|
|
|
|
<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
|
【 召し上がれ!哀情たっぷり手作り料理★ 】
そう、それは特別何もない、ただただ平和な一日だった。
野良サーバントが襲ってくるわけでも、テロ魔皇達によるテロが起きるわけでも、戦争が起きるわけでもない、ただの平凡な一日。
上を見上げれば青い空と白い雲。
街は活気で溢れ、人々の話し声が空間を支配している。
出店に並ぶアクセサリー。
良い匂いを漂わせ、客を引き寄せる料理店。
女の子の声が盛んに聞こえてくる衣服店。
様々な店、様々な物。
その中の一店――本屋から1人の女性が姿を現した。
そして何故か真っ青な顔をした女性の同行者らしき者も。
女性は、長く艶やかな漆黒の髪を揺らし、髪と同じ漆黒色で強い輝きを放つ瞳、透き通るような白い肌の美女だった。
何かを急いてるように同行者を置き去りにする勢いで足早に歩く美女に周りの目は引きつけられる。
そして見つけてしまうのだ。
美女が小脇に抱えた一冊の本を。
その題名を。
デカデカと書かれた「サルでも出来る料理レシピ100選」の文字を――。
****************************
ココは紗霧の実家である。
その家の者である紗霧・蓮は部屋で寛いでいた。
〜♪〜〜♪〜♪♪
ふとした時、蓮の携帯電話のメロディが鳴り響いた。
何かあったのだろうかと通話ボタンを押し、携帯電話を耳へと当てた。
「もしもし――?」
電話の相手は、自分の逢魔であり恋人でもある氷冥と共に仕事へと同行していった者だった。
その同行者の慌てたような声に、何か氷冥があらかしたのだろうかと少し不安になりつつその声に耳を傾け――。
「な、何だってぇえええ!?」
思わず携帯電話から手を離し、蓮は絶叫した。
『もしもし、もしもし!?』
「…そ、そんな…」
ガチャンと落ちた携帯からは、未だ慌てたような同行者の声が聞こえていたが、既に蓮の耳には届いていなかった。
「――総員、最終兵器にむけて臨戦態勢を整えよ!」
それから紗霧の家は騒然となった。
バリケードを組む者、脱出口を準備する者、病院に連絡する者、胃薬を用意する者――。
蓮も例外ではない。
何としても氷冥を止めなければと、厨房に続く道に陣取った。
(絶対に氷冥に料理はさせない…!!)
そう固く己に誓う蓮。
毎度の事ながら、氷冥の料理は危険だ。
むしろ、もう兵器レベルですらある。
それぐらい凶悪というか最悪というか…とにかく食べたら即死のコース一直線なのだ。
魔皇である蓮はその兵器を食べても死なない…が、その兵器を食べるという地獄は変わらない。
主に味、姿、そして臭い――!
もとの材料から想像もできないぐらいのレベルにまで悪化する料理というのも珍しいだろう。
それは料理ですらないのでは?というのは禁句だ。
作った本人は立派な料理だと思い込んでいるのだから――。
「きたぞおぉお!!」
氷冥襲来を告げる声に、ハッと我に返る。
(そうだ、何としてでも止めなくては――!)
蓮は気合を入れなおし、そう決意を固めたのだった。
****************************
氷冥は燃えていた。
それはもうやる気充分、気合MAXというぐらい燃えていた。
今度こそ蓮に認めて貰えるような料理を作ろうと家へと急ぐ足を更に速める。
偶々立ち寄った本屋で見つけたこの本さえあれば、きっと成功するはずだと氷冥はぎゅっと腕に抱えていた本を抱きしめた。
何てったってサルでもできるぐらいなのだから、自分にできないはずはないのだ。
急いでいるお陰で何時もよりも早く蓮の実家が見えてきた。
「もうすぐ到着……って!?」
そして、その光景に思わず足を止めた。
何故か家は強固な守りで固められ、臨戦態勢が整えられていたのである。
「な、何が起こったの!?」
氷冥は蓮の実家へと駆け寄り状況を確認しようとして――ふと気付いた。
このような臨戦態勢がとられるのは何時だって自分が料理をしようとしている時である、と。
(でも、今日は誰にも言っていないはず…)
何故バレたのかと首をかしげる氷冥。
そして、再び気付いた。
自分が本を買って、つい置いてきぼりにしてきてしまった、もう一人の存在。
(あ、あの同行者―――!?)
結論に至った途端、氷冥の中から更なる闘志がメラメラと燃え上がってきた。
邪魔されれば邪魔されるほど、やる気も出るというものだ。
「ぜぇったいに料理してやるんだからーーー!!!!」
鬼の様な気迫で一気に蓮の実家へと突撃する氷冥。
今、蓮達の胃と氷冥の意地を賭けた料理防衛戦争が始まったのだった――。
****************************
それからは神魔大戦真っ青の戦場だった。
家の中ではないのかというツッコミは禁句である。
ドカーン!
「玄関、破られましたぁ!?」
「く…廊下のバリケードを固めろぉ!!」
チュドン!ドドドド…パリーン!!
「ぎゃぁ!?」
「兄さん、兄さーん!!!」
「ぐふ…弟よ…俺の屍を超えてい…け…」
「兄さーん!!!!」
ドゴン!パキッ!ガッシャーン!!
