<PCあけましておめでとうノベル・2006>


『船上からあけましておめでとう』



○オープニング

『ニューイヤーパーティー・2006、ただ今受付中』
 そんなチラシが、旅行ガイドに記載されていた。それを目にした客は、旅行案内の女性に、首を傾げて尋ねてみた。
「このパーティーは、船の上で行われるのかい?」
「はい。港を31日の夕方に出発し、ディナーや余興を楽しんだ後、船上でカウントダウンを行います。そして、カウントダウンのあとに、船の上でご自由に過ごしてもらい、明け方、船の上から、一番に見える初日の出を見る、という流れになります。もちろん、初日の出のあとも、ご自由にして頂いて構いません。船内で、スタッフ達が料理や音楽、ショーや映画等、様々なイベントを行っておりますから」
「成る程な。じゃあ、客は基本的に、船の上で自由にしていていいわけだな。どんな船なんだ?」
 客に言われ、女性は笑顔で、その船の上のパーティーのガイドブックを差し出した。そこにある写真には、豪華客船の姿が雄雄しく映し出されていた。
「楽しいイベントも盛り沢山です。是非、お友達やご家族と、御参加下さいね」



「今年の新年は寂しくないぞー!!!」
 寒空の下、港に唐沢・公平(w3b175maoh)の叫び声が号泣と共に永延と木霊した。
 目の前には、今夜ニューイヤーパーティーが行われる豪華客船が聳え、見る者を圧倒している。
「ふっふっ、今日はアリッサねぇさんと、代真子さんと一緒ですからねえ。両手に花というやつですよ」
 公平が好青年的笑顔を振舞っているそばで、公平の義理の姉であるアリッサ(w3b313ouma )が、空を見上げながら呟いていた。
「何だかよく分からないけど、いきなり船の上で年を越すことになりました。ごめんなさい」
 アリッサが誰かに向かって謝っているようであったが、おそらくは夫でもある、彼女の魔皇に対してなのだろう。
「まあでも、せっかく来たのだし、めいっぱい楽しまないとね!」
 すぐに楽しそうな表情を取り戻したアリッサは、今回、公平達を、このカウントダウンパーティーに巻き込んだ張本人、平・代真子(たいら・よまこ/4241)へと顔を向けた。
「ここへ参加する事になったのも、代真子さんのおかげですからね。楽しみにしていますよ」
 アリッサの言葉に、代真子は無邪気な笑顔を浮かべながら答えた。
 公平は、アリッサに連れられてこの港を散歩していたところ、突然目の前に出現した代真子に、このカウントダウンパーティーの誘いを受けたのだ。
 特に断る理由もなく、また今年も寂しく一人で年末を過ごすのもどうかと思っていたところ、代真子の話を聞き乗り気になったアリッサにより、半ば強引に、このパーティーへ参加する事になったのであった。
「町内の福引でパーティーのチケットが当たったから。けど、一緒に行ける人がいなかったので、チケット余らせたまま、ここまで来たのよ。そしたら、二人がちょうどそばを歩いていたから、ね」
「ま、楽しい年越しを過ごせるなら、それはそれでいいかなって思いましたし。突然の事だったから、あの人を連れてこれなかったのが残念ですけど」
 代真子の言葉に、アリッサが答えた。
「僕なんて、アリッサねぇさんに強引に連れて来られてしまいましたけどー」
 そう言って、公平はまわりを見渡した。
 すでに船の上では、客を歓迎するかのように、軽快なバンドミュージックが流れており、自分達のまわりには、母親に手を引かれた幼女、杖をついた老人、友人同士で騒いでいる女子学生に、落ち着いた雰囲気の中年夫婦等がいる。皆、公平達と同じく、この船で行われる年越しイベントに、参加する者達なのだろう。
「でも、賑やかな年越しになりそうですね!さ、早速船の中へ行きましょう。早くしないと、出発してしまいそうだもの!」
 公平達は、船の入り口へと向かい、そこで代真子から渡された参加チケットをスタッフへと渡した。



