■【神帝の徒】 松山市郊外の決戦■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 一条もえる
オープニング
 『アークエンジェル』。
 神帝軍における位階の1つ。それはグレゴールと共にあるファンタズマよりも上位に位置する天使‥‥例えば、テンプルムを守護する『コマンダー』と呼ばれる者たちの位階である。
 愛媛テンプルムにもそれはいる。
 ケイ。頬に虎のような縞模様を走らせた天使。
「‥‥如何様にこの地は治められるべきか、如何様に死すべきか、知らないらしいな魔皇どもは‥‥」

「テンプルムを攻めるんは、避けたらどうかと思うんよ」
 いきなり、逢魔・奈々緒(w3z090)がそんなことを言い出したので、満座の魔皇たちはざわめき、ある者は顔色を変えて席を立った。
「あ、ん〜ん。神帝軍を放っておく、いう意味やないんよ。ただ、テンプルムに一気に攻撃かけるとなると、こっちにもがいに被害が出そうやない?」
 すごく被害が出そうじゃない? 魔皇達の顔を1人1人見渡した奈々緒は、言葉を切る。
「それで‥‥うまく、『効率よく』攻撃できんもんかなーって考えて‥‥」
 松山市上空にあるテンプルムは、襲撃する事となると相当の反撃を覚悟しなければならないだろう。テンプルムを支える『マザー』をはじめ、本拠地だけに懸命の防衛が行われるに違いない。しかも、中の様子は(他のテンプルムの情報から類推することは出来るが)はっきりしないのだ。
「そこで‥‥そう、例えば、コマンダーをおびき寄せたり、できんもんかな?」

 松山市郊外に魔皇が結集している。
 その情報を神帝軍がつかんだのは数日後のことだった。魔皇たちはすぐさま神帝軍に攻撃を掛け、サッと逃げ散るといったいつものような動きは見せず、神帝軍の様子を窺うような素振りを見せている。
「身の程知らずな。ここに攻め入るつもりか? ノリヒロ! 行くぞ」
「は。テンプルムに万が一でも、傷が付いてはなりませんからな」
 神帝軍はすぐに軍を編成し、差し向けた。

「ノコノコ出てきたな。神帝軍も、なんだかんだいって俺達のことが鬱陶しいらしい」
 大軍である。魔皇たちは武者震いしつつ、それを見つめた。だが、それは彼らの思惑通りではある。
 ここに待機している彼らは、囮なのだ。
 彼らが敵の主力を引きつけている間に、別働隊がコマンダー・ケイを討つ!
『囮と言っても、引きつけるだけじゃいかんのよ?』
「わかってる。できるだけ叩いておけば、後が楽だからな。いっそノリヒロを倒すくらいの気持ちで行くぜ」
 魔皇たちは勇躍し、神帝軍に対した。
シナリオ傾向 敵主力軍撃破!
参加PC 二神・麗那
メレリル・ファイザー
瀬戸口・千秋
瀬戸口・春香
蘭桜院・竜胆
天宮・要
天宮・司
琥龍・蒼羅
【神帝の徒】 松山市郊外の決戦
●鬨の声をあげて
「よくもまぁ、集めたものね‥‥!」
 二神・麗那(w3a289)は、雲霞のごとく押し寄せる神帝軍を見て感嘆の声を漏らした。さすがに、背筋がぞくぞくする。
 戦いを好むと好まざるとに関わらず、偵諜は狙われる。偵察に出かけた逢魔・瑞樹(w3h414)は、捕殺されるところをすんでの所で逃げてきた。敵も本気だ。
「それだけ、わいらを重要視してるってことやんか。光栄に思わんと」
「‥‥物は言いよう、だな」
 瀬戸口・千秋(w3d057)は顔をしかめたが、なに、そう言った蘭桜院・竜胆(w3d484)の方だって、気楽に構えているわけではない。この戦いの重要性、そして危険は十分に感じている。
 だがそれでも、神帝軍の威容は予想以上であり、武者震いを起こさせるには十分だった。瀬戸口・春香(w3d060)が緊張を隠しながら、
「さすがはアークエンジェル、ってことかな?」
 と、うそぶく。
「‥‥では、こちらもそろそろ動くとしよう。作戦開始だ」
 琥龍・蒼羅(w3h554)の言葉に、メレリル・ファイザー(w3a789)が肯いた。
「ここであたし達が頑張れば、それだけ本命の部隊が動きやすくなるんだから。頑張らないとね!」
「任せてよ。僕たちの無敵の連携、見せてあげるから。ね、司?」
「そうだな、要」
 天宮・要(w3g157)と天宮・司(w3h414)の双子が、揃って肯く。
「よし、いこう!」
「おぉッ!」
 その場にいた数十人の魔皇たちが、一斉に声をあげた。