「い、居間を破られました!」
「くそ…総員、退け、退けぇええ!!」
「兄さーん!!!」
チュドーーーーーーーン……。
そして、蓮の実家から(氷冥と蓮を除く)誰もいなくなった――。
いや、家の中だろ?というツッコミは禁止する。
それほど凄まじかったという事である。
家に張り巡らされていた強固なバリケードは悉く氷冥に突破され、人々は逃げ出した。
残るは蓮、そして氷冥である。
決死の覚悟で厨房へと続く最後の廊下を守る蓮に、氷冥も真剣な顔で構える。
(できれば戦いたくない、だが料理だけは――!)
蓮は構えた氷冥に対して構え返す。
「ハァッ!」
氷冥が先に動いた。
腕の筋力を最大限に使った鋭い拳!
「く…!」
バキィっと音を響かせながらお盆で防御する蓮。
いくら鋭いといっても、魔皇と逢魔――力は魔皇である蓮の方が上なのである。
蓮は机や椅子、棚などのバリケードも上手く使い、氷冥を厨房へと侵入するのを防ぐ。
それに対して氷冥はバリケードごと壊そうとするも、蓮に防がれてしまう。
(キリがない!こうなったら――!!!)
キッと氷冥は覚悟を決めて、蓮へと向かい合った。
「氷冥、いい加減あきら、め……?」
「…蓮……」
厳しい顔で氷冥の説得を試みようとする蓮の動きが止まった。
当たり前だ、蓮の目の前で徐に氷冥が服をはだけ始めたからである。
「な、何を!!」
「私、色気…ないかな?」
うるっと潤んだ瞳。
微かに紅くなった頬。
そしてはだけられた服から覗く白い肌――。
「な、な、な………」
いつもの氷冥ではない様子に、顔を真っ赤にさせながら硬直する蓮。
大体、こういう事には慣れていないのだ。
瞬時に頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。
今の蓮は隙がありまくりだった。
そして、そんなを隙を逃さないのが氷冥である。
「今だ!」
「―――え?あ、あぁ!?」
素早く脇をすり抜け、蓮が止める間もなく厨房へと立てこもった。
がちゃり、と確りと厨房の扉をロックして、もう誰にも邪魔されないで料理できる状態である。
「さぁ、料理開始だ…!」
ぐっと再び氷冥は気合を入れて、調理を開始したのである――。
「くっ…不覚!!」
まさか色仕掛けでこられるとは思わなかった蓮が悔しげに扉を叩いた。
ゴンっと重い音がする。
実は、蓮の実家の厨房はかなりカスタマイズされている。
一般の家庭にあるようなのではない、完全にプロ仕様の設備。
そして氷冥の料理対策に強固に作られた厨房室。
つまり、立て篭もられると普通の装備では突破できないのだ。
「どうしたら…」
悩んでいる間にも氷冥は料理を作っているだろう。
それは恐ろしい――が、魔皇殻の使用は流石に躊躇ってしまう。
どうするか…再び思考の海に埋没しようとしたその時。
ドォオオオオン!!!!
「な、何!?」
いきなり聞こえてきた厨房室からの爆発音に身を固くさせる蓮。
もうこうなれば迷っていられない。
悩んでいた事を少し後悔しつつ、蓮は魔皇殻で思いっきり扉をぶち壊した。
壊された扉から覗くは氷冥の後姿。
「氷冥!いい加減料理はやめ―――」
急いで止めに入ろうとした瞬間、つんざくような異臭…というより瘴気に、蓮は一瞬で意識を奪われたのだった――。
****************************
「はっ……」
「あ、蓮起きた?」
目覚めた時、何処か嬉しそうな氷冥の顔が蓮の目に映った。
「俺は……?」
「いきなり倒れるからビックリしたよ」
そうだ、確か俺は氷冥の――と記憶を回想していると、氷冥が何かを目の前に何かを置いた。
「はい、作ったから食べて♪」
決戦兵器を差し出しつつ満面の笑みで言う氷冥に、蓮の頬が引き攣った。
しかし、もうこれでは逃れられまい。
逃れようとしても、無理やり食べさせられてしまうのだ。
それならば、いっそ自分から食べてしまえばまだマシというもの――!
「いただきます…!!」
覚悟を決めて、蓮は決戦兵器を食べ始めた――。
(……ん?)
何かおかしい。
いつもは凶悪な味と臭いで食感で即ダウンするはずなのだがそれがない。
むしろ、食べられない味ではないのだ。
これは驚くべき事ではないだろうか。
あの氷冥が作ったこの決戦兵器が、意外と食べられる味に仕上がっていると!
「蓮、どう?」
氷冥の何処か不安げな声に、蓮は微かに笑った。
今回ばかりは褒めてやらなければと、徐に口を開き――。
グゥキュルル…ゴロゴロゴロ…。
「お…おぉ…」
蓮の口から意味不明な呻き声が漏れた。
「蓮?どうした!?」
氷冥の慌てた声が聞こえる。
しかし、蓮はそれどころではない。
腹が猛烈に痛いのだ。
それはもう激痛と言っても良いぐらいに。
多分原因は――決戦兵器以外、他にないだろう。
(今度こそ、今度こそ、絶対に料理なんてさせるかーーーー!!!!)
蓮はそう心の中で叫び、固く己の中で決意した――。
ちなみに、蓮はこの後数週間は激しい腹痛に襲われる事となるのだった…。
END
|
|
|
|
|
|
|
|