<PCあけましておめでとうノベル・2007>


一日巫女さん☆アルバイト

年明けで、最も忙しい存在とは、どんな立場の人だろう?
あちらこちらの寺院で人々は願いや祈りをかけ、それを受信…つまり、受け取る側である神が一番忙しいのではないか。それもひとつの答えである。
では、忙しい人間、に条件を絞ったらどうなるだろう?
これは、そんな疑問に対するひとつの答え。多忙に正月を過ごす人達の物語である。

●巫女さん急募!
「はいっ、恋愛成就のお守りはあちら、学業関係はこちらで受け付けておりま〜すっ」
この土地では珍しく、八百万の神を奉っている、珍しい神社があった。
それだけお守りの種類も多く、それだけたくさんの願いを持つ参拝客が、大勢押し寄せる。
特に、正月の忙しさは半端じゃない。
中でもひときわ活発に動き回っているのは、この神社の巫女さん総元締め。
「って、普段通ってくれている子達だけじゃ、手が足りなぁいっ! こうなったら最終手段、バイト募集するわよっ! 募集基準? そんなものないわよっ、猫の手も借りたいくらいなんだからぁ!」
シフト表のファイルとにらめっこしながら叫んでいる。
「早速募集の手配をして頂戴っ! 報酬? そんなの後回しよぉっ!」
そういうわけで、巫女さん、大募集。

●種族国籍年齢性別学歴不問。
『急募、販売その他雑用スタッフ!』
そう書かれた手元のチラシと、この現状は、どういった事なのだろうか?
『報酬応相談、物資貸し出しあります。貴方のその身一つでOK!』
お給金は自給制だが悪くない額だったし、希望すれば御守りなどの追加もあると説明された。物資…つまり制服や道具も、サイズなどの問題を気にしないでよいくらい、数多く準備されていた。
だが。
募集のチラシには、致命的な落とし穴があったのだ。
「まさか、巫女さんだとは思いませんでしたねぇ。何かの手違いとかではないのですか?」
「あら、『神社』で『販売』ときたら、巫女さんしかいないでしょっ、常識よ? ここまで来て、『勘違いでした』なんていわないわよね?」
松本・太一の言葉は抗議というより、疑問という形をとっていたのだが、軽くかわされてしまった。しかも逃げ道まで塞ぐ用意周到さだ。侮りがたし。
確かにここに辿り着くまで、どんなに近くの巫女さんに尋ねても、『アルバイトの説明は事務所で行います』としか答えてもらえなかった。さすがとしか言いようがない…その異様さに気がつかなかった自分も自分なのだが。
共に説明を受けていた面子からもいくらかの声が飛んだが、それらもしっかりと切り替えしているようだ。
「まぁ、やるしかありませんねぇ」
お給金や逢魔のためにも、僕が頑張りませんと。
息を吐くだけの、ため息ともつかない一息ついて。人間、覚悟を決めれば後は何とかなるものなのだ。
…いや、彼は魔皇だけど。

●ドレス…アップ?
巫女さんのコスチュームプレイ大会。その控え室をのぞいてみました! …と、実況中継でも入ればしっくり来るような、そんな事務所の中。
松本も例に漏れず、一人の巫女さんになっていた。
うるさくない程度にうっすらと(ただ手を抜いただけの可能性も高いが)頬に白粉はいて。唇には妖しく(怪しくの間違いかもしれない)紅をのせ。基本に忠実な巫女服とあわせ、白と赤のコラボレーションが彼を彩っている。
つまりどういう結果になったのかと言うと…言及は控えよう、誠意ある第三者のご想像にお任せする。
「他の方は、どのような感じなのでしょうね」
軽く周囲を見回してみる。同じように視線をめぐらせていた男と、目が合った。
「「………」」
沈黙が二人を包む。
示し合わせる事もなく、同時に顔をそらす男達。
「…鏡は見ないほうが賢明でしょうね」
自分ひとりではないと知れただけ十分な収穫だ。そう思い込むことにした瞬間であった。

