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<WhiteChristmas・恋人達の物語>
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クリスマス逢瀬
年の瀬。
師走と言われるのも頷けるように、まるで周りの人間は走ってるかのような速度で現われては消えていく。
そんな喧騒ある大通りで、ふとあなたの歩みが止まった。
ジッと、射るような視線を感じたからだ。
視線を探すとすぐに見つかった。
この場には少々異質に見える、真っ赤な服をきた小柄な少女。
彼女はジッと青い瞳をあなたに向けていた。
目が合ったことを確認すると、少女は楽しそうに微笑んだ。
そして、あなたの元にゆっくりと歩み寄る。
「あたしは見習いのサンタクロース。
あなたに夢のような時間をあげたいの。
あたしをサンタだと信じてくれるなら、ね
あなたは誰と、何をしたい?」
■二人だけの時間
「勿論、葵様 ――あ、魔皇様と二人きりの時間、ね」
見習いサンタクロースであるエファナの問いに、エスティナは答えた。
手にはたくさんの食材を抱えている。
これから家に帰り、愛する人のために料理の腕を振るうのだろう。
エスティナは家路へと急ぐ中、この少女の視線に気がついた。
きっと他にもこの少女の視線に気づいていた者もいるであろう。
しかし、暮れのせいか、それともこの戦乱の世の中だからか…この赤い衣服の少女に声をかける者はいなかった。
一瞬見ただけでそう判断したエスティナ。元々子供好きである彼女は少女に近づいた。
そして少女の『サンタと信じてくれる?』との問いに、ニッコリとした笑顔で答えたのだ。
「勿論よ」
と。
「ありがとう。あたしはエファナ。あたしを信じてくれたお礼、させてもらうね。」
エスティナの笑顔につられて笑顔を見せたエファナは、手に持っていたトナカイのモチーフがついたステッキをクルリと回す。
「あなたの望む時間を」
エファナがそう呟くと、あたりが真っ白にキラめいた。
あまりの眩しさにエスティナは目を閉じる。
一瞬で光がやんだと感じられ、そぉっと目を開けた。
…目の前に、少女の姿はなかった。
「あれっ?」
キョロキョロと周りを探すが見つからない。
強い光が輝いたことなどなかったように、周囲の人々は相変わらずの急ぎ足でエスティナの周りを通り過ぎていた。
■二人のソファー
「葵様、本当に見たんです、サンタの格好をした女の子!!」
エスティナは頬を膨らませた。
そしてエスティナが仕える魔皇であり、また世界で一番愛しい恋人でもある望月・葵に抗議をする。
「別にティナの言うことを疑ったわけじゃないですよ。ただほら…あまりあり得ないことだから、ビックリして」
ごめんよティナ、と葵はティナのやや膨れた頬を人差し指でつつく。
「ん、もぅ…」
悪戯っぽく笑う葵の笑顔を見ていると、これ以上怒っても無駄だ、とエスティナは悟る。
「もし、葵様でしたら…どんな時間を望みますか?」
部屋のソファーに腰掛けている葵の隣にエスティナも腰を下ろす。そして身を葵に向け、問う。
「そうですね…」
むぅ、と考え込む葵に、エスティナは不安と期待を込めた眼差しでその横顔を見つめた。
顎元に手を添え、戦闘の作戦を考えているのと同じくらいに真剣な表情の葵。
『あぁ、優しい表情の葵様も愛しいけれど…真剣な表情の葵様も、綺麗…』
そのようにエスティナが葵に熱い眼差しを送っているのに気づいているのかいないのか、葵の漆黒の瞳は一点を見ている。
そして、顔をあげエスティナに笑顔を向けた。
「ティナと、いろいろな場所に出かけたいです!…かな?」
嬉しそうな表情のエスティナに、更に葵は言葉を続ける。
「そしてその後、ゆ〜っくりティナと部屋で二人きりの時間を過ごしたいですね」
「葵様…私と一緒っ」
嬉しさから顔を紅潮させ、エスティナは葵に抱きついた。エスティナの豊満で柔らかなバストが葵の腕に押し付けられる。
葵もエスティナを抱き返すと、ふんわりとした甘い香りを感じた。そして、彼女の艶やかな金髪を優しく撫でる。
「葵様、くすぐったぁい」
あくまで冗談ぽく、イヤイヤと腕から逃れようとするエスティナ。
「ダメですよ。我慢できるでしょう?」