「ようこそ、平様。お部屋へとご案内致します」
 女性スタッフのあとにつき、公平達は自室へと向かった。通路には、すでに沢山の乗客がおり、皆、それぞれに歓談を楽しんでいるようであった。
 船の中とは言えども、造りは豪華なホテルのようで、公平はここが船の中であると、実感出来なかった程であった。いや、ここは海の上に造られた、ホテルと言っても間違いではないだろう。
「こちらが、平様のお部屋です。何か御用がございましたら、室内の電話でお申し付け下さいませ」
 代真子にルームキーを手渡すと、女性スタッフは一礼してから去っていった。
「えー、公平と同じ部屋なのー?」
「もともと、3人一組のチケットだしね」
 部屋のドアを開けつつ、アリッサが公平の方を見つめて、眉をしかめていた。
「いやですねえ、アリッサねぇさん。僕をそんな目で見ないでくださいよお」
 公平は、眉をよせて自分を見つめているアリッサに、笑顔で言葉を返してみせる。
「何かまずい事でも?」
 不思議そうな表情を見せている代真子に、アリッサが小声で答えた。小声と言っても、公平には十分に聞こえる大きさであったが。
「あの人、撫でマニアなんですよー?同じ部屋にいたら、1日中撫でられちゃいますよ?」
 とは言え、アリッサがどことなく楽しそうな表情をしているところを見ると、3人が同じ部屋になったのを、それほど気にはしていないのかもしれない。
 公平達の部屋は、白の壁が何とも上品な雰囲気のある部屋で、壁には海の風景画が描かれた絵画が飾られていた。白いシーツのかかったベッドがとても柔らかく、テレビや冷蔵庫もついている。
「船上で新年迎えられるなんてうれしーい。うわーい!」
 何よりも一番、嬉しそうな顔をしているのが代真子で、公平が撫でマニアである事など気にもせず、窓から見える海の景色を見て、子供のようにはしゃいでいた。
 公平達は、船の出発時刻になるまで、部屋で歓談をしていたが、やがて、クラシックのような音楽と一緒に館内放送が流れるのを聞き、船が出発した事を知ったのであった。
「船の、色々なところを見に行こうよ!」
 早くも、うずうずとした表情で、代真子が公平とアリッサを、船の探検に誘おうとする。
「うん、まあ、せっかくだし、いいんじゃないですかね?」
 今にも部屋から飛び出して行きそうな代真子を見て、公平がアリッサへと言う。
「そうですね、この船、かなり大きそうだし、こんな時でもないと、見られないものもあるでしょうし」
 公平の言葉に、アリッサも頷いて答えた。
「そして、探検の後は、僕が代真子さんを秘密の船室へお持ち帰り〜」
 その瞬間、アリッサのアッパーが公平に入り、続いて肘鉄が腹に食い込んだ。
「ね、ねぇさん、早すぎてカウンターをする暇もなかったですよ」
「駄目ですよ、お持ち帰りなんてしたら。さ、代真子さん、行きましょう。船の探検へ!」
 痛みで小刻みに震えている公平を残し、アリッサと代真子が部屋から出て行ってしまう。
「待ってくださいいい。それならねぇさんと代真子さんを、セットでお持ち帰りにー」
 そう叫びつつ、公平も二人へと続いて部屋を出た。



