■山を逃げる逢魔■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 からた狐
オープニング
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥」
 六甲山系の山の中。道無き道を行く者がいる。
 人――には酷似していた。二十歳前後の女性。身奇麗にしていれば人目を引くだろう美貌は、しかし、汗と泥に塗れて台無しになっている。腰まである長い髪もぼさぼさで、時折枝に取られても、彼女は気付く事無く先へと進もうとしている。結果、枝に絡まった髪が千切れ、はらりと垂れ下がっていった。
 頭上には角、背中には蝙蝠のような羽、そして、尖った尻尾。体のラインをはっきりとさせる衣装を身に纏った彼女は、逢魔の中でもインプと呼ばれる存在だった。
 常ならば人化して人間に紛れ、神帝軍に対抗すべく神戸の地を中心に密として活動をしている彼女なのだが、その情報収集の最中、グレゴールに見つかってしまったのだ。
 何とか山中に逃れる事は出来たが、グレゴールも諦めない。サーバントを呼び寄せ、執拗に逢魔を追う。
 追いかけてくる敵に際して、人化したままでは本来の力を発揮できない。だから、人化を解き、本来の力全てを出し切って逃げ続けているのだが、それでもグレゴール達の執拗な追跡から逃げ出す事が出来ないでいる。
「あ!」
 足元の石が崩れるや、彼女は体制を崩し、そのまま坂を滑り落ちる。全身をすりむいたものの、そんなものは彼女には関係無い。
 即座に立ち上がった彼女だが、二〜三歩よろめいた後にがくりと膝をついた。そんな自分を信じられぬかのように彼女は目を見開くと、再び立ち上がろうとする。だが、それも果たせず、彼女はそこに座り込んだまま動けなくなる。
 常人よりもはるかに強い肉体を持つ逢魔。それでも、グレゴールに追われ逃げ回る疲労は確実にその身を蝕んでいく。
 逃げなければ。気は急くものの、身体はもはや限界に達していた。這ってでもと思えど、その手は虚しく土を掻くのみ。
 笛のような遠吠えが山に響く。グレゴールの連れたサーバントのパイパーウルフだ。思ったよりも近い事に彼女の顔から血の気が引いた。
 捕まっても殺される事は無いだろう。密の拠点、隠れ家の所在、聞きだせる事は山ほどある。
 どうやって聞き出すかは‥‥あまり考えたくもない。
(「誰か――助けて!!」)
 迫り来る恐怖に怯えながら、彼女は声無き悲鳴を上げ、その思いは、泉の水を打ち震わす。

「六甲山系の山中で、逢魔がグレゴールに狙われています。場所はすでに確定出来ておりますので、すぐに助けに行ってあげて下さい」
 流伝の泉にて、逢魔の伝が魔皇達を集めると、険しい表情で事情を説明する。
「彼女を追う者はグレゴールとそのファンタズマ。そして、グレゴールが連れるパイパーウルフが五体と、パイパーウルフリーダーが一体です。グレゴール、ファンタズマ共に攻撃と防御のシャイニングフォースを使うようです。どうかお気を付けて下さい」
 そう告げると、伝は魔皇達へ頭を下げたのだった。
シナリオ傾向 逢魔の救出
参加PC 鹿島・恵衣美
今城・理佳子
へもへも・先生
神楽・零
下田・一郎
セキ・ユウスケ
諏訪・龍一
灰谷・悠斗
山を逃げる逢魔
●救出
 グレゴールに追われている逢魔がいる。
 知らせを受けた魔皇達は、伝から聞いた情報を元に現場へと向かった。
 神戸の町中から山中に入ってしばし、
「さて、ここいらにいるはずだが」
 地図を確認した後、ぐるりと辺りを見渡した下田・一郎(w3d565maoh)は眉根を顰める。
