<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


二人の違い

メビオス零




 デモンズゲート。破壊衝動を抑えられない魔皇達の破壊活動によって、廃墟と瓦礫の群れとなっている町……
 そんな廃墟群の一角にある大きな倉庫……元々は造船所だったらしい、いかにも“その筋”の方々が使っていそうな倉庫内で、とある組織から依頼を受けて、召集されたテロリスト達が集まっていた。数十人にも及ぶテロリスト達は、それぞれが魔皇殻で武装し、思い思いの格好で倉庫内に散らばっている。
 多くの者はミリタリー物の軍服を着て、いかにも兵士っぽく………
 これまたある者は全身漆黒の服に身を包んで、いかにも殺し屋っぽく………
 ………趣味に走りたがるのも解るのだが、似たような事を考える者が続出していて、これでは出来の悪い仮装パーティーだ。もしここにGDHPが突入してきても、「サバゲーの打ち合わせ」で済んでしまうのではないだろうか………?

(………馬鹿しかいないのか)

 大きな地図が広げられている円卓に座りながら、山吹・レイカは黙ってその場の者達を眺めていた。同じ円卓には十数人もの中年の魔皇達が座り議論をしている。
 現在はテロ計画のための打ち合わせ中なのだが、どうも身が入らない。運び込まれた円卓に座っている他の者達は、「ここを攻撃しよう」やら「あっちで陽動をしよう」とか、てきぱきと役割を決めていた。一緒に円卓に座っているレイカには目もくれない。
 自身達をベテランだと自負しているため、まだ年若いレイカをどうでも良いと思っているのか………控えめに見ても、舐められているのが手に取るように解った。

(うぜぇ………さっさと終わらねぇかな……)

 心の中でだけ愚痴ってやる。本心では、こんな作戦会議を開くよりも、さっさと突入して大暴れしたいのだ。破壊衝動が云々ではなく、自分の意志で、神に仕えている者達を狩り取ってやりたい……
 もっとも、その願いは暫く叶えられそうにはなかったが………
 レイカはチラリと壁、出入り口、そしてちょうど二階に相当する部分のデッキにある窓と、順番に目を向けた。特に変わった事もないが、二度の神魔大戦を駆け抜け、それからもずっと戦いに身を置いていたレイカの“勘”が、けたたましい音を立てて警告してくる……

「…………」

 黙って席を立つレイカ。会議を進行させていた者達の内数人がそれに気が付いていたが、誰もレイカを止めようとはせず、またレイカの行動に疑問を持つ事もしなかった。今まで黙っていたレイカだ。他のテロリスト達は、どうせ会議に飽きたんだろうと、見送る事もせずに会議を続けている。
 滑稽で哀れだったが、レイカは警告する事もなく、静かに魔皇殻を召還した………





◆◆◆◆


 倉庫の外。周りを取り囲んで見張っていた数名の魔皇達を音もなく片付けると、一斉に倉庫の周りをデビルズゲートの治安部隊『イレーザーナイツ』が取り囲んだ。気配を殺して出入り口、窓、壁越し数カ所に人員をおいておく。さらに上空にまで、魔皇殻や逢魔の特殊能力で飛行している者達がいた……

(これなら、まず逃げ場はないわねぇ)

 治安部隊の完璧な布陣に、キリカ・アサナギは、素直に感心していた。キリカはイレイザーナイツではないが、常に人員不足に悩まされている治安部隊に乞われ、臨時で雇われていたのだ。キリカの他にも数名の者達が雇われており、思い思いの服装の上にイレイザーナイツ支給のワッペンを付け、テロリスト達を討ち取ろうと、息巻いている。
 ………もっとも、キリカは彼等とは違い、テロリスト達を滅ぼそうなどとは思っていなかった………

(オイ後ろ!用意は良いか?)

