<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


生と死の狭間で掴む物



 海上での戦いから数週間が経過………九条・縁(w3a525)は、数日前からルチルの効果範囲ギリギリの採石場に陣取り、剣を振るっていた。逢魔のイーリスも付き合ってくれており、今は…………

「行きます」
「ま、まて!まだ心の準備がゲビシッ!!」

 襲いかかってきた巨大な鉄球に打ちのめされ、吹っ飛ばされる縁。………人とは、果たして本当にここまで気持ちの良い放物線を描いて飛ぶ物なのだろうか?人化状態の縁は、ろくに衝撃を受け流す事も出来ずに五メートル以上飛ばされ、石だの砂利だのがあちこちに転がっていて転んだだけで大怪我をしそうな地面をゴロゴロと転がり、そして動かなくなった。
 イーリスは溜息を吐きながら家屋粉砕用重機の運転席から降りて縁に歩み寄り、その襟首を掴んで引きずり出した。そして、少し離れた所に引いてある白い境界線の外に、縁をポイッと放り出す。
 境界線から出た途端に光を放出する縁……数秒もしないうちに光は消え、そこには五体満足、傷一つ無い縁が居た………

「待てって言っただろ!死んだらどうするんだ!?」
「実際死んでた訳ですが……あまり気にしないで下さい」
「それが殺しておいて言うセリフか!?」

 怒鳴る縁。だがイーリスは顔色一つ変えずに踵を返し、さっさと重機の方へと帰っていった……
 その後ろ姿を眺めていた縁は、ハァッと大きく溜息を付いて起きあがった。

「何でこんな事になったんだ……」

 呟き、隣に積まれた木刀の山から一本だけ手に取り、一振りした。それから重機の方へと自分も歩き、こうなった原因を少々回想してみる……
 …………海上での戦闘の翌日、縁はその時の状況を記事に直し、提出した。基地の事件は既に他のメディアも嗅ぎ付けていたため、少しでも早く、詳細な記事を書かなくてはならなかったのだ。
 自分としてはかなりの自信作だったのだが……

『修行してこい、この馬鹿者!』

と、怒鳴って殴られた挙げ句、こんな採掘場なのか廃墟なのかも分からない所に縁を放り出したのだった。
 イーリスは、縁の世話役兼修行相手兼監視役としてここに特別に派遣されている。
 ………ちなみに肝心の記事の方はイーリスが書いた物が採用され、ここに居るイーリスは出張扱いで、縁は欠勤扱いらしい。
 修行達成が遅れれば遅れる程、彼の給料は下がっていくのだ……

(不公平だ!クソッ、今月はマジでやばいってのに……寮費とか学費とか、色々あるんだぞ……)

 縁は心の中で悪態をつきながら、木刀で左右から襲いかかって来た魔獣殻を振り払った。音速を超えて突進をしてくる、『グランツフォル』。そして、全体的にバランスの取れた身体能力を見せる獅子、『ゴルディオン』………
 振り払うと言ったが、只の木刀では、精々攻撃の軌道を微妙に反らすのが精一杯だった。
 二体の魔獣殻は、縁に追撃を入れずにその場を離れる。そこに……

ブオッ!

 イーリスによる、鉄球攻撃が襲いかかった!

「ちぃっ!」

 舌打ちしながら木刀を叩き付ける。だが木刀はへし折れ、次に強い衝撃が襲いかかってくる。
 鉄球の直撃によって意識が朦朧とする縁………ここに来てまだ意識を保っていられる辺り素晴らしい精神力だったが、自分を打った鉄球を踏み台にして飛び掛かってくるイーリスを見ながら、縁は「またかよ……」と嘆いていた………






 修行場からさほど離れていない所に建てられていた小屋。その中で、気絶した縁は、ほんの十数分程で意識を取り戻した。
 気絶している内にイーリスによって蘇生されたのだろう(と言っても、ルチル外に引きずって行っただけなのだが……)、鉄球とイーリスの反則気味な体術によって付けられた体中の傷は、一つ残らず治癒している。
 縁はイーリスにタオルを渡されて、体や服に付着している自分の血を拭き取った。