 逢魔がいると聞いた場所は登山道から離れた、まさしく山としか言いようの無い場所だった。これと言った目印も無く、肝心の逢魔の気配も無い。グレゴール達の気配も無いのだが、‥‥それがかえって本当にここでいいのかと不安にさせられる。
「えーと。逢魔さん、おるやろか〜? 助けに来たでー」
 今城・理佳子(w3a867maoh)が問いかけるも、返答は無い。
「怪しい者ではありません。僕らは魔皇で‥‥、逢魔の伝よりあなたを助けてもらえないかと頼まれて来たのです」
 どこかにいるはずのインプに向かい、へもへも・先生(w3b251maoh)も生真面目に告げる。変化の無い景色に待つ事しばし、不意に茂みの一角が音を立てて揺れた。
「魔皇‥‥様?」
 姿を現したのは角を生やした女性だった。翼に尻尾、インプ特有の外見のままの彼女。傷ついてはいるものの、どうやら無事だったらしい彼女に、魔皇達はほっと息をついた。
 迷うように歩み出てきたインプだったが、数歩歩いた後に、がくりと膝を折る。
「危ない!」
 とっさに神楽・零(w3c911maoh)がインプの体を支える。細身の体にはいささか荷が重かったが、それでも二人転倒せずにすんだ。
「も、申し訳ありません」
「構わないで。それより急いで手当てをしますから、ちょっと動かないで下さい」
「いいえ、グレゴールが近くまで来ております。早く逃げないと‥‥」
「いいから」
 焦るインプをやや強引に座らせると、零はてきぱきと慣れた手つきで傷の手当てを始める。いくら回復力が高くても一瞬で治る訳でない。ゆっくり休んでいる暇は無く、かといって放っておいていい傷でもなかった。
 全身いたる所に出来た傷。木の枝で掻いたらしい蚯蚓腫れや転んだ際に作ったのだろう擦り傷の他にも、どう見ても斬りつけられたとしか見えない切り傷や、サーバントにやられたのだろう、肉が食いちぎられた箇所もある。
 人とは違う者。神帝に敵対する者。――魔に属する者。
(「だからと言って。こんな事が許されていいのでしょうか」)
 傷のひどさを一つ一つ確かめて包帯を巻きつけながら、零の心には怒りにも似た感情が浮かぶ。
 インプの方は大人しく手当てを受けながらも、始終周囲を気にしている。
「グレゴールの方は僕らの仲間が引きつけてます。大丈夫ですよ」
 不安そうに目線を彷徨わせるインプに向かい、へもへもは語りかけると軽く笑って見せる。ただし、喋っている間もその口は一切開かれていない。
 その事に気付いたインプは、きょとんとただ目を丸くしてへもへもを見ていた。ややして、腹話術で話しかけられたのだと気が付くと、ふと、その口元をほこらばせる。ぎこちないながらも、笑みを作ったインプだったが、すぐにその笑みを消えた。
「申し訳ありません。魔皇様達のお手を煩わせるなど‥‥」 
 すまなそうに目を伏せる彼女に、あのねぇ、と理佳子は大きく息を吐いた。
「魔皇であろうと逢魔であろうと、関係あらへん。伝は情報云々が漏れるのを気にしとったみたいやけど、助けを求められて放っておくなんて出来へんからね。そんなんなくても、来たったで」
「そうです。一人で逃げる必要などないのですよ」
 告げる理佳子にへもへもも頷く。至極当然と告げる二人を、眩しそうにインプは目を細めて見つめる。唇を噛み締めた後に、泣きそうな顔で何かを告げようと口を開きかけた。
 が。その時、近くで騒々しい物音が上がる。轟く銃声、響く罵声。高く咆える獣の声はかすれて消え、生木を裂く音が木霊となって山々を巡る。
「‥‥どうやら別班が接触したらしいな。こっちも急いで離れよう」
 零の手当てが終わった事を確認してから、一郎は厳しい声音で告げる。よくは分からないが、戦闘は結構近くで行なわれているようだ。ぐずぐずしていると、すぐに見つかってしまう。
