<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


夏の動物園

 とある晴天の休日。なりたてほやほやらぶらぶカップル、陣内晶とスノーホワイトは、動物園へやってきていた。
 候補地としてあげられていた数々のデート先からこの動物園が選ばれた理由は、単純だ。
 ある日一緒にテレビを見ていた時、なんとなくつけていたバラエティー番組でこの動物園が紹介されていたのだ。
「可愛い動物さん、いっぱいいるといいですね〜」
 きらきらと瞳を輝かせて微笑むスノーホワイトの隣を歩きながら、晶はのんびりと穏やかに笑う。
「うん、いっぱいいるよ。スノーちんは何が見たい?」
 二人の間に漂う空気は一言でいえばピンク色の雲。
 そこで夕焼けのロマンチックな雲などを連想してはいけない。ピンクはピンクでも、青空にぽっかりと浮かんでのんびり風に吹かれて進んで行く真っ白な雲に色がついた感じだ。
 もっとわかりやすく言うと。
 見てるほうがじれったくなるくらいのほのぼのおのんきで、見てるほうが恥ずかしくなるくらいのいちゃいちゃぶり。
 本人たちはまったく気にしていないのだが、第三者から見れば目の毒、見事なまでのはた迷惑っぷりだった。
「え〜とですね〜。……ペンギンと〜、ん〜……アザラシと〜……えーっと……」
 ちなみに今スノーホワイトがあげたのは、テレビで紹介されていた動物である。
 二人ともこれといったやりたいことがあるわけではなく、なんとなくテレビを見ててなんとなく面白そうだねという流れになっただけだ。
「それじゃ、ペンギンとアザラシを見て、その後はその後考える?」
「そうですねぇ。晶さんと一緒だったらどこだって楽しいですから〜」
 にこにこと。二人は笑顔で視線を交わし、そこからまたもほのぼのとした恋人モードな雰囲気が放たれる。
 周囲を歩いて人たちは思わず顔を赤くして、目を逸らしてスタスタと早足に通りすぎていったが。二人の世界に入り込んでしまっているスノーホワイトと晶はやっぱり、周囲のその様子にはまったく気付いていないのだった。



 まず最初にやってきたのはペンギンのブースであった。たくさんのペンギンたちがひょこひょこと歩く姿はとても可愛らしい。
 しかも、ここの動物園にはつい最近、赤ちゃんペンギンが生まれていた。
「あ〜、いました〜!」
 ろくに調べもせずに来たが、二人は幸運に恵まれていたらしい。いつもは飼育舎に入っている赤ちゃんペンギンが、ちょうど表に出てきたところに遭遇した。
「おお、可愛い可愛い」
 言いつつ、晶が手にしているのは何故か鏡。
 気付いたスノーホワイトは、きょとんと首を傾げて晶を見つめた。その視線を受けて晶は悪戯っぽく笑い、手もとの鏡をちらと動かす。
 鏡の反射を受けて太陽の光は集い、ペンギンの群を照らした。突然降ってきた光に、ペンギンたちは戸惑ったようにきょろきょろと視線を動かす。
「うわあ。晶さん、すごい。可愛い〜!」
 ちょっと可哀相かもしれないけれど。不思議そうに辺りを見まわすペンギンの様子は本当に、可愛いものだった。
 しばらくペンギンのところで留まって、それからシロクマのほうへと向かうことにした。
 途中、どってと地面に寝転がり、気持ち良さそうにひなたぼっこをしているアザラシを見つけたり。歩きながらいろいろな動物を見、そのたびに二人は楽しく笑いあって言葉を交し合って。そしてそのたびに、辺りの人を赤面させていた。
 あんたら羞恥心というものはないのか、と誰もが突っ込みたくなるようないちゃつき具合だったが、当人たちはまったく気にしていなかった。……もしかしたら、自覚がないだけかもしれない。



「わぁっ、大きいですね〜」
 ペンギンのところと同じく全体的に白っぽい内装だが、大きさはペンギンのところの比ではない。身体の大きさが違うのだから当たり前だが。
 と、その時。
「スノーちん!」
「え?」
 ばっちゃん、と。ひなたぼっこをしていたシロクマが、大きな水音を立てて水のな化へと大分した。
「きゃあっ」
 晶は急いでスノーホワイトを庇おうとしたが、少しばっかり遅かった。
「あーあ、びしょぬれになっちゃったね」
「今日は暑いですしぃ。このくらいでちょうど良いかもしれません〜」
「そうだね。この天気ならすぐ乾くかな」
 見上げれば空はどこまでも青く、陽射しは眩しい。
「じゃ、このまま行こっか」
 あははと笑った晶に、スノーホワイトは嬉しそうに頷いて。二人はまた歩き出す。
 目に付くところを片っ端から見てまわって、もうすぐお昼というところで二人が見つけたのは触れ合いスペースと言うやつだった。
 広場を綺麗な柵が囲い、その中では犬や猫、うさぎなんかの可愛らしい小動物たちが寛いでいた。
「晶さん、ちょっと行ってみたいですぅ」
 くいと晶の服の裾を引いて、スノーホワイトがふんわりと楽しげに笑った。
「うん、僕も気になってたんだ。楽しそうだよね」
 晶がそっと手を伸ばせば、スノーホワイトは嬉しそうにその手をとって、二人は並んで歩き出す。
 柵の中にいる小動物たちは人懐こいのが多いようで、人が寄っても逃げる様子はなく、むしろ皆すすんで寄って来てくれた。
 ちょうどスノーホワイトの足に擦り寄ってきた猫の傍にしゃがみこみ、早速その猫の柔らかい毛並みに手を伸ばす。
「ふわふわ〜。晶さんも触ってみてください〜」
「あはは。本当だね。すごく手触りが良くて気持ちいい」
 猫の方も気持ちが良いのか、ゴロゴロと喉を鳴らしただけでなく、ころんっと転がって二人に腹まで見せてくれた。
 無防備な猫の姿に二人はしばし顔を見合わせて、それから、笑みが零れる。
 せっかくなのでお腹も、肉球なんかも触らせてもらって思いっきり癒された頃。
 ググウ、と晶の腹がなった。
「私、お弁当作ってきたんです。その辺で食べましょう〜」
「やたっ。スノーちんの料理はすっごく美味しいから大好きだ〜!」
 言葉だけでは足らず、勢いにのって抱きついた晶に、スノーホワイトは一瞬驚いた顔をしたけれど。
 次の瞬間にはにこにこと嬉しそうに笑って、そっと抱き返して、近くのベンチに目をやった。


 その日、それから。
 仲良くお弁当を食べた二人は、家に帰るまでの間、ずっと腕を組んで歩いていた。
「またデートに行こうね、ハニー」
 スノーホワイトの家の前での別れ際。告げて優しいキスを送った晶に応え、スノーホワイトはほっと嬉しそうに笑って頷いた。