葵は微笑み…先ほどより更に強くエスティナの体を引き寄せた。
「葵様の意地悪〜」
逃れられないとわかったエスティナはくすぐったさを緩和させようと身をよじらせた。
『今日の葵様…なんだかつもより強引?でも…』
葵の腕の中でエスティナは微笑んだ。
『暖かい。…幸せ』
■二人のテーブル
夕刻。
ソファーでじゃれ合っていた葵とエスティナであったが、いつの間にか葵はスヤスヤと寝息を立てていた。
子供のような無邪気な寝顔に、エスティナはしばし見惚れる。
『どうか起きませんように…!』
と願い、エスティナは心臓をバクバクさせながら顔を葵の寝顔に近づけた。
「愛してる、葵様…」
そぉっと、葵の唇に自分の唇を押しあてた。柔らかい唇の感触…。
何度も何度もキスはしているけれど、それでも足りない。
優しいキス、暖かいキス、応援のキス、慰めのキス、フレンチキス、甘〜いキス。激しい、キス。
そしてキスする度に葵への気持ちも強くなっている、とエスティナは感じる。
あぁ、いつまでも口づけていたい!とエスティナは思うが、疲れているであろう葵を起こしては申し訳ない。
そして、自分にもすべきことがある。
葵の唇から離れる。そして、改めてその表情を見た。安らかそうな顔。
『大丈夫、起きてない』
エスティナは確認するとソファーから離れ、毛布を取りに行く。
そっと葵にかけると、彼女はそのまま台所へ向かった。
エスティナは手慣れた姿でエプロンの背を結ぶ。
今日は料理に関してでもなんでも、いつも以上に気合を入れていた。
なぜなら、今日はクリスマス。
こんな物騒な世の中でも…いや、こんな戦乱の世の中だからこそ、今を、日常を大事にしたい。
このような日だけは、戦いのことなど忘れ、愛しい人とのことだけで頭をいっぱいにしたい。
サンドイッチ作りが趣味ではあるが、今日はいつも以上に凝ったものを作ろう。
愛しい魔皇様の喜ぶ顔を想像しただけで、エスティナも思わず笑みがこぼれた。
一時間後。
「…… あ お い 様〜。晩御飯出来ましたよ〜 葵様〜」
エプロン姿のエスティナがまだ眠っている葵を起こす。
ゆっくり眠ってもらいたい気持ちはあるけれど…今日は特別な日だから。
やさぁしくやさぁしく、葵の体に触れる。するとゆっくりと葵の瞳が開いた。
「あ…ごめんなさい。寝てしまいましたか…」
まだ寝ぼけたような表情の葵が目をこする。そしてそのまま起こしに来たエスティナを抱きしめた。
「きゃっ」
そのまま二人ともソファーに倒れこむ形となる。
「葵様、ご飯ですよぉ」
「今堪能してますよー」
冗談ぽく言い、エスティナの耳たぶを優しく噛む。
「ね、寝ぼけすぎですっ」
このままイチャイチャしていたいところではあったが、せっかく手によりをかけて作った料理が冷めてしまうのも寂しい。
何より、出来たてを葵に食べてもらいたい。
更に強く抱きしめようとした葵の手をすんででスルリとよけ、エスティナは葵の手を引く。
「続きはディナーの後、ですね」
それにより、やっと葵もソファーから腰を上げた。
テーブルの上には、落ち着いたモスグリーンのクロス。
色とりどりのキャンドルと、ポインセチアの花が飾られ…その配色がクリスマスを演出している。
そしてそれらよりも更に目をひくのが…エスティナの手料理であった。
「うわぁ…凄いですね、ティナ」
葵は口を開け驚いている。この表情を見ただけでいつも以上に頑張った甲斐がある、と心の中でガッツポーズ。
お馴染みのサンドイッチはいつもよりバリエーションが多い。
それに七面鳥、ピザ、パスタ…シャンパンも用意した。
一番気合いを入れたのはビーフシチューだ。これだけはアツアツを食べてほしかった。
「ありがとう、ティナ」
葵がエスティナの頭を優しく撫でると、エスティナははにかみ微笑んだ。
席につき、シャンパンを開ける。ポンッ!と勢いよく放たれるシャンパンのコルク。
エスティナが葵のグラスにシャンパンをそそぐ。
「ティナ」
葵が声をかけ、今度は葵がシャンパンを注ぐ。お互いのグラスを手に取り…
「「 メリークリスマス 」」
チーン、とお互いのグラスを合わせる。二人だけの乾杯。
お互いにシャンパンを口に含んだ。
キャンドル越しに見るお互いの表情はいつも以上に艶めいて見える。
「ティナ…凄く可愛い」
葵がエスティナに見惚れる。勿論エスティナもとろりとした眼差しを葵に向ける。