 それは他の者も同じ。一郎に一つ返事を返すと、インプを支え、逃走にかかる。
「? ここなら‥‥おそらく街に向かう方が早いのではないでしょうか」
 だが、魔皇達が行こうとした方角が山頂を目指していると悟り、インプは首を傾げた。逃げ惑いながらもおおよその場所は把握していたらしい彼女は、魔皇達の行動を理解できずにいる。
「ああ。だが、それはグレゴールに読まれていると思う。だから逆に一山越えて逃げた方がいいだろう。怪我をしている身には悪いが、できる限り戦闘は控えておきたい。‥‥勿論、追いつかれるような事があれば迎撃させてもらうけどな」
 言って、一郎はふっと笑う。迎撃はすると言っても、彼女を守る意思がその表情には込められていた。

●戦闘
 インプを助けに行った魔皇達とは別に。灰谷・悠斗(w3g139maoh)はセキ・ユウスケ(w3e704maoh)と共にグレゴールを探していた。
 インプが隠れているという場所の傍を捜索する事しばし、簡単に彼らを見つけ出す事が出来た。
 最初に目に入ったのはパイパーウルフ達だった。五匹の群れを先導するように動くのは銀色の毛並みの美しい獣。他のパイパーウルフに比べても二周り大きく、明らかにそいつが群れのリーダーなのだろう。
「よく探せ! ここいらに逃げ込んだ筈だからな!!」
 そして、群れの後方でサーバント達に怒鳴りつけている男がいる。彼がグレゴールなのは一目で知れた。大仰な鎧と腰に佩いた剣。そんな物を着て歩くのは、今の世では彼らぐらいしかおるまい。
 何より、彼の後ろでは美しい女性が静かにつき従っている。背に生えた翼はファンタズマである事を物語る。
「(どうやら、インプを見失って苛立っているようだな。こっちにも気付かないのは好都合だ)」
 にやりと笑うと、小声で悠斗はユウスケに告げる。
「(面倒くせえな‥‥。でも、やるしかねぇんだよな)」
 気が乗らない様子で息を吐くと、ユウスケはショットオブイリミネートとクロムライフルを召喚しようとした。
 が、上手くいかない。
 使える魔皇殻は、手に入れて装備している三つだけに限られる為だ。もっとも、銃タイプの魔皇殻なら装備していたので、さほど困る事にはならなかったが。
「行くぞ」
 言葉短く、悠斗が飛び出す。続いてユウスケが飛び出すと、二人揃ってグレゴール達にその銃口を向けた。
「喰らえ!!」
 銃声が轟く。周囲の山に物々しい音が反響し、驚いただろう、鳥が空へと羽ばたく。もっとも身近にいたパイパーウルフ達がその乱射に射抜かれ、甲高い悲鳴を上げた。
「リューガ様! 魔皇達です!!」
「言われずとも分かっている! 捕らえろ、サーバントども!!」
 突然の銃撃から身を守りつつ、ファンタズマが即座に叫ぶ。その声を聞くまでも無く、リューガと呼ばれたグレゴールがパイパーウルフ達に命じた。傷を負わされ、気が立っていたサーバント達はその命に従い、二人の魔皇に鋭い牙を剥き襲い掛かる。
 だが、その牙を軽く躱すと、身を翻し魔皇達はその場から逃走にかかる。
「待て!!」
 即座にグレゴール達もパイパーウルフ達と共に追ってくる。 
 インプ達から少しでも引き離すべく、枝から枝へ身軽にユウスケ達は山を駆け抜ける。まさしく常人からは考えもつかない身のこなしなのだが、それにグレゴール達もぴたりと着いて来る。――もっとも、今は離れられても困るのだが。
「ちっ。絶対不可侵領域の外に出られると面倒だ。エナ!!」
「はっ!」
