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<東京怪談ノベル(シングル)>
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〜Sniper〜
神・魔・人が入り混じっているこの日本で、唯一人間のみで統治されている町、ソアル。
この町の風景は、人間だけで治めているだけあって、その生活は戦前以前と、ほとんど変わっていなかった。むしろ様々な技術が発展しているだけあり、豊かになっているようにようだ。
だが豊かになろうとなるまいと、町では今でも、人間の範囲内の犯罪や事故は絶えずに起こっている。こうして車の中から眺めている光景にも、以前は割と頻繁に目にしていた犯罪者が見て取れた。
「役員!この度の賄賂疑惑についてのコメントを!」
「戦前からの容疑も再び浮上してきているとのことですが!?」
「ミチザネ機関との取引についてお話を………!」
報道陣に囲まれながら、一人の町議会役員が大きな役所へと入っていく。戦前以前でも何かと世間を騒がせていた議員だ。この手の騒動には慣れているのか、報道陣に一言も喋ることなく、完全に無視を決め込んでいる。
往来の人々は関心がないのか、一部が蔑むような視線を向けた後、すぐに興味を無くして通り過ぎていった。
その人混みに紛れるようにして、役所前の道路に停止していた一台のポルシェが走り出した。運転手は道路を行き交う車に紛れて走り、出来るだけ自然に、周りの者達に気取られないように辺りのビル群を見上げている。
「今日は雲行きが怪しいな………天気予報でも見ておけばよかったか」
タバコの煙を逃がすために小さく窓を開けた。まだ上空を漂っている雲からは何も降ってきていないが、窓から侵入してきた風には普段よりも湿気が混じっており、風上で雨が降っていることを知らせてくれる。
小さく舌打ちしながら、車を予め下見をしておいた駐車場へと入れた。得物の入ったギターケースを持ち、タバコに手をやりながら、黒いジャケットスーツに身を包んだ男がポルシェから降りる。
指でタバコを抓んでから大きく息を吐き、静かに煙を出す。それから駐車場と隣接して建っているマンションを見上げ、呟いた。
「………一雨来るな、こりゃ」
冴牙・レイジ(w3j471)は、そうとだけ言って、まだ入居者募集を始めたばかりの人気のないマンションへと入っていった………
今回、レイジは裏の筋からの依頼により、先程役所に入っていった町議会役員の暗殺を依頼されていた。あえて依頼主が誰なのかは知らされていないが、役員が取引をした誰かが、自分に捜査が回る前に証拠を消したがっているのだろう。この分だと、役員の死亡が確認された直後に役員の自宅が全焼するかもしれない………
(まぁ、自業自得って所だな)
レイジは雨対策として屋上までは上らず、事前に用意しておいたマンションのマスターキーを使い、一室に入って狙撃の準備を進める。マンションを管理している者は既に眠って貰っており、監視カメラや警報の類は、仕事の間だけ黙るようにしておいた。
目撃者を作らないよう、高すぎず低すぎない所に陣取りって、外からは見えない所で狙撃の準備を始める。
ギターケースを開けて、愛用のブレーザーR93を取り出し、ライフル弾を装填してから静かに待つ。レイジが狙っているのは、役員が出てきた瞬間だ。報道陣に囲まれていれば、標的が動くスピードは非常にのろい。
だがそれには、役員が役所から出てくるのをジッと待っていなければならなかった。予定では、今頃はあの役所の中の議場で様々な議論をしているはずだ。
依頼と一緒に貰った役員の日程表を思い出しながら、今日の予定が終了するまでの後三時間という時間を、どうやって過ごそうかを考える。
暫くは壁に隠れてタバコを吹かせていたが、やがて外から聞こえてきていた車の騒音が、水を打ち付ける騒々しい音で掻き消えた。
レイジは、狙撃としては最悪の条件になった事に溜息を吐きながら、窓から外の光景を見るため、僅かに窓を開けて覗き見た。雨足は強く、これでは狙撃しても軌道が変わってしまうだろう。
