<WTアナザーストーリーノベル>

ライラ・マグニフィセント
■クリス・ラインハルト
アーシャ・イクティノス■


+ 宝探しは過去探しにも似ている +



「ん?」


 デビルの大進攻が潰えてから1年程経つ頃。
 夫の実家の蔵の奥を整理をしていたライラ・マグニフィセントは古い鞄を見つけた。
 最初は捨てようとしたが、よく見れば鞄の持ち手には紋章が刻まれている。それが夫の実家のものである事に気付くと、彼女は鞄の埃を払い開いてみた。
 中に入っていたのはこれまた古い地図と手紙。


「『我が子孫に此れを残す』」


 手紙を開けば一行目にそう記されている。
 彼女は地図も広げ、そしてそれが唯の手紙ではない事を知る。慌てて外へと足を踏み出して自室へと戻り、改めて地図と手紙を広げ内容を読み込む。
 内容はこうだ。


 夫の先祖が子孫へ宝を残した。
 もし宝に興味を抱き、冒険に恐れを抱かなければ取りに行って欲しい――と。


 ライラは其れを付近の地図とを照らし合わせてみる……が、重なる場所が無い。変色や鞄の痛み具合からして相当昔の地図である事は容易に想像出来るのだが。


「待てよ、彼の先祖はバイキングだ。だから場所はもしかして……」


 口元に手を当てながら思案していたライラはある点に気付く。
 それから別の地図を部屋の奥から取り出し、指で大陸の形をなぞる。やがて彼女の唇は笑みを描いた。


「なるほど、北海か」



■■■■



「それにしてもご先祖様からの宝物って一体なんなんでしょうね〜♪ 魔法の楽器や古い書物? 僕は伝承とかでもいいなぁ!」


 甲板に立ちながら楽しげな声を出すのは銀色青眼の女性、クリス・ラインハルト。
 彼女はライラに今回の宝探しに誘われた仲間の一人である。バードの彼女には乳離れ直後の幼い娘がいるが、夫の協力もありこうして一緒に旅を出ている。
 両手を組み合わせ、宝の中身について語る彼女の目はとても輝いていた。


「私はカッコイイ剣や鎧、素敵な装飾品を期待しますっ! 見たことの無い他国の武器なんかあれば幸せですねっ」


 クリスの隣で同じ様に「宝物」への希望を語るのは長い銀色の髪の毛を三つ編みにした女性だ。彼女の名はアーシャ・イクティノス――いや、現在は結婚してアーシャ・エルダーとなったナイトだ。その腕前は男にも劣らず、むしろ彼女の事を知っている者は「鬼神のごとく」と評するほど。
 もちろん彼女もライラが誘った仲間の一人だ。


「残念ながら宝が何かは不明。だけど手紙の内容と夫の話からして嘘ではないとあたしは思っているよ。だからこそ軍船アルスター号の船長に頼んで冒険に出ているのさ。だけどあたしが分かったのは大体の場所であって、正確な場所じゃない。ほら此処に赤い印が付いているだろう? だけど地図自体が広すぎて細かい場所が分からない。どうしても現地に詳しい人間の協力がいるんだ」


 ライラはその茶髪を風に遊ばせながら二人の前に地図を開く。
 正しくは例の地図を写し取った控えを、だ。本物は船内に大切に保管してある。本物は古すぎて手荒に扱いにくいと考えた結果でもあった。
 三人で覗き込んだ地図は今現在彼女達の知っている地図とは形が異なっており、それが時代を感じさせる。例えば宝が記されている地図には今でこそ当然の様に交流がある島が載っていなかったり、描かれていない海域が多くあった。


「だから僕らは今詳しい人物のいる場所に向かっているんだよね」
「確かに詳しいでしょうね――現在のバイキング達、ならば」
「彼らとの交渉が危険であることは充分承知さね。だが二人はきちんと理解してきてくれているだろう?」
「当然!」
「もちろんです」


