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<クリスマス・聖なる夜の物語2006>
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あなたと、ともに
―Happy Merry Christmas!―
「今日はクリスマス。聖なる夜〜♪」
実際には今はまだ昼間なのだが、今日この日の夜が楽しみらしい。
良く言えば特別な存在。悪く言えば神様のパシリ的存在である、天使らしくない天使・リューイは、バサバサと羽根を羽ばたかせながら空中散歩をしていた。
「…あれ?せっかくのクリスマスなのに、すっごく暗いオーラの人がいるー…」
ふと下を見下ろせば、視界に入ってくるのは誰から見ても落ち込んでいる男性の姿。男性はやりきれないというか納得できないというか、そんな表情で道を歩いている。その背中に、どんよりしたオーラを背負って。
「どうしたのかな?」
今日はクリスマスなのに。
クリスマスといえば、恋人同士が愛を語らったり祝ったりする日、友達同士で盛り上がったりする日、家族で団欒な日……リューイ的にはそういう日なのだが、男性にとっては違うのだろうか?
「今から行こうとしている所に、行きたくないとか??」
ならば暗いオーラを背負っていても仕方が無いとは思うが…今日はクリスマスだ。あの男性にもクリスマスを楽しんでもらいたい。
そう思ったリューイは、手と手を合わせて「よし!」と一言。
「私が何とかしてあげちゃおう☆なんたってクリスマスだもんね!大切な恋人、大切な友達、大切な家族と素敵な夜を過ごすべきだと思うし。うん、決定!」
満面の笑顔で言うと、リューイは下へと降り立った。
◆◆◆
「はぁー…今年こそは一緒に過ごすつもりやったんやけどなー」
溜め息をつきながら、三日月は呟いた。
今日はクリスマス。街中はクリスマスカラーである緑と赤で彩られ、クリスマスソングも負けじと音を鳴らしている。周りは恋人同士や仲の良い友達同士、そして家族連れで賑わっている。どの店でご飯を食べようかとか、これが欲しいだとかあれが欲しいだとか、その会話は様々だが、全員が全員楽しんでいるのが分かる。
街中で暗いのは、自分だけかもしれない。
「…えぇな」
自分よりも大きな包みを嬉しそうに抱えながら、両親に「ありがとう!」と頬を染めながら礼を言う子供。その子供の言葉に「大事にするんだぞ」と返す両親…そんな温かな親子連れを、三日月は無意識のうちに追っていた。
「やっぱ怒っとるよなー」
本当は自分だって、あの親子連れのようにクリスマスを楽しんでいたはずなのだ。去年はまともに楽しむなんて事はできなかったし、それより以前はクリスマスを楽しむ余裕すらなかった。だから、今年こそは己の主である魔皇と共に買い物をしたり、外食を楽しもうと思っていたのだが…
「勝手にしろ、か」
その計画は崩れてしまったのだ。それを伝えると、魔皇にはそう言われてしまって――今に至る。
「こんにちはー!」
諦めて重い足をもう一歩踏み出そうとした時、空から声が聞こえてきた。
「なっ…?!」
見上げれば、そこにいるのは一人の天使。一瞬、神帝軍かと思ったが、神帝軍のメンバーにしては軽い感じがするし、戦う為の服装でもない。失礼かもしれないが、策士にも見えない。確かに天使ではあるのだろうが、神帝軍ではなさそうだ。
「私はリューイって言うの。空を散歩してたんだけどね、貴方があまりにも暗いオーラ背負ってるから気になっちゃって。せっかくのクリスマスなんだし、明るくいこう〜!」
「明るく、言われてもな、ちょっと無理やろ」
クリスマスの予定は崩され、魔皇にはそっぽを向かれ、そんな状態で明るくいこうと言われても無理がある。開き直ってしまうのもアリかもしれないが、生憎と自分はそれほど前向きな性格でもない。後ろ向き過ぎるという訳でもないが。
「ね、ね、どうしてそんなに暗いの?これから行く所が嫌な所だとか?」
「…まぁ、似たようなもんやな。場所が嫌言うより、仕事が嫌なんやけど」
「お仕事しに行くんだー!クリスマスなのに、偉いね!!」
「せやから、嫌や言うてるやん。俺かてクリスマスには予定があったんや」
魔皇と共に楽しい時間を過ごすという、大事な予定が。しかし、自分は今からバイト先へ向かわなければならない。同僚の一人が風邪でダウンし、自分が代わりに出なければならなくなったのだ。だから、今日は魔皇と共に過ごせない。
「なぁ…天使には人間の病気は治せへんの?そいつの病気さえ治れば俺は予定通りのクリスマスを過ごせるんや」
もはや神頼みしかない。リューイと名乗った彼女は神帝軍の者ではないようだが、天使である事には変わりない。魔の眷属である自分が、神に属する者に頼むのもどうかと思ったが、もしもリューイが自分の頼みを聞いてくれるのであれば、それほど嬉しい事はない。
「うーん…怪我ならまだなんとかできるけど、病気はちょっと難しいかなー。気になったんだけど…」
どんなクリスマスを過ごす予定だったの?
