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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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【強き力――災厄の砲火の軌跡】
「あそこか‥‥」
突風に長い銀髪を躍らせる中、シャルト・バルディウスは青い大きな瞳を一点に絞った。青年の腰からしなやかな細い腕が放れ、暖かい感触は片方の脇腹と背中だけとなると、絞り出すような少女の声が飛び込む。普段は澄みきった美声も悲鳴に近い。
「は、はい! 渡された地図だと間違いありません!」
再び回される暖かい手の温もりに、ぎゅッ☆ と力が入った。きっと少女は漆黒のセミロングヘアを風に舞い躍らせ、瞳を閉じているに違いない。シャルトは色白の顔を前に向けたまま、逢魔・コバルトブルーへと声を掛ける。
「どうした? 美海、怖いのか?」
「へ、平気です! ちょっと風がキツイだけですから!」
――そればかりではないだろう。
ここはデモンズゲート。
倒壊した建造物が至るところに覗え、彼方此方に銃創やガラスの破片が散乱していた。偶に人を見掛けるものの、殴り合っていたり、ダークフォース(DF)を放っていたりと物騒極まりない。耳を澄ませば銃声や爆音が聞えて来る。油断すれば何時魔弾が襲うやもしれない正に無法地帯と呼ぶに相応しい町だ。危険な匂いに怯える気持ちも分からなくはない。
「‥‥美海、飛ばすぞ! 一気に抜ける!」
「えっ? は、はい!」
粉塵を巻き上げ、二人を乗せたコアヴィークルが駆け抜けて行く。疾走する浮遊バイクの先に映るは一棟の工場跡のような建造物だ。
廃墟が周囲を包む中、洋館がひっそりと浮かんでいた――――。
●新たなる力――イレーザーナイツ
「ここがイレーザーナイツ殲騎の格納庫か」
「スゴイですね」
シャルトとコバルトブルーが工場跡に入ると、そこには数体の殲騎が設備の中で立ち並んでいた。休み無くリフターが駆動音を響かせ、技術者と思しき魔に属する者や神に属する者、人間が行き交う中、約8mの巨人へと武装や装甲が接合されてゆく。銀髪の青年は少年のような表情を浮かべ、改造される機体を歩きながら眺めているが、後を付いて来る少女は、肩で揃えられた髪を左右に揺らし、大きな漆黒の瞳は興味深げに辺りをキョロキョロと見渡していた。ふと、視線が止まる。
「誰か近付いて来ますよ?」
「お偉いさんだろ?」
二人の若者は立ち止まり、イレーザーナイツの制服を纏っている女を迎える。眼鏡を掛けた神経質そうな雰囲気に、コバルトブルーはシャルトの影から上目遣いで覗った。
「シャルト様、イレーザーナイツ入隊の許可は確認しました。早速ですが、殲騎を召喚して下さい。イレーザーナイツ仕様に改造させて頂きます。よろしいですね?」
「ああ、その為に来たんだ。美海」
「あ、はい!」
美海と呼ばれたコバルトブルーは瞳を閉じると、身体全体を水玉が粒子の如く舞い、未だあどけなさの残る風貌に、魚のヒレのような形の耳がヒョコンと覗く。白いヒレに青いラインが熱帯魚のようで美しく可愛らしい。少女が逢魔・セイレーンとなった姿である。
「殲騎カラミティ召喚!」「はい!」
二人を乗せたコアヴィークルを中心に、幾つものパーツが形成され、形作られた巨人は、紫に黒いラインの描かれたガンスリンガータイプの殲騎だ。
『直ぐ後ろのハンガーに背中を固定させて下さい』
「了解した」
機体を数歩後退させると、背後のハンガーに固定され、左右からリフターの装備された設備がカラミティを囲み、改造が始まった。
青い瞳に映る光景が、漆黒に彩られた装甲や、武装を接合させてゆく中、シャルトは少年の面影を残す端整な風貌を僅かに歪める。
――もう一度言っておくぞ、小僧。
これ以上過を求めるな。それがお前のためだ――――。
脳裏に浮かぶは、無機質な仮面に覆われた冷酷な瞳と、冷淡で傲慢で高圧的な低い声だ。
――過去を求めるなとは、どういう事なんだ!!