 ライラの言葉に力強く頷く二人。
 その笑顔と真っ直ぐな返答がライラには有り難かった。


「群島が見えたぞ! あー、あれは間違いねぇ。確かにバイキング達の村だ」


 見張りをしていた男が前方を指差す。
 三人は地図から顔を上げ、男が示す方向を見た。最初こそ何も見えなかったが、船が進むにつれて次第にその島は姿を現す。他の船員達も物珍しげに甲板から身体を乗り出し、島を見た。


「お前達、交渉には船の男を何人か連れて行きな。もし何かあったなら応援を呼ぶといいさね」


 女船長は船を島に付けさせると三人にそう告げた。
 ライラは有難う、と一言口にすると腕に自信のある男を数人選ぶ。選ばれた彼らは交渉への同行を快諾してくれた。
 小船を下ろし、皆で島に向かう。
 この先にあるのはバイキングの村。それは間違いない。
 何が起こっても――例え戦闘になっても仕方がない領域に自分達は足を踏み入れようとしている。


 ジャリ……。
 緊張のせいか。踏みしめる海岸の砂は彼女達の知っている温度より冷たく感じた。



■■■■



「――闘え」


 バイキングの村に入った瞬間、一気に囲まれる。
 想像はしていたが、刺さるのは屈強な男達の殺意にも似た警戒心。
 だが彼女達は怯まない。ライラは統括者への挨拶を願い、目的もその時口にする。最初こそは訝しげにだった男達はそれでも長へと言葉を伝え、そして対面を許された。
 長は誰よりも強靭な肉体を持ち、その眼は場の誰よりも鋭い。彼が背に負おう雰囲気は重く油断すれば睨まれただけで潰されそう。


 自分達の目的は先祖が残した宝を探す事。
 その為に近辺を熟知している者が必要で、それに適しているのがバイキングであること。
 もし協力を得られるなら叶えられる範囲での礼をするとライラは告げた。


 そして長は答えた。
 「腕試しをさせろ」、と。


「ではここは私が出ましょう」
「はっ、情けねぇ。男共は飾りかぁ?」
「腕試しの相手に性別の指定は無し。私が相手でも問題はないはず……それとも負けた際に『女だから手加減した』とお決まりの言葉でも吐くおつもり?」
「ッ! 何を言い出す、このアマ!」
「戦闘に女も子供も無関係。場に存在するのは勝敗のみ――私をただの女扱いしたこと後悔させてあげますよ」


 前に出たのは鎧を身に纏ったアーシャ。
 彼女が言葉と共に鞘から抜いたのは愛用の剣。対してバイキング側の男は斧を振り出す。普段は明るく天然ボケなところのあるアーシャだが、剣を持てばそれは一変する。表情はひゅっと消え、目の前の『敵』を倒す事にだけ意識を集中させた。
 男は斧を振るい、アーシャに襲い掛かる。彼女よりも大柄な男が放つ一撃は強く、彼女が素早く避ければ傍にあった木が一本切り倒された。
 アーシャは剣を構え、攻撃を受け流す。避ける様子が気に食わないのか、男は更に頭に血を上らせ素早く斧を振り回した。


 確かに男と女とでは力に差が出る。
 それは戦場に出ているものならば誰しもが知っていること。
 だが力以外ならばどうだ。


 アーシャは男の攻撃パターンを見極め、そして相手が斧を高く振り上げた――その一瞬の隙を見つけると地を蹴った。
 それは瞬きほどの時間だっただろう。
 懐に入り込んだアーシャが剣の柄で男の鳩尾を強打し、続いて痛みに声を漏らす前にこめかみにも同様に一撃を食らわした。呼吸を奪われるほどの腹部への痛みと頭を揺さぶられる衝撃に男は無様にもその場に崩れ落ちる。
 アーシャが剣先を男の頬にひたりと突きつけた瞬間、歓声が上がる。


