<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


二人のテロリスト

・天剣 神紅鵺(w3d788maoh)

 獲物が網に掛かったか。
私は殲騎フィンスタニストリューグビルトの中から眼下の神帝軍部隊を見つめ、思わずほくそ笑んだ。
 『パトモス軍がASEAN+1へ新兵器を輸送しようとしている』。そんなベタベタの偽情報――だが、事実ならば敵としては看過出来ないであろう偽情報――に、神帝軍は何と一〇騎以上のパワー級にヴァーチャーを添えた豪華な部隊で食いついてきてくれた。沖縄辺りから台湾沖への出張ご苦労様、といったところだろう。
そんなご苦労な敵を私は今、上空から見下ろしている。時間は、日本時間で午後三時を過ぎた辺りだ。
敵はまだこちらへ気付いていないらしく、来るはずもない輸送船団を今や遅しと待ちわびているように見えた。
『仕掛ける?』
 通信機から聞こえるのは、今回行動を共にしている雪風ノエルの声だ。ノエル騎は、私の騎体のすぐ近くで滞空している。
「そうだな」
 言いつつ、私は蟹型魔獣殻フォルメタルを殲騎へと合体させた。見れば、ノエルも同じように鳥型魔獣殻クードヴァンを合体させている。
「では、始めようか」
『了解』
 ノエルの返答を聞くより早く、私は玖参式百足砲改を構えた。
 さぁ、新兵器の実地試験といこうじゃないか。

 敵は斜め下方、距離は五〇〇〇前後といったところか。
愚かにもこちらに気付いていない敵へ狙いを定め、百足砲の引金を引く。120mm砲弾が勢い良く飛び出した。その弾は狙いを寸分違わずにパワー級ネフィリムの頭部を貫通し、その胴体……コクピットハッチの辺りをも貫く。搭乗者は即死だろう。事実、パワー級は力を失って落下し、波しぶきと共に海中へと没した。
 その一撃目に、敵は動揺を隠せない様子で周囲を見回す。いきなり味方が破壊されたと思えば、当然の反応には違いなかったが……それは我々に対して決定的な隙を見せている事に他ならない。
「ミイラ取りがミイラになったご感想は如何かな? 神帝軍の諸君」
 私は引き続き狙撃を行い、二騎目を撃破。
 その段になって、ようやく敵は上空のこちらの存在に気付いたらしい。剣やら盾やらボウガンやらといった武器を手に、迎撃に向かってくる。
『ふふっ……遅いね』
 ノエル騎がやや前に出、
『真撃破弾』
 DEXを放った。向かってくる敵集団の中心で炸裂したそれが連中に少なからずダメージを与えた事は、損傷した敵を見れば明らかだ。真撃破弾の爆発を避けようと散開した敵へは、私が百足砲改の砲弾を撃ち込む。一騎撃破。
 だが、DEXと狙撃だけで押さえきれる相手でもないようで、敵は徐々にこちらへ向かって上昇してきていた。ふむ、距離は三〇〇〇といったところか。
 私は背より生える触手――真ヘレティックテンタクル――に百足砲改を持たせると、別の触手から、今度はアヴェンジャー改を受け取った。
 ノエル騎が魔皇殻・真カタストロファキャノンを構えながら真マルチプルミサイルの発射準備をしているのを横目で確認しつつ、
「次はこちらも試してみようか」
 私とノエルは、左右に距離を離しつつ上昇する。下方の敵とも、ノエル騎とも距離が離れた形だ。そのまま、お互いに射撃を開始した。
 大口径ガトリングであるカタストロファキャノンに、無数のミサイルを発射するマルチプルミサイル。それに私の所持する30mmガトリング砲・アヴェンジャー改が加われば……
 耳を覆う轟音と、それに伴う大量の弾丸・ミサイルがパワー級の集団へと降り注ぐ。まるで台風によって発生した豪雨だが、それが洗い流すのは人間ではなく、全高8mの巨人だった。
 次々に爆発、炎上して海上へと墜落していく。
 盾で射撃を防いで弾幕から脱した隙だらけの敵へは、即座に触手から受け取った百足砲改で射撃を行ってこれを撃破し、四騎目のスコアとする。
「くくく。この程度か?」
『確かに、かなり楽に事が運んでいるね』
 ……いくらこちらの奇襲が成功し、かつアウトレンジ射撃を続けていたからといって、あまりにも手ごたえが無さ過ぎる。その理由を考えようとしたところで、
 私の騎体に衝撃が伝わった。

・雪風 ノエル(w3j374maoh)

