■浪漫を掴み取れ!【超特別編・後編】■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
みそか |
オープニング |
『天都神影流・奥義!! 封神閃・白怒火!!!』
『二刀流・奥義!! 炎剣・炎纏虎刃アアァアア!!!』
二人の意地と意地とのぶつかり合いは全てを震わせ、この世界全体を包み込んだ。少年が突き出した刀は鳳凰を思わせる猛烈な炎に包まれ、青年へと襲い掛かる! 天までもが黒く焦がれ、季節外れの雪は瞬時にして液体から気体へその形を変えた。
『炎の壁の先に道は必ず在する! そこまで‥‥切り裂けえぇ!!』
炎の一閃の前に、青年の身体までもがブスブスと音をたてる。‥‥だが、いかに昇華させようとも一度は見切った技。何もできずに‥‥いや、一歩たりとも引くわけにはいかない! 渾身の力を込めて薙ぎ払われた刃は鳳凰を一刀のもとに伏せ、その先にあった少年の二刀までも弾き飛ばした! 二刀と共に両腕の自由を失ったことにより最は完全に死に体となる。
『どうだ最! この万全の状態からの一撃、お前はどう受け止める!!』
だが、僅かに微笑んだ青年の口から発せられた言葉は、またしても相手に対する激励! 必殺の刃を急所目掛けて突き出しながらも、まだどこかで少年のことを信じている。
『あたりまえだ! まだお前に一太刀すら浴びせることのできぬのに、このまま倒れて‥‥‥‥たまるかあぁあ!』
身体を捻ったところでこの一撃を逃れることは不可能だと判断した少年は、突進してくる青年に歩調を合わせるように‥‥前へ飛び出した! 青年の刃が脇腹を掠め、頭蓋骨同士が鈍い音をたててぶつかり合う。
だが、不意を突かれたのは青年である。先ほどまで空を彷徨わせていたはずの二刀は再び力強く握り締められ、彼の首筋目掛けて左右から振り落とされる!
『前に踏み出すとな! ならば、俺も俺なりの回避をさせてもらおう!!』
連撃につぐ連撃で僅かに浮き上がった少年の足が払われ、二刀は青年の眉間と左腕を掠めて大地に突き刺さる! だが少年は相手が連撃を繰り出す直前、二刀を足代わりにして後方へ跳躍した。
『やはりこの勝負、一筋縄ではいきそうにない』
‥‥再び対峙した二人は、心底嬉しそうにゆっくりと呟くのであった。
<玉座の間>
「雪が止んだか‥‥‥‥どうやら、このハリムも戦わねばならないようだな」
アークエンジェル・ハリムは手に持っていたワインを一息に飲み干すと、いずれ現れるであろう勇者達を待ち、この部屋へ繋がる唯一の扉を睨みつけた。
‥‥この永遠とも思われた物語の終焉は、もはやすぐそこにまで迫っていた。
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シナリオ傾向 |
突き進め!!! |
参加PC |
月代・千沙夜
トール・キリマ
風雲寺・志樹
白鐘・剣一郎
篠原・良牙
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浪漫を掴み取れ!【超特別編・後編】 |
<雪原>
「白怒火でも互角とはな‥‥あれでも編み出すには苦労したんだが!」
「当たり前だ! 技の一つや二つ編み出されたところでこの最、けっして折られるわけにはいかない!!」
既に季節外れの雪は降り止み、二人の剣士の間には時折緩やかな風が吹き過ぎるのみとなっていた。まだ互いに未来を残すであろう二人はその未来を鑑みることなく、たった今己自身にある全てを出し尽くす。
その斬撃は大地を切り裂き、燃え上がる炎は雪に覆われた城に春の息吹すら巻き起こした。全身から噴き上がる血潮は何を示すのだろうか? 彼らの微笑みは、闘志は、誇りは、誰のために向けられているのだろうか?
