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<バレンタイン・恋人達の物語2006>
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Valentine dyed with blood
入り組んだ路地裏で少女は何かに躓いた。
「……?」
「どうした?」
傍を歩いていた男が、あきれたように無造作に少女を抱き起こした。 一つ二つ三つ……ここで争いがあったのだろうか……
「アフラ……」
どうしてこの人ここで寝てるの?ベッタリと膝と手についてしまった赤いものをどうしようかと少女は途方にくれる。
「…気にするな、ここでこんな人間のことを気にしていたらきりがないぞ」
「そう?」
冷たくなった躯の手には小さなリボンのかけられた包みが見えた。
少女は手に付いた血糊を白いスカートの裾で無造作に拭い去った。
どこかで爆音と銃声が響く。
「……何かが来るな……」
争いの気配に追い立てられるように二人は闇に溶け込むように路地裏へと消えた。
嗅ぎ慣れた硝煙の匂い、聞きなれた罵声と怒号。
「増援はまだかよ!」
そろそろ弾薬が衝きそうだぜ…魔力も使い果たし疲労の色が濃くなっていた。
「折角のバレンタインにひっでぇ話だぜ」
「そんなこといったってどうせ貰う人もいないくせに」
軽口を叩きながらもなれた手つきで、静流は手にしていた5.56mm機関銃のマガジンを交換する。
バレンタインの日に行われたテロリスト掃討作戦は苦戦の色を濃く見せていた。
「やってらんねぇぜ」
「敵はまってちゃくれないよ」
大体なんで上は、もっと緻密に作戦を考えないのだろう口を開けばとめどなく文句ばかりがあふれ出る。
「わかってる」
悪態をつきつつも、血臭に塗れた空気に何処かほっとする自分に透は苦笑しながら、ライフルを構えるのであった。
「とんだバレンタインになっちまったな……」
舌打ちをしながら、風羽・シンは銃弾を避けるように身を屈め路地裏に駆け込んだ。
欧米式のバレンタインが習慣の風羽家では男性の方から贈りものを渡すのが普通である。シンもこの日の為にパートナーへの指輪をこの通りの宝飾店に頼んでおいたのだ。
「ただ指輪を取りに来ただけだっていうのによ」
コートのポケットを確かめるように押さえると、其処には確かに四角いジュエリーボックスの感触がある。
「…おいおい、アル・カポネじゃねぇんだから、ちったぁ空気読めよ!」
追ってきた人影を気配だけで、その振り返りざまに抜き放った抜き身の剣をで両断に伏す。かぎ慣れた血臭が広がり、鈍い音を立てて名も知らぬ相手がうめき声も上げず地に倒れこんだ。
「たく……どこのどいつだ……」
はた迷惑極まりない連中の存在に頭が痛くなる。一振りで、剣の刃に浮かんだ血飛沫を払い辺りを見渡した。
騒ぎに巻き込まれた形になったが、ひとまず指輪を受け取ったあとでよかった。
「とりあえず、ちゃっちゃと片付けて帰るとするか」
一つため息をつくとシンは手にした両手剣を握りなおした。仇敵と呼べる男の剣と共に戦うようになって長い…既にそれはシンの腕の延長線とも呼べる一振りになっていた。
古来バレンタインとは西暦3世紀ごろにいた聖人由来する。結婚を禁止した時の法に逆らい、戦争に赴く兵士達を秘密裏に結婚させたキリスト教司祭であるバレンチノの処刑された日が西暦270年2月14日、そのことから年に一度告白することができる日、バレンタインデーになったという……
「……もっとも女から男へチョコレートを渡すのは日本くらいだけどな」
西洋式の環境で育ったシンにはあまり興味ないことだった。
「左に3……か」
気配を探り、距離を測る。
「今日が何の日か分かってるんだろうな?」
一年に一年己の大切な相手に感謝を送るための日に………
「それとも何か?女からチョコレート貰えそうに無いから、事のついでに自棄で暴れてんのか?」
返答を期待している分けでもない。真ブレードローラーの加速をかりて一気に相手との距離を詰める。
「!?」
「遅い!」
すれ違いざまに、左右に一閃した剣が男達に銃を抜く間も与えずに無慈悲な宣告を与える。
「世間様に迷惑をかけるようなことはすんなよな」
何が不満だ?