「解らん。一体どうやって切るんだ?」
「アドバイスとして、『切ろうと思えば切れる』……と言われていますが……」
「んな訳ないだろ。そんな理由で、直径三メートル以上はあろう超重量級の鉄球をホイホイ切られて堪るか……しかも木刀で!」

 体に付いた血を拭き取りながら、縁は不機嫌顔でそう言った。だが言いながら、「どこを切ったら良いんだよ……」などと、ブツブツと呟き続けている。“不可能”とは認識していないようだ。それだけでも、十分常人からは離れている力量だと言えるだろう。
 縁は木刀を再び手に取り、軽く素振りをしながら熟考している。

(まぁ、本腰入れて修行するには、言い機会かも知れませんが………)

 イーリスは縁が散らかしたタオルを片付けながら嘆息し、ここに来たときのことを思い出す……
 修行内容とアドバイスだけで放り出された縁は、延々と用意されていた木刀を降り続けていた。そのうちイーリスと魔獣殻によって攻撃を受けるようになると、段々と意地になってきたのか………

『……上等だ!やってやるぜ!!』

 等と、ここに放り出した主犯と、いつまで経っても切れない鉄球に向かって叫びを上げた。
 不平はそれこそ数え切れない程漏らしていたが、放置されている鉄球を見る度、諦めずに修行を再開する。
 そして今も、ようやく攻め方がまとまってきたのか、「よしっ!」と気合いを入れ、小屋から出て行った。そして鉄球に向かい合い、何度も打ち付け始める……

(私も最後までお供しましょう………それが私の勤めですから)

 イーリスは、真剣な表情で剣を振るう縁を眺め、二体の魔獣殻を引き連れて、奇襲に適した角度へと移動していった……







 イーリスが寝静まった頃、縁は小屋から抜け出し、木刀を振っていた。目の前に見本として置かれた鉄球(既に切ってある)を見据えて、何百回目にもなる素振りを繰り返す。

(どうすれば切れるんだろうな)

 鉄球を切る前に、教えられた事を思い出す。曰く………

『慣れればどんな物でも、どんなモノでも、何処をどうすれば切る事が出来るのかというのが、一目で分かるようになってくる。九条、これを切れないと“思っている”時点で、まだまだ修行が足りんのだ』

 ……だそうだ。だがその境地に入るまでに、一体どれ程の死線を潜り抜けろと言うのか………?

(考えるのは止そう。下手すると殺される)

 そこら辺の魔皇やらグレゴールよりも本気で恐ろしい。だからこそ、詮索はしない方が良さそうだ。知りすぎると消されるのは、そう珍しい事ではない。と言うか、世の常識では無かろうか?
 ………嫌な世の中だ。

「しっかし。本当にどうやって切れるんだろうな?」

 ガンガンと、割れた鉄球を斬りつける縁………だが鉄球には掠り傷一つ付かず、逆に木刀の方にヒビが入った。
 それもそうだ。そもそも木刀で鉄を切る………真剣ならば縁にも何とか出来ることだが、普通は出来ないことだ。切れる前に木刀が折れるのは必定。当然だ。
 魔皇殻を使えば、それこそ魔皇ならば誰でも出来るだろう。だが人化し、人間としての能力だけの場合はまったく勝手が違う。魔力による補正も、魔皇としての身体補正も無し。使う得物は木刀なのだから、武器に頼ることも出来るわけがない……
 僅かな間雑念に取り付かれ、力を抜いて斬りつけ続ける。すると、突然斬りつけていた木刀の感覚が変化した。

「ん?」

 木刀の先を見る。雑念に耽っている間に、半分になっている鉄球を斬りつけたのだろう。木刀は半ばから折れ、片方はあっさりと後方に吹っ飛んでいた……
 だが、縁の目に映ったのはそう言う物ではない。折れた木刀の先、向こう側にある鉄球に―――


―――月明かりに照らされ、目を凝らして見つかる、小さな、しかし深い切れ目―――


「………今の感覚は………」

 縁は折れた木刀を振るう。手に残る感触を頼りに、軽くなった木刀を、延々と振り続けた………








 早朝から、再び縁の特訓が始まった。イーリスは鉄球に向かう縁の目つきが変わっている事に僅かに驚いたが、相変わらず吹っ飛ばされ、魔獣殻に殺されかける縁を見て、小さく溜息を付いた。