かつて彼らは己の戦いに意味を欲していた。その意味を探し出すために剣を振るい、幾多の豪傑と対峙してきた。ある時は弱き人を守るため、またある時は自分自身を鍛え直すためであった。
だが、彼らは今‥‥ここまで戦ってきてやっとあることに気付く。
『なんて小さなことのために俺達はこの剣を振るってきたのだろうな!』
偶然か、あるいはここまでに至った経緯を考えれば当然の結果か、両者はまったく時を同じくして、同じ台詞を対峙する相手へ向けて吐き出す!! 自分達が命を、全てを賭けてきたこの剣は、己の生き様は! 決してそんな限られた目的のために振るわれるようなものではない、ただ目の前の、生きとし生ける全てのものへ‥‥‥‥道を!!
「いい加減に勝ちを譲ったらどうだ剣一郎!? 老兵は去り際を考えるものだろう!!」
「随分と失礼なことを言ってくれるな最。老兵と呼ばれるほど、年齢も、身体も、そして気概も、老いたつもりなど‥‥!!」
永遠に続くかと思われた二人の戦いは、予期せぬ偶然により決着の路を進むことになった。戦いの熱気で雪が解け、そのぬかるんだ大地に踏み込んだ白鐘・剣一郎(w3d305)の足がとられたのだ。‥‥無論、普段の彼ならば決して陥らぬ平易なミス。だが、長期戦によって削がれた彼の脚力と集中力は、彼の体勢がいつも通り保持し続けることを許さなかった。
「もらったああぁあああ!!!」
容赦なく振り落とされるは最の刀。
いかに偶然が引き起こした事故とはいえ、いかにこれが殺し合いとは程遠い仕合であるとはいえ、彼がどうして手を抜くという選択肢を選ぶことができようか!? ただ非礼なく、最後まで己の力を出し尽くすのみ!!
‥‥砕ける音がした。全てを絶する攻撃に、もろくも音を立てて崩れ落ちる大地。
そして少年は天を見上げて微笑んだ。天よりいつしか差し込んだ光をその背に浴び、宙に舞うは剣一郎! その身体はあの体勢から、天へ届かんばかりに飛翔したのだ!
「この身に刻みし全てを束ねし奏剣陣‥‥天都神影流・絶技、剣嵐舞闘!! これを受けきればお前の勝ちだ!」
「‥‥翼でもはえたのか剣一郎!? どうやれば、どうすればそこまで‥‥‥‥!!」
命奪う一撃を回避された少年に打つ手なく、剣一郎が放った連撃は華奢な身体を弾き飛ばした。少年は倒れたまま天を向き‥‥勝敗は決した。
「簡単なことだ。お前と同じような奴から‥‥‥‥俺も多くのことを学んだん‥‥‥‥だ」
青年は倒れた好敵手へ手を差し伸べると‥‥そのまま大地に突っ伏した。
<双月の塔近く>
「ちぃっ、しつこいんだよてめぇら! しつこい女は嫌われるってどこかの男に習わなかったか?」
ヴァリスとバーニングドラゴン組対逢魔・シンクレア(w3a548)、逢魔・フィー(w3b125)組の戦いもまた未だ終わる様相を見せていなかった。怨恨からの憎悪に燃えるシンクレアと自分自身で進む路を模索し続けているフィー‥‥この二人から繰り出される連係攻撃には、さしものヴァリスも防御姿勢を取るのが精一杯という感が見受けられた。
「言うに事欠いて出たのはやっぱり下らない台詞ですねヴァリス! 今こそ私の千沙夜に手をかけようとした罪を、あなた自身をトマトにしてあげることで償ってもらいましょう!」
「‥‥一々言うことが怖いんだよてめぇは!!」
シンクレアの突き出した長剣がヴァリスの頬をかすめ、そこから僅かに血が重力に呼応してたらりと落ちる。だが、ヴァリスはそれに業を煮やしたのか、怒声を発すると同時にシンクレアを槍の柄で薙ぎ払って遠方まで弾き飛ばし、ついで刃を向けてきたフィーはバーニングドラゴンの羽ばたきで行動を阻害してから、前蹴りを放って距離を取る。
「これでもくらいやがれえぇええ!!」
速さが武器の、言ってしまえばスピード以外はどうしても見劣りが否めない二人の攻撃を防いだヴァリスは、この時を待っていたと言わんばかりに見栄をきりながら槍を構えると、その先端を眩いばかりに光り輝かせる!