「あの‥‥」
ふと言い難そうに口を開くコバルトブルー。青年は端整な風貌をタンデムシートの少女へと向ける。銀の長髪から覗く右の瞳は穏やかだが、何処か冷たい。
「どうした? 美海」
「‥‥本当にイレーザーナイツに、入隊するのですか?」
口元に柔らかく固めた手を当て、僅かに首を竦める少女の瞳は、躊躇いと不安が色濃く浮かんでいた。
「‥‥いやなのか?」
「い、いいえ! そんなんじゃ、ないんですけど‥‥」
パタパタと両手を振るコバルトブルー。
――いやじゃないけど‥‥。
このまま戦いに身を投じて行く魔皇に胸騒ぎを覚えたのだ。
再びコックピットを静寂が包み込む中、改造は続けられてゆく。追加装甲が施され、背部にゼカリアの接近戦用バックパック、両腕にシャイニングフォース(SF)を付与された円形盾、左右腰部には、全長4mのゼカリア用アサルトライフルが接合される。
――いやじゃないけど、あの事なら忘れて欲しい‥‥。
少女はモニターに映り込む青年の顰めた顔を、見つめる事しか出来なかった。
●災厄の砲火
――警報が鳴り響いたのは改造を完了させて間も無くの事だった。
『ポイントE区域でテロリストと思われる殲騎の破壊活動を確認。イレーザーナイツは出撃準備して下さい!』
「行くぞ、美海!」
「えっ? でも、出撃命令は下りて‥‥あ、待って下さい!」
殲騎の外部ハッチに身を滑り込ませる魔皇を追い、慌ててコバルトブルーも追い掛け、タンデムシートに収まる。既にコックピットには新たな装備が設置されており、若干の違和感を覚えた。そんな中、前のシートでは、シャルトが入念なチェック中だ。
「これがSF発動レバーか。武装コントロールユニット確認、予備弾倉ラック確認、よし、注文通りだな。シャルト・バルディウス、出るぞ!」
『待ちなさい! あなたの機体は改造したばかりです。それに部隊の編成だって済ませていないわ!』
通信機から飛び出す慌てた女の声に、青年は不敵な笑みを浮かべる。
「試運転には悪くないぜ! いいな、美海!」
「えっ? はい!」
グッと腰を落とし、上半身を前に傾けると、殲騎カラミティは紫色の粒子を舞い散らせながら、一気に飛翔して格納庫を飛び出した。
「そろそろポイントE区域だな。美海! 何か捉えたか?」
「いえ、未だです。‥‥あの、本当に出撃して良かったのですか? 後で叱られたら」
眉をハの字に浮かべた不安そうな少女の顔が、視界に反射して映り込む。シャルトは瞳を研ぎ澄ますと、軽く舌打ち、大声を響かせた。
「制御に集中しろッ! 敵は同じ殲騎なんだぞ!」
「ご、ごめんなさい! ‥‥あ、敵機確認しました! 数は‥‥10騎!? シャルトさんッ、やっぱり」
戦闘に入ると魔皇は豹変する。まるで逢魔を制御ユニットの一つでもあるかのように扱い、口調も普段よりも荒い。そんな彼に慣れて来たとはいえ、やはり寂しく何処か哀しい胸の痛みを感じた。
「10騎か‥‥悪くない数だぜ!」
モニターに映し出されたのは、居住区らしい建造物と人影だ。10機の殲騎はDFや魔皇殻を放ち、爆炎を周囲に描いていた。
「敵騎はそれぞれ5色が2騎ずつです!」
「好き放題やりやがって! そんなに暴れたいのかよッ!」
眼下に映る敵影に次々とロックオンマーカーが重なってゆく中、カラミティは腰の両脇に装備されたアサルトライフルと両肩の真ジェミニキャノン、そして腕に構えた真フォースバズーカを一斉に放つ。上空からの強襲に慌てたのは10機の殲騎だ。既に銃弾と光弾の洗礼に、数騎は沈黙していた。
<この装甲に刻まれた印はイレーザーナイツか!?>
<怯むな! 敵は一騎だ!>
<面白れい、返り討ちにしてやるぜ!>
次々に魔皇殻を撃って来る敵機。カラミティは機体を捻りながら放たれた銃弾やミサイルを躱してゆく。
「マルチプルミサイル来ます! 敵二騎にバスターライフル確認しました!」