『こうやって見つめ合うだけでも幸せ』
心からそう思う。そしてこんな時間は…いつ以来だろう。
恋人同士ではあるが…ここまで回りや仲間、外を気にせず二人きりの甘い時間を過ごすことはそう多くない。
熱々のビーフシチューを美味しそうに食べる葵。
「ティナ、凄く美味しい!また作ってくださいね」
子供のようにバクバクと頬張る葵。
エスティナが作った最高に美味しくて暖かい料理により、二人の会話は更に弾む。
他愛のない話を笑い合う。平凡だけど、二人の望む最高の時間…。
「ティナ」
少しだけ出来た間で、葵が名を呼んだ。なんですか?と小首をかしげるティナに、葵は神妙な顔で続ける。
「こんな世の中だけれど、僕はティナに出会えて…幸せだよ。
こんなにも一緒にいて安らぎをくれる人は…もう、ティナ以外に考えられない。
たとえ…」
葵が一瞬、切なげな表情となるも
「たとえ。魔皇と逢魔が結ばれない、とわかっていても…傍にいることは出来ます。
僕はこれからも一生、ティナの笑顔を一番近くで見ていたい」
「葵様…」
潤んだ瞳のティナに微笑む葵。そして続ける。
「私も、です。魔皇様が、葵様で本当によかった。
…いえ。きっと、二人は出会う運命にあったと思っています」
「ありがとう……あ。」
葵がエスティナの後方にある窓を指差した。エスティナもそちらの方向を見る。
「いつも以上に寒いと思っていましたが…見て、ティナ」
葵が席を立ち、窓に近寄る。エスティナも後をついて窓の側へ。
「わぁ…雪…」
ハラハラと舞い落ちる白い結晶。美しく幻想的な光景に感激する二人。
エスティナは葵の肩にもたれかかった。葵もエスティナの腰に手を回す。
どちらから言うでもなく、お互い見つめ合い…今日何度目かわからない、熱いキスを交わした。
『誰よりも、あなたの側に』
二人の唇も、二人の心も…今まで以上に重なった。
「愛してるよ、ティナ」
「私も…愛してる。葵様…」
■二人のベッド
「そういえば」
葵が口を開いた。葵に腕枕された状態のエスティナはうっとりとした瞳で葵を見る。
セミダブルサイズのベッドの上で、二人は毛布にくるまっていた。
「なんですか?」
「ソファーでは毛布、ありがとうございました」
「なぁんだ、そんなこと…気にしなくてもいいのに」
「ずっとお礼を言い忘れていた、と思って。あと…」
「あと?」
「キスのお礼もね」
エスティナは一瞬ハテナ?といった顔になる。そして一秒間を置き…
「ももももも!もしかして葵様っ、あの時起きて…!?」
言葉ではなく、ニッコリとした笑顔で肯定する葵。
エスティナの顔が一気に真っ赤になる。別に悪いことをしたわけではないけれど、物凄く恥ずかしさがこみ上げた。
「んもー!葵様の馬鹿―!!」
ポムポムとエスティナは葵の胸板を両手で叩いた。
「はは、でも…嬉しかったんですよ。本当に僕のこと好きなんだ、って」
「当り前じゃないですか、葵様」
エスティナは葵の胸に顔を寄せる。葵もまた、ギュッとエスティナの豊満な肢体をを抱きしめた。
強く強く、想いを込めて。
「来年も、再来年も。そのずーーっとずーーっと先も…僕はこうしてティナと抱き合っていたい」
葵が呟いた。
その言葉にこっくりと頷くエスティナであった。
■見習いサンタのつぶやき
雪の舞い散る夜空。
エフィナは高い鉄塔の一番上に座っていた。
「あたしが魔法使わなくても、きっとあの二人には幸せな時間は来るわね」
見習いサンタは新たな人間を探しに、鉄塔から大きくジャンプした。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【w3l437maoh/望月・葵/男/21歳/直感の白】
【w3l437maoh/エスティナ/女/18歳/ナイトノワール】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、柴吉と申します。
この度は私の名に目を止めていただき、また素敵な発注をくださり
まことにありがとうございました!!
激甘〜!!と念じながら書いておりましたが…
少しでもお気に召し、またキュンとしていただければ幸いです。
本当に、発注ありがとうございました!
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