 エナ、と呼ばれたファンタズマが手を振り翳すや、眩いばかりの光が悠斗に向かって放たれる。光はディフレクトウォールによって阻まれたが、その衝撃で悠斗がわずか体制を崩す。そこへ、すかさずパイパーウルフ達が襲い掛かってきた。
「なめるな!」
 牙を剥いて迫るサーバント達を悠斗がカッターシールドを振るって蹴散らす。だが、さらにそこへグレゴールが剣を抜いて悠斗へと迫り‥‥、
「ぐぅ!!」
 次の瞬間。低い悲鳴を漏らしたのは、グレゴールの方だった。
 待機していた諏訪・龍一(w3f931maoh)が飛び出してくるや、ビーストホーンを突き出してグレゴールに襲い掛かったのだ。狼風旋<ハウンドファスト>で素早さを増した龍一の攻撃を避けられず、グレゴールは傷を負ったが、その傷は予想以上に浅い。
「あいにくだな。退魔壁<レジストデビル>で防御はしてある」
「ならば、これはどうだ!!」
 悠然と立つグレゴールに舌打ちすると、続け様に龍一は衝雷撃<バッドスパーク>を放つ。龍一を中心にして荒れ狂った稲妻は敵味方を問わず襲い掛かり、悠斗とユウスケは慌ててその効果範囲から逃げ出す。逃げ遅れたパイパーウルフ達は壊れた音色のような悲鳴を上げ、幾体かが地に伏し動かなくなった。
 だが、広範囲に渡る攻撃もグレゴールとファンタズマには及ばない。彼らの手前、不可視の壁に阻まれてその向こうにいる二人にまで届いていない。
「シャイニングフォース‥‥か。厄介だな」
 悠斗の呟きを聞いたか、くすり、とファンタズマが冷たく笑う。
「シャイニングフォース、聖障壁<ホーリーフィールド>‥‥。そして、光破弾<シャイニングショット>!」
 ファンタズマの手から光が放たれる。撃たれはしたものの龍一は何とかそのダメージを無効化すると、ショルダーキャノンの銃口を向ける。しかし、重炸裂弾も稲妻と同じく不可視の壁に阻まれる。
 だが。その壁を越え、グレゴールが飛び掛ってくる。龍一へと振り下ろされた剣はカッターシールドで受けたのだが、予想した以上の重さに龍一は体ごと吹き飛ばされる。すかさず噛み付いてきたパイパーウルフをユウスケがデヴァステイターを撃って払うと、その間に龍一は何とか起き上がって体制を整えた。
「ほう、俺の神輝掌<シャイニングフィンガー>での一撃を受けても立ち上がるとはさすがだな」
「余裕を見せる暇などあるのか?」
 にやりと笑ったグレゴールに、ユウスケがそのままデヴァステイターを向ける。魔力の弾丸を躱し切れずにグレゴールの顔に朱が入る。軽く舌打ちをするグレゴールがユウスケに目を向けた隙に、悠斗は後方に飛ぶとそのままその戦場から一目散に離脱しだした。
「逃すな!!」
 即座に発せられたグレゴールの命により、数を減らしたパイパーウルフ達が悠斗の後を追う。
「お前達の相手は俺達がするぜ!」
 悠斗を逃さぬ為に動きかけたグレゴール達へ、すかさず龍一は闇蜘糸<スパイダーネット>を仕掛ける。が、相変らずファンタズマには届かず、グレゴールは一瞬の後に網を振り切られてしまう。
「小賢しい!!」
 グレゴールが咆える。その時。
 からりと音を立てて、石が落ちてきた。はっと、顔を上げると轟音の後に大量の土砂が崩れ落ちてきていた。
「リューガ様!!」
 ファンタズマが青い顔で叫ぶのと同時に、苦々しげな表情でグレゴールが大きく後退した。
 もうもうと上がる土煙。しばらく後には、魔皇達とグレゴールの間を大量の土砂が阻んでいた。
「地形的に脆い場所に罠を張る。まぁ、一郎さんの意見は至極当然ですね」
 崩れた土を滑って、姿を現したのは鹿島・恵衣美(w3a182maoh)だった。地形的に脆い所を調べ罠を仕掛けるのがいいかもという一郎によって、グレゴールとファンタズマは土砂の向こうへと隔てられている。
