<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


我が闘いの未来に在りし


 魔皇・九条縁とその逢魔イーリスは、最近新しく発見されたばかりの遺跡の調査へとやってきていた。
 まだ誰も調査を行っていないところであるだけに、装備は万全できた――その、はずだった。
 だが。
「くそっ、倒しても倒してもキリがねぇぜ!」
 罠らしい罠はなかったのだが、その代わりとばかりにサーバントが次々とやってくる。罠がないだけに、野良サーバントがばしばしと住みついているらしい。
 剣を振りかざして襲ってくる様々なサーバントを、縁は、手持ちの真魔皇殻で撃破していく。
 その半歩後ろを走るのはイーリス。縁が撃ち漏らしたサーバントにトドメをさし、横道から突如襲いかかってくるサーバントを拳で粉砕する。
 数刻前までは静かであっただろう遺跡は、いまは戦闘の喧騒に包まれていた。
 襲い来る無数のサーバントたちでは突進する二人の勢いを削ぐことすらできず、二人は着々と遺跡の深部へと近づいて行く。
 遠距離から攻撃してくる輩には真ロケットガントレッドを飛ばし、真デヴァイスターで駆けて来る敵に先制攻撃をかまし、真ドラゴンスマッシャーで敵を打ち倒す。
 そうやって、どれくらい進んだだろう。
 ふいに、遺跡の道が途切れた。右を見ても左を見ても、正面を見ても。道らしきものが見当たらず、あるのは小さな部屋がひとつきり。
「ここが一番奥でございましょうか……」
「にしては、何もないな」
「隠し通路があるのかもしれません」
「ああ。探してみよう」
 イーリアより少し先を歩いていた縁が、そのまま部屋の中へと一歩、踏み出した時だった。
 部屋が、閃光に包まれる。
「なっ……!」
「縁様!!」
 イーリスの叫ぶ声が、縁の耳に遠く聞こえる。
 視界が閉ざされ、音が消え――縁は、その意識を手放した。





 どれくらい眠っていたのか。
 目覚めて周囲の様子を確認して、縁は表情に警戒の色を露にした。そこは明らかに、遺跡の中とは違っていたのだ。
 だが外……というのも少々不自然な気がする。
 不自然さの最たるものは、空。
 夕暮れ過ぎを思わせる紅の空には雲一つなく――それだけなら晴れているだけともとれるが――夕暮れならあるはずの傾きかけた陽もなければ、星のひとつも見えなかった。
 ただ、紅、一色。
 しかしその空以上に縁を驚かせたのは、無数に突き刺さる剣。まるで墓標のように大地に突き立つその剣は、縁が立つ場所を中心にぐるりと大きく円を描いており、中の広場がなんとなく……決闘場のように思える。
「イーリス……いないのか?」
 これといって視界を塞ぐものはないのに、イーリスの姿はなかった。
 おそらく自分が、どこかに飛ばされてしまったのだろう。とにかく脱出方法を探さねばと、歩き出したその時だった。
 突如、ディアブロを人間大にしたような騎士が、縁の目の前に現れたのだ。
「……何者だ?」
 すぐには襲ってこない騎士に声をかけてみると、騎士はスラリと腰の剣を抜く。縁は応じて戦闘体勢をとったが、騎士がすぐに襲ってくる様子はなかった。
 縁が訝しげに騎士を見つめたその時。
『汝が闘いの訳を示せ』
 ……それは、騎士の声だっただろうか。目の前というよりは、空間から響いたような声と同時に、騎士が、剣を構えた。
 今度は一瞬のタイムラグすらなく、一気に間合いを詰めてきた騎士の剣を咄嗟に避けて、縁は改めて武器を構えなおした。
 右に、左に。重そうな剣にも関わらず、騎士は軽々とそれを扱い、縦横無尽に縁に襲いかかってくる。
 縁もそう簡単に負けるほど弱くはない。
 だが。
 騎士は、強かった。
 手持ちのどの魔皇殻も騎士の剣に砕かれ、隙をついて放ったダークフォースもことごとく蹴散らされる。
「くそっ……!」
 自分は、こんなところで負けるわけにはいかないのに!!
 想いが身体を支配する。
 あちこちについた傷の痛みも、体力の消耗した肉体も。
 どれも、今の縁の動きを妨げる要素にはならなかった。
 けれど元より騎士のほうが上手なのだ。とうとう縁が、ガクリと大地に膝を折る。
 まだ、闘える。否、まだ、負けるわけにはいかない。
 闘おうとする――闘い続けようとする縁の思考に応えるように、声が、響いた。
『汝が闘いの訳を示せ』
 闘いの直前、問われた言葉。
 目の前。
 剣を振り上げたその形で、騎士は動きを止めていた。
「……生きるために」
 知らず、口を開いていた。
 二度目は、はっきりと意識して。
「生きる目的を知るために」
 告げる。
「俺が俺のまま行き抜くために」
 力強く答えて、立ちあがる。
 ふいに大地に光が灯った。
 大地に刺さった剣の一振りが光をまとい、縁の手へと滑り込んできたのだ。
 砕けた魔皇殻を吸収し、剣がその形状を変えていく。
 ……剣は、苦手のはずだった。
 しかしその剣は何故かしっくりと、縁の手になじむ。
「勝負は、これからだ!!」
 叫ぶ声に勢いをつけ、騎士の元へと全力で駆けた。
 再度動き出した騎士は、先ほどと変わらぬ鋭い剣で応酬してきたが、しかし。恐ろしく手に馴染むこの剣は、騎士以上の剣技を縁にふるわせた。
 二度、三度。
 打ち合い、そして勝負の時は一瞬だった。
 渾身の力で振り下ろした剣が、騎士の身体を真っ二つに両断したのだ。
 ――と、同時。
 何故か唐突に、世界が遠のく。
 視界が閉ざされ、音が消え――ここに来た時と同じように、意識が途切れる。





「――縁様」
 遠くから声が聞こえる。
「大丈夫でございますか、縁様!」
 聞き慣れた女性の声……イーリスの声だ。
「イーリス!?」
 飛び起きた瞬間、目の前にイーリスの姿。周囲を確認すれば、そこは遺跡の外だった。
「突然、縁様がお倒れになられて……。あの場に留まるのは危険と判断して、遺跡の外へ戻ってきたのです」
「そうか……」
 あれはいったい、なんだったのだろう?
 そう時間は経っていないようだが……まさか、夢? だがそう考えるには、あまりにもリアルすぎる夢だった。
「一旦戻るか」
 縁が立ちあがりかけた時、物影からサーバントが襲いかかってくる。
 咄嗟に応戦しようとしたその、瞬間――縁の手に、剣が現れる。
 あの不思議な空間で手にした剣だ。
 あれはやはり、夢ではなかったのだ。
「縁様、それは……」
「ああ、真魔皇殻だ」
 イーリスを隣に、自らの手には新たな魔皇殻を携え。
 縁は、襲い来るサーバントへと向き直った。