■【清く正しく美しく!】4激闘!? 闇討ち!? 選考会!!■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオ |
クリエーター名 |
外村賊 |
オープニング |
連日毎夜、壮絶な口論が繰り広げられる、宝塚大劇場内『清心友の会』事務所。軽く公害並みの喧騒のそこに、ある人物が入ってくると、水を打ったように全てが静まり返った。
その者は無言で進み、会長の机の前に立ち、周囲を見渡す。友の会会員グレゴールが、その者に一斉に視線を浴びせた。誰もが皆、その眼に緊張を孕んでいる。
「清心様のご指導が、最近混沌に拠っているのは皆様ご周知だと思います。人々を神の安寧へと導くべき我々神帝軍が、率先して不幸と災厄の中に陥れんとしているのです。
私は清心様がまこと乱心なされた証拠を、この目で見ました。‥‥清心様は魔の者と通じ、神聖なる歌劇を混沌で穢そうとしていたのです!」
予想を超えた事実に、煌びやかな事務所一杯に、どっとばかりにどよめきが溢れる。それは前に立つ者の清らかな宣言を、周囲に漏らさぬバリケードとなった。
「皆さん、今こそその時です。共に手を携え、混沌を打ち破りましょう! 清らなる宝塚歌劇を取り戻すのです!」
「でも、清心様にはサニティのご加護があるのですよ? 私達で敵いますでしょうか‥‥」
「心配要りません」
不安がる一人のグレゴールにはっきりとその者は言い切る。
「私なら勝てる。勝てる実力(ちから)がある‥‥あの方に負けない心を持っているから‥‥」
その日は来た。
「それでは今より、五月期公演『いつかあの夢を』選考会を行う」
大劇場に並ぶように作られた公園『ファンタジーガーデン』に、ジェンヌと生徒達はレオタードのまま集められた。
前には清心とファンタズマ・マリオンが立ち、演説を行っている。
サニティの教室での清心との会話の後、何事もないままヴィレ・ド・ジェンヌでの日々は過ぎた。清心は今まで以上に熱心に指導に当たり、生徒たちもそれに応える。ただ、それは必ずしも安心してよいという状況を指すではなかった。
『清心氏が魔皇を認めるというのであれば、今の方針に賛成せぬ神帝軍は近々何らかの行動をとるでしょう。恐らくは次の公演が決定するまで――選考会までには、必ず。いつ狙われるやも知れません、皆様、気を引き締められますよう』
シュバイツからの定期報告はこの様な内容だった。清心も、きっと同じ危険を考えているだろう。
「選考方法はいつもの通り『ソウルステージ』で行う。歌唱、演技、ダンス、モデル――これまで諸君らが学んできた事のみが力となる世界だ。こ度のテーマは『強き意思』とする。諸君らの思う『強き意志』を、諸君ら自身の表現で演じてみたまえ。この中で最も輝いた者が、役を与えられる」
清心の素振りは落ち着いたものだった。さっと手を掲げると、周囲の景色がさっと崩れ去り、『いつかあの夢を』の舞台となる十八世紀ドイツの宮廷が現れた。
「制限時間は今より二時間。始め!」
練習の開始のように、清心が手を打ち鳴らす。
そして。
時を同じくして、魔皇達に見えぬ場所から、神の僕の影が動き出した。
|
シナリオ傾向 |
演劇バトル |
参加PC |
若槻・圭織
雷駆・クレメンツ
鷹村・夢
真田・楓
榊・紫蘭
片桐・沙羅
小鳥遊・美陽
|
【清く正しく美しく!】4激闘!? 闇討ち!? 選考会!! |
●守る者達
「暇だ」
雷駆・クレメンツ(w3a676maoh)は誰にともなしにそう言った。ちなみに、初訪問者の例に漏れず雷駆も罠に掛かって天井にぶら下がる羽目になったが、心ある者達によって先程救出された。
「外部から敵が侵入する可能性はゼロじゃない。気は抜けないよ」
逢魔・久世(w3i665ouma)が宝塚に繋がる隠れ家の入り口を見張りながら答える。ちなみに、雷駆の持っていた汎用結社征式X旗は、密のシュバイツが自ら喜んで屋根に立てに行った。これで来客が増える♪とか言っていたがそれは間違いだと思う。
その為、シュバイツが席を外したこの部屋は異常なまでに静かで穏やかだった。
「まぁないに越した事はねぇよ。大事にならずに済んで、アイツが存分に頑張って、結果と笑顔をイの一番に見せてくれるなら‥‥」