「まずいですよフィーさん、あの攻撃は‥‥!!」
『雷浄撃イイィイイ!!』
危機を察してシンクレアが叫ぶが時既に遅し。雷槍から放たれた無数のイカズチは、彼女達を轟音と閃光、そして何より猛烈な衝撃とで覆い尽くした。
「どうだっ! いくらなんでもこれを‥‥‥‥」
「何から何まで甘いんですよヴァリス! この鎖に絡まれて真っ赤なトマトになりなさい!!」
決着を確信し、ヴァリスが気を抜いた刹那、色恋沙汰への脅威の執着で攻撃を防ぎきったシンクレアの放った鎖がヴァリスの両足に絡みついた。シンクレアはそのままあらん限りの力を込めて、ドラゴンから引きずり落とそうとする。
「‥‥わりぃな。いくらなんでも体格差は歴然なんだよ!!」
だが、単純な力勝負でなら勝負にならない。単純な怨恨に操られ、結果として戦う意味すら考えられなかったシンクレアは逆に鎖で動きを塞がれ、槍の腹で大地に叩きつけられた。
「さあ、まだやるのかお嬢ちゃん? もう終わりは見えてると思うんだがな。‥‥それとも、この俺と『二対一』で戦うのか」
槍を構えて挑発するヴァリス前に、フィーは剣を構えたまま動かなかった。
<玉座の間近く>
「一つ質問をさせてもらっていいか?」
「‥‥ああ‥‥‥‥何でも‥‥構わないぞ」
「魔皇という存在は‥‥‥‥それほど丈夫だったか?」
既に満身創痍となり、立ち上がることすらままならないトール・キリマ(w3b125)に、エルムンデスは驚きというよりは侮蔑の混じった‥‥往生際の悪さに呆れているような語気すら込めて目の前の魔皇へ問い掛ける。
「お前は‥‥知らなかったのか? ‥‥俺達だけじゃない。例え身体が折れようとも‥‥」
「『心が折れなければまだ戦える』というやつか。本当に下らぬ。下らぬ!! 何ができるというのだ、そのような精神論をふりかざしたところで! 貴様の体が粉微塵に砕け散ったとき、それでも貴様はまだ戦えるというのか? 戦えまい!!」
言葉が紡がれるとともに、エルムンデスの身体へ瘴気が集中していく。理由なき戦いへの嫌悪、未だ眼光の衰えぬ魔皇への恐怖‥‥その程度のもの、この拳をもって全て粉砕してくれる!!
『これで終わりだ愚者よ! ‥‥ブラテッド・ワイガニ!! (永久の鎮魂歌!)』
絶叫と咆哮、激震と裂光が塔全体に轟き、トールは成す術も無くその瘴気の渦に吸い込まれ、その存在を部屋から消失した。
「ははは、ハハハハハッハハ!! どうだ、どうだ! 心は折れていないだろう!? どうだ? かかってこいよ愚者め!! 何がこの戦いに‥‥‥‥!」
勝利を確信し、高笑いを轟かせる彼の耳に、不気味な重低音が響いた。嘶くようなこの音‥‥‥‥コアヴィークル!!
「わからないかエルムンデス‥‥‥‥まだ、戦えるんだ!!」
塔の壁が爆音と共に瓦礫へと姿を変貌させ、硝煙が立ち込める中、月代・千沙夜(w3a548)の駆るコアヴィークルとその後ろに掴まったトールが現れた!!