「ふっふっふ、言ったでしょう。後悔させてあげますって」


 それは完全に勝利が決まった時。
 バイキング達側からも楽しげな声が上がった。


「くっくっく、良かろう。要求は飲もう。だがもう一つ要求がある」
「何?」


 倒れた男が他の男達に運ばれていく様子を横目で見ながらライラは問う。
 長は答えた。その唇に楽しげな笑みを乗せて。


「そこにバードがいるな。なら航海中は音楽を寄越せ。それがもう一つの条件だ」



■■■■



「ちょっとストーップ! 休憩ー!」


 クリスは竪琴から指を離し、休憩を願う。
 要求を叶える為に彼女が奏でた音楽はバイキング達にとても気に入られ、頻繁にリクエストをされるようになった。腕試しと音楽により彼らと意気投合したライラ達は今、近辺の島々を巡っているところだ。
 だが宝がすぐに見つかれば誰も苦労しない。様々な意見を交わし、時に対立しつつも船を進める。
 疲れたクリスに飲み物を運んできたのはアーシャだ。クリスは彼女の手から飲み物を頂くと有り難く喉を潤した。


「流石に簡単にはいかないかー」
「ですよね。ライラさん達も船内で唸ってましたよ」
「僕は弾きっぱなしで疲れたよー! いくら気に入ってくれたからってものにが限度が――」
「クリスさん?」


― ……、……。


「声が、聞こえる」


 突然言葉を止めたクリスにアーシャは瞬く。
 そして急に耳を澄まし始めた彼女に倣う様に自分も物音に集中した。


― 侵入者よ、去れ。


 二人は顔を見合わせる。
 聞き間違いではないと確信すると船の上から音の発信源を探す。すると船に近づいてきている一匹の動物を見つけた。目を凝らしよく見てみるとそれは鯱のよう。だが、クリスとアーシャはそれがただの動物ではないことを察する。


「私は皆を呼んできます!」
「分かったよ! えーっと貴方は誰? どうして僕達に去れと言うの?」


 アーシャは船内へと戻り、ライラ達に異常を知らせた。
 その間クリスはテレパシーを使い、現れたそれに話しかける。


― 我が名はアドゥール。汝等の望む宝の守護者。去れ。御前達に宝は渡せない。
― でもその宝はライラさんのご先祖様が子孫に残したものなんだ! だから僕達はそれを受取りにきたんだよ!
― 継承者ならば証を見せよ。


 やがてやってきたライラ達に事を告げる。
 鯱の正体はどうやら宝を護る海の守護神である事。それから証を見せろと言っていることを。


「見つけたのはこの鞄と地図と手紙だけだ。どれかが証ならいいんだがね」


 そう口にしながらライラは見つけたもの全てをアドゥールへと見せる。
 ふわりと淡い光に包まれた其れらは浮き上がり海へとおりた。ぱしゃ、と手紙に海水を掛けた瞬間、文字が浮き上がる。何が現れたのかはライラ達からは見えない。だがそれが「証」だという事はすぐに分かった。


― 良かろう。だが宝の在る場所には海を汚すアンデッドがいて、その為人では近づく事が困難だ。
― アンデッドを倒せばいいの?
― そう、アンデッドを倒す事が宝を渡す条件となる。出来ぬなら……。
― やる! やるから!


 クリスが必死に説得し、それにアドゥールは応える様に海を泳ぎだす。


― 付いて来い。


 その先に待っているものが戦である事を知っても、もはや引き返す事など出来る筈が無かった。



■■■■



 問題の場所は洞窟だった。
 まず匂いが彼女達の鼻を襲う。――肉の、腐った、香りだ。吐き気を誘うそれは決して心地良いものではない。


 そして『奴ら』は突然襲ってきた。
 降ってくる者、這い上がってくる者――死者に気配など在る筈が無く、気付くのに時間を要す。ゾンビ系のアンデッドである事は匂いですぐに分かったが、数がやけに多い。
 過去、異常な事態がこの場で起こった事は間違いないだろう。


「ライラさん! こっちは私に!」
「分かったっ。クリス殿、あたしが護るから音楽をお願いするよ!」
「任せて下さいっ」


 蠢く死者達。
 船に這い上がり、船員を襲う。だがそれを許すほどアルスター号の船員達もバイキング達も甘く無い。各々得意の武器を持ち出し応戦する。
 アーシャは弓を射、剣を振るう。亡者との戦闘は確実に体力を削る。――だがせめてクリスが歌を完成させるまでは立っていなければ。


 クリスは琴を弾き、歌う。
 死者に捧げる鎮魂歌を。


 ライラはクリスに寄ろうとする亡者共を斬り付け、時に盾で身を護りながら敵を蹴り船から突き落とす。
 やがてアンデッド達の動きが止まった。洞窟の上、見えるはずの無い空を見るかのように亡者達は顔を上げ、そして呻き声を響かせた。


―― ぐぅ、ぅぅぅぅ、っ……ぅぁ、ぁああ、あッ!


