クリエーター名  楠原 日野
コメント   WT7(CTS)にてMSを2年ほど勤め、現在WT9(エリュシオン)にて活動中の楠原日野でございます。  MS業務を優先するため、こちらの窓開けは少ないかと思いますが、それでもご縁がありましたら是非、ご注文下さい。  ジャンルは何でも書こうとするタイプでありますが、ほんのり恋愛やガツンとした戦闘、また日常ギャグなどがやりやすいと感じております。  
サンプル ■サンプル1
 熱い日差しをやんわりと遮ってくれる青々とした木の下で、彼は、生い茂る葉から時折眩しすぎる顔を覗かせる太陽に、目を細めていた。
(この感覚、懐かしいな……)
 ちらと、目を横に向ける。
 同じように見上げている、馴染の顔ぶれ。それと笑顔をこぼしていた、彼女――皆がいたのは、もう昔の話。
 今は皆、散り散りとなってしまい、ここには自分以外、いない。
 それに自分だって、ここに来るのは久しぶりだった。
 何故だろうと、目を閉じ、思い返してみる。
 ――やがて、ゆっくりと目を開いた。
(ここで彼女は僕らに、ここでさよならだねって言ったんだった)
 眩しすぎる笑顔でそう伝えてきた彼女を、今でも鮮明に覚えている。
(だから、ここへ来なくなったのか)
 その時、自分はどんな顔をしていただろうか――それは思い出せない。
 ただ、みんなの顔は覚えている。
 その時誰もが、笑顔だったという事を。
 みんなが好きだった、彼女。彼女も、みんなが好きだった。
 もちろんその『好意』に随分な差異があったが、それでも確実に誰もがそうだった。
 だからいつでも笑顔でいましょうと言った彼女の言葉に、みんなが応えた。たとえ、別れが辛くとも。
(誰も言えなかったし、誰も言わなかった。その結果が、これだ)
 誰もいない隣。
 それでも彼は、そこにいる誰かに笑顔を向けていた。
(言わなくて正解だった気もするけど、やはり伝えたかった。
 伝えられる時はあの時しかなかったのだと、今になって後悔するとか……虚しいばかりだね)
 少しだけ目の奥が熱くなり、唇を噛みしめ、頭を振って表に出てしまいそうな感情を奥へとしまいこむ。
 今さらだ――そう自分に言い聞かせて。
 だがひとつだけ、口にしたかった。
 誰もいない隣と正面から向き合い、笑顔を浮かべる彼女へその言葉を伝えた。
「僕は、君が好きだよ」
 強い風が吹き、揺れる枝葉がその言葉を優しく、受け止めてくれるのであった――