「サーバントは灰谷さんが引き受けてくれましたし。こっちは三人、向こうは二人。‥‥どうしますか?」
 冷ややかな表情の奥に、苛烈な意思を込めて恵衣美が二人に問いかける。その視線を受け、ユウスケがひょいと肩を竦めた。
「面倒くせぇな‥‥。あれから時間もたつし、逢魔達も逃走しただろうな。犬達も離れたし、早々に追ってこれないだろ」
「勝てない訳でないが楽勝という気もしないな。今回の目的は逢魔の救出であり、奴らを倒す事ではないのだが‥‥」
 考えつつも、龍一は睨むようにグレゴール達がいるはずの場所を睨みつけている。やる、と言えば即座に崩れた土砂をも蹴散らしていきかねなかったが、短い相談の後に退く事とした。
「結局これだけ、って訳ね」
 口惜しそうに恵衣美はグレゴール達の方を睨み付けた後に、逃走を始めた二人の後を追った。

●隠れ家
「申し訳ありません。とんだ失態をやらかしてしまいまして‥‥」
「いいえ。他の密の面々も無事に戻ってきておりますし。誰にも怪我が無かったのは幸いでしょう」
 流伝の泉にて。インプと彼女を救いに来た魔皇達全員が無事に戻ってきたのを見て、伝はほっと安堵の息を吐く。
 グレゴール達はあの土砂崩れに手を焼いたのか、結局追いついてくる事は無かった。悠斗を追ったサーバント達はよほど頭に来ていたのか、振り払っても喰らいついてきたのだが、手負いの身で魔皇達にかなうはずは無い。悠斗がインプ達に合流するや、理佳子が闇蜘糸で足を止め、後は皆の一斉攻撃によって簡単に殲滅できた。
「ところでやけど。絶対不可侵領域の中ではダークフォースやシャイニングフォースは使えへんって話やなかったん? うちはそう思っとったんやけど、何かちゃうみたいやし」
 首を捻って伝に問いかける理佳子に、幾人かが同じような表情で同意を示す。
 グレゴール達と接触したのは間違いなく領域の範囲内であったが、彼らはシャイニングフォースを操り、龍一もダークフォースを使用できた。
 悠斗がひきつけて来たサーバントに、当の理佳子自身、闇蛛糸を使ったのだが、後でそこがまだ領域内だった事が分かり、やや混乱しかかっている。
 それを見て、伝が困ったように肩を落とした。
「絶対不可侵領域による制限は、まず領域の中では殲騎の召喚が出来なくなる事。そして、ダークフォースやシャイニングフォースは内外を通過して使用される物が遮断されてしまう事です。
 領域を内外と通過しない――ようするに敵味方両方が内側、あるいは外側に揃っている場合は、別段不都合なく力は使用できます。私の言葉が足らないまま、皆様を危険な場へと赴かせてしまうとは‥‥まことに申し訳ありません」
 心底恐縮した様子で、伝は深々と頭を下げる。
「まぁ、仕方ないですね。神帝軍が来てじきに四ヶ月‥‥。けれど、彼らに関しては私達の知らない事の方がまだ多いのでしょうから」
 恵衣美が嘆息交じりで継げた言葉に、皆が神妙な面持ちで聞く。捕らわれ、命を狙われるようになって四ヶ月。それが長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれ。
 けれど‥‥
「諏訪様。お預かりしていたコートをお返しいたします。皆様にも本日は本当にお世話になりました」
 逃走の際にかけてくれたフロックコートを龍一に返すと、インプは皆に向かってありがとうと笑みを作る。
 もし、神帝軍に抗していなかったなら、彼女は救われる事なく、この笑みも無かった。
 果たして、何が良かったのか。何をするのが良いのか。
 明確な答えは無く、ただ各々が己に問いかけ、そして答えを探すしかない。

 それでも確かに言える事はある。
 それは、戦いはまだこれからなのだという事――。