●鵬の翼
「山を背に布陣したか‥‥なかなか‥‥」
 魔皇軍を遠望したノリヒロは、高々と手を振り上げた。
 戦いの呼吸というのは奇妙なもので、こちらが鋭く息を吐いた時、相手は反対に吸うわけではなく、互いに呼応し、やはり同じく吐くのである。
 竜胆の投げたフラッシュバンが轟音と共に弾けて閃光を放つと、神帝軍からは『光破弾<シャイニングショット>』の衝撃が魔皇たちを襲った。
 中軍に相対する竜胆には、ノリヒロの放つ『烈光破弾<スパーキングショット>』が来た。サングラスなどお構いなしの眩い光が、竜胆の目を焼く。
 次々と光った閃光に両軍はしばらく狼狽えたものの、やがて態勢を立て直した。
「くそッ! やるやないか!!」
 実質的なダメージを被った分、先手は取られた格好か。しかし竜胆は気力を奮い立たせて踏みとどまる。まさか、閃光弾1つで天秤を傾けられるほど甘い戦いとは思っていない。
 その罵声に煽られたように、魔皇軍は前進を開始した。神帝軍も同じく、翼を広げるように展開を始めた。
「みんな、ついてきてよ!」
 魔皇軍右翼、『真テラーウィング』を広げた春香を先頭とした飛行部隊が進む。人家も疎らな平野の上空を飛び、手にした魔皇殻で、各々が敵の側面へと攻撃を仕掛ける。
 一方、魔皇軍の左翼を率いる千秋と蒼羅は、敵右翼の鋭鋒を避けるように市街地に入る。千秋はさらに、少数の部下を率いて敵の側面に回った。
 だが。
「ふむ。‥‥元のままに!」
 一度肯いたノリヒロは、両将に命令を下す。
「はい。惑わされないように。守りを固めて、進め」
 敵左翼を率いるのは、ウォーエレファントに騎乗したタイチロー。率いるのはオーグラなど、怪力巨躯のサーバントは大きな盾を構えつつ、ジリジリと前進する。
「はいッ! 止まるな、速さこそ武器だッ!!」
 対して、敵右翼を率いるシュータが率いるのはハルピュイアなど高速のサーバント。千秋には「押さえ」を向けただけで、さらに前進‥‥いや、突進させる。
 してみると、右翼が攻撃を、左翼が守備を得意とする軍なのだろうが、それが連動した動きを見せる。この両翼で押し切り、そして麗那らのいる中軍を押し包めば、魔皇は退くしかないという目算だろう。
「『誘い』にはこってこなかったか」
「簡単に勝たせてはくれないね」
 期せずして、戦場の両端で千秋と春香が肩をすくめた。春香はいったん後退し、逢魔・シェリル(w3d060)が『清水の恵み』で、負傷者の傷を癒す。これからもっと忙しくなるはずだ。
「‥‥難しいな」
 小さくかぶりを振った蒼羅は、部下に『バスターライフル』を構えさせた。