音に注意する必要が無くなったのは良いのだが、これでは成功する事もしないだろう。今からでも他のポイントを探そうかと、レイジはスッと顔を引っ込めた。
瞬間、銜えていたタバコが掻き消えた。
否。正確に言えば、煙の元である先端部分が半ばで弾け飛んだのだ。衝撃で口に含んでいた部分も宙を舞い、床の木材に音を立てて穴が開けられた。
レイジは、木材の飛んでいった方向から窓の外からの狙撃だと看破し、素早くライフルを引き寄せた。まさか敵が中止している確率の高い窓から相手を探す訳にも行かないため、早々にその部屋から廊下に出て、数部屋離れた部屋に移った。
窓を、気取られないように小さく開けてから、鏡を使って外の様子を観察した。下手に窓から顔を出して、その瞬間に撃たれたらシャレにもならない。もし相手が魔皇にも効くような特殊な弾を使っていたら、それで終わりになるだろう。
(そうだ、弾丸)
レイジはそこまで思い至り、すぐにライフルの弾丸を詰め替えた。相手が魔皇、またはグレゴールだった場合、通常の人間相手の弾丸では効果がない。もし頭を撃ち抜いても、不死性で死ぬ事はないのだ。
レイジは、ケースの中に入っている弾数を確認し、本日三度目の舌打ちする。
元からドンパチと撃ち合う事が目的では無かったため、実に手持ちが少なかった。本来狙撃での暗殺とは、成功してもしなくても一発撃って終わりである。二発目、三発目を撃てば、まず間違いなく自分の位置を知られてしまうからだ。
相手も重々承知しているようだ。むやみやたらとは撃って来ずに、こちらの姿を捉えるまで、徹底的に動かずにいるつもりだ。
鏡を使って、向かいのビル群のあちこちを探るレイジ。暫くそうしていたが、その場所での捜索を諦め、別の部屋から同じようにして相手を探る。
(向こうもこちらを探している頃だろうな………お)
斜め右向かいにあるビルの二階、ガラス越しに、一瞬だけ一人の男が見えた。見た瞬間、僅かに社員かガードマンだと思ったが、男の体から漏れ出る魔力を見て取り、それがグレゴールなのだと理解した。この人間だけが暮らすソアルで、グレゴールが職に就くなど、まずあり得ない。
肩に重そうな長細い袋を背負い、道行く人ではなくこちらのマンションを見つめ、探っていた。
数秒もすることなく、まるで巡回にでも出るかのように、ビルの内部に姿を消した。
「…………こいつか」
懐からタバコを取り出し、口に銜えた所で…………火を付けるのを止めた。ここで火など付けたら、また的になりかねない。
最後の一本を口に銜え、空になった袋をグシャッと小さく潰し、部屋の隅に放り投げた。
「まぁ、時間はある。お互いじっくり殺ろう」
強くなる雨……レイジは気を焦らせる事もなく、じっくりと待つ事にした。
………………………
………………
………
すぐ側を相手の撃った弾丸が掠めていく。窓を叩き割って侵入した弾丸は、勢いを多少弱めながらも飛翔して、天井に穴を開けた。窓が割れる音が雨の音で掻き消されていなかったら、今頃は外からの通報で暗殺どころではなかっただろう。
レイジは腕に填めた腕時計を見て、静かに溜息を吐いた。
あれから二時間半………相手の狙撃手は、比較的早くこちらの位置を察知し、正確に狙撃を行ってきていた。どういう訳か、レイジよりも早く相手の方が見つけてくる。
弾丸も豊富に持ってきているのか、見つける度に撃ってきているようだ。
…………対照的に、レイジは相手を先に見つける事が出来ず、弾丸も少ないために、滅多に撃つ事が出来ずにいた。
まるでモグラ叩きのモグラになった気分だ。今まではギリギリ躱しているが、役員を狙撃する時には、早くても数秒間は外から見えるようになるだろう。
このままでは、落ち着いて、安全に狙撃をする事が敵わなくなる。
「何か仕掛けがあるな………」
室内を見渡し、それから出来るだけ窓などから離れた所に陣取って考える。
相手は確実にこちらの大まかな位置を把握している。正確に分かっている訳ではないようだが、それでも一から相手を探している自分と、九から相手を探している相手では勝負にならない
まずは相手がこっちを見つける策を破らなければならない………
(スコープ、発信器、カメラ………SFか?)
