<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


【淫婦の至極打算的な純愛】

 オトコなんて言う生き物程単純極まりないものは無い。
 何故なら彼等は頭で考えてないの。何をするべきかって考えてるのはそのグロテスクな下半身。何を考えてるかって?決まってるじゃない、その腰を醜く振り乱す事よ。
 それは富とか名誉とか持ってる奴程、特に顕著に現れるらしくて、
「ユーディス、次は何処に行こうか?」
 私が愛人やってるこの何処ぞの大企業社長なんてその中でも極め付き。
 腰を抱き寄せながら笑みを含んだ猫撫で声の裏にはヤりたいって欲求がプンプン感じられてもう最悪。
 クラブの常連からこう言う関係になって早三ヶ月。この底が薄いにも程がある中年親父には何の魅力も無いけど、その底が見えないにも程がある財力はとっても魅力的で、
「ん〜、そうねぇ。」
 なんて言いながら、こうして不倫旅行に精を出し体を摺り寄せてる私は現金かなって内心少し苦笑。
 この親父は私がそんな事を考えてるなんて露にも知らないで、タプタプとお肉が付いた頬を緩ませた。全く持って単純極まり無い。
 そして精々その金を私が有効利用してやろう、とまるで恋人みたいに腕に抱きついて街角を一緒に歩いていた……その時、
 私はある少年とすれ違った。
「…ん?」
 気になって立ち止まり振り返る。
「ん?どうしたユーディス。」
 親父が馴れ馴れしく訝しがるのも気にせずに、私はその少年の、立ち止まる事なく進む後姿を見た。
 それは何処にでもいそうな…顔はそうでも無いけど…ただの少年で、普通ならレストランのメニューを見て「あらこの料理美味しそうじゃない」程度にしか思わないんだけど…その時何故か私には妙な確信が浮かんでいた。
 つまりそう、彼こそは魔の皇族、逢魔の主、このインプ・ユーディスを従えるものだ、ってね。

 それから数週間後。私の手元にはその少年の資料が届いていた。
 調査を頼んだ地元の逢魔は動機の不純で最初渋ったけど少しサービスしたら了承してくれた。本当に単純。
 まぁそんな事はどうでも良くて、私は一枚の書類にまとめられた資料を丹念に眺めていた。

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名前:石動・和弥 年齢:14 性別:男

髪:漆黒 瞳:黒 肌:普通 体型:細身 身長:164cm

境遇:両親と姉が居たが、親戚ともに神魔の抗争により失っており天涯孤独、現在施設暮らし。

詳細:
・成績、運動神経、共に同年代の平均からは上位に位置する。
・性格もなかなかしっかりしていて(両親と姉の教育の賜物だとか)将来性は期待出来る。
・家族を失う以前は同年代の少年らしい物だったらしいが現状ではややストイック気味な希望進路。
・現在中等部修了後、神魔人学園パトモス軍学校・特殊機甲科に進学。

備考:転入試験を終え近日中に神魔人学園の寮に入居の予定といった事が判明。

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 一緒に添えられた写真を改めて見るとうん、やっぱりなかなかのハンサム顔。
 今は少し幼過ぎるけど全然余裕で守備範囲で、寧ろこれ以上行くと変なオトコになりそうだから寧ろ食べ頃。
 その顔を見ながら、やっぱり私の確信は間違ってなかったと改めて私は実感した。

 でも放って置いて変な風に育つのはちょっと困る。さっきも言ったけど変なオトコにはなって欲しくない。
 それにまだ14歳の身空で独りで生きてゆくのは大変だろうし……リンク結ぶなら早いほうがいいだろう。
「ん……ふぅ……んふぅ……。」
 もう潮時かな。油っぽい親父の唇と唇を重ねながら、私はそんな事を考えていた。
 やっぱりヤる事しか頭に無いオトコの中のオトコは私が何を考えてるのかなんて想像すらしてないんだろう。
 うん、いい加減そろそろ飽きてきた。それにあの時期ってのが一番可愛いものだから、
「食っちまうなら今のうち♪……ね。」
 そう私は決心して、そしてそっと親父の顔を離させてその瞳を見つめた。
「ねぇあなた……、」
「ん、どうしたユーディス?」
「私の事、好き?愛してくれてるかしら?」
 決まっているじゃないか、と親父はケラケラと品の無い笑い声を上げた。
 頭の悪い男。でも今はその方が都合がいい。だって、
「そう……なら私の眼を見て。」
「ん、眼?」
 ヤる事しか考えてないから、私の頭に角が、背中に翼が、腰に尻尾が生えてる事に全然気付いてないし、
「えぇ……瞳、よ。」
 ふふ、と微笑みながら、私はぱちんと可愛らしくウィンクをして見せた。
 それが私とこれの縁を後腐れなく断ち切ってくれる事にだって全く気付かないんだから。

 それから数日後のある日。
 私は高級ホテルの一室で、週刊誌なんて広げながら優雅に椅子に座っていた。
 その紙面一杯に記載されていたのは要約すると大体こんな感じの記事で、
『登美岡社長、突然の急死!!死因は腹上死!?』
『見え隠れする愛人の影、消えた金の行方!!』
『登美岡、実質上の経営破綻っ!!』
(まさかここまで上手く行くとはね。)
 予想以上の結果に私は微笑みながらそっとグラスを掲げて乾杯した。
「準備は整ったわ、待ってなさい和弥……私の魔・皇・様☆」
 そしてぐいっと喉に染み渡る真っ赤なワインを飲み干すと、女神の様に微笑んだ。

「っ!!」
 その時和弥の身に言い知れぬ寒気が走ったのだが、悦に浸るユーディスには知る由も無かった。