『ティルフィング!(必殺なる閃光の剣!)』
「なめるなああぁあああ!!」
千沙夜が放った一秒を八摂に、その一摂を八瞬に、その一瞬を八刹那に、そしてその一刹那に自らの反射反応を追従させて放った一閃は、エルムンデスの渾身の一撃と相殺される。
『燃えろヴィークル!私の魂よりも熱く!! ‥‥レヴァンティーーン!!(焼き尽くせし焔の魔剣!!)』
だが、千沙夜は得物を投げ捨てて素早く体勢を立て直すと、コアヴィークルをフルスロットル状態にしてエルムンデスへ激突させる! 周囲は業炎に包まれ、猛烈な衝撃を前にエルムンデスは壁にめり込んだ。
「ふざけるな‥‥‥‥ふざけるなよ貴様ら! このエルムンデスが、この俺様が、貴様等如きの前に屈するとでも思ったか!?」
「屈する! 屈させてやる!! 人の生きる意味も理解できないお前に、戦いの意味すら知ろうとしないお前に、俺達が、この俺の想いが、破られてたまるかーー!!」
コアヴィークルが壁を突き破って雪原へ落下し、その影から既に穴だらけとなった漆黒のローブに身を纏ったトールが現れる! その右腕に握られるは彼自身の気迫、全てを貫く銀の弾丸!!
「滅せよエルムンデス! お前の戦いは‥‥‥‥終わったんだ!!」
「何が、何がだ! 我は、我は決して倒れぬ!!!」
突き出されたエルムンデスの拳はトールの腹部を貫き、ついで突き上げられた爪先は顎を砕いた。鮮血が天井に飛び散り、嫌な音が三人の耳に入る。
「はぁっ! どうだ、貴様らが抱いてきたものなど所詮は蜃気楼の中のあぶくだ。実在せぬ、下らぬ妄想に‥‥」
「違う! ‥‥例えそれが、本当に蜃気楼でしかないのだとしても、その中に生きる者がいればそれは現実の物だ。もしそれが脆く儚いものというのなら、俺はそれを護ってみせる。蜃気楼の、その中で生きる者達の行く末を見届ける為に! その何処かにきっとある風景、虚像を現実の世界に‥‥‥‥映してみせる!!」
だが、その連撃を受けようともトールの気迫は衰えることを知らない。彼の足は確かに崩れかけた天井を蹴り、全てを貫く魔弾は射手に装填された!
「貫けェ!! これが、最期の攻撃だーー!!」
咆哮と‥‥そして僅かな静寂と放たれたその弾丸はエルムンデスの胸元付近を貫き‥‥‥‥光となった。
<玉座の間>
「エルムンデスも落ちたか。ヴァリスはもとより戦力に入れぬとしてこれで残るはジーンと‥‥このハリムのみか。なぁ、恐れを知らぬ若き魔皇よ」
ハリムの声が部屋に反響し終わるのを待っていたかのように、玉座へとつながる唯一の扉が音を立てて砕かれた。その先に立っていたのは、全てを仲間に任せてここまで突き進んできた男、風雲寺・志樹(w3c610)!
「よぉ、待ったか?」
強大なアークエンジェル・ハリムを前にしても、志樹はその静かな心を表すようにスラリと音も立てずに二刀を引き抜いた。挨拶代わりに振りぬかれた刀は音すら立てず、ただ必殺の波動を込めて彼の腕に握られた。
「さぁ、やろうかハリム」
あくまで心は乱れず、時空を倒したときのように静かな心で刀を握り締め、ハリムへ立ち向かう。振り落とされた刀は旋風を起こし、部屋の調度品を天井に打ち上げていく。
「『凱皇陣・無音!』 お前の武、ここでこの俺が‥‥!!」
「勝手に人の城に乗り込んでおいて礼すらなしとは無礼な奴だな。それに‥‥勘違いしてもらっては困る。ジーンやエルムンデスを統べる俺が、その二人より弱いとでも思うかね? まして、たかが四天王筆頭の時空程度よりな!」
開始早々に放たれた志樹の必殺剣を、ハリムは玉座から立ち上がることなく平然と受け止められた。防御などされていない。‥‥ただ単純に、この戦いを挑む事自体が誤りであったかと言わんばかりに‥‥‥‥斬れない!!
