<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


【見えない真実の中で――第四章――氷解編】

 ――視界に広がる荒廃した空間の中に、テンプルムは存在していた。
 生物と建築物を融合したような質感は既に神々しさを消失させており、第二次神魔戦線で撃墜されたまま放棄されたものと窺える。幾多の倒壊したビルを隠れ蓑にするかの如く眠る巨大な浮遊要塞だったものこそ、『今回』の敵本拠地だった訳だ。
「不可侵領域は展開していないようだな」
 風祭烈は探り当てた敵の根城を窺いながら呟いた。青年は人化を解き、魔皇の刻印を身体に浮かび上がらせており、精悍ながらも少年のようなあどけない風貌に禍々しさを醸し出す。
 彼はサルデス(中国)地方で起こったキメラ型サーバント事件に関わり、真相を突き止めるべく『後始末』に現われたトレーラーを追跡して此処に辿り着いたのである。
「‥‥烈?」
 清流のように穏やかな女の声が、戸惑いの色を滲ませ呼び掛けた。青年がエメラルダに視線を流す。
「ん? どうかしたのか?」
 彼の視界に映る美女は、優麗なエメラルドグリーンの長髪を風に靡かせたまま、不安げな眼差しで見つめていた。人化を解いた逢魔の耳に、セイレーンである美しいヒレ状の証が覗く。
「バトモス軍に通報して任せるのが一番利口で確実ではなくて?」
 エメラルダの瞳が考えを改めさせようとする如く切なげに濡れた。烈は視線を逸らして口を開く。
「確かにエメラルダの言う通りにするのが確実かもしれない。けど、バトモスがキメラの技術をどうするか分からないじゃないか。手に余る力は無い方がいい‥‥」
 青年は瞳に覚悟の色を滲ませ、固めた拳を滾らせた。単身テンプルムに突入して全てにケリを着けようと考えているらしい。美女は躊躇い勝ちに動揺の色を浮かべながら言葉を紡ぐ。
「バトモスが分からないって‥‥烈は、復興しようとする世界を信じられませんの?」
「信じたいさ!」
 苦渋の色を浮かべ、烈は声を荒げた。心の底から搾り出したような響きに、エメラルダのたおやかな肢体がビクンと跳ねる。彼とて已む無く決断したという事か。
「信じたいさ‥‥。神も魔も人として生きるのなら何の問題もない。だがな、神魔人共通の敵だった神帝軍が倒れた今(現在)、ゼカリア等の神魔に十分に対抗できる力が何処に向けられるか分からない。そんな中でキメラサーバントの研究だぜ? 利用しないとは考えられない‥‥」
 ――だから俺がキメラに関する全てを抹消する。
 伏せた眼差しが熱い想いを滾らせながら美女を映す。熱血漢の性格も十分に承知している。容易に説得で折れる魔皇ではない。エメラルダは慈愛の瞳で青年を見つめ微笑み、唇を開く。
「でも、内部の状況が分からない以上、万が一というものもございますわ。せめて、突入前にバトモス軍に証拠も揃えて通報しましょう?」
 小首を傾げて促す雰囲気は、聞き分けの無い弟を和やかに説得する姉のようだ。暫しの沈黙が流れる中、烈は視線を逸らして唇を尖らす。
「‥‥仕方ねぇな。返り打ちにあった時の保険って事にしとくぜ」
「はい☆」
 美女はニッコリと微笑んだ――――。