敵のタイプや武装を告げたコバルトブルーは、静かに両手を胸元で組むと、清涼感を漂わす美声を響かせる。セイレーンの歌声にカラミティは呼応し、敵の銃弾命中率を落とし、シャルトの士気を向上させた。耳に流れる歌を聞きながら、青年は不敵に微笑む。
「素人が! 動きが硬いぜ! コアギュレイト!!」
魔弾を丸いシールドで弾き、カラミティが掌を翳すと、敵機は動きを止め、そのままアサルトライフルの洗礼を浴びせ捲った。機体が銃弾に踊り続けた後、沈黙する。その脇を擦り抜け、バックパックから8m近くもある刃を構えると、うろたえる敵機へと肉迫! 斬光を真横に疾らせ、真っ二つに切り伏せた。ギラリとカラミティの頭部で閃光が浮かぶ。
「フォーリサイト!」
シャルトがレバーを叩き込むと、システムに同調し、青年の額に光の閃光が迸った。冷静の研ぎ澄ます青い瞳の中、迫る敵機の攻撃を読み取ると、次のレバーを叩き込んだ。
「シャイニングショット!」
指先から眩い閃光が放たれ、敵機の装甲を貫く。間髪与えず、旋回しながらカラミティは対神魔弾を叩き込み、遂に8mの巨人は崩れた。
――スゴイぜ! これがイレーザーナイツの力かよ!
「次はどいつだ!」
笑みを浮かべてモニターを睨み付けるシャルトは興奮していた。青い瞳をギラつかせ、呼吸はヤケに荒い。
「一騎たりとも逃がしはしねぇぜッ!!」
瞳を見開くと、青年は照準を重ね、トリガーを絞り捲った。
銃弾にテロリスト殲騎が沈黙する中、通信が飛び込む。
『なんだこれは? おまえが全て倒したのか? おい、応答しろ』
レーダーに映るは味方機の小隊だ。コバルトブルーは慌てて通信に応える。
「は、はい! 敵騎は全滅しました! 被害は‥‥最小限に抑えました‥‥つもりです」
『そうか‥‥ご苦労だった。直ちに帰還しろ。後の処理は別の班が遂行する』
「‥‥はい、了解、です」
少女が不安気に青年の背中を見つめる。シャルトは肩を小刻みに震わせ、俯いていたのだ。押し殺しているのは笑い。
「美海、見たかよ? このパワーだぜ。俺が欲しかった力だ!」
額に掌を当て、未だギラギラとした眼光で笑う青年に、コバルトブルーは、例えようの無い不安に胸を痛めた。
――数日後。
シャルトとコバルトブルーが通路を歩く中、魔皇の青年を見つめる周囲の視線が熱かった。或る者は畏怖と尊敬の眼差しを向け、或る者は妬みをオブラートに包む視線を流す。
「あ、あのひと(女)は‥‥」
二人の先に一人の女が立ち塞がった。
「調子はどうかしら?」
「ああ、悪くない。次の任務は何処だ?」
女は瞳を細めて見せる。
「さすがは『災厄の砲火』の異名を取る魔皇様ね。偶には戦いを忘れて逢魔と寛いだら?」
視線を流され、コバルトブルーは慌てて視線を逸らし、俯く。少女の耳に青年の声が流れた。
「‥‥今は、そんな気分じゃない。行くぞ、美海」
「‥‥は、はい。失礼します」
青年の後を付いて行く小柄な少女。女は振り返り、二人に視線を流す。
――‥‥不憫ね。彼は何を渇望しているのかしら?
こうして、あの戦いの後、シャルトは『災厄の砲火』と呼ばれ、テロリストに恐れられる存在となったのである――――。
<ライター通信>
この度は発注ありがとうございました☆
はじめまして♪ 切磋巧実です。
謝る必要はありませんが、他のライターさんのノベル参照物は、多少不安が過ぎったりします。ともあれ、お目に留めて頂き、ありがとうございます。
さて、いかがでしたでしょうか? 力を手に入れた青年は何を渇望するのか? 少女の不安は更に色濃く胸を打つのか? 戦闘時はハイテンションに豹変するとの事でしたので、あんな感じに演出させて頂きました。ちょっと冷た過ぎる感じの彼ですが、不安感を煽る為に。それでも台詞の端々に、必ず名前を呼んだり、魔軍本部を訪れる際の確認など、彼なりの思い遣り(?)を表現したつもりです。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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