「な‥‥ガアアァアアアア!!」
防御すらせぬ相手を前に好機と見たのか、それともただその事実を認めたくないのか、志樹はただ闇雲に刀を振り落とす。ハリムの顔が左右に揺れ、魔皇が放った渾身の一撃は‥‥‥‥弾き飛ばされた。
「わからないとは愚かだな魔に属する者。お前程度の攻撃など蚊が刺すほども効かぬ。‥‥もう飽きただろう。さぁ、せめて安らかに‥‥眠れ!!」
「くそおおおぉおお!!!」
志樹の絶叫が玉座の間に木霊した。
<飛燕の塔・三階>
「大魔王ジーン! あなたを止めるのは‥‥僕だ!」
篠原・良牙(w3g493)の宣言は塔の壁に跳ね返り、ジーンの耳に幾度となく入り込んだ。
「聞き違いかな。このジーンを『止める』だと? 今回我が城に乗り込んできたのはお前達の方だろう。それにも関わらず‥‥」
「いえ、そういう意味ではありません。‥‥あなたの浪漫、この僕に、見せてください! 僕も、僕の全てを賭け、出しつくし、燃やし尽くして…僕の浪漫をお見せします! 僕の浪漫、それは皆を護ること。今は敵のあなたも‥‥そう、皆を! 理想は叶えるもの、そして掴み取るものです! だったら、僕はあなたをここで止めて、理想を現実に近づけます! 誰もが手を取り合い、笑って過ごせる…聖鍵騎士も魔皇もない、そんな世界を作るためにも!」
憮然とした表情で言葉を発するジーンに、良牙はあくまで溌剌(はつらつ)と、自分の考えを紡ぎ、敵であるジーンへと投げ掛ける。
「‥‥不思議な奴だ。だが、この戦いの中で‥‥‥‥このジーンを前にして、どこまでその志を保っていられるかな!?」
ジーンが腕を高々と天に掲げると、その掌に烈火に燃える剣が現れた。
「僕の志はあの時‥‥初めて人を殺めた時から。その人に大切なことを教わってからずっと変わることはありませんでした。もし変わることがあるとしたらそれは‥‥‥‥あなたに何かを教わったときです!! ‥‥神道無念流・無水!」
剣の出現を待ち侘びていたかのように、まるで相手の力を全て受け切るとでも言うかのように、少年もまた刀を握り締め、ジーンへ飛び掛る。張り詰めていた空気は脆くも破れ散り、つむじ風が少年頬をかすめて鮮血が滴り落ちた。
「この程度の力か小僧! そんな力で、その程度の力で、この大魔王ジーン‥‥!!」
『零・一閃!!』
何の前触れも無く唸るは良牙の必殺剣! 虚を突かれたジーンは、なす術も無く壁に叩きつけられた。
「もう一度言います。‥‥僕は、あなたをここで止めて、理想を‥‥現実に近づけます!」
少年は刀の構えを解かぬまま、瓦礫へ向けて尚も凛とした声で宣言した。
「自らの主を護ろうとするその心意気はわかる。だが、それは我らとて同じことだ」
「‥‥一騎打ちの邪魔はさせられないわね」
神弓のイレイザが放った弓が良牙の頬を掠めていた頃、逢魔・沙玖弥(w3d305)と逢魔・一刀斎(w3g493)は、それぞれの得物を手にしてイレイザの背後を取っていた。
「イレイザよ。悪いことは言わぬ。既に我らが背後を取った時点で勝負はあった。お前の武器では勝負にならん」
刀を構えたまま、一刀斎はじわりじわりと敵へにじり寄っていく。弓と刀‥‥背後をつき、距離すら取った今となっては、刀の有利は動かない。援護攻撃を主体とする弓はそもそも直接戦闘には向かないはずであった。
「甘く見るとは‥‥ここまできてな!」