最後はほとんど独り言で、雷駆は物思いに沈む。頭の中では夕日の中、疲れて眠る逢魔・ティレイノア(w3a676ouma)を背負ってのんびり歩いてく、ドリーミーな図が繰り広げられている。
そんなピーチフルが知らぬ間に表情に出ているのを見て、久世は少し気遣わしげに声を掛けた。
「念の為に言っておくけれど‥‥宝塚に入団したら、寮生活だぞ」
「なっ‥‥!」
「これから練習も佳境だろうし、あまり会えないのではないかな‥‥」
「ななっ‥‥!!」
雷駆の中のドリーミンががらりと音を立てて崩れ去る。
「‥‥私だって、最近美陽の顔、あまり見ていないんだ‥‥」
練習に明け暮れる主人を思い、久世は切ない溜息をつく。
(「俺は、夢が自分の望みを実現してくれれば‥‥それだけでいい‥‥」)
二人の悲しい男共の奥で、逢魔・デューシンス(w3c018ouma)はひたすら主人の成功を願った。
「それだけは、誰にも邪魔はさせない‥‥」
●知と優と
使用者の思い描く演劇空間を作り上げるソウルステージ。小林清心の意によって、広々とした公園に貴族の館の風体を現出させていた。数え切れぬほどに広がる部屋、廊下、踊り場、中庭。それぞれで生徒やジェンヌが思いを繰り広げ、一人、一人と消えていく。
夕暮れの赤が、カーテンを通して僅かに入り込んでくる。調度品らしい調度品も無い部屋にいたのは、逢魔・クレニヴァール(w3g581ouma)。椅子に深く腰掛け、天井からぶら下がる小さなシャンデリアを見上げている。その表情からは、何を考えているのか予測できない。
(「ライバル役、リシャール‥‥天才的な主人公の腕を妬む男‥‥あの男の怪我で、代役を任された。その心は‥‥」)
無表情は、そこから導き出された答え。
クレニヴァールは今、その答えを共に演じる者を、待っているのだ。
かちゃり。
無音の部屋に、金属音が差し込んだ。ドアから入ってきたのは、榊・紫蘭(w3g581maoh)だった。クレニヴァールは、音に合わせ、その姿勢のまま両腕を差し上げて自分の手を眺めた。
「‥‥あいつは、あのままで居てくれた方がいい‥‥」
どこか上の空で、紫蘭の入ってきた事に気付かぬ風に、言う。
「代役を‥‥任されたのですって。おめでとう」
落ち着いた様子で紫蘭は声をかけた。
「そうだ、あのままで‥‥俺の存在がかすむ、俺の全てがかすむ『天才』など‥‥」
うわ言のように呟いているクレニヴァールに近づきながら、紫蘭は手に携えた扇を音を立てて閉じる。そこで初めて気付いたように、クレニヴァールは振り向いた。クレニヴァールの座る椅子の後に立った紫蘭は、得心したような、穏やかな表情で微笑む。
「血豆が出来るほど‥‥練習してきたんだもの。貴方の‥‥努力が‥‥報われたのだわ‥‥」
(「そう、この子は‥‥リシャールの全てを知って‥‥それでも、愛するの」)
紫蘭は身も心もライバルの恋人、マリアンヌになろうと考えていた。
「ああ、俺にやっとチャンスが巡ってきたのさ」
「貴方が、代役を‥‥任されたのは‥‥貴方にしか、勤まらないからよ。‥‥頑張って‥‥ね」
再びドアが開き、入ってきたのは小鳥遊・美陽(w3i665maoh)だった。
「代役に選ばれたのですってね、おめでとう」
同じ台詞ではあったが、美陽の声音はどこまでも幸せそうで、紫蘭のそれとは全く異なっていた。心から祝福する、そんな様子だった。
この場にリシャールはクレニヴァール以外にいない。
「そうだ、あのままで‥‥俺の存在がかすむ、俺の全てがかすむ『天才』など‥‥」
変わらず、クレニヴァールはうわ言のように台詞を紡いだ。
美陽は無言でクレニヴァールに近づくと、差し上げられた両手をそっと握り締める。
(「清心は俺達を認めてくれた‥‥ならば俺は全力でそれに応える!」)
「貴方が代役を任されたのは、貴方にしか勤まらないからよ。頑張って‥‥」
強き意思。美陽にとっては自我の強さでは無く、状況の変化に関わらずに、常に人を思い続ける事だった。それをこの役で表現する時、ひたすらに優しい、マリアンヌが立ち現れた。
「‥‥あ」
紫蘭は自分の体重が無くなり、浮遊するような感覚に囚われた。そう思った瞬間、紫蘭の目の前の景色が薄れていく。
