<クリスマス・聖なる夜の物語2005>


Silent Night 〜’05クリスマスinペンション日向〜


「なぜ宴会になると、毎度わたしはこの格好……?」
 がっくりと肩を落したチリュウ・ミカのきているものは馬のきぐるみ。
 クリスマスにトナカイではなく何故か馬なのは既にミカの暮らすペンション日向の名物ともいえた。
 馬のきぐるみのまま、料理をそしてパーティー会場の準備とミカにはやることは沢山あった。

「メリークリスマス!今年は人手が足りなさそうだからな!暇人を連れてきたのだ!」
 赤いサンタの衣装を着た鳴神が威勢良く、ペンション日向の引き戸を開けた。
 その後ろには相変わらずの不精髭の男と、襟元までマフラーでしっかり覆った少年。
「誰が暇人だ……」
「こういうときは、お邪魔しますでしょ」
 ぼやく魔皇の脛をセイレーンの少年が蹴り飛ばす。
「俺様から、皆にプレゼントがあるのだって………渡した傍から破くんじゃね――――!」
 そそくさと、サンタの袋の中から用意した物を一人一人に手渡す。
「よくもまぁ、毎度毎度」
 何故か馬の着ぐるみ姿の、チリュウ・ミカは渡した本人曰く『日向特製、カッコイイ鳴神ブロマイド』を見もせずに受け取るなり破り捨て。
「わー、無駄にキラキラだね☆」
 此方は、レオタードにトナカイの角のいうなればトナカイガールといった井出達の逢魔のクリスクリス。もちろん、ポイントは網タイツにピンヒールである。
「……恥ずかしいです……」
 己の逢魔の所業に魔皇の藤宮・深雪は、どうしようもないというように首を振った。
「何だそのあんまりな反応は!レアなアイテムなんだぞ!!」
「いらん」
「鳴神さんの写真なんかもらってものねぇ……」
「ゴミ以下です」
 一人ハイテンションの鳴神を他所にペンション日向の玄関には絶対零度のブリザードが吹きぬけるのだった。
「面白い場所だな」
「楽しくなりそうだね」
 女性陣の反応にがっくりと肩を落す、鳴神の様子が他人事と思えず思わず客人達は苦笑した。

「お料理はミカ姉作だから味は知れてるけど……」
「嫌なら食うな」
「贅沢言えないしー。仕方ないから行ってみよー!!」
 3対3でぷち合コン?。ミカの突っ込みは、笑顔でスルーたクリスクリスの元気いっぱいの掛け声と共にペンション日向のクリスマスパーティーの火蓋は切って落された。

 深雪の焼いた可愛らしい手作りクリスマスケーキと、クリスクリスが見立てたイチゴたっぷりの特注品のケーキの周りにはミカの用意した手料理の数々が並べられている。
「チキンは各自で取り分けろよ」
 こんがりときつね色の丸鳥の香草焼きも丁度良い焼き具合でナイフを入れると、パリパリの皮からじゅわっと油が染み出してくる。
「美味しそうです!」
「ミカ姉にしては、上出来なんじゃない?」
「文句がある奴は食べるんじゃない」
「余ったら勿体無いから食べてあげるんだよ♪」
 まるで家族の様に気負いのない軽口でのやり取りに、和んだ空気が流れる。
「おいしいです!」
「チリュウにしてはいい味してるな!」
「素直に美味いという言葉はでてこないのか………」
 調理者の呻きを聞き流し、其々に各々のペースで料理を口に運ぶ。
 甘辛く炒めたエビチリに、カラリと上がったポテトフライ。季節の水菜とベビーリーフと卵の色鮮やかなサラダに、いい具合に焼きあがったローストビーフとミンスパイ。
 ボリュームも味も満点の料理は小さなキッチンブーケが飾られた食卓を、何時もと違う特別なものに変えていた。
 あいている席があるのは、学校や用事でこれなかったペンション日向の他の住人の為にミカが用意したもの。
「お?いい酒置いてるじゃないか!!」
「神保あんたもいける口か?」
 宴席の片隅うず高く積まれた酒瓶を目にとめ男の目じりが下がる。焼酎にブランデー、ウイスキーにラム酒。日本酒、ワインはもとより、アルコール度数の高い酒の数々であった。
「やっぱクリスマスといえば……無礼講だろ?」
 ミカが軽くグラスを上げる真似をしてにやりと、笑う。まさか、自分からの酌で飲めないとは言わせない。そんな笑みでもあった。
「俺も飲むぞ!」
「あぁ、飲め飲め」
 是が非でも酔い潰して、笑いのネタにしてやろう。という、ミカの内心を知らずに酒の飲めるメンバーは杯を重ねた。
「ぷはぁ。美味しい‥ふふん♪なんか‥ポカポカしてきちゃった☆」
 こくこくこくと、ジュースを飲むといっていたクリスクリスが喉をならしグラスの中の泡の散る琥珀色の飲み物を飲み干す。
「トナカイって意外と暑い‥え?なんで止めるの?」
「く、クリスちゃんそれはダメです!?」
 あーつーいーよーとトナカイの衣装を脱ごうとするクリスクリスを深雪が慌ててとめる。
「「おぉ〜vv」」
 と、親父二人の鼻の下が伸びる。
「なにやってんの」
「俺らは男のロマンと言うものをだな」
「健全な成年男子としてはどうしてもみておかなければ」
「煩いよ」
 親父二人の欲望に満ちた眼差しは、少年の睨みの前にばっさりと切って捨てられた。
「王様ゲームやるぞっ!さあ、みんな覚悟して引くんだ」
 宴も酣こちらもほんのりと、頬を赤く染めたミカが割り箸を取り出た。
「ルールは簡単。1番の割り箸を引いた奴の言うことをみんながきくんだ!」
 準備はいいか!というミカの掛け声に
「「「「「「おー!」」」」」
 と、全員が拳を突き上げた。
 予め割り箸には1〜6の数字が振られてある。王様となる1の数字の上には可愛らしく王冠が書き入れられていた。
「さぁひけ!」
 ずいっと差し出されたミカの手の中には数字が見えないように割り箸がある。其々が1本ずつ割り箸をひいた。