レイジは今までに集めたグレゴールの情報を思い起こしながら、それに思い至った。
たしかウィンターウォークにグレゴールを探知する能力があったように、相手にも魔皇を探知する能力があったはずだ。相手の位置を正確にするような物ではなく、大まかな位置を把握するだけの物が……
名前までは知らないが、それを使っているのならば、このマンションに潜んでいるのがばれているのも、頷ける。
まぁもっとも、こちらが暗殺に来るというのは、予めどこかで聞きつけてきたのだろうが………
「さて、どうするかな」
軽く銜えているタバコをピコピコと動かしながら、レイジは足下に散らばったガラスの欠片を靴底で踏み砕いてから、静かに天井を見上げた………
(ふん。動くか……上だな)
向かいのマンション内で動く魔皇の気配を察知し、ビルから狙撃していたグレゴールは、非常階段から上階へと上っていった。
単身痩躯、目は鷹のように鋭い男だ。警備員の制服を着込み、ビルの者達とは会わないように行動していた。
このグレゴールはビルの警備員として、数日前からこの周辺を調べていた。裏からの情報で、自分の暗殺依頼が出回っている事を知った役員に雇われ、暗殺者を殺すようにと依頼されたのだ。
本来ならばボディーガードとして堂々とすぐ側で守りにつきたいのだが、魔皇にも相手がグレゴールかどうかなど、案外分かってしまうものなのだ。それにここはソアル。グレゴールのボディーガードなど、目立って仕方がない。
幸い探知系のSFに秀でていたため、問題の敵を探すのに苦労はなかった。だが攻撃しようとした途端に雨が降ってきたため、弾道にズレが生じて、なかなか正確な射撃が出来ないでいる。
マンションの方で何やら忙しなく動いている魔皇の気配を訝しみながら、グレゴールは冷静に階段を上がっていった。相手の動きには少々疑問はあるが、いつでも攻撃出来るよう、上下と左右の角度を合わせておく必要がある。
SFで攻撃出来ればいいのだが、それで相手が手段を選ばなくなったら共倒れになるだろう。ここはお互いにスナイパーとして、手にしている銃だけで決着を付けたいものだ………
「となると………この場所は………」
スナイパーとしては、あまり好ましい場所ではない。
目の前にあるのは、見通しの“良すぎる”屋上への扉だった。
マンションとは同じ高さのビルであるため、向こう側も、こちら側も丸見えだ。どっちも給水塔やフェンスなどはあるが、少なくとも、この扉から出てすぐの所に障害物はない。
これが五百m〜一qの範囲での長距離狙撃ならば多少の問題は目を潰れるのだが、自分達が撃ち合っているのは道路一つ挟んだ距離だ。ライフルを使えば、プロならば百発百中だろう。
…………この状況で、自分だけが見えるのならば良い。だが、相手からも丸見えなのは頂けない。
既に、敵の魔皇の気配は屋上に出ている。この出口に照準しているのか、動きを止めていた。
先手を打たれたのは痛いが、出ていくタイミングを選べる自分の方が有利か………………どっちもどっちか。
(相打ち覚悟か……?)
ならば、これは単純に早撃ちの要領だ。こちらが相手の射撃を躱して反撃するか、躱せずに………
相手がどんな弾丸を使ってくるかは知らないが、裏筋に通じている者ならば、対SF・DFの弾を揃える事は、そう難しい事ではない。
如何に魔皇と同レベルの不死性であろうとも、一撃当たれば死ぬというのを覚悟しなければならない。
自分達は、そう言う戦いをしているのだ。
(………………)
無駄な思考の一切をカットする。これからこの出口から出て、最適な動きで相手の弾丸を避け、最速の速さで敵を捕捉し、最高のタイミングで撃ち返さなければならない。
単発式のライフルに弾丸が入っている事を確認してから、グレゴールはスゥッと息を吸った。これから十数秒間は、呼吸をするような暇は一切ない。
……………そして、扉を蹴り開けた。
雨が打ち付ける屋上に躍り出る。姿勢は膝と同じくらいの高さまで低くし、相手の弾丸が当たり難いようにする。案の定、相手が撃った弾丸は肩の上を通過し、屋上の床にぶつかって火花を上げるだけに終わった。
(貰った!)
