつまらないけれど、そんなふうに照れている様子も可愛い……などと思いつつ、弥生の横顔を見つめて微笑むハーニー。
 その視線に気付いたのか、弥生はますます照れた様子で顔を背けてしまう。
「そっち向いてたら、食べにくくないか?」
「うるさい! 貴様の顔なんぞ見ながら食事ができるか!」
 とまあ、食事の間じゅうこんな調子だったので、せっかくの洒落たレストランも形無しだったが……
 これはこれでまた「2人らしい」と言えばらしいのかもしれない。


 * * *


 食事も終え、ハーニーは弥生を家まで送り届けていた。
 楽しい時間が終わるのはあっという間で、楽しかったぶんだけ別れの時は寂しい。
「またデートしような」
「ふんっ」
 弥生は答えずにまたそっぽを向いてしまったが、ハーニーはそれでも満ち足りた笑顔で続けた。
「今日みたいに晴れた日は、またこんなふうに手繋いでさ。雨が降ったら一緒に傘させばいいし、雪の日は長靴はいて歩こう」
「長靴でデートか? 色気もクソもないな」
「お、やっぱ色気はあったほうがいいか?」
「そういう意味じゃない!」
 怒ったようにすたすたと先に歩いていく弥生を、ハーニーは軽く引き留める。
 そして、唇に触れるだけのキスをひとつ。
「ん……何があっても、俺はお前のこと愛してるからな」
 こう言ってぽむぽむと頭を撫でるハーニーを、弥生はしばらく呆然と眺めていたが……やがて我に返って大声で怒鳴った。
「ばっ……ばかかお前はぁっ!」
「あはは、またな!」
 真っ赤になって拳を振り回す弥生の元から、ひらりと逃げるように立ち去るハーニー。
 その鞄に揺れるはにー君を見て、弥生は拳を下ろし、軽く息をついた。
「……ばか」
 本日3度目のその言葉。
 けれども、そう呟いた弥生の口元には、ほんの少しだけ微笑みが浮かんでいた。

















 −fin−