「王様だ〜れだ!」

 掛け声の後に其々が、自分の割り箸の番号を見る。
「お?私か」
 ミカが自分の手の中の割り箸をみてにやりと笑う。
「そうだな……じゃぁ、3番の奴、鳴神選定の衣装を着てカラオケ熱唱!」
「えぇー!?わ、私ですか!」
「俺様選定の……際どいナース服を進呈なのだ!」
 すちゃっと鳴神が取り出した、すその短いナース服に深雪が悲鳴を上げる。
「嫌なのか?」
「恥ずかしい事は苦手ですが…パーティーの席で遠慮はいけません……受けて立ちます!…」
 意を決意した眼差しの深雪がナース服に手をかけた。
「深雪ちゃんかわいー☆」
 けらけらと笑うクリスクリスがお色直しした深雪の姿をほめる。
「は、恥ずかしいけど歌います……」


『ヤドリギの下で恋焦がれるあの人の写真にキス!』
『運命の相手への告白』
 という、御題は見事に両方とも鳴神が引き当て。
 始終笑いを呼んでいた。


「よし次の王様を決めるのだ!」
 深雪の歌の後に嬉々として割り箸を回収した鳴神が、今度は絶対に1番を引くと意気込んでゲームを進める。
「あー鳴神さん、割り箸交換したらだめだよー」
 小細工をしようとした鳴神をクリスクリスがすかさず抑える。
「全部1番にしたら……」
「絶対にあたりますけど、全員が王様じゃ収集つきません」
「そ、そうだった」
 間抜けな声をあげて鳴神は頭を抱えた。

「王様だ〜れだ?」

「やった―――!」
 俺、王様!!
 念願の1番の割り箸を手に小躍りして喜ぶのは鳴神。
「ふふふ、6番の番号の人間が俺様の膝の上に座って俺様の酌をするのだ」
 わきわきとエロ親父そのものな手つきで鳴神が自分の膝の上を叩く。
「6番……?」
「私じゃありません」
「ボクでもないよー」
「もしかして……」
「そーかそんなに俺に膝に乗ってほしいのか」
 よいしょっと髭親父が鳴神の膝の上に腰をおろした。
「な―――!?チリュウじゃなかったのか、てか重いぞ!!」
「酌ねぇ……ほれ、あ〜ん」
「つうか気持ちわりいよ!」
「そういうお前が指定したんだろうが――!」
 容赦ないボケ突っ込みの応酬の末……クリスマスの夜は更けて行くのだった。

 パーティー後片付けを終え、静寂の戻ったペンション。
「皆の無事と再会の日を……」
 夜も更け人気のないペンションの廊下をミカは歩いていた。
「今宵会えずとも、皆【日向】の仲間なんだしな……」
 そっと、今日は来ることが出来なかったメンバーの部屋のノブにお菓子の入った小さな靴下を下げていく。
「メリークリスマス……」
 皆に幸らんことを……思いは必ず届くと信じて……


……A Merry Christmas & have a good dream………



【 Fin 】



★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★
   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【w3c964maoh / チリュウ・ミカ / 女 / 33歳 / 残酷の黒】

【w3i013maoh / 藤宮・深雪 / 女 / 26歳 / 激情の紅】

【w3c964ouma / クリスクリス / 女 / 15歳 / ウインターフォーク】

【w3i013ouma / 鳴神 / 男 / 35歳 / シャンブロウ】


【NPC / 神保透】

【NPC / 静流】


☆★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆
         ライター通信          
☆★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆


ご無沙汰いたしておりました。ライターのはるでございます。
クリスマス聖なる夜の物語への御参加ありがとうございました。
ペンションでのパーティー風景ということで、このような形になりましたが如何でしたでしょうか?
少しでも楽しいんでいただければ幸いです。

何か、イメージと違うというようなことがありましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。