<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


Hresvelgr


★前章★

 新東京のデモンズゲートには、小・中・大と様々な大きさの商店やビルが建ち並び、かつての東京としての面影が残っている。もっとも、その形のほとんどが崩れかけており、原形を留めている物は、数割あるかないかという所である。
 知らぬ者が訪れたのならば、恐らくはゴーストタウンと間違えていただろう。同じ新東京とはいえ、崩れた町並み、街中から聞こえてくる戦闘音‥‥それどころか、耳を澄ませば、遠くから殲騎戦で倒壊するビルの音まで聞こえてくる。
 他の街とは、あまりにも懸け離れすぎている。ここで平穏に暮らそうと思う者は、まず居ないだろう。ここにはもはや秩序がなくなりつつあり、そんな心を持つ者ならば、ほんの数日で消える事になるだろう‥‥
 ‥‥‥‥そんな中で、珍しく完璧な形で組まれている大きな館‥‥‥‥
 そこはそんなデモンズゲートの暴走を阻止し、食い止めている者達が集う場所。
 デモンズゲート・パトモス魔軍本部‥‥‥‥通称、イレーザーナイツと呼ばれる者達の軍基地である。
 表向きは大きな洋館であるが、そこには数十体の殲騎を置いておけるだけの格納庫が確保されていた。
 殲騎とは、本来は魔皇が召還するため、このような格納庫は必要ない。しかし、イレーザーナイツが戦うのはそこらのサーバントではない。
 神魔戦線を潜り抜けた歴戦の戦士達‥‥‥自分達と拮抗し、または上回るレベルの者達を相手取らねばならないのだ。
 そこで出て来たのが、殲騎を改造するという方法であった。
 少しでも戦力差を広げようと、イレーザーナイツに正式に配属された者達には、特別に機体に対して改造する権限が与えられる。
 改造すれば二度と召還を解除する事は出来ない。しかし常に戦場に身を置こうとする者、純粋に守ろうとする者、そして何かを求める者‥‥‥
 戦場に出る事と引き替えに、この権利を欲して入隊していった‥‥
 彼も、そう言った理由でこの軍へと入った者の一人である。




〜格納庫・改造ドック内〜

「どうだ?装備の具合は」
「芳しくないですね‥‥やっぱりここら辺での物資調達が難しくって」
「つまり弾薬不足か」
「はい。他の騎体への供給もありますし、精々70%が精一杯です。今日の所は、これで勘弁して下さい」
「‥‥‥‥今日も出動があるんだったな」

 イレーザーナイツの制服ではなく、デニムのジャケットを羽織っているシャルト・バルディウス(w3i367)は腕を組み、気怠そうな声で呟いた。
 軍基地の地下に設けられた格納庫。騒々しい機械音が絶え間なく響いているこの場所で、シャルトは改造を施された自身の殲騎を見上げている。
 そのシャルトの改造を引き受けてくれた整備チーフは、機体ハンガーの横に備え付けられている端末の画面を睨み、映し出されていく項目にチェックを入れていた。

「まぁ良いか。表に出た時に足りなくなったら、魔皇殻でカバーする」
「帰ってきたら、また調整しますので。なるべく壊さないで下さいね?折角バージョンアップしたのに、即日で壊されたら立ち直れませんから」
「‥‥‥善処する」

 恐らく戦場では無傷では済まないだろうと感じながら、シャルトはそう答えていた。
 見上げている機体は、もはや元の殲騎の風貌ではない。
 数回に渡って行われたイレーザーナイツ仕様への改修によって、『孤高の紫』からは逸脱した鈍重さを感じさせた。
 今までは鷹のように鋭いフォルムだった物が、漆黒の追加装甲によって、さながら肥えた大鴉のようである。
 追加装甲以外にも、追加された武装は贅沢に割り振られている。それもまた、この騎体を異色に見させていた。
 左腕に装着された円形の盾、両腰に備えてあるゼカリア用のアサルトライフル、更に背部にはゼカリア用の遠距離バックパックを改造し、両脇に二門の砲が来るようになっている。
 真魔皇殻を召還しても機動性に問題が出ないように計算されたフォルムである。総合的な火力、及び総合的な防御力を見れば、今までの倍近い戦闘力を持っていると言えるだろう。しかしその半面、今までのような鋭敏な動きは出来なくなっている。
 まぁ、元々殲騎は魔力で動いているため、無茶な改修とまでは行かないのだが‥‥‥

