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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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【 想い、出で 】
コレは偶然、いや必然。
違う?
ならば、ソレは運命に違いない――。
有宮・璃楼は買い物に、真浪・晦はなんとなく散歩に出ていたときの事だった。
別々の道を、騒々しい街中を、ただ歩き続ける。
人の洪水が自分に迫ってきているような感覚。
その中、目が吸い寄せられる様に見つけてしまった人。
「あ!」
「おや?」
璃楼は晦を、晦は璃楼を。
お互いの姿を認めた途端、2人同時に声をあげたのだった。
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全体的に青色を基調とした部屋に璃楼と晦は向かい合うように座っていた。
道中にも色々と思い出話に花を咲かせていたが、それは家に着いた後も変わらない。
座り込んで喋り続ける璃楼の姿に、晦は懐かしげに目を細めた。
「――それにしても久しぶりだな」
「えぇ、璃楼さんは元気にしていましたか?」
「普通…かな」
素直に頷いて見せるのも少々子供の様で――璃楼は勿体ぶった様に答えた。
そんな璃楼を見て、晦は笑みを浮かべる。
璃楼の考えなどお見通し、という様な笑みだった。
「そ、それより、晦はどうしてたんだ?」
「私ですか?普通ですよ、ふ・つ・う♪」
「うっ……」
そんな笑みを消したくてこちらから話題を振ったというのに、晦は笑みを消すつもりはないらしい。
悔しい、無性に悔しい――が、晦に食って掛かれば良い様に弄ばれてしまうのも事実。
「…喉渇いたろ?何か淹れてくるっ!」
「えぇ、お願いしますね」
とりあえず、一旦逃げる事にした璃楼はキッチンへとそそくさと向かう。
晦はそれを素知らぬフリで送り出し、心の中でまた笑みを浮かべた。
カチャカチャとキッチンから響く音に耳を傾けながら、晦はぐるりと部屋を見渡す。
机、棚、ベッド、椅子――。
元は自分の部屋だった所を、今は璃楼が使っている。
それでも、この部屋に対する懐かしさは消えなかった。
何もかも懐かしい部屋で、懐かしい人と、懐かしい時を過ごす。
それはとても不思議な感覚。
しかし、決して不快な感覚ではなかった。
むしろ心地良いともいえる空間に思いを馳せていると、紅茶の良い匂いと共に足音が近づいてきた。
「何ぼーっとしてたんだ?」
「ふふ、何でもありませんよ」
晦の楽しそうな笑みに、璃楼はまた良からぬ事を企んでないかと訝しげな表情を浮かべつつ紅茶を並べる。
机に2人分の紅茶を置いて、2人は再び向かい合う。
璃楼は砂糖たっぷりの甘い紅茶、晦は少しだけ砂糖をいれた甘み控えめの紅茶。
「…そういえば、俺が初めてココに連れてこられた時、晦もこうやって紅茶を淹れてくれたよな」
「――えぇ、そういえばそうでしたね。懐かしい事です」
過去を思い出すように目を伏せる璃楼と顔を思い出すように視線を彷徨わせる晦。
それは昔の事。
ポツポツと何時からか外から雨音が聞こえてきた。
雨が降り出してきたのだろう――そう、まるであの時のように。
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ザーザーと煩いぐらいに雨が降る。
最初はポツポツとした弱い雨だったのに、今はこんなにも強い。
「………どうしよ」
本屋の前で雨宿りをしながらぽつりと呟く少年がいた。
本を買いに足を運んだと思ったら雨に見舞われ帰れなくなってしまった――大方、そういう所だろう。
晦は何とも思わず通り過ぎる……過ぎようと、したのに……。
少年の――当時、中学3年生だった璃楼の顔を見た途端、足が止まってしまった。
それは偶然の気まぐれだったのかもしれない。
それは必然の気まぐれだったのかもしれない。
それは晦と璃楼には運命のように思えたかもしれない。
それは今では分からない事。
だけど――。
