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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
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エリとアシュのおつかい☆冒険譚
これは、2人がまだ3歳のときの冒険譚(?)である。
窓を開けると、冷え込んだ空気が流れ込んでくる。
「さむぅい」
柔らかい茶髪をしたエヴァーグリーン、こと緑が1冊の本を抱え込んだまま身を縮める。
明日夢はその言葉に、慌てて閉めようとした。
「でも、きもちいいねぇ」
しかし続けられた言葉に、黒髪の少年はほっとしたように笑顔になる。
見晴らしのいい3階の屋根裏から、畑と、その先にある竹林が見える。
肌寒い1月のことなので、地面は白く雪が残っていた。
2人は手に手をとりあって階下へ向う。
台所兼食堂に入っていくと、テーブルの上に包みが乗っているのに気がついた。
「あれ? にーにのおべんとー?」
テーブルに手を乗せ、覗き込むように緑が言う
「……おさいふものこってるね」
明日夢も同じようなポーズをしてつぶやいた。
そして2人は、互いの青い瞳を見交わした。
時計は9時すぎをさしていた。
学校や仕事などで家族たちはほとんど出払っているようだ。
久しぶりの快晴のため、母親代わりでもある緑の従兄が洗濯しているのが見えるくらいだった。
「ね、エリとアシュでおつかいしよー♪」
いいことを思いついた、ばかりに、緑は嬉しそうに手をあげる。
おそらく、昨日見たTVの影響なのだろう。
……エリのきぼうはかなえてあげたい。
たしか、バスで8つめのバスていでおりてすぐ。おとしだまあるからバスだいもだいじょうぶ。いってかえってもおひるまでにはまにあうはずだから……。
明日夢はそれだけのことを考えてから、緑に向かって微笑んで見せた。
「うん、あったくしていこうね」
屋根裏部屋まで戻り、身支度を整えてから、もう一度1階へ降りていく。
明日夢は椅子によじ登り、お弁当を手に取ると、その代わりに置手紙を残しておく。
『あにうえのおべんとうをエリととどけにいってきます』
手紙にはつたない字でそう記されていた。
それから気づかれないよう、そぉっと家から抜け出ていく。
見つかってしまえば止められるかもしれないし、何よりこれはせっかくの冒険なのだ。
「しゅっぱーつ!」
上機嫌で声をあげる緑に、明日夢も嬉しそうに笑うのだった。
家の周囲の畑を抜け、晴れていても若干薄暗い竹林の道を抜けていく。
子供の足で歩くと、近いはずのバス亭もそれなりに遠い。
10分ほどかけて辿り着き、バスを待つ間、残雪で遊び出す。
きゅっきゅっと音を立てて踏みしめたり、小さな団子のようなものをつくってみたり。
それを重ねてミニ雪だるまをつくろうとしたものの、バスが来たことに気がつき、慌てて飛び乗った。
「おっつかーい、おっつかーい♪」
子供だけでバスに乗るのは初めてというのもあり、緑はすっかりはしゃいでいた。
「エリ、しずかに。ほかのひとものっているんだから」
明日夢はそれを可愛らしく思いながらも、困った様子で注意を促す。
しかし彼女の気持ちもわかるような気がしていた。
通り過ぎていく町並みが、特別に見える。
今、ここで知っているのはお互いしかいないのだ。
不安よりもわくわくした気持ちが勝る。
冒険の主人公になったような、実際よりも大人になったような気持ちになるのも仕方がない。
新魔人学園のアナウンスで降りて、そびえたつ校舎を前にする。
初等部から大学まで。だけではなく技術学校に軍や警察の学校まで、ありとあらゆる学部の校舎が連立する、超巨大学園だ。
1つ1つが巨大な校舎。長い廊下に沢山の教室。
どこを向いても同じような光景が広がっている。
2人は、あっという間に迷子になってしまう。
「あるきゅのもうやだー、にーにどこぉ? かーたま、ぱぱぁ」
へたりこみ、ぐずって泣き出す緑に、困り果てる明日夢。
どうしよう。だれかにみちをきいたほうがいいかな。
おなじがくねんでも、いっぱいきょうしつがあるみたいだけど、あにうえはどこのクラスだっただろう。
必死になって考え込んでいると。
「あら? あらあらあら?」
いきなり声をかけられ、2人は驚いて顔を向ける。
「どこかで見かけた顔ですわね」
「おねぇちゃん、だぁれー?」
涙を拭いながら、軽く首を傾げる緑。
「あ……たしか、あにうえとあねうえといっしょに、じゅぎょうさんかんで……」
「えぇ。授業参観でお兄様方と調理実習で同じ班でした、道真 神楽ですわ」
肩を越す茶色の髪をした10歳の少女は、そういって優しく笑いかけた。
「あの、カグラさん。あにうえのきょうしつ、ごぞんじですか?」
明日夢はお弁当の包みを掲げ、これを届けたいのだと説明する。
「もちろんですわ。私は大学部に所属していますけど、各学校の授業に赴いておりますもの。どこの教室だってご案内できますわ」
「にーにのとこ、つれてってくれるのぉ? ありがとー♪」
わぁ、と歓声をあげる緑。
「どうもありがとうございます。たすかります」
頭を下げ、丁寧にお礼を言う明日夢。
神楽は2人の愛らしい様子に微笑み浮かべ、目的の場所へと案内してくれる。
「にーに、おべんとーだよう♪」
兄の教室に辿り着くなり、緑は嬉しそうに声をあげた。
「あ、ありがとう。……って、もしかして2人だけで来たの?」
弁当を受け取りながら、驚きの表情を浮かべる兄。
「エリとアシュでおつかいなのー♪」
「カグラさんにあんないしてもらったんです。でも、がくえんのまえまではエリとふたりできたんですよ」
緑と明日夢は自分たちの冒険を嬉しそうに兄に報告する。
「すごいなぁ。偉いね、2人とも。神楽ちゃんも、どうもありがとう」
「いいえ。それより私、お2人のお気持ちには感動しましたわ。そう、それはまるでエベレストの登頂に成功し、白銀の山頂を照らす朝陽を目にしたかのよう!」
涙を流しながら叫ぶ神楽に、皆が呆気にとられ、黙り込む。
どうやら、当の本人たち以上に感動しているようだった。
「そ、それはよかった。あ、2人とも、家までは帰れる? 送っていこうにも、僕まだ授業があるから……」
「ご安心ください。私がお送りいたしますわ」
「ありがとうございます。バスていまでいけたら、かえられますので」
そうして2人は神楽に送ってもらい、バスに乗り込む。
疲れたのか、うとうとする緑。
しかし明日夢がちゃんと見守っていたため、乗り過ごすこともなく無事に辿り着く。
日が高くなり、気温もあがったためか、残雪はほとんど姿を失っていた。
たった3歳の大冒険。
それは後に他の家族たちにも知らされ、無茶をしてはいけないと諭されたりよくやったと褒められたりして。
2人の武勇伝の1つとして皆の記憶に残るのだった。
〈ライターより〉
お久しぶりです。ライターの青谷圭です。
ご依頼いただき、どうもありがとうございました。
シチュエーションノベルにはあまりコメントをつけるべきではないと思っていたのですが、お目汚し失礼させていただきます。
1年前の商品に関しては、システムの都合上、完全にはご希望に添えられず申し訳ありませんでした。
その後も覚えていた下さったとは光栄です。
今回のエリ様、アシュ様を含む沢山の魅力的なPCがいらっしゃるのにアクスディア終了というのは本当に残念ですね。
この作品で記念になればよいのですが。
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