(エネルギー供給さえ働いていれば、問題ないか‥‥)

 シャルトは自身の逢魔、コバルトブルーが格納庫内にいないかどうか探してみた。
 殲騎搭乗中、機体のエネルギーを調節するのは逢魔の役目である。今までミスをした事はないが、これまでとは状態が違う事を伝えておいた方が良いのだが‥‥‥

「‥‥‥話している時間も無さそうだな」
「え?」
「ぁ、居た居た。シャルトさん、ここに居たんですね」
「美海、どうかしたのか?」
「えっと、もうすぐ作戦の説明が始まりますから、いつもの会議室に集まるように、と‥‥」
「またあの女からか」
「は、はい。それと、“勝手に出るなよ”‥‥と」
「‥‥ふん。それは標的を知ってからだ」

 不穏な発言をしながらも、シャルトはその場から踵を返して歩き出す。コバルトブルーは一言も無しにその場を離れていったシャルトを睨んでいる整備チーフに一言だけ謝罪してから、すぐにシャルトの後を追い始めた。

(またこんな力を得て‥‥)

 戦場に出て、過去を追い求め、敗北と勝利を繰り返す‥‥‥
 本心は止めたかったのだが、もはやそれは叶わない。
 協調性の無さは兎も角として、その実力から、ここのイレーザーナイツでは重宝されている身となったシャルトは、恐らくまだまだ力を得続けるのだろうから‥‥‥

(私は‥‥どうしたら‥‥)

 答えが出せないまま、彼女はシャルトを追い続ける。
 その先に何が待つのか、解らないままに‥‥





〜ブリーフィングルーム〜

 作戦会議室に集まった魔皇達の数は、優に数十人に及んでいた。
 恐らくは、このデモンズゲートに待機しているイレーザーナイツの半数にもなるだろう。もっとも、全員が戦いに参加するわけではなく、“諜報”、“戦闘”、“事後処理”のおよそ三班に分けられているため、今回の作戦に参加する者は極僅かである。
 ‥‥‥‥その極僅か、戦闘に参加する者達の中に当然のように振り分けられ、シャルトはコバルトブルーと共に、会議室の壇上に立っている作戦指揮官の説明に聞き入っていた。

「‥‥以上の諜報班からの報告により、このビルを中心としたビルディングに反乱分子達の拠点がある事が判明した。構成員はおよそ三〜四十人程。出入りによっていくらか上下するだろうが、我々はもっとも反乱分子が集うと見られる0000時にこのビルディングを包囲、強襲する。それまでの間に全騎夜間仕様に切り替え、強襲までは包囲し、見つからないように待機しろ。なお、敵は全員魔皇で、そのうち数名は改造された殲騎を隠し持っている事が解っている。十分に警戒するようにしろ。それから‥‥‥そこ!シャルト・バルディウス!!」

 突然名指しで呼ばれ、シャルトに隊員達が注目する。その目はあるいは敵意、あるいは好奇心が入っている。
 だがその注目される中、シャルトは全く動じずに平然と「何だ」と返していた。

「貴様は毎度毎度‥‥初日からして勝手が多すぎる。撃墜数を稼ぐのも良いが、偶には足を揃えて見せろ!」
「‥‥‥‥了解」

 シャルトは表情一つ変えることなく、そう答えた。
 言い放った指揮官は、あっさりと了承してきたシャルトに毒気を抜かれたのか、小さくした内だけして詳細な作戦説明へと移っていった。
 人員の配置、部隊の編成、待機位置、イレギュラー発生時の対応策etc.etc.‥‥‥
 その説明を聞きながら、コバルトブルーはシャルトの“了解”の意味が、スタート時だけの事であろう事を予感し、胸騒ぎを覚えていた‥‥