 キリカは声を掛けられ、意識を周りから前方に移した。大尉の制服を着た隊長が、後ろに控えていたキリカ達に小声で告げていた。周りの者達は頷き、後ろの方で他の部隊と連絡を取っていた通信担当の者が、手を振って合図をする。
 頃合いだ。全員が武器を構え、真剣な目で倉庫を睨む。
 キリカも抜け掛けていた気を引き戻し、支給された装備ではなく、自前の得物を取り出した。

(10、9、8、7、6………)

 隊長直々にカウントを開始する。突入の緊張感が漂う中、キリカは真剣な目で、しかし内心ではほくそ笑みながら、カウントが零になる直前に飛び出した……





 倉庫の丈夫な壁が爆弾型魔皇殻によって爆破され、爆風が倉庫内に広がりきるよりも速く、キリカは倉庫内への突入を完了させていた。煙の中で跳び、中心で集まっていたテロリスト達に肉薄する。
 キリカは、中心に置かれた大きな円卓の上に勢いよく着地し、跳んでいる途中で溜めておいた魔力を一気に解放した。解放された【真衝雷撃】によって、周囲20メートルに居たテロリスト達が全員痙攣し、一瞬で気絶する。
 だが倉庫内の中心部で派手な稲妻を発生させた事により、離れた場所にいたテロリスト達の注意がキリカに向いた。彼らとて素人ではない………既に戦闘態勢を整え終え、様々な種類の武装をキリカ、そして爆発の煙へと向けていた。

(やばっ!)

 キリカは手にしていた真ランスブレイカーで、飛んできた【真凍浸弾】を弾き返した。継いで、辺りからすぐに弾丸が飛んでくる。
 キリカは【真衝雷撃】で焼けている円卓をひっくり返すと、その陰に身を隠し、四方八方から飛んでくる弾丸を回避した。防壁としては全く期待出来ないが、姿を隠す事が出来れば十分だ。
 身を隠している間に、煙の中からイレーザーナイツの者達が一斉に援護射撃を開始した。同時に窓からも突入が開始され、倉庫内のあちこちで爆発や、鎮圧のための電撃等々が飛び交い始める。
 イレーザーナイツとテロリスト達で戦いが始まると、倉庫内は混乱気味の大混戦となった。
 戦う者と逃げる者。撃たれたのか切られたのか、早々に血を流してダウンしている者もいる。それがテロリストならば捕縛されて倉庫の外へ放り出され、イレーザーナイツならトドメを刺されて絶命してする………
 キリカは仲間から攻撃されないように気を遣いながら、適当にテロリスト達からの攻撃を受け流し、笑みを浮かべながら真ランスブレイカーに付属しているパイルバンカーをテロリストの胸部に突き立て、引き金を引いて一気に打ち砕いた。
 飛び散る血潮。砕けながら吹っ飛んでいくテロリストは、キリカに続いて突入してきたイレーザーナイツの面々が集まっている地点へと激突した。
 誰かと戦っていたのか、イレーザーナイツ達は、テロリストが突っ込んできた事で注意が逸れ………次の瞬間、集まっていた数人が一瞬で解体されていた。
 キリカがその光景に見入っている間に、崩れ落ちる死体の山を蹴りつけて、赤い少女が飛び出した。
 レイカである。
 真・復讐の槍を手にしていたレイカは、飛びながら、キリカに向かって復讐の槍を投擲した。

「喰らえッ!」
「おっと!」

 少女の手から放たれる復習の槍を、キリカはランスブレイカーの盾で先端に触らないようにして弾き、回避した。軌道を変えられた復讐の槍はそのままキリカの背後へと突き進み、壁に当たって爆発を起こす……
 だが二人とも、外れた槍の事など全く見向きもしなかった。
 キリカはランスブレイカーを、そしてレイカは真・アヴェンジャーを、渾身の力を持って………!

「「っつぅ!?」」

 甲高い金属音。盾に弾かれたアヴェンジャーから伝わる痺れを無視して、レイカはすぐにその場を飛び退いた。続いて放たれたパイルバンカーは、後一歩という所で間に合わずに空を切る。
 二人の間合いが若干空いた。他が二人はすぐに駆け始め、間合いを計るように走りながらジリジリと近寄っていく………

……………

………







 周りで鳴り響いているのは銃撃の音。突入してきたイレーザーナイツは完璧な布陣であったにも関わらず、日々戦闘を行って過ごしてきたテロリスト達を相手に劣勢に追い込まれていた。既に数は半ばまで減り、捕縛した数よりも返り討ちにあった数の方が遥かに多い。
 テロリスト達は多少の犠牲を出しながらも、それぞれ勝手にその場を離れだした。その中で、未だにお互いに決定打を入れられず、切り結んでいる二人が居た。
 既に何回お互いがぶつかり合ったのか………甲高い金属音は二人の体が一定の距離になる度に鳴り響き、周りの喧噪の中でひときわ大きく響き渡く。
 既に何十回と行った行動を取る事で余裕の出てきたキリカは、向かってくるレイカの気迫に、不意に何かを感じ取っていた…………