雨で滑らないようにしながら、慣れた手付きで素早くライフルを構え、照準する。敵………レイジは屋上の出入り口のすぐ横でこちらへとライフルを向けながら、弾丸を籠めていた。その手の動きは非常に速く、グレゴールが照準するのが数秒遅ければ、間違いなく次弾が間に合っていただろう……
レイジの作業を待たずに、引き金を引く。弾丸は雨によってほんの僅かに軌道を落とし、弧を描いて飛翔する。だが予め計算して撃ったため、多少軌道が変わっても問題にならなかった。
弾丸は命中し、レイジを粉々に“撃ち砕いた”。
(砕け…!?)
驚いている暇はなかった。構えに入っているレイジは躊躇いなく引き金を引き、その長い銃身から特製の弾を発射する。
弾丸は雨によってほんの僅かに軌道を落とし、弧を描いて飛翔する。だが予め計算して撃ったため、多少軌道が変わっても問題にならず……
そこまでを観察して、グレゴールの意識は消し飛ばされた。
レイジは屋上に運んだ大きめの二枚の鏡をその場に放置し、すぐに次弾の準備を始めた。鏡の一枚は粉々に砕け、もう一枚は壁に立てかけてある。
砕けた方に身を隠していたレイジは、ビルの方の相手が起きあがってこない事を観察してから、安堵の溜息を吐いた。ある程度の攪乱になってくれたら良いと思ったのだが、思ったよりも効いたらしい。壁の鏡を経由で映ったレイジの姿………この大雨でカモフラージュされてなかったら、通常は一目で看破されていただろう。
レイジは腕時計を確認した。随分と手こずってしまったため、大分時間が経っている。
「さてと………時間だ」
ギリギリ間に合ったなと付け足して、レイジは雨の中、濡れながらライフルを構えた…………
〜エピローグ〜
雨は、レイジがマンション内の後始末(自分へ繋がる可能性のある者だけ)をしている間に止んでしまった。もっと早く止んで貰いたかったと、レイジは思い通りにならない空を睨み付ける。
レイジがマンションを後にした時、既に役所の前は大騒ぎになっていた。さすがにマスコミに囲まれている中で撃たれただけあって、非常に対応が早い。だがそのマスコミが邪魔になり、主に警察の怒鳴り声が響き渡っていた。
ついでに、ビルの前でも小さな騒ぎになっている。役所の方と比べれば静かだが、それでも警察が何人も来ているようだ。
恐らく、屋上の死体が発見されたのだろう。マンションの管理人が目覚めれば、今夜当たりに、このマンションも騒ぎになる。
……………まぁ、いきなり眠らされて、起きたら監視カメラが壊れているは、あちこちの部屋に弾痕があるはでは当然だろう。
レイジは周りから注目を集めないように自然にしながら、駐車場に止めたポルシェへと乗り込んだ。
アクセルを踏み込み、役所とは反対方向へと走らせる。バックミラーで誰もこちらを見てない事を見て取ってから、レイジは溜息混じりにタバコを取り出した。
「………ち、湿ってる」
つくづく邪魔をしてくれる天気に悪態を付いてから、レイジはタバコの自販機を探しながら車を走らせた。
★★参加PC★★
冴牙・レイジ(w3j471)
★★ライター通信★★
発注ありがとうございます。メビオス零です!
さて………今回のシナリオ、結構不安です。何故かって?狙撃対決って言うのがどうも……描写に間違いがないかどうかが不安になるんです。普段書いてるのが格闘戦ばかりなんで。
ご指摘などがありましたら、容赦なく言って下さいませ。その方が為になりますし、次から気を付ける事が出来ます。
アクスディアのシチュエーションノベルでの発注は、滅多にないんで楽しんで書かせて頂いております。また御機会がありましたら、もっと気を利かせますんで、よろしくお願いします。
では、改めまして、今回のご発注、誠にありがとうございました。(・_・)(._.)
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