だが、イレイザが弓を放つような仕草をした刹那、背後にいるはずの一刀斎と沙玖弥へ襲い掛かったのは矢ではなくそれに纏った疾風! 鎌鼬は二人の肉を切り刻み、壁を瓦解させた。
弓をつかわず、それを媒介として強烈な一撃を放つイレイザの攻撃に、二人は思わず後ずさった。
「私の使命はジーン様の戦いに邪魔者を介入させないこと。そしてジーン様に害をなす者を排除すること。‥‥形のなき弓、見えぬ矢‥‥一体どうやって捉える!?」
幾筋もの光が二人を包み込み、やがてそれは無数の鋭い刃となって襲い掛かる。凡そ人間業とは思えない、捉えどころのない攻撃に二人は防戦一方となってしまった。
「イレイザさん‥‥だったわね。私たちが『勝負にならない』と言った本当の意味、教えてあげるわ!」
いまだに無数の光が取り巻く中、沙玖弥はこの状態にも関わらず防御姿勢を解き、槍を構えると、自らへ次々と矢が突き刺さる中、ただ一点を見据える。攻撃を受ける中での『不動』。常軌を逸するにも程がある所業に、イレイザは無言の中にも言い知れぬ威圧感を覚えた。
「自らの主を守るために戦う‥‥それもまたひとつの戦い方、戦う理由に他ならない。‥‥だがな、己の道を戦いの中で切り開き、真にその意味を理解した我等、そして若にお前たちが適うわけなどないのだ!!」
沙玖弥と同じように、全身から滝のような鮮血を流しながら武器を振り上げる一刀斎。彼の気迫は覆い尽くす光を俄かに乱し、そこから振り落としたたった一太刀はその中にイレイザまで続く一筋の道を作り上げた!
「今だ、沙玖弥! 飛べ!!」
「‥‥戦乙女の戦い、貴女に見せてあげるわ!」
光の渦、その中にできた一筋の道。その道を駆ける戦乙女の姿は、さも幻想的に映ったことだろう。
突き出された槍は、果たして何を貫いたのだろうか?
●幕間
「時が‥‥‥‥来たな」
一人の男は、いまだ未来を持つ青年二人を見下ろすと、城の向こう側に見える福山テンプルムをみつめるのであった。
<飛燕の塔・三階>
「いきます、ジーンさん! 烈風の心を込めて、今までの僕自身を乗せて!」
力強く踏み出された少年の足は大地を揺るがし、雲間と崩れた天井の隙間から降り注いだ光はその刃を照らす。彼の刃は‥‥漆黒を切り裂いた。
「甘く見るな小僧! その程度の斬撃、我の体に傷ひとつ負わすことはできぬ! エルムンデスもハリムでさえも! ‥‥皆俺の敵ではない!!」
光に包まれた刃はジーンの漆黒のローブを切り裂き、崩れた壁へ布切れを舞わせた。外れたとはいえ確かな手ごたえを感じる良牙に、ジーンは言葉とは裏腹に、その表情へ動揺を隠しきれない。
「あなた達の生きる意味、僕たちが生きる力! それは本当に対立するものなのですか!? 共存という道は、せめて争わず、語り合えるような世界を!」
「黙れぇ! その世界、その理想郷、どこにお前は作るつもりだ!? どれほど時を経ようとも、善行を積もうとも人の恨みは消えぬ、潰えぬ!! 皆己の利益のみを求めて奔走し、他者を陥れることでそれを手にする。そして敗者は勝者を妬み、恨む!! 貴様のいうような世界がどうしても見たいのなら‥‥実体亡き死後の世界で夢想するがいい!!」
怨恨の象徴、大魔王ジーンが咆哮とともに放った渾身の一撃は良牙の頬を掠め、そのまま山の斜面に巨大な穴を空ける。