続けてリューイが聞けば、三日月は語ってくれた。
「主である魔皇と一緒に過ごすんや。いっしょに買い物に行ったり外食したり、最後にプレゼントをあげて……の、予定やったんやけどな」
「急なお仕事の代理で、予定はダメになっちゃったんだね」
リューイの言葉に三日月は静かに頷いて見せた。
魔皇と共に過ごすと言うからには、彼は逢魔なのだろう。魔皇と逢魔は主従関係にあるものだが、魔皇の話しをする時に見えた彼の嬉しそうな表情からは、主への敬愛というより、家族に対する家族愛的なものを感じる。
なんとかしてやりたい。強く、そう思う。
「んー……」
「無理は承知や。けど…あんなに悲しそうな顔、させたままなんて嫌なんや」
リューイが思っているように、三日月にとっての魔皇とは主従関係にあるものではなく、それを越えて実の娘同然に思っている。両親のいない彼女の父であり、母でもある自分が彼女を悲しませてどうする?彼女に淋しい思いはさせたくないと常日頃から思っているのに、これでは父親も母親も失格だ。
「病気の人を全快させる事はできないの。…ごめんね」
「…そっか」
「でも!違う方法でなら何とかできるかもしれないよ!」
やはり無理なのだ。いくら神に属する者とはいえ、出来る事は限られている。
そう、諦めかけた時に聞こえたリューイのその言葉に、三日月は思わず飛びついた。
「ほんまかっ?!」
「ほんまほんま〜!だからね、とりあえずお仕事に行ってもらえる?」
「それでバイトが無しになるんか?」
「成功するかどうかは分からないけど、無しにできる可能性はあるよー」
有り難い。頼んでみるものだ。
三日月は可能性があるならばと、暗いオーラを捨てて明るいオーラを身に纏った。
「なら、バイトに行くわ!」
「あ、その前に貴方の名前まだ聞いてないよー?」
「俺は三日月や!」
嬉しそうに名乗ってくれた三日月を、リューイは「ファイトー!」と言って見送り、自分は羽根を羽ばたかせて高く高く飛んだ。
◆◆◆
「3点で566円になります」
あれから一時間ほどが経っている。
三日月はバイト先であるコンビニで接客をしていた。この時ばかりは関西弁は出ない。
「有難うございました」
店を出て行く客を見送ると、三日月は掛け時計に視線を送った。リューイと分かれてから一時間は経っているのだが…未だにリューイの言っていた「可能性」とやらは起きていない。できれば早く起きて欲しいのだが、時間がかかってしまう事なのだろうか?