(成長しているのかしてないのか………)

 重機を操縦し、吹っ飛ぶ縁に追撃を入れる。だが、いくら吹っ飛ばされても、今日の縁は怯まない。むしろ、攻撃されればされる程、より強い気迫で向かってくる。
 …………まさか痛めつけられるうちに“そっち”に目覚めてしまったのかと、イーリスは本気で心配になった。

「まだまだぁ!」

バキャッ!

 気迫は十分。だがやはり為す術もなく吹っ飛ばされるのは変わらない………
 イーリスは縁を眺めながら、呆れたように(それでいて何処か楽しそうに)、縁に鉄球を叩き付けた。

(一体どうしたんでしょうね)

 ピクリとも動かない縁を引きずりながら、イーリスはそんな疑問を思い浮かべていた。
 ルチル外に出して再び蘇生させると、縁はイーリスを急かして再び鉄球に挑む。何やらコツを掴んだのか、段々と鉄球に攻撃しつつ、当たる直前に回避出来るようになっている。
 避けるたびに「クソッ、今度こそ!」と言いながら、何度も挑んでくる。
 斬りつける箇所も変わり、最初はがむしゃらに振るっていた木刀も、今では狙うべき場所をちゃんと決めてから振るっている。
 ………だがまだ自分の剣に確信が持てないのか、向かってくる鉄球を回避しようと体が動いてしまうのだった。

(回避運動しながらで、切れるわけ無いだろ!エエイ動くな足!)

 攻撃が来るたびに、避けようと勝手に動く足を叱咤する。だが縁は、魔獣殻と鉄球を相手に、休むことなく動き続けている……
 これでは、切ろうと思っても切れないだろう。

―――どこを切ればいいのかが解っても―――

「うおっ!?」

 鉄球に集中力を裂いたからか、ゴルディオンに足を取られ、動きを封じられる。ついでとばかりに襲いかかって来たグランツフォルを手で払う。
 迫る鉄球。体勢を崩し、もはや避けきれないと、縁の体が反応する。

「だぁぁぁああああ!!」

シュパァッ………ドドォン!

 気合い一閃。断ち切られた鉄球は左右に分かれ、縁の体を掠りながら後方へと凄まじい勢いで後方へと飛んでいく。その過程で足を封じていたゴルディオンが、空を舞っていたグランツフォルが巻き込まれたが、縁は同情の欠片も寄越さなかった。
 凄まじい激突音が、縁の背後で鳴り響く。地面を伝わってくる震動。手に持っている木刀の感触………
 それらが、今、自信が成し得たことを物語る……

「………切った」
「切れましたね。見事に」

 いつの間に重機から降りたのか、イーリスが拍手をしながら歩いてくる。どこからかカメラを取りだし、証拠写真の撮影を始めた。

「よっしゃーーーー!!」

 縁が勝利の雄叫びを上げる。これでこの修行ともお別れ。次はこの技を、殲騎戦で使えるようにするだけ―――

「木刀100本、重機のレンタル料、鉄球の弁償代等々……」
「ちょっと待て。何を不吉なことを言ってる!」

 イーリスに駆け寄る縁。だが何事もなかったかのように修行上を去るイーリスと魔獣殻………
 縁が「何だこのオチは!?最後ぐらいはすっきりと晴れ晴れした気持で送り出せーーー!!」と叫いていたが、誰一人として、耳を貸したりはしなかった……







GoodEnd





★★参加PC★★
九条・縁(w3a525)
イーリス(w3a525)

★★ライター通信★★
 どうもご発注ありがとうございます。メビオス零です。
 さ〜て、どうでしたでしょうね………
縁が新しい技を覚えました。【真超重斬】………DF技ですかね。まぁ、オリジナルでも良いそうですから、思いっきり使っちゃいましょう。(前回同様奥の手っぽいけど。
 では、改めまして、今回のご発注、誠にありがとうございました(・_・)(._.)