「見たか小僧、これが力だ! 支配というものだ!! 何が現実であり、何が理想であるのか、そのような小さなことに思考を費やしているのではない。確実に、今手元にあるものだ。それすら‥‥‥‥!!!!」
『零・一閃!!』
ジーンの言葉を、彼の中の世界を否定するかのように、少年の放った技は鋭く、そして猛烈にそれらを切り裂いた。ジーンは壁を突き破って落下していき、良牙もそれを追って飛び降りる。
「自分の未来に支配や利益しか見ることができなくて‥‥ただ怨恨という恐怖に流されることしかできなくて‥‥‥‥何のための力だぁ!!」
「ジャブスタに何を語られたか知らぬがな小僧! 理想は夢想するものではなく創り上げるものだ! 怨恨を恐怖しようとも、それを支配することによって、我は世界を支配できる!!」
絶対的な必殺技『零・一閃』を受けようともジーンが怯むことはない。落下しながらも尚、己へ向けて剣とともに語りかけてくる少年へ、漆黒に包まれし攻撃と罵声を浴びせ掛けた。
「だからどうした!! そんな世界を支配して、支配したように思い込んであなたは満足なのか?! 夢すら‥‥理想すら見られないのに、それを考えることすらできないのにあなたは何を支配できる!?」
「虚言だ小僧! 力を得ようとしてみろ、それを‥‥‥‥!!」
空中戦の最中、ついに均衡を保っていた両者の攻撃に歪が発生し、ジーンは少年が放った再度の一閃により弾き飛ばされた。
‥‥彼は少年と戦っている間、一つの疑問に突き動かされていた。何故己は下らぬと思い込める少年の戯言にここまで付き合っているのか? 一度志した道、例え逸れていようとも、それを突き進むのみと確証していたはずなのに。
「‥‥‥‥面白い」
ジーンは自嘲気味に笑う。四天王の姿は今やなく、まともにたたかっているのはダステリアの弟子どものみ。落下中に見た光景、ヴァリスとフィーが剣を交える姿、階下に倒れる時空の姿は、心の鎖に小さな亀裂をはしらせた。
「面白いではないか良牙よ! 貴様の思考すべてがな!! ‥‥この俺を倒すこともできぬ非力で、新たな世界を創造する、神の領域に挑もうとするお前の浅はかさがぁ!!」
ローブを脱ぎ捨て、絶叫をあげて良牙へ突き進むジーン。魔王の行進といえば聞こえはいいが、そこには既に魔王としての威厳も、神帝軍としての神々しさもありはしない。ただ、己の道を欲し、かつての己を捨て去ろうとする人間‥‥その姿のみが奇妙にも鮮烈に浮かび上がっていた。
「浅はかでも構わない! 僕はあの日から、弱かった二人でジャブスタさんと戦い、語りあったあの日から!! この道を‥‥‥‥生きている!! 全てを終わらせる為に貫け! 僕の魂よ!! 道を‥‥照らせェエエ!!」
『グレスレムダ・ボルケーノォオ!!!』
『絶・八葉!!!』
黒煙と爆音、閃光と激震‥‥‥‥二人を包み込んだ数多くのものは、一人の男が漏らした言葉を無情にも包み込んだ。少年の刃はすべてを貫き、ジーンは漆黒のローブの上で、魔王としての役目を終えた。
<玉座の間>
「‥‥どうした? ‥‥旗色が悪いようじゃ‥‥ねえか?」
「‥‥まだ生きていたのか。旗色など、ここまできておいて何の意味もなさない。どれほど敵が膨大であろうとも、このハリムの前に蹂躙されるだけだ。‥‥この塔の瓦礫の下で、永き眠りにつけ」
爆音と衝撃、そしてついに衝撃に耐え切れず崩れ落ちる足場から、戦いの終焉を知ったハリムは、いかに魔皇といえども動けるはずのない容態にも関わらず、剣を杖代わりにして起き上がった志樹へ、哀れともいいたげな言葉を漏らし、残った敵を始末しようと窓枠に足をかけ‥‥自らも剣を引き抜いた。