「うっわー、びしょ濡れ!」
「急に降ってくるんだもんねー、最悪だよっ」
そう言いながら確かにびしょ濡れになった人が店に入ってきたのは、その時だった。
「なんや雨か」
つい、いつもの口調に戻って呟く。見れば、外は大粒の雨が降っていた。まるで台風か何かがきたようなまでの勢いで。
「…は?雷?っていうか、雪っ?!」
強い勢いで降る雨と…続いて、雷。それだけには留まらず、雷の直後には雪が降り出し、しまいには雹までもが振り出しはじめる。
「あらら…何だか奇妙な天気だね。雨が降ったり雷が鳴ったり、かと思えば雪に雹」
三日月の後ろから、店長が姿を現した。奥にある控え室で休憩しているはずだが、この天気に驚いて出てきたのだろう。
「こりゃ面倒だ。三日月くん、今日はもう帰っても良いよ。こんな天気じゃ商売あがったりだ」
「い、良いんですかっ?!」
「良いよ。もともと今日は出勤じゃないしね」
煙草を吸いながら答える店長に、三日月は激しく感謝した。
コンビニとは言っても、個人経営でやっている店だ。店を閉めるも開けるも店長次第。自分がバイトする先の店長があっさりした人で良かったと思う。
「じゃ、お言葉に甘えて失礼しますっ!!」
お許しが出て数秒。三日月はエプロンを外してスタッフルームからカバンを取ってくると荒れる外へと飛び足して行った。
天気が悪くても構わない。
一緒に、過ごせる。
その事だけで三日月の頭はいっぱいだった。
「ブイ!」
外に出ると…荒れ狂っていた天気は嘘のように晴れ、まるで最初からそうであったかのように太陽の光が差している。呆気にとられる三日月の視界にはブイサインをしているリューイがいて…
「リューイ!」
「大成功〜!!」
どうやら先程までの荒れ狂った天気と、自分が外に出た途端に晴れてしまった天気はリューイが原因らしい。リューイはニコニコと笑顔で「きっと待ってるよ!」と言って、三日月に自宅へ戻るよう促す。
「大感謝や!」
きっと自分でも驚くくらい、三日月はとびっきりの笑顔で、主であり娘である魔皇のもとへと向かった。
◆◆◆
「我らが主よ―――」
夜。人化した三日月は魔皇と共に教会にやって来ていた。神父の言葉に、三日月は祈りを捧げる。
(共に過ごせた事、感謝します)
荒れ狂った天気のおかげでバイトは休みになり、おかげで予定通りの時間を過ごす事ができた。予定よりは何時間か遅くなってしまったが、それでも一緒に買い物に行くこともできたし、外食もした。何より、魔皇の喜ぶ顔が見れたのだ。無理を言ってしまったのにも関わらず、違う方法で自分をバイトから解放してくれたリューイに対する感謝を、三日月は教会で祈りを捧げる事で返そうと思ったのだ。
「―――雪や」
教会を出ると、白くちらつくものがある。何時間か前のような荒れ狂った天気の中のものでない、それだけの天気である雪はとても綺麗だと思える。
「ホワイト・クリスマスやな!」
自分の方が大人なのに、雪が降っても喜ぶような年齢でもないだろうに、それでも雪が降ったその瞬間に魔皇とともに居合わせる事ができたのが嬉しくて、三日月は笑顔で言った。
「やっぱり、クリスマスは大切な人と過ごすのが一番だよね!」
教会の屋根の、更に上に位置する十字架の広くなっている部分に座り、リューイは真下で幸せそうに雪を眺める三日月とその魔皇を優しい眼差しで見つめていた。
「これは私からのプレゼントだよ!」
言って、リューイはキラキラと光る粉を上からまいていく。
真っ白な雪と共に舞う光の粉は、幻想世界に立っているかのように錯覚させてくれて…
「幸せなクリスマスを!」
光の粉をまき終えると、リューイは羽根を羽ばたかせて飛んで行く―――
―――――Happy Merry Christmas!
FIN
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
PC
≪w3d611・三日月・男・28歳・逢魔・レプリカント≫
NPC
≪リューイ・女・18歳・天使≫
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■ ライター通信 ■
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初めまして!朝比奈 廻です。この度はご参加有難うございます!
朝比奈は東北生れの関東暮らしで、関西弁とは縁遠く、三日月様の口調が偽物だとしたら…す、すみませんっ!!関西弁そのものは好きなので頑張ってみましたが…。
とっても優しい感じがするプレイングで、三日月様の思いも伝わってきました。凄く書きやすかったです!楽しんで頂けましたならば幸いです。また機会がありましたら、どうぞ宜しくお願いします!
では、有難うございました。
朝比奈 廻
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