「自分の思いの通りにならないからって拳を振り上げれば、ただの子供と一緒だぜ?」
どこか人をくったニヒルな笑みを浮かべシンが残った一人の首元に刃を叩き込んだ。
「……ちっ、余計な手間取らせやがって……」
その瞳には何の感慨もない。
慣れた人の骨を絶つ感触が握った柄から伝わってくる。どこか空虚な笑みを浮かべ、シンは既に息のない男に食い込んでしまった肩口を踏みつけ、ずるりと刃を引き抜いた。
「……たくっ……」
べったりと血で染まった刃の所々が切ったときに付いたのか油が浮いている。
「動くな!」
動くと撃つ!
「……あほか?」
肩を竦めシンは手にしていた大剣を手放す。
「ゆっくり頭に手を上げて……グェッ」
ヒュウッとその喉が空気をもらし、鮮血が壁を塗らす。
「……手にしていたものが全てだと思うのは間違いだぜ……?」
その利き手には、爪の付いたワイヤーの伸びた篭手がはめられていた。動くなといわれて素直に動かなくなるのはただの阿呆だ。
「これだから素人はこまるんだよな」
4人を短時間で物言わぬ躯にかえたシンは皮肉げに肩眉を上げて手放した大剣を再び握りなおした。
幸いにも、この騒ぎが相手に伝わっている様子はない。
「……んじゃま、ちゃっちゃと片付けて帰るとするか」
数で不利でも、力で劣っているわけではない。機動力を活かし音もなく近づいたシンは次々と死体増やしていった。
どれくらい走り回っただろうか?気がつきば、戦闘の気配は遠のいていた。
何時の間にか静まり返ったあたりをそっと伺う。
「……おわったみたいだな……」
そうと分かればさっさと撤収するに限る。後始末は公の方がやってくれるだろう。
「……しまった!」
ふと、一つのことを思い出しあわててパタパタと体のポケットを叩く。
「……あったか……」
はたしてそこにはどこかにぶつかった衝撃で拉げてしまったジュエリーボックスがあった。
さて、どうしようか……流石に壊れてしまった箱を目の前にしてシンは途方にくれた。自分からの贈り物であれば、相手は何時と変わらぬ笑顔で受け取ってくれるであろう。
「……まいったな」
考えあぐねている視線の先に無残に破壊され崩れ落ちた店舗の看板が目にとまった。
ひょっとしたら……という、期待を込めて近づくとそこには、崩れた瓦礫の間につぶれた花活けが見えた。崩壊以前は花屋であった其処でシンは目当てのものを見つけた。
「………ま、百万本の薔薇の花束よか、こっちの方が俺らしいか……」
無事であった一本の真紅の薔薇にジュエリーボックスのリボンで指輪を結ぶ。
万の花よりの唯一つの自分だけの花であって欲しい……
「さて……」
帰るとするか。立ち上がり、普段の喧騒が戻りつつある、大通りに向かってあるきだす。
駄賃代わりに、ピンと銀色の効果を瓦礫にはじいたシンの手にはリボンで結わえられたリングが揺れる一輪の薔薇の花があった。
【 Fin 】
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【w3c350maoh / 風羽・シン / 30歳 / 男 / 修羅の黄金】
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ライター通信
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風羽・シン様
何時もお世話になっております。ライターのはるでございます。
お届けが大変おせおくなって申し訳ありませんでした。Valentine dyed with bloodをお届けさせていただきます。
薔薇に指輪を結んでおくるなんて素敵だと、素敵な設定に頬を染めながら書かせていただきました。
少しでもシン様のイメージに近いものなっていれば幸いです。
何か、イメージと違うというようなことがありましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。
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