「色々なイベントを、あちこちでやっているのね!」
 公平達は、船の色々な場所を歩き回り、そこで出くわすイベントを楽しんでいた。
 ある場所では手品のショー、またあるところでは、客も一緒に参加出来るゲームコーナー、親子で楽しめる手作りクッキング室、また、船の施設も充実しており、カラオケルームやビリヤード、ボーリング場まであるのには、公平も驚いたものであった。
 代真子はずっと興奮しっぱなしで、視界に入ったものは全て、気になって仕方がない、という雰囲気であった。
「うーん、あの子も、お持ち帰りしたいですねー」
「だから、見てるところ違!!」
 公平は、ことあるごとにアリッサにダメージ付き突っ込みを入れられていたが、代真子の好奇心のおかげで、船のあちこちを見る事が出来て、それはそれで楽しんでいるのであった。
 そんな事をしているうちに、特に女性陣が楽しみにしていた、ディナーの時間になった。
 公平達は船の地図を見て、ディナー会場の場所を確認し、早速その場所へと足を向けた。
「すごーい!」
 会場に入ってすぐ、代真子があたりを見回し、目を輝かせた。
「なかなか豪華な部屋なんですねえ」
 公平とアリッサも部屋に入り、代真子が感動して立ちすくんでいる理由をすぐに理解した。
 ディナー会場となる大ホールはまるで高級ホテルのような作りで、床には色とりどりの花が描かれた上品な絨毯が敷かれ、天井には、まるで欧州の美術館をイメージさせるような、天使や自然風景等の絵画が描かれている。
 百合のような形のライトがついたシャンデリアがホールを照らし、公平達がホールに到着した時にはすでに、先に来た客らが食事を始めている所であった。沢山の人が集中している為、かなり大きなこのホールも、いっぱいになっている状態であった。
「腹いっぱい料理食べて、いい年を迎えるぞー、おー!」
 代真子はこぶしを宙に上げて叫び、すでに食い気満々、といった状態であった。
「物凄い混雑ですね。空いている席を探しましょう」
 アリッサのあとに続いて、公平は大ホールに空いている席がないか見回した。
「あー、あそこが空いてますよ。ちょうど、みっつ」
 公平の視界に、空いているテーブルが入って来た。3人はすぐにそのテーブルへと座ると、今回はバイキング形式の食事である為、早速料理を取りにいく事にした。
「あたし、こういうパーティーの経験ってないの。だから、ついつい感動しちゃって」
 そう言いながら、代真子は鮮やか過ぎるほどの手の動きで、取り皿に次々に料理を盛り付けていく。
「代真子さーん、凄くお腹がすいていたみたいですねえぇ?」
 隙間がないぐらい料理を盛り付けた代真子の皿を見て、公平は驚きの表情を見せた。代真子の細身の体からは、想像出来ない程の量だ。いや、痩せの大食い、という言葉もあるが。
 公平も皿に好きな料理を取っているが、代真子の取った量とは比べ物にならない。しかも、代真子は料理がはみ出しそうなほど乗せられた皿を、いくつもテーブルに置いているのだ。
「じゃ、いっただき!」
 代真子は、吸い込むような勢いで次々に料理を吸収していった。バキュームカー、などという表現は、食事中は控えた方がいいかもしれない。
 アリッサは代真子の食欲に唖然とし、目を丸くしたまま、食事の手が止まっていた。
「成長期で食欲旺盛なのはいいですが、あまり食べ過ぎると太りま」
 代真子は、公平がその言葉を最後まで言うのを許さなかった。無言のまま箸を持っているのと逆の手で公平を殴りつけ、何事もなかったように再び食事を続けていた。
 こうして、一部怪我人を出しつつも食事を終えた3人は、再度船内をまわり、色々なイベントに参加しつつ、カウントダウンの始まる時間までを過ごした。