★Hresvelgr★

 ‥‥既に夜の帳は降りており、デモンズゲートは闇に包まれている。
 騒がしかった昼間の喧騒は鳴りを小さくし、決して無くならないにしてもそのあり方を変えていた。
 ‥‥つまりは戦い方の移行である。夜の暗闇という暗幕の中で戦うのならば、派手に戦えば戦う程注目され、狩られる危険があるのだ。だからこそ標的殺害には細心の注意を払い、それでなければ何人ものチームを組んで一気に殲滅するかをしなければならない‥‥

「‥‥‥壊れてるな」
「? どうかしましたか?」
「何でもない。それより、拠点の様子はどうなんだ」
「‥‥まだ動きはありません。それに、待機命令は解除されていませんから‥‥」
「出るわけに行かないのは解ってる」
「す、すみません」

 冷たい言葉に、コバルトブルーはそれきり押し黙った。
 既にこの場に待機し始めてから数時間が経ち、シャルトの雰囲気が変化を始めている。
 いつもならば真っ先に敵陣に飛び、それを討っているためか、こういった状況下に置かれて苛ついてきているのだ。
 しかも、既に作戦開始時刻は過ぎている。後方の部隊に何かしらのトラブルがあったのか、指揮官から『待て』と言われ、拠点を目の前にして待つハメになったのである。
 ‥‥目前に最高の餌を置かれながらも首輪を掛けられ、飛び掛かれないで居る‥‥
 今のシャルトを表現するのなら、恐らくそう言う感じであろう。
 そのシャルトの後ろで、コバルトブルーは不安げにシャルトの後ろ姿を見つめていた。

(やっぱり‥‥もう、遅いのでしょうか‥‥)

 コバルトブルーは、そんなシャルトを止めたかった。
 しかし、既にその境界線を越えてしまっていると感じて仕方がない。
 シャルトはイレーザーナイツに来てから無敗とはいうものの、まだその前に受けた敗北の感覚に追い立てられ、こうして戦っている。
 そうコバルトブルーは感じていた。
 殲騎をどんどん強く改修し、次々に新しい力を追い求めている。
 ‥‥‥恐らくはあの騎体、白いゼカリアと銀色のヴァーチャーを追い求めて‥‥‥

『隊員諸君、待たせたな。全騎、機体を待機状態から戦闘モードに切り替えろ。二分後に突入を開始する』
「美海!」
「は、はい!」

 通信機から指揮官の声が響き、シャルトの声で物思いに耽っていたコバルトブルーは現実へと引き戻され、慌てて殲騎へのエネルギー供給を切り替えた。眠らせていた機体が目覚め、瞬時に魔皇殻が召還される。
 漆黒の装甲の隙間から紫色の粒子を零れさせた。いつでも飛び出せるようになった機体は低い唸りを上げ、主に同調するかのように目を光らせる。

『全騎、突入!』
「行くぞ美海!」
「はい!」

 号令と共に、待機していた十数体の殲騎達が闇に紛れ、隠れていたビルの壁を壊しながら飛び出した。目的の拠点までの距離はおよそ百数メートル。建ち並ぶビルに阻まれて目視する事は出来ないが、その音で気が付かれたのだろう、コバルトブルーが監視していたレーダーに敵騎を示す機影が増えていった。

「敵騎確認しました。拠点から‥‥一‥‥二‥‥三‥‥‥‥‥‥三十五騎!四方に散って‥‥‥こちらに向かってきます!前方から二騎、左右から四騎です!」
「よーし‥‥‥全騎俺が墜としてやる!」
「正面!エネルギー波、来ます!」

 コバルトブルーの言葉が終わるよりも前に、シャルトは反応していた。
 目前に広がる暗闇、そしてビルの合間を縫うようにして放たれたエネルギー波をほとんど直感で回避し、そのエネルギー波が発した光から出所を見極め、召還した真フォースバズーカを横薙ぎに数発撃ち込んでやる。
 敵機はそのビームを回避したが、横薙ぎに払われたビームは敵機の周りのビルを倒壊させ、辺りを粉塵と重い瓦礫で塞いでしまう。この程度で殲騎が参ったりはしないのだが、そこは搭乗者の精神的なものだろう。反射的に振ってくる瓦礫を払い、回避行動への反応が遅れてしまう。