急に立ち止まった晦に気付いた璃楼が、ゆっくりと視線を向ける。
「――傘、貸しましょうか?」
「…え?」
優しく笑みを浮かべる晦ときょとんと目を丸くする璃楼。
――それが、2人の初めての出会いという事に変わりはないのだ。
ザーザーと五月蝿いぐらい雨が降る中、2人は本屋の前で話をした。
いや、話というより相談だった。
相談事は――自分の事だったのか、親の事だったのか、はたまた別の悩みだったのか…それはもうおぼろげで思い出せない。
けれど、それは璃楼にとって、凄く大切な事だったのだ。
晦はそれを分かってくれていたのか、嫌な顔一つせずに璃楼の相談に乗ってくれた。
いつしか雨は弱まり、日が暮れかけになった時にふと話が途切れた。
「それでは、雨も弱まりましたし私はそろそろ行きますね」
「えっ…」
名前さえも言わずに去ってしまった晦の背中を、璃楼は呆然と、しかし何処か淋しげに見つめていた。
その後、璃楼は母親に殺されかけた。
ショックで、頭が真っ白になった。
そのまま捨てられ、放っておけば自分は消えてしまいそうだと璃楼は思った。
路地にそのまま座り込み、壁に身を預けた。
寒いと感じる。
淋しいと感じる。
目の前が段々と黒く侵食されていき、このまま世界が真っ暗になるんじゃないかと漠然と感じだ。
「どうしました?」
――最初は幻聴かと思った。
なのに、その人は目の前にいた。
目の前で、手を差し伸べてくれていた。
「あの時、相談してくれた子ですよね?」
晦が璃楼の手を掴む。
掴んでくれた手が、とても暖かかった。
泣きたいぐらいに暖かくて慌てて顔を伏せる。
「――私の家にきますか?」
それをみた晦は何も聞かずに璃楼を誘う。
その誘いにさえ暖かさを感じた璃楼は、素直に頷いた。
「それでは行きましょう」
「……うん」
晦と手を繋いだまま、璃楼は歩く。
将来、自分の家となる家へと向かって―――。
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過去の事が様々に浮かんで、消えた。
そうだ、あんな事もあったな――等と、2人で口々に語りながら思い返す。
「…色々、迷惑かけたよな」
「そんな事、気にしないで下さい」
過去を思い出し苦笑する璃楼に向かって、晦は何時ものように微笑んだ。
「私も、貴方を拾っただけで後は何もしてやれませんでした」
何処か悔しそうな口ぶりで晦は目を伏せた。
思い返されるのは昔の璃楼の姿――。
「あの頃、泣く事も笑う事も恐れていた璃楼さんを…私は支えることも変えることもできなかった」
「そんな事は――!」
咄嗟に否定しようとする璃楼を晦は止めた。
「でも今の璃楼さんは…幸せそうで、何よりです」
「晦…」
晦の嬉しそうな笑みに何も言えなくなる璃楼を、晦は穏やかな瞳で見つめた。
「あ、そういえば――璃楼さん?」
「え、あ、な、何?」
いきなり問いかける口調に少し慌てながら璃楼は首を傾げる。
「あの頃って確か璃楼さん…寝る時、誰かが傍にいないと不安って言って私の寝室によくきてましたよね?今はもう大丈夫なんですか?」
「なっ!?あ、あれは、その…何言ってるんだ、晦〜!!」
晦に心配の欠片もなさげな笑顔でいきなり自分の恥ずかしい過去を暴露され、真っ赤になる璃楼。
そして、それを面白げに見つめる晦。
明らかに晦は璃楼で遊んでいるようだった。
「いいじゃないですか、今は良き思い出です」
うんうんと頷きつつ晦は上機嫌に笑う。
そんな晦を見て璃楼はふるふると肩を震わせた。
(せ、折角、しんみりとした雰囲気だったのに!!)
もう雰囲気ぶち壊しである。
それはそれで、自分達らしいとは思うのだが――。
「おや、璃楼さん…もしかして怒ってます?」
「…っ!……晦の……馬鹿ぁあああああああああ!!!!」
晦の反省の色など全く無い声に遂に怒りの頂点を迎えた璃楼の叫び声が部屋に響き、溶けていった――。
それは偶然?
それは必然?
それは運命?
そんなこと、僕達に関係ない。
ココで、この世界で、僕らは確かに出会ったのだから――。
【END】
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