「いよいよ、年越しですね!」
 公平達は、カウントダウンの時間に合わせて、メイン会場である船のデッキへと上がった。
 外はかなりの寒さであるものの、そこにはすでに沢山の人が集まっており、皆が年が変わるその瞬間を待ち望んでいるようであった。
 ステージの楽団が音楽を奏でており、その前ではダンサーが数人出てきて、賑やかにカウントダウンを盛り上げていた。
「あそこに時計があるよ!」
 代真子が、船の上の方に取り付けられた、巨大なデジタル時計を指差した。その時計はすでに31日の午後11時30分を刻んでいた。
「もう少しですね。寒いけど、このまま待ちましょう」
 公平達は、時計を見つめながら、今年が終わり、新しい年が来る瞬間を待っていた。アリッサや代真子が、寒い寒いと言い続けるので、公平が二人を撫でて摩擦を起こし、その熱で暖めてあげようか、という案を出したが、即却下された。
 時計を見ながら雑談をしているうちに、年が変わるその瞬間がやって来た。時刻は31日・午後11時59分。誰かが、カウントダウンを始めた。それに乗せて、皆も一緒に刻を数え始める。
「11時59分30秒」
 まわりが興奮に包まれていくのを、公平は感じていた。
「20秒!!」
 誰よりも一番、興奮状態にあるのが代真子で、まわりに負けないぐらいの大声を出し、カウントダウンを始めていた。
「10秒」
 アリッサも一緒に、数字をカウントしていく。
「9,8,7,6,5」
 まわりがカウントしていく中、公平はアリッサの耳元で囁いた。
「6,7,8」
 公平のそのカウントに、アリッサも乗せられてカウントを続ける。
「9,10。えっ!?」
「いえー!空中で年越し!!」
 代真子が突然飛び上がった。その瞬間、船の進んでいる少し先にある小さな明かりから、大きな花火がいくつも上がり、夜空を彩った。
「はいやっ!!!」
 公平は、未だかついてない、まるで野生の獣を思わせるかのような動きで、飛び上がった代真子の真下へ入り、床に這い蹲り上を向くが、一瞬、邪魔をするかのような影が入り、標的とは違う別の物が見えたような気がした。
「見えっ!?」
 が、世の中そううまくはいかず、公平の顔は上から落ちてきたアリッサの足にプレスされていた。
「重い」
「失礼な!新年最初の言葉がそれ!?」
 公平の悪巧みは、アリッサによって阻止されてしまったが、一瞬でも中身が見えたのなら、まずは良かった、というところだろうか。
「見て!花火があんなに。凄く綺麗!」
 上がり続ける花火を前に、代真子はとても楽しそうに叫んでいた。ここで新年を迎えられた事が、本当に嬉しいのだろう。
「ま、今年もよろしくお願いしますね」
 花火の舞う夜空の下、アリッサが公平に呟いた。
「はい。今年も、頑張って可愛い物を撫でまくりますよおおお!」
 笑顔を見せて、公平も義姉に言葉を返した。
「一緒に来てくれて、二人とも本当に有難う!あたし、こんなに楽しい年越しは初めて!」
 興奮も冷めない顔で、代真子も二人に叫んだ。
 公平達はしばらくの間、この賑やかな時の瞬間を、船の上で楽しんでいるのであった。



「え、朝食がなくなったですと!?」
 起きたばかりの公平は、アリッサから事情を聞き、愕然とした。まさに、絶望のどん底である。
 カウントダウンの後、初日の出の時間まで仮眠を取ろうと部屋に戻った3人であったが、どうもすっかり寝過ごしてしまい、アリッサも代真子も、初日の出を見損なってしまったらしい。公平は、二人が朝食を取りに行く時間に起こされたらしいのだが、まったく目が覚めることなく、クルージングの終わり間際になり、やっと目を覚ました。
 ところが、朝食も代真子が例のあるの食欲ですっかり平らげてしまい、公平の分は何も残されていなかった。
「ごめん!帰ったら私がなんか作りますね」
 アリッサが苦笑をしながら、公平へと呟いた。
「ま、まあ、ないのならどうしようもないですねえ」
 船は順調に航海を続け、昼には港へと帰還した。
 すきっ腹を抱えて船を降りる時、公平はこの賑やかな年越しを思い出しながら、新しい年に新たな期待を描くのであった。(終)



◆登場人物◇

【w3b175maoh/唐沢・公平/男性/22歳/孤高の紫】
【w3b313ouma/アリッサ/女性/22歳/レプリカント】
【4241/平・代真子/女性/17歳/神聖都学園の高校二年生。】

◆ライター通信◇

  唐沢・公平様

 はじめまして。あけましておめでとうノベル2006にご参加頂き、ありがとうございました。WRの朝霧です。
 プレイングをもとに、3人の行動をうまく絡めながら書いていったのですが、かなりコミカルな内容になったかと思います(笑)特に公平さんの行動は、突込みを受けたりする等、アクション的なものが多かったので、どう描写すればうまく伝わるかを考えながら書いておりました。
 楽しんで頂ければ、と思います。それでは、ありがとうございました。