 それは一瞬の事だった。
『くぅっ……』
 うめき声に思わず神紅鵺騎のほうを見ると、彼が装備している蟹型魔獣殻フォルメタルの、騎体の側面を守っていた左側の鋏に、その体を発光させたヴァーチャーが剣を振り下ろしている。鋏が剣を受け止めた形だ。
 一体いつ接近されたんだろうかと考えて、こちらが下方のパワー級へ気を遣っている隙に迂回してきたのだろう、との結論に至る。
 奇襲部隊を奇襲はずなのに、その奇襲したはずの敵に奇襲し返されたのは、全く面白くない。
「ちっ」
 ボクは即座に、ヴァーチャーへ向けて真カタストロファキャノンを構える。
『ノエル。君はひとまずパワー級を片付けてくれ。こっちは何とかする』
 神紅鵺がそう言うのならば、まずは雑魚から破壊する事にしよう。
「分かった」
 ボクはそう短く答えて、再び下方のパワー級へと向き直った。
「残念だけど、君らの出る幕ではないんだよ」
 真カタストロファキャノン照準、真マルチプルミサイル発射準備完了。
「ふふっ」
 哀れな敵へ向け、向けた魔皇殻を発射する。
 先ほどと同じように轟音。弾幕が、こちらへ接近しようと上昇を続けるパワー級を包んだ。……真カタストロファキャノンの凄まじいまでの反動や、真テラーウイングや鳥型魔獣殻ブランネージュを利用して、撃ちながら後退して距離を取っており、彼らがこちらへ接近出来る道理は全く無いわけだけれど。
 とにかくボクは、攻撃の届かない彼らへ向けて射撃を続ける。反撃の一つも出来ずに破壊されていくパワー級ネフィリムを目に、ボクは言い知れぬ快感を覚えていた。
 ボクの中の誰かが言うのだ。壊せと。敵を壊せと。手向かう者を壊し尽くせと。
 だから、ボクは今ここにいる。
 一騎、二騎。追いつけるはずも無いボクに追いつこうとしている敵を、ボクは破壊していった。
「さて、と……」
 乱射して五騎ばかりを撃破または大破させ、こちらへ向かおうとしていた敵が居なくなったのを確認してから、ボクは神紅鵺のいるであろう斜め下方を見た。そこには、ボクから見て明後日の方向へ飛行しようとしているヴァーチャー級が見える。神紅鵺騎はいない。
 だけど、ボクは彼の心配など露ほどもしていない。なぜなら……。
 ヴァーチャーの右肩に、鉄の音が爆ぜた。
『命中精度・威力共に良好、か』
 簡単にやられるほど、彼は弱くない。
「でも、手こずってるみたいだね」
『恐らく、中級SFの退魔聖壁だろう』
 なるほど、光っていたのはそのためか。確かに、手こずるわけだ。
「ボクも加わらせてもらうよ」
 ボクは真カタストロファキャノンの照準をヴァーチャーへ付けながら、そう宣言した。

 ボクは、追いつけるはずもない神紅鵺騎へ追いつこうと必死になっているヴァーチャーの、後背へと回った。神紅鵺騎と共に、ヴァーチャーを挟み込んでいる形だ。
「全弾、発射!!」
 ボクの騎体の火力は、ダメージを軽減しているヴァーチャーを落とすには不十分だったが、しかし牽制という意味では十分に効果を発揮する。
 背を向けていたヴァーチャーが、ボクに気付いて振り返ろうとする刹那――
『何を勘違いしているんだ。まだ私の攻撃は終了していない』
その背に神紅鵺の放った対神魔徹甲弾が命中し、ヴァーチャーは騎体を大きく前へのけぞらせた。
 前方に弾幕、後方に狙撃。この状況においてヴァーチャーが執った行動は、ボクのほうへ突撃を行う事だった。剣を構えこちらへ向かってくるけど、簡単に近寄らせる事は無い。ボクは再び弾幕を張りつつ、パワー級と交戦した時と同様の方法で距離を取ろうとした。
 が、ヴァーチャーは弾幕で自身が傷つく事も構わずと言わんばかりに突進してくる。
 拙い、追いつかれそうだと思った時……
『真幻魔影』
 超高速でヴァーチャーの背後へ接近した神紅鵺が、DEXを発動させた。一瞬で幻に包まれたヴァーチャーは、ボクを見失ったようにふらふらと明後日の方向へ飛び始める。
「助かったよ」
『そうか。……そろそろ六分のはずだ』
 彼の言葉が早いか、ヴァーチャーの騎体からみるみる光が失われていく。
 ……その様子を確認してから、ボクらは総攻撃を開始した。
 ボクの真カタストロファキャノン、真マルチプルミサイル。神紅鵺がアヴェンジャー改。ボクからはDEX真撃破弾のオマケも付ける。全て、敵から距離を離しつつの攻撃だ。
 それらの攻撃が、今だ真幻魔影の効果範囲内にいるヴァーチャーへ向かって殺到する。
 ダメージ軽減効果の切れたヴァーチャーに、それを受けてなお生存していられる耐久力は無く、ボクらは赤い火の玉となって墜落・海中へと没し去るヴァーチャーを見送ったのだった。

 戦いのあと、ボクたちは夕暮れの空を飛んでいた。
「……大分治まったかな」
 ヴァーチャーを落として満足したからなのか、ボクの破壊衝動は大分治まっている。最も、次はいつ発症するか。
『そうか』
 どうでもいい、という声色の神紅鵺に、ボクは訊いてやった。
「そっちの首尾は?」
『良好だ。新兵器の実戦データも取れたしな』
 心なしか満足そうに聞こえなくもない。
『これからどうする?』
「さぁ。これから考えるよ。キミは?」
『今回得たデータを基に兵器を改良し、テロ活動を続けるさ』
 テロに協力するというのは、ボクの破壊衝動を昇華する上でとても都合が良い。
「まあ、次も味方である事を望むよ」
『私もだ、ノエル』

 そうして、夕暮れの空にボクたちは別れた。
 次も味方である保証は無い。が、次も味方である可能性は高いと、ボクの勘は告げていたのだった。

                                        終