「美海、歌を!」

 そうコバルトブルーに言うや否や、シャルトは機体を突っ込ませた。バズーカを返還し、バックパックから高周波ブレードを抜き放つ。
 瓦礫を払っていた敵機は突然突っ込んできたシャルトに反応してライフルを構えるが、既にシャルトは目前‥‥‥ライフルは腕ごと切断され、降り注ぐ瓦礫に紛れて落下していった。

「弾丸ももったいねぇな。お前は!」

 そのまま胸部のコックピットを一突きし、撃破を確認する事もせずに急降下を開始する。粉塵に紛れて地上ギリギリにまで降下してから、シャルトは頭上を飛び交っている殲騎達を見上げ、武器を高周波ブレードから二丁のアサルトライフルに持ち替えた。
 敵は空中だけではない。空中を飛び交っている殲騎達に遅れて到着したであろう敵の地上部隊は、粉塵と落下してきた味方機に混じって武器を構えているシャルトを発見し、即座に討ち取ろうと走り始める。

「遅いんだよ!」

 そう、遅い。敵がこちらに駆け寄らねば攻撃出来ないか、または攻撃体勢に入ろうとしても、既にシャルトはその段階を終えている。
 二丁のアサルトライフルが一斉に弾丸を吐き出した。二丁合わせれば秒間十数発を超える弾雨である。狭いビルに挟まれている敵機達はそれを躱し切れずに弾丸を受け、こちらに駆け寄ってきたビーストソウルを蜂の巣にする。

『散開!ビルの影に飛び込め!』

 このまま突っ込む事は出来ないと判断したのだろう。弾雨が自分達に迫り来るよりも早く、ビーストソウルの後ろで武器を構えようとしていた者達がビルの影に飛び込んでいく。

「逃がすかっ!」

 コバルトブルーの歌で昂揚しているシャルトは、アサルトライフルを一丁だけ高周波ブレードに持ち替え、敵機の後を追う。

『調子に乗るなぁ!』
「ならば、俺の調子を削いでみろ!」

 ビルの陰に隠れていたペインブラッドの大鎌を、盾をぶつけて弾き返す。それからアサルトライフルの柄で顔面を打ち、その腹部に猛烈な蹴りを放った。
 さすがに殲騎戦だけあって弾き飛ばす事は出来なかったが、それでも頭部のカメラにダメージを与えたからだろう、敵が怯み、大鎌が怯んで後退する。
 その隙を逃さず、シャルトはアサルトライフルを胸部に向けた。

「貰った!」
「後ろです!」
「っ!?」

 咄嗟に高周波ブレードを背後に振るうと、反対側に逃げ込んでいたゼカリアの薙刀と打ち合う事になった。互いに高周波を発しているためか、刃が触れ合うと同時に弾かれ、互いに体勢が崩れる。
 だがすぐに相手はそれを立て直し、再び打ち込んできた。反対側にいたペインブラッドも、シャルトがゼカリアに対応している間に銃口をはね除ける。

「ッチ、雑魚の分際で!」

 舌打ちと同時に機体を回転させ、それぞれから振るわれた武器を受け流す。
 ペインブラッドの鎌は柄にアサルトライフルをぶつけられて軌道を反らされ、同時に踏み込んできたシャルトの機体を巻き込んで懐にまで入れてしまう。もう一方のゼカリアがコックピットを狙って放った突きは、シャルトが回転しているために真っ直ぐに突き刺さらず、胸部の追加装甲を掠めるだけで受け流された。
 シャルトの高周波ブレードはペインブラッドの胸部に、そして鎌を押さえているアサルトライフルの銃口は、反対側のゼカリアに―――