●衝突
「一気に蹴散らすわよ!」
 中軍では麗那が『真テラーウィング』で舞い上がり、敵陣に乗り込む。当然、敵は群がってくるものの、麗那は『真衝雷撃<バッドライトニング>』でパイパーウルフの群を吹き飛ばした。パイパーウルフたちは悲鳴を上げ、倒れていく。
 だが、グレゴール相手となればそう簡単にはいかない。むしろ、突出したぶん押し包まれる格好になった。先日の戦いで捕らわれていた魔皇もこの戦いに参加していたのだが、その麗那配下の魔皇達が慌てて追いすがり、彼女を庇った。
 パイパーウルフは数こそ多いものの、彼女ら「隊長」にしてみれば、しょせん足止めにしか成り得ない。ワーウルフでも、囲まれでもしない限り不覚をとることはあるまい。注意する敵はグレゴールの他、バーニングドラゴンである。
「うわわわわッ!?」
 メレリルが悲鳴を上げて、身を翻した。その横を炎の息が襲い、地面に生えた草が見るも無惨に炭と化す。
「やったね! お返しよッ!!」
 飛来するバーニングドラゴンに、メレリルは『真戦いの角笛』を向けた。炎をかいくぐりながらの危うい攻撃を幾度も繰り返し、ついにそれは1匹の翼をとらえ、怒りの声をあげたバーニングドラゴンが地上に降りてくる。とはいえ、それでも15mにも及ぶ巨体が脅威であることには違いない。ここぞとばかりに『真闇影圧<シャドウグラビティ>』を放つが、バーニングドラゴンは抵抗し、跳ね返した。
「手強いッ! さすがはドラゴン!」
 魔皇に匹敵する強さである。
「かかれッ! かかれぇッ!!」
 それを中核に据えたノリヒロは、仁王立ちし、声を枯らして軍を進める。
「やってまえ!」
 それに対し、竜胆は部下を横列に並べ、『パルスマシンガン』を斉射する。しかしノリヒロの声に後押しされた敵は、それを乗り越えて迫る。
「怯むな、押し込め!」
「なかなか手強いやん!」
 竜胆は舌打ちし、敵味方入り乱れる中に乗り込んでいった。メレリル率いる重装甲部隊も敵前に立ちはだかり、両軍、がっぷり四つである。
 麗那もやむを得ず、それに加わる。飛び続けていては、白兵戦を主体とする部下達が追いついてこられない。彼らのフォローもしなくては、敵に飲み込まれて雲散霧消してしまうだろう。それでは戦果は望めない。
「仕方ないわね。ここは、腰を据えて戦うか‥‥!」
 逢魔・ディルロード(w3a289)が、『祖霊の衣』を主に纏わせた。

●転換点
 戦況は一進一退であった。
 魔皇たちが「大技」で敵陣を穿つが、ノリヒロは焦らず補充の兵を向け、壊乱を防ぐ。すると危うく、ダークフォースを放った後の隙を突かれそうになる。
 逢魔・モーヴィエル(w3a789)の『獣の鎧』でさらに守りを固めたメレリルの重装甲部隊が支えるが、それでも負傷者は続出し、逢魔・菖蒲(w3d484)の『癒しの歌声』が、何度も響く。
 しかし、ノリヒロら将軍格の強力なグレゴールと、それに従うグレゴールの中でも何人か、そしてバーニングドラゴンなどを除けば、彼ら、隊長格の魔皇と斬り結ぶことの出来る力を持つ者はいない。むしろ、普段ならば単なる雑魚を率いて一歩も退かないノリヒロの指揮ぶりに驚くが。
 それでも、兵の補充が追いつかなくなり始めている。
「少し‥‥押してるかしらね」
 麗那が冷静に見て取った、その時。あり得ないはずのモノが、彼女の目に入った。
「麗那さん!」
 以前の事件でノリヒロに追われた魔皇も、傷を癒してこの戦いに参加していたのだが。その彼女が、中軍に姿を見せたのだ。
本来ならば天宮兄弟が『率いるはずだった』、彼女ら魔皇が!
「何でこんな所に!?」
 それに気付いたメレリルも、驚きの声をあげた。
「それが‥‥! 要くんも司くんも、気付いたら先に行ってしまってたんです!!」
「んな、アホな!?」
 竜胆は顔色を変え、右翼に目を転じた。