「一つ、訊きたいんだけど……」

 戦いを続けながら、キリカは静かに切り出した。レイカは返事もせず、手を休めようとはしない。
 だがキリカは気にした風もなく、勝手に続ける事にした。

「難しこと訊くけど、どうしてキミは戦うのかな?」

 ピクッ…
 ほんの一瞬だけレイカの目が細まり、探るようにキリカの目を睨み付けてきた。キリカは氷点下の殺気の火を灯しているレイカの視線に動じることなく、それを受け流した。
 暫くは互いに沈黙したままで戦闘が続行される。
 やはりお互いに大きな傷を与えられないまま時が過ぎ、やがてレイカが口を開いた………

「…………………ってないからだ」
「え?」
「終わってないからだ!!」

 ギィン!と、一際大きな金属音が響き渡る。

「キミの戦いが?」
「あたしだけじゃない!神魔大戦で戦って、死んでいった魔皇達の、だ!死んでいった魔皇達が、どんな未来を望んでいたか…忘れたとは言わせない!!」

 それはどんな思いを込められて放たれた言葉なのだろうか。
 レイカの繰り出す攻撃の一撃一撃が重くなり、そしてその筋が段々と大雑把になっていく。
 キリカはいつの間にか、レイカの攻撃を捌きながら、真剣その物の視線でレイカを見つめていた。

「でも、神・魔・人の関係は修復されていってる。街に出て、恋をして笑って…キミがそうしたって、誰にも文句は言われない世界になったじゃない?」

 キリカの言葉に首を振るレイカ。レイカは少しずつ力が入り、自身の攻撃が単調になりつつある事にも気が付いていないようだ。

「できれば、そうしたいよ…。だけど! 今、ここで立ち止まったら、死んでいったみんなのやってきた事が全て嘘になる。そんな事は許せない!だから!この戦いも終わらせない!!」
「だから殺すのかい? 最後の痙攣と吐息を夢に見ながら?」

 戦い続ける限り、必ず何れは敗北する。テロリストである彼女ならば、それはそう、遠い未来とは思えない。
 キリカに言われるまでもなく、それを、彼女は知っている。

「命ある限り戦えと、あたしが好きな人が言ったんだ!“我が力は理想の為に、意志は正義の為に、心根は虐げられる者のために”!……ミチザネが寄越した偽りの共栄を叩き返して、あたしは運命に反逆する!!」

 叫び、カッ!と目を光らせる少女。隠し武器の魔皇殻、真・ヴァンキッシャー………コンタクトレンズのように目に填め込まれていた魔皇殻から放たれた重圧を浴びて、キリカの体が押しつぶされるのに抵抗するため硬直する。
 レイカはその隙を逃さず、今までにない渾身の力を持って、トドメとばかりにアヴェンジャーを突き出した。キリカはそのレイカを真っ直ぐに見つめ、重い体を引きずって迎え撃つ。
 その瞬間……



――――歪な戦いを続けるこの少女が、葛藤を越えたキリカには、いつかの自分と被って見えた……――――



「……気に入ったよ、ボクと一緒にやらない?」
「え?」

 今までの真剣な表情を崩し、ニヤリと笑うキリカ。意表を突かれたのか、レイカは間の抜けた声を出し、突き出したアヴェンジャーを寸止めしてしまう。その隙を突き、キリカはレイカの手を退けて掴みかかり、そして豪快なモーションで壁へと全力投球する!

「舌噛まないでね!」
「!??!?!」

 キリカの無責任な言葉。混乱気味のレイカは抵抗らしい抵抗も出来ず、猛烈な勢いでコンクリートの壁に叩き付けられた。あまりの勢いに、壁にヒビが入るだけでは済まず、あっさりと崩壊させて、その向こう側へと飛び出してしまう。
 崩壊した壁からキリカも素早く飛び出した。レイカが地面に叩き付けられるよりも速く、その小柄な体をキャッチする。
 一瞬混乱気味になりかかったレイカだが、すぐに状況を把握し、青筋を立ててキリカの胸ぐらに掴みかかった。

「痛いじゃないか!今、完璧に殺すつもりで投げただろ!!」
「大丈夫大丈夫♪後でペロペロして直してあげるよ子猫ちゃん♪」
「は、離せ!馴れ馴れしい!」
「いたぞ!仕留めろ!!」

 キリカの手の中で暴れるレイカ。だがそれから逃れるよりも速く、壊れた壁の穴からイレーザーナイツの制服を着た男達が数人飛び出してきた。見ないレーザーナイツ支給のワッペンを付けているキリカではなく、その手の中で暴れているレイカに向けて攻撃しようと武器を構えていた。

(やばっ!?)