●テンプルム突入
「螺旋の鼓動を刻むものよ! 全てを貫くものよ! 我が身に眠りし大いなる力よ! 今こそ魂の絆の名の下に、その力解き放て! 来れ、螺旋皇帝ドォリルッカイザァァァァーッ!!」
 魔皇の声に応えるよう、コアヴィークルは上昇と共に周囲に夥しいパーツを形成し、次々と浮遊バイクへ向けて組み合わされると、殲騎が模られた。汎用性を削り、装甲を増強したフォルムは武骨であり、背面の大型ブースターがダイナミックさを強調させる。腕部の装備は螺旋皇帝と謂わせるに相応しく『真ドリルランス』と『真アクセラレイトドリル』が巨大な螺旋の煌きを放っていた。肩に装備された砲口は『真ショルダーキャノン』だ。
「烈、周囲異常ありませんわ」
 タンデムシートで状況を確認したエメラルダの瞳が、前のシートで操縦桿を握る青年の背中へ注ぐ。烈は背後の美女へ肩越しに視線を流し、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、それじゃ何をしているか見せて貰おうじゃないか」
「れッ、烈? まさか、このまま正面突破なんて考えておりませんわよね?」
 慌てて美女が不安げな色を浮かべる。「ヒーローが正々堂々としないでどうする!」なんて言いかねない性格だ。再び表情はヤンチャな弟を心配する姉の雰囲気を醸し出す。
「よく考えて下さいます? わたくし達は単騎で‥‥」
「ああ、その通りさ。俺だって正面突破が危険な位は把握しているぜ」
「‥‥でしたら、殲騎でどうやって‥‥」
 僅かに安堵の吐息を洩らし、豊かな胸元に手を当てるものの、不安が拭い去られた訳ではない。青年が不敵な笑みを強め、眼光を研ぎ澄ます。
「こうするのさ! 唸れ! 螺旋の魂よ!!」
 畏怖すら感じさせる殲騎のマスクで二つの眼光がギンと輝くと、ドリルカイザーは大型ブースターで巨体を上昇させてゆく。宙で滞空する中、両腕の巨大なドリルを振り上げ、螺旋の先端を瓦礫に覆われた地面へ向けたまま急速落下した。後に噴き上がったのは、巨大な土砂飛沫だ。螺旋皇帝は地下へ潜り込み、テンプルムの真下から突入する算段らしい。
「エメラルダ、テンプルムの位置は確認できるか?」
「待って下さいます? ‥‥このまま上昇すれば内部には突入できますわ。でも、何処に出るかまでは‥‥」
「取り敢えず中に入れればいい。後は‥‥思い出す!」
「お、思い出す‥‥?」
 また無茶な事を言う。思わず美女は呆けたような色を浮かべ素っ頓狂な声を響かせた。
「神魔戦線時のテンプルム攻防戦の記憶から内部の構造を思い出し、キメラ製造施設の場所を絞り込んで破壊しに行く!」
「‥‥記憶に誤りが無い事を祈っておりますわ」
「行けえぇぇッ! ドリルカイザァァァッー!!」
 コクピットに捉えた視界で、螺旋の洗礼に因って土砂が抉り削られてゆく。暫くすると白っぽいテンプルムの下部が映り、両腕のドリルは構わず標的に突っ込んだ。鈍い衝撃がシートを強襲する中、螺旋皇帝が内部に姿を現す。巨大な敵本拠地は殲騎が直立しても十分なスペースがある。驚愕したのは、中で研究中の者達だ。
『せ、殲騎だと!?』『警報を鳴らせ!』
 恐らく人類の技術や機材が持ち込まれていたのだろう。忽ち警報が鳴り響き、真ショルダーキャノンの放つ炸裂弾の咆哮と共にセッションを刻んだ。
「奥へ進むぞ!」
 炸裂弾と螺旋の洗礼を立ち塞がる障壁やサーバントへ次々に叩き込み、一騎当千の巨兵がテンプルム内を暴れ捲くってゆく。次々と真ショルダーキャノンが敵を爆炎に染め上げ、唸る螺旋が巨獣の皮膚を穿つ戦いは熾烈を極める。目的の場所に辿り着いた頃には、巨獣の体液で騎体は彩られていた。
「何ですの? ここ‥‥」
 視界に映る空間を捉え、エメラルダが戦慄の色を浮かべる。幾つも並べられている円形水槽の中でサーバントが浮遊しており、さながら実験施設か製造工場の様相だ。殲騎の視界を流して巨大なガラス窓に寄せると、まるで製造部品のようにキメラサーバントが工場ラインのベルトコンベアーを流れており、無人機械が剥き出しの頭部に機械を埋め込んでいた。
 村をキメラサーバントから死守した激闘の記憶が烈の脳裏に過ぎる。
「あの装置がシャイニングフォースの代用となっていた訳か‥‥」
「でも、どうしてこんなに大量のサーバントを‥‥」
「その謎は解き明かせば分かるって事だぜ‥‥! あれかッ、エメラルダ、後は頼む!」
 半信半疑の美女を残し、青年は殲騎から飛び降りると、捉えた一室に跳び込んでゆく。ダークフォース『真両斬剣<ギガプレイクス>』を付与した拳を叩き込み、強引にロックされた扉をブチ破ると、実験室のような室内に辿り着いた。人間を凌駕する身体能力を駆使してデスクや棚を散策する。後は勘だ。幾つかの資料に目を通すと、烈の瞳が入手した情報に見開く。
「キメラサーバント導入計画だと? 奴等は死の商人って訳かよ」
 資料には恐らく様々な陣営と思われる名称が羅列され、輸送経路やスケジュールが記録されていた。推測だが、敵はキメラサーバントを様々な陣営に売り込み、戦争を長引かせる事で莫大な利益を上げ、人が神や魔に勝ち支配する為の力にしようとしている軍需複合体という可能性が高い。その上でキメラサーバントを実用段階に持っていく為の実験を繰り返していた訳だ。
「こうまでして力を求め、何に挑むつもりなのか‥‥」
『烈! キメラ型サーバントが多数こちらに向かって来ていますわ!』
 奏でられる『伝達の歌声』に乗ってエメラルダの声が届く。機先を制して奇襲を仕掛け突入を果たしたとはいえ、多勢に無勢。包囲されて先のように連携されれば脱出も容易とはいかないだろう。
 青年は奥歯を噛み締め、必要な証拠を小脇に抱えて螺旋皇帝の許へと急いだ‥‥。
「烈、これからどうしますの?」
 キメラサーバントと激闘を繰り広げながら、青年にエメラルダが訊ねた。烈は操縦桿を捌きつつ研ぎ澄ました眼差しを敵へ向けたまま口を開く。
「言った通りだぜ! 命を弄ぶ権利は誰にも無い。いや、もっと簡単に言おう、気に食わないそれだけで十分だ!」
 次第にドリルカイザーがダメージを蓄積させる中、螺旋皇帝はドリルの洗礼を叩き込んだ――――。


<ライター通信>
 この度は発注有り難うございました☆ お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 なかなかスケジュールが合わず、何度もノミネートをお断りする結果となり、申し訳ございませんでした。そして、何度もご依頼いただき、誠に有り難うございます。
 思えば数ヶ月前まで螺旋のアニメが朝から人気でしたね。ドリルカイザーはブームを先取りしていたのか!? って感じです(笑)。
 お待たせ致しました。見えない真実の中で――第四章をお送り致します。
 証拠集めが、普通はサーバントの暴走で基地が壊滅しない限り、こんなに安直に入手できる筈が無いだろうって感じですが、60年代アニメ的なノリと雰囲気重視で深く突っ込まない事にしましょう。
 次回で最終回との事ですが、一寸注意事項がございます。最強のキメラが登場するのは問題ありませんが、NPCの登場には気をつけて下さい。名前が無くとも個性が主張されるとNGとなってしまいます。一番無難なのは、スピーカーから黒幕の声が響く位で、周囲に視界を流せば小型カメラを発見して、烈がカメラ越しに会話する感じでしょうか。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