●巫女を問い詰めるべからず。
「修羅場というのは、こういう状況を言うんでしょうねぇ」
いっぱいに絵馬の詰められた箱を数個、重ねて運びながら、しみじみとこぼす。
鉄火場もかくやとばかりに、神社の敷地には人、人、人…!!!
それでも流されずに、人の波の中を進む松本の様子は、さすが魔皇と言うべきか。
流石に表舞台でこの女装は誤魔化し切れないと理由をつけ、力仕事等の裏方を進んでやっていたはずなのだが。気がつけば衆人環視の中をこうして進まざるを得なくなっていた。
「確かに、男として虚勢を張りはしましたが…」
静かに苦笑いをこぼす。つい今しがたまで自分の目の前で、より重いものを運んでいる女性に…こうして外歩きを申し付けられたのだ。女は怖い。
「『あら、それじゃあこれ、販売所までお願いします♪』…似てませんね」
小さく声真似をしてみたものの、不自然な裏声で似るはずもなかった。
「これだけ人が多いのですし、どうやらバレてはいないよう…で…」
願望を込めて言葉にしてみたのだが、最後まで言えなくなる。なぜなら…何名分か、彼の周囲で、同じタイミングで動いた気配が感じられたからだ。
「………」
首を回さなくても分かる、彼のその言葉を耳にした人が、そ知らぬ顔をしてあらぬ方向を向いたのだろう…これだけ同時なら気配もなにもあったものじゃない。
いくら小さな呟きでも、これだけ密集していれば聞こえる。その実証であった。
(なるほど、黙認されているのですね…まさか、毎年このような感じなのでしょうかねぇ)

●報酬は?
忙しさにも、いつか終わりは来るもの。
参拝客も数えるほどになった所で、今日はお開きとの合図。
身支度を整え、顔も洗い再び皆が集まったところで、お待ちかね、お給金の配布タイム。
「はいこれ、松本さんの分♪」
ぽんと軽く渡されたのは茶封筒。妙に厚さがあるのが不思議だ。
「働きに応じてボーナスを上乗せしたのよ。…と言うのは冗談で、おまけでうちの絵馬を一緒に入れただけよ」
疑問が顔に出ていたらしく、巫女の総元締めが答えをくれる。
「貴方自身で使ってもいいし、誰か大事な人にあげてくれてもいいわ。願いを書いて、恵方や神棚に飾るだけでも十分だから」
「わかりました、ありがたく頂きますね」
「貴方さえ良かったら、来年もよろしく頼むかもしれないわ? 面白かったわよ、拒否できずに荷物運びに従った貴方の反応♪」
「それは…保留させてください、流石に。むしろ勘弁してくださいよ…」
とほほ、と頬をかきつつ苦笑する。この巫女さんの下で再び働くのは、避けた方が無難だろう。

(女装も容認する、変わった…良く言えば寛容な神社についてを土産話にするつもりでしたが…良いお土産が増えました)
自分の逢魔のことを想う。総元締めが事情を知るはずもないのだが、その心遣いにだけ、胸のうちで感謝をし。松本は家路に着いたのだった。

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【w3a176maoh / 松本・太一 / 男 / 40歳 / 直感の白】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、そしてあけましておめでとうございます。桐島めのうです。
年越し前にお手元にお届けする形になり、少しだけ早い年始のご挨拶になりました。
それもご愛嬌と言う事で…駄目でしょうか?

改めまして、ご発注ありがとうございました。
既存の納品物の中に女体版のイラストを見つけたのですが、特に指定がありませんでしたし、ご発注内容からも総合して、そのまま男性の女装と言う形で執筆させていただきました。
お口に合いましたら幸いです。

それでは、またご縁がありましたときにはよろしくお願いいたします。
新年がよい年になりますように。