 レイカがすぐにその場から離れようとするが、体勢が不利過ぎる。一瞬の避けられずに死ぬ事を意識したが、逃げようとするレイカをキリカが突き飛ばした事で、その意識は無駄に終わった。
 そして次の瞬間、攻撃するために跳びかかってきていたイレーザーナイツの数人が、瞬く間にランスブレイカーによって絶殺された。

「は?」

 突き飛ばされた先でその光景を見ながら、レイカはポカンと口を小さく開けて、声を出していた。敵であるはずのキリカが、自分を救ったという事に、少なからず驚いているのだ。
 ・・・先程の言葉が思い出される・・・

『……気に入ったよ、ボクと一緒にやらない?』

 何をやるつもりなのかは予想でしかないが………
 レイカはその場を跳びだし、キリカへと向かってアヴェンジャーを振るった。キリカはその攻撃を躱すが、アヴェンジャーの爪はキリカの後ろに立って短剣を構えていた魔皇に当たり、その体を深く切り裂いた。
 キリカを裏切り者と判断し、不意を打とうとしたイレーザーナイツだ。倒れ伏しながら二人を睨み付け、「……裏切り者」と、そうとだけ呟いて絶命した。
 残されたレイカとキリカは睨み合う…………まぁ、レイカが一方的に探るようにキリカを睨み、キリカはニヤニヤと笑いながらそれを受け止めているのだが………

「速攻で借りを返されちゃったねぇ。さすが」
「………ふん」
「さっきの話、まだ覚えてる?返事は?」
「………知るか、勝手にしろ!」

 助けられた事でこの相手が本気で言っているという事を理解したレイカは、不機嫌そうにその場を離れた。倉庫内での戦闘はまだまだ続いているし、逃走したテロリスト達の追撃戦が周囲で行われている。とりあえず、この戦闘区域から早々に離脱しなければ、レイカも長くはないだろう。
 キリカはレイカの「勝手にしろ!」の部分を肯定と受け取ったのか、楽しそうにその後を追いかけた。全力で走っているレイカの隣を疾走しながら、その手を取る。

「な、なにを!」
「はいはい。大人しくしててね民間人さん?ちゃんと安全な所まで、このイレーザーナイツ(えせ)が送り届けてあげるから♪」

 上機嫌に言うキリカ。その意を汲み取って、レイカはムッと目を細めたが、特に文句を言うことなく黙ってキリカに従った。この場から安全に抜け出すのが目的ならば、これ以上はないだろう。
 だが、レイカはまだ不本意なのか、怒っているような目でキリカを睨み付けてきた。

「………借りは返すからな」
「はいはい。楽しみに待ってるからね〜〜」

 やはり楽しそうに言うキリカ。レイカは、たぶんこの借りは二〜三倍にして返すだけでは解放されないんだろうと、そう直感し、溜息を吐いた。








――――人間社会からの阻害感と、神属への復讐心が産む破壊衝動を隠して「陽気な魔皇」を演じ、テロリストとしての姿を隠しながら生きる神属殲滅計画者、“キリカ・アサナギ”と、テロリストだが殺人狂にも戦闘狂にもなりきれない。己の正義と、死んだ仲間達の抱いた大義の為に、身を挺して歪な戦いを続けるただの少女、“山吹・レイカ”――――

 一見して似たようでまるで違う二人は、こうして出会い、そして…………







 二人の戦いはここから始まる。









★参加PC★
w3b902 キリカ・アサナギ
w3f017 山吹・レイカ

★ライター通信★
 どうも初めまして…………じゃないですね。でも初めまして、メビオス零です。
 アクスディアでのツイン(と言うか、こちらが出したシナリオ以外)は今回が初めてです。いやぁ〜、普段文字数制限に厳しく縛られている分、書かせて頂きました。やっぱ良いですねぇ。って、内容的に普段よりもちょっと長い程度ですけど(汗)
 アクスディア物でのこういうツインとかは大歓迎ですよ。普段のはこうして通信も書けないし……いや、時々書かないですけどね?
 本家のシナリオはただいま暖め中ですけど、バリバリの戦闘物を想定中。そのうちテロ依頼とかも、また出します。
 では、今回の発注、誠にありがとうございます(・_・)(._.)