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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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やってきた白猫
青い空が綺麗な晴れ模様。洗濯物は午前中のうちに片付けて、現在昼前。
そろそろお昼ごはんにでもしようかと、台所へ向かおうとした時だった。
――ピンポーン。
響いたチャイムの音にヘリオドールは台所に向かいかけた足を逆へと進める。
「はぁい」
見た目だけで考えるとまったく違和感がないのだが、彼本来の年齢と性別を考えると少々高い声。しょっちゅう女の子と間違われてしまう原因のひとつである。
まあ、他にも原因はたくさんあるのだが。
例えば……今着ているエプロンなんかもその原因のひとつだろう。
パタパタと小走りに玄関に向かうヘリオドールが着ているのは、白いフリルのエプロンだ。その下はもちろん普通の男物の洋服なのだが。
玄関の扉を開けたところで、ヘリオドールは首を傾げた。
「いたずら、かな……?」
玄関の前に人影はなく、ただただ、外の通りが見えるだけ。
「……戻りますか」
誰がやったのかは知らないが、悪戯ならばとうに逃げているだろうし、ここで立ち尽くしていても仕方がない。
家に戻ろうと扉を閉めかけたその時。
「箱?」
玄関のすぐ前に、ダンボールの箱が置かれていることに気がついた。
宛名はなし。当然、差出人もなし。
こういう怪しいものを家に持ち込むのもなんだが、このままゴミ捨て場に持っていくのも気が引ける。幸い――と言っていいのか、ヘリオドールは普通ではない。
多少の荒事ならば自分ひとりでもどうにかできる。
とりあえず、確認くらいはした方がよいだろう。
そう判断してヘリオドールは、そのダンボール箱を家に持ち込むことにした。
★ ☆ ★
ダンボールを居間へと運び込み、改めてその箱を確認してみる。
どこにでもある普通の箱だ。包装はそれほど頑丈ではなく、ガムテープで留めてあるだけ。
ヘリオドールは手でビリっとそのダンボールを引き剥がすと、中に入っていたのは白い子猫。
「捨て猫ですか……」
誰かが、捨てるに捨てられず、家の前に置いたのだろうか。
動物が大好きなヘリオドールは、白い子猫をそっと腕に抱き上げようと手を伸ばした――その、瞬間。
ぼむっという小さな音とともに、子猫が白い煙に包まれる。
「うわっ!?」
驚いて思わず顔を逸らしたが、煙はすぐに部屋から引いていく。
「今のは……」
視線を子猫へと戻そうとしたその途中で。ヘリオドールはその場にぴしりと固まった。
「…………え」
さっきまで子猫がいたはずの場所――ヘリオドールの目の前には、一糸纏わぬ姿の少女がにこにこと可愛らしい笑顔で座っていた。
「な……っ」
驚く間もなく。
「おにいちゃーんっ!」
少女は愛らしい声とともに、いきなりヘリオドールに抱きついてきた。
「うわわっ、ちょっ――」
「お兄ちゃん、会えて嬉しい」
少女はヘリオドールの動揺など気付かぬようで、嬉しそうにヘリオドールにすりすりしている。
「ちょ、ちょっと、待って……」
突然の事態に頭がついていかずに、思考が停止していた。ぐるぐると先に進まない思考回路をなんとか復帰させようと、ヘリオドールはその場でひとつ、深呼吸する。
「ごめんね」
行って、とりあえず少女を一旦引き剥がす――と。
「……っ」
少女の姿が改めて目に入ってしまって、ヘリオドールは慌てて少女から視線を逸らす。
「ちょっと待っててくださいねっ!」
幸いにも午前中に畳んだ洗濯物が、ちょうど手の届く範囲にあった。掴んだ洋服は男物のYシャツだったが、今は選んでいる余裕などない。
「とりあえず、これっ!」
きょとん、としている少女の頭からYシャツを被せて……ヘリオドールはもう一度、少女から目を逸らした。
「……」
なんとすれば、Yシャツだけを纏った少女の姿は一糸纏わぬ姿よりもよっぽど、見てて恥ずかしいというか照れるというかなんと言うか。
「あっ。お兄ちゃん、大丈夫? 血が出てるよ」
「や、うん。大丈夫ですよ」
急ぎティッシュを鼻に詰め、もう一度、深呼吸。平常心、平常心と言い聞かせて、なんとか少女と向き直る。
「君の名前を聞いていいかな?」
訪ねると、少女は弾ける笑顔で頷いた。
「うんっ。ルベライトっていうの。ルベって呼んでね!」
「ルベはどうしてここに?」
訪ねるとルベライトは何を聞いてくるんだとでも言うようにしばしヘリオドールを見つめて、それから。ぴっと元気にまた笑う。
「お兄ちゃんの妹だからに決まってるじゃん!」
「は!?」
ヘリオドールの驚きをよそに、ルベライトはきらきらと輝く笑顔でヘリオドールに抱きついてくる。
「嬉しいな〜。これから一緒に暮らすんだよ♪」
「え……」
一瞬、ヘリオドールの思考がまた止まった。
「今、なんて……?」
「ルベはねえ、これからお兄ちゃんと一緒に暮らすの!」
突然やってきた事態、突然の宣言。
ヘリオドールがすぐに反応できなかったのも無理はなかろう。
たっぷり十数秒の沈黙を置いて。
「な、なんだってーっ!?」
ヘリオドールは目を丸くした。
「だからね、お兄ちゃん。これからよろしくね!」
言うとルベライトは今度はぱっと離れて立ち上がり――顔が赤いところを見ると、照れているらしい――パタパタと小走りで居間から出て行ってしまった。
「…………えっと」
ひとり取り残されたヘリオドールが思考力を取り戻すのはもうしばらく後のこと。
純粋にお兄ちゃんと暮らすんだと喜んでいるルベライトを無下にもできず、一緒に暮らすのを承諾するのはそのすぐ後のことになる。
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