 それは獣のような、だけど慟哭のような音。
 すぅ……と肉体が崩れ落ち、塵と化し消えていく。やがて場には静寂が訪れる。切った際に散った血肉すら無い。だが船体に付けられた傷が戦闘が在った事を語る。
 最初に気を取り戻したのはライラ。彼女は岸へと降り立ち、奥へと走っていった。すぐにアーシャが、そしてクリスが後を追う。


「あった」


 ライラが漏らした言葉に対して「何を」とは二人は問わない。
 其処に在ったのは紛れも無く宝箱だったからだ。岩の上に鎮座したそれに鍵は掛かっておらず、見方を考えればまるでアンデッド達に護られていたかのよう。
 腐敗臭も消えた空気を一旦吸い込み、そして吐き出す。
 ライラは箱を開いた。


「これは……また、地図と手紙?」


 中に収められていたのは鞄を見つけた時と同じ様な紙二つだった。
 だがあの時見つけたものとは当然違う。


 一つは「未発見の新大陸を示す海図」――そう、自分達も知らない大陸を示す地図だ。
 そしてもう一つは「新大陸へ残さねばならなかった者達への伝言」だった。


「これはまた新たな謎が出たものさね」
「でもこれは未来への指標なのですね? んー! いつか娘にこの冒険を語ってあげたいです♪」
「はあ……期待した宝とは随分違っていたようですね。でもまだ私達が知らない新大陸への海図とは――心惹かれるものがあります」


 感想はそれぞれ違うけれど、今回の冒険で得たものもある。
 例えばバイキング達との接点やアドゥールとの出会い。


 宝箱の底に残っていた小さな何かをライラは摘み出す。
 それはアドゥールの姿が刻まれた金貨。それの裏側にはメッセージが刻まれていた。
 それはまさに継承者へのアドゥールからの信頼の証。


「そうだね。また新しい冒険が出来そうだ。その時にはまた気が向いたら付き合っておくれよ」


 ライラの言葉に二人は顔を見合わせ、そして返事の代わりに笑った。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【eb9243 / ライラ・マグニフィセント / 女性 / 21歳 / ファイター / お菓子作り職人】
【ea2004 / クリス・ラインハルト / 女性 / 23歳 / バード / 吟遊詩人】
【eb6702 / アーシャ・イクティノス / 女性 / 21歳 (実年齢43歳 ) / ナイト / 警護】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は冒険発注有難う御座います!
 文字数ギリギリでの納品となりましたので思いっきり楽しんで頂けましたら幸いですっ。


■ライラ様。
 こんにちは、以前はお世話になりました。
 そして今回は当方を選んで下さって有難う御座います。
 描写可能範囲で色々仕組ませて頂きましたが如何でしょうか?
 なお今回はライラ様はリーダー、そして頭脳担当です。
 宝物が新大陸への発見、ということで当方もわくわくさせて頂きましたv


■クリス様
 こんにちは、初めまして。
 今回クリス様にはサポートと説得担当をお願いいたしました。
 あと最後に亡霊達を慰める歌を……。
 普段は明るく元気で、だけど洞窟での戦いの時の歌は清らかなイメージで表現させて頂きました。少しでも気に入って頂けますと嬉しいですv


■アーシャ様
 こんにちは、初めまして。
 アーシャ様には今回戦闘担当をお願いいたしました。特にバイキングとアンデッドとの戦いにおいては無くてはならない方だと判断致しましたので、戦闘描写も拘らせて頂いております。
 普段の明るく天然なところももし機会が有ればまた書いてみたいと個人的に思いました(笑)



 最後に。
 皆様の未来にどうか、また楽しい冒険が待っていますように。
 では失礼致します。


written by 蒼木裕