「わりぃな、仲間が来るまで引き付けるのが‥‥役目だったんだが‥‥ここが崩れちゃ‥‥奴らも‥‥これないだろ? だったら‥‥俺が‥‥‥‥たおさねぇと」
鋭い金属音は塔が崩れ落ちる音にかき消され、消え入りそうな志樹の声はハリムの耳に届かない。だが、ハリムは言い知れぬ恐怖から額に汗を溜め、崩れる運命の塔に留まることしかできない。
「勘違いを‥‥するなぁ愚者よ! 貴様に、もう立つことすらできない貴様に、この私が、アークエンジェルが、一介の魔皇一人に負けることが‥‥」
「御託はよそうぜ‥‥大将。‥‥‥‥もう終わったんだ‥‥あんたの戦いは‥‥‥‥まだ続いてる戦いもある‥‥こっちが勝った戦いもある‥‥負けた戦いもある‥‥‥‥だがな、もう終わったんだ。この塔が崩れ始めた時に。お前はついさっき‥‥変わった世界を敵にできない。そして‥‥‥‥俺にもだ‥‥」
杖と化した剣を離すこともできぬまま、志樹の口端に笑みがこぼれる。ハリムはいつしか逃げ場のない状況へと陥っていた自らの身体を僅かに後ろへ逸らし、動くこともできない魔皇を精一杯の気力で凝視した。剣が振り上げられ、杖は刀と化した。
‥‥塔が、ジーンの城全体が崩壊したのはそれから間もなくのことであった。
●余幕
「終わったか‥‥まさか夢物語が実現しちまうとはな。‥‥来い。てめぇらが言っていた楽園へと招待してやる」
ハリム側として唯一最後までフィーと復活したシンクレア相手に奮戦していたヴァリスは、ハリムの断末魔を耳にして肩を撫で下ろすと、戦っている二人と、眼下に集まった仲間たちへ声をかけた。
魔皇神帝軍関わりなく肩を貸しあい、歩いていく姿‥‥‥‥もしかすると彼が思うより早く、戦いはとっくの昔に終わっていたのかもしれない。
「福山テンプルムは郊外へ移動。最低限の感情搾取を行い、グレゴールとファンタズマの存在維持のみを目的とする。魔皇は市街地において魔皇化を禁止。‥‥尚、予想されるであろう他勢力からの攻撃への防御、内部からの反発には、それぞれが警備兵として十数名を輩出し、治安維持にあたるものとする。これからの永い道のりは決して平坦ではないだろう。だが、かつての戦いで得たものを皆心に刻み、狂気なき真の平和というものを樹立してほしい」
グレゴールやファンタズマの姿もまばらとなった福山テンプルムで一つの条文を読み上げたグレゴールは、魔皇側の代表者と調印を済ませると、出席者全員に礼をして退出した。その背中には大仕事をやり終えた疲れが浮かんでいた。
「ご苦労様‥‥と、言っておこうかダステリア。お前の描いていた理想‥‥俺たちが描いていた未来‥‥‥‥ようやく達成できたというところか?」
「まだに決まっているだろう。‥‥大変なのはこれからだ」
「それもそうだな。ならば今から手合わせでもしようか。久しぶりにお前の剣が受けてみたい。良牙や最、ジーンや志樹もいるぞ」
「いい提案だ。だがその前に‥‥‥‥一杯だけ酒に付き合え。‥‥‥‥きょうくらいは‥‥いいだろう」
廊下で話し込む二人の口元は、友への尊敬と、ついにやってきた時への喜びに満ちていた。
完
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