『がっ!』
『なっ!?』
「終わりだな」

 懐にまで入り込んだと同時に、ペインブラッドの胸部に高周波ブレードを突き立てて貫通させ、アサルトライフルの弾丸は瞬く間にゼカリアの装甲を弾き飛ばし、その体を吹き飛ばした。

「これで四騎!」

 まだまだ目標にはほど遠い。この程度では、自分が求める者にはほど遠い。
 シャルトは次の獲物を求めて機体を走らせ―――

『そこまでだ。いい加減にして貰おうか』

 頭上から降り注ぐ光弾によって阻まれた。

「何ッ!?」
「上です!」

 咄嗟にコバルトブルーが霧のヴェールを発動させ、シャルトが機体を前方に跳躍させ、前転させる。
 だがそれでも間に合わなかったのか、一瞬前までいた場所に着弾した光弾の余波によって弾き飛ばされ、着地の体勢を整えられずにビルに激突する。

「ぐっ‥‥損傷は!?」
「背部バックパックにそんしょう!高周波ブレードが一本折れました!エネルギー砲への被害はありません!」

 すぐに被害状況を確認し、機体を起き上がらせた。ガラガラと降り注いでくる瓦礫をはね除け、頭上から降りてきた黄金の敵機を睨みつける。
 左手には大きな円形の盾。右手には大きな懐剣を持ち、両腰に鎖のような物を巻き付けていた。

『まだまだ余裕がありそうだな。‥‥では悪いが、一舞台付き合って貰おうか!』
「ハッ、望む所!」

 叫ぶと同時に両脇に装着された砲を発射した。距離はたったの十メートル。この程度の距離ならば、正に一瞬掛からずにその存在を吹き飛ばす!
 ‥‥‥筈だった。
 両脇から撃ち出された光弾を、黄金の機体は地面スレスレを疾駆する事によって回避した。そのスピードはコアヴィーグルの全速力に匹敵するのか、シャルトが砲を発射した反動で硬直している間に懐にまで入り込む。

「‥‥‥‥っ」

 舌打ちする間もなく横薙ぎに振るわれる懐剣。それをアサルトライフルで弾き、剣速が鈍ったと同時に踏み込んで体当たりを見舞う。
 だがその体当たりの衝撃を利用するかのように敵機は後退し、更に反転して上段から切り下ろしてきた。しかしシャルトはその攻撃を読んでいたのか、体当たりと同時に機体を横に反らせて跳ばしていたため、懐剣はアサルトライフルを両断するに止まった。

「やるねぇ!」
『若いな、この程度で満足するな!』

 両者が笑う。遠距離戦を得意とするシャルトは間合いを広げようと空中へ舞い上がり、黄金の機体はそれを追って跳躍する‥‥‥

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥

 両者の戦いは拮抗していた。ビルディングのビルの合間を飛び、跳躍を繰り返しながら二騎の殲騎が戦っている。

「はぁっ!」
『ぬぅっ』

 シャルトの光破弾を盾で弾きながら、黄金の敵機は懐剣を振るい、執拗に空中に逃れようとするシャルトに襲いかかった。その跳躍力は恐ろしく速く、しかもシャルトが空中に飛ぶ速さよりも速く跳び上がれるため、シャルトは攻撃圏外へと飛び出せずにいた。
 ビルからビルへと跳び、何度でも飛び立とうとするシャルトを地に押し戻す黄金の機体‥‥
 並みの魔皇であったのならば既に十数回は死んでいるであろう攻防の中、シャルトは苛立ちを募らせていた。

(くそっ!まだ倒せないのか!)

 唇を噛み、またも頭上から襲いかかってくる敵機をフォースバズーカで牽制し、飛び立つタイミングを計り続ける。
 一回でも相手の頭上を取れれば形勢は逆転だ。この敵が空中専用の装備を調えていないのは明白であり、一回でも空中に逃れれば、後は得意の砲撃戦で仕留められる。
 ‥‥のだが‥‥‥