●絆ゆえに
 大金を出して名刀を欲しがってはならない。多くの槍を揃えて兵に持たせ、敵に当たらせるべきである。つまり、いかに切れ味鋭くとも、1本の刀では万人を相手には出来ないということだ。そう言ったのは戦国武将、朝倉敏景であったが。
 要、司の2人は「名刀」に値する実力を存分に見せつけていた。確かに、「名刀」は手元にあるのだから、それを振るうのに躊躇いはいらない。
 が、彼らは自ら、助けとなるはずの「槍」を手放した。
 彼らの意中は、察するしかない。
「僕たち双子は、完璧な連携が出来るからね」
 彼らは、つねづね口にしていた。生まれたときから一緒にいた彼らならば、互いの意図は酌み取れるかもしれない。しかし、
「例えば俺は、要の撃つ弾丸には決して当たらない。絶対に、だ」
 そこまで完璧な連携などがあるのだろうか? 魂の半身である逢魔にだって、そこまで共感することはないのに。
 ともあれ、他の魔皇など邪魔にしかならないと思えたのだろうか。
 実力という意味ではその通りだ。が、彼らにも目は2つずつしかなく、腕も2本ずつしかない。雑魚などいくらいても、遅れはとらない。だが多数の雑魚だからこそ、「槍」は有用ではなかっただろうか?
 要、司の防衛線は圧倒的多数の敵に飲み込まれ、乱戦となった。
 タイチローは『光翼陣<フレアケージ>』を展開させていた。聖なる力場が戦いの中心‥‥すなわち2人の周囲を包み、魔皇の力を半減させる。そのせいで、司は1匹のオーグラに致命傷を与え損ねた。背後から、一撃を食う。背後を守るべき要も、周りを取り囲まれているのだ。
「一気に押し切れ!」
 鈍重そうに見えるウォーエレファントだが、その突進はすさまじい。タイチローはここを先途と、突撃を開始した。
 逢魔・ラウディ(w3g157)は主を護るべく、必死に得物を振るったが。
 彼らの姿は敵の波に飲み込まれ‥‥。
 消えた。

●激戦の終結
「なんだ!? どうして右翼が崩れた!?」
 彼方を遠望した千秋は、信じられない物を見た。苦戦、撤退の可能性はあるとしても、もっと粘れるはずだ! こんなはずが!!
 しかし、春香にとってもそれは苦渋の決断だったのだ。飛行部隊を率いる彼は敵陣をえぐる穂先とは成り得ても、陣を守る盾にはなれない。仲間の姿を確認することさえ出来ず、いったん退くしかなかった。それが、魔皇軍右翼の敗退だった。
 このままでは中軍は半包囲され、痛撃を浴びるだろう。‥‥いや、動揺が部下に伝われば、左翼も危ういか。
 千秋が思案するうちにも、懸命の抵抗が行われていた。
「わ、私達が敵を食い止めます!」
 持ち場も指揮官も失った魔皇たちが、側面を庇おうと敵左翼に立ち向かったのだ。だが、彼女らの実力では明らかに、荷が重すぎる。焦りと動揺もある彼女らは、健気に抵抗を続けたものの、ウォーエレファントの巨体に蹂躙され、圧殺された。
 当然、ノリヒロもシュータも、嵩に懸かって攻撃を仕掛けてくる。
 狙撃を主体とする千秋、蒼羅の部隊は、当然、距離をおいて戦っていた。物陰に隠れた状態での射撃で相手を食い止め、再び突進してくる前にジリジリと、だが必死の後退を行っていたのである。敵を近づけないなど、言うのは簡単だが行うのは難しい。なにせあの速さである。
 だが、ここにきて敵の勢いはさらに増し、ついに捕捉されてしまった! 
 どうせすることなんてない、と高をくくって戦況を眺めていた逢魔・リネア(w3d057)が、頭を殴られて昏倒する。
「潮時だ。‥‥退くしかない」
 蒼羅は即座に決断した。といっても、すぐに背を向けては潰走するだけだ。敵の目前でコアヴィークルに乗る隙も見せられない。
「ゼフィ、いくぞ。無茶はするな」
 逢魔・ゼフィリス(w3h554)の『忍び寄る闇』が広がる。しかし、敵の動きは速い。中にはそれを突っ切って追撃してくる。魔皇たちは一部が銃撃を浴びせ、その間に残りが下がり、下がった者が撃ち、その隙に残った者もさがり‥‥。それを繰り返し、懸命の撤退を行った。

 被害‥‥犠牲はそうとうなものだった。
 攻撃をまともに受けた中軍は犠牲も負傷者も多く、麗那も、メレリルも、竜胆も声を出せないほどに疲労している。
 だが、敵の先鋒となる右翼をある程度封じたことで戦線は膠着した。その間に敵に与えた損害も、かなり大きいはずだ。おそらく後軍を顧みる余裕もないほど、組み合って戦った。それは重要なはず。
 この間にアークエンジェルを倒してくれてさえいれば、それでいいんだ!
 魔皇たちは自らを励まし、連絡を待った。