『どうした?動きがお粗末になっているぞ!』
「五月蝿い!」

 シャルトの更に上を行く技量によって、そのタイミングはなかなか掴む事が出来なかった。
 幸いコバルトブルーの歌によって機体のダメージは隙を見て回復されているため大事には至っていないが、あまり長く戦い続ければ、それも怪しくなってくるだろう。
 苛立ちと焦り、しかし内から沸き上がる欲求が、シャルトに撤退を選ばせない。
 響き渡る銃撃と剣戟の音。殲騎同士で行われるそれは非常にハイレベルで、干渉しようとしてくる他者までをも容赦なく屠っていく。
 ‥‥‥本日何回目になるのかは解らないが、シャルトは再び襲いかかって来た黄金の機体を弾き飛ばし‥‥‥その後を追って跳躍した。

『むっ』

 今まで距離を置こうとしていた敵が間合いを狭めるという行動を取ったためか、黄金の機体は訝しみながらも全力でシャルトに向かって剣を振るう。
 激しい戦闘で傷ついている刃は、飛び込んできたシャルトの盾を擦り抜け、その胴体へと‥‥‥

(擦り抜けた!?)

 それだけではない。いざ激突したという所までにいたり、ようやくその正体に気が付いた。飛び出したのは真幻魔影で作られた幻影であり、手応えなどあり得ないのだ。

「掛かった!」

 自分の幻影を擦り抜けて地面に着地する敵機を見下ろしながら、シャルトは真ジェミニキャノンを召還した。闇に紛れて幻影を作り、敵がそれに掛かると同時に上空へと飛び上がったのだ。
 真っ当に撃っても当たらないだろうが、向こうがこっちの位置に気付いていない今ならば‥‥‥!

 ガッ!

「なんだ!」
「敵機から鎖が伸びて‥‥‥!?」

 コバルトブルーが叫ぶ。幻影に惑わされながらも、ほとんど直感でこちらの位置を探り当てたのか‥‥‥‥黄金の機体は今まで使用しなかった鎖を放ち、こちらの胴体を縛り上げていた。
 鎖は黄金の機体と繋がれており、パワー負けしているのか、これ以上空中へ上がる事は出来ず、むしろ地上へと引きずられていく。

『捕まえた!これでうろちょろ出来‥‥‥』
「ないのは‥‥‥お前だ!」

 シャルトが言うと同時に、その全ての兵装が火を噴いた。
 黄金の機体が跳躍し、シャルトの全火力が衝突する‥‥‥
 爆音は遠くまで響き、それが戦闘終了の合図となった‥‥‥‥





〜epilog〜

 作戦終了後、基地へと帰還したシャルトは、整備チーフに戦闘データの報告を伝え、修復を依頼した。
 シャルトは自分が反乱分子達のリーダーを撃破した事が嬉しいらしく、いつもよりも満足げに成果を話し、更なる改修を検討し始めている。
 そんなシャルトを殲騎のハッチから見下ろしながら、コバルトブルーは魔力を使って力の入らない体を休ませていた。

(何で‥‥‥あそこまで出来るんですか)

 力を手に入れたとはいえ、段々とシャルトに対する不安が募るコバルトブルー‥‥‥
 それは大きな力を得るに連れて、自身の魔皇が死へと走っていくのを見るような、そんな漠然とした不安感である。
 彼女の不安は大きくなり、それは戦闘を終えるごとに強くなっていっていた。

「でも、私は‥‥‥」

 出来るならば最期まで‥‥‥
 そして出来る限り、それを長く先へ‥‥‥
 そして何より、それがまだまだ来ない事を祈りながら‥‥‥‥
 コバルトブルーはハッチを降り、寄り添うように、シャルトの側へと駆けていった‥‥‥








★★ライター通信★★
 初めまして、メビオス零です。今回のご発注、誠にありがとうございました。
 今回の作品ですが、なんだか変に長くなってしまって申し訳ありません。戦闘シーンばかり長くなってしまいました。
 ちょっとコバルトブルーの心情風景を書き切れていないかな〜‥‥とは思いますが、今回の所はこれが(気力の)限界でした。ご勘弁下さい〜〜
 何か変な所とかがありましたらご指摘下さい。(次があったら)次回には気を付けさせて頂きます。
 では、今回のご発注、誠にありがとうございました。