「負けてしまったのですね‥‥残念です‥‥」
●闇の中
一人、一人。彼女の演技の前に消え去っていく候補たち。
(「ここまでは予想通り‥‥残る人数はもう十人もいない‥‥。仕方ないんだ‥‥魔皇達を廃して‥‥清心様を」)
彼女はそう思い、大きなドアを開いた。
●真の瞳
清心がドアを開けると、そこはただ広い広間だった。豪奢に装飾された室内、大理石の床。最奥にはオーケストラの楽器が並べられている。しかし演奏会の前なのか後なのか、奏者は誰もいなかった。
そこにいたのは六人、主人公ライムンドと、ヒロインテレーゼが三人ずつ。それぞれが思う場所に一組ずつ立っていた。
一組は、若槻・圭織(w3a274maoh)、片桐・沙羅(w3g792maoh)。そして逢魔・蓮華(w3e836ouma)と麗夕華、星原歩と鷹村・夢(w3c018maoh)だ。
(「三組の演技か、面白い。見せてもらおう」)
清心は延々と続くとも思える広間の壁の一所に背を預ける。
「ライムンド‥‥」
「来ないでくれ」
初めに演技を始めたのは、蓮華と夕華だった。蓮華はピアノの前に佇んで、閉ざされた蓋に目を落としている。
「僕にはもう何もする事が出来ない。君にだって、何もしてやれない」
「そんな事!」
ゆっくりと、堪えるように言う蓮華と言葉尻を捉えて颯爽と言い放つ夕華。蓮華を見る夕華の目は、恋人役、と言うよりもライバル意識のさせる、ぎらつく眼光だ。
(「夕華が力んでいるが‥‥月夜(蓮華)の演技はなかなかだ。ピアノに寄り添っているのが、自分の夢を捨て切れていないことをよく現している‥‥」)
他方、圭織と沙羅は、ピアノから一番離れた場所を舞台に選んでいた。
「リシャールは心配してきてくれたのよ。それなのに‥‥」
「あいつなら僕より上手くなる。きっと皆にもてはやされるさ!」
沙羅は少しむくれて圭織を睨んだ。容姿に似合った、自然体の演技だ。
相対する圭織はピアノに背を向けていた。清心の方から表情は分からない。そう思った時、ちらりと圭織が振り向いた。
その顔は――どこにも生気のない、死んだような表情だった。
歩と夢は、黙っていた。チェロ奏者の座る椅子に腰掛け、無言で佇む歩を、夢は見ているだけ。その中に、緊迫を孕んだ感情が見えるのを、清心は感じた。
その時、ドアが開き、別の足音が一つ広間の中に軽やかに入ってきた。
「はっはっはー。我輩はただの一紳士。音楽と歌を愛する一人の男に過ぎぬ。あえて名づけるならXとでも呼びたまえ」
その演技はお世辞にも上手いとは言えなかった。しかし帽子を取り、一礼する様は舞踊の心得があるものと知れた。
つい先日入ってきたばかりのティレイノアだ。
彼女の演ずるXとやらは、台本のどこにも記されていない。競技する相手がおらず、今まで残ったものだろう。
(「世界は色々大変だけど、ともに新しい生き方を見出すコトはできるはず。参加した全員が夢を見られる、この舞台みたいに‥‥!」)
ティレイノアの心は大きく世界に向かって、言葉は共に夢の中にいる者達に紡がれる。
「手がなくば楽器が弾けぬ? ほれこの様に、楽しむ心さえあれば楽器はそこらじゅうに転がっておる!」
ティレイノアが宣言するや、どこからか陽気な音楽が流れ出し、それにあわせて口笛を吹き、踵を打ち鳴らして踊る。
とても幸せそうに。
ライムンドとテレーゼ達は、中央で始まった予期せぬダンスに目を奪われる。そんな彼らを、清心は黙って観察する。
(「予期せぬ出来事。台本通りに進む舞台上でも、様々に起こりうるものだ。役者として、役として、どうやって相応しく切り抜けるか‥‥これもまた試練の一つだ」)
「どうだねライムンド。我輩の言う事は間違いかね?」
ひとしきり踊り終わってティレイノアは一礼し、ぐるりと周囲を一瞥した。
「そうだよ、ライムンド‥‥やりたい事、あるんでしょ? だったら、頑張んなきゃ!」
沙羅は死んだ瞳のライムンドのままの圭織の手首を握り、ステップを踏み始めた。軽やかに、足が跳ねる。ダンスは沙羅の得意技だ。
「指が駄目で何よ! 反対の手は動くわ! 足の指だって!」
台詞に呼応するように、沙羅の動きが大きくなっていく。
(「沙羅は、宝塚で色んな事教えてもらって、色んな事思い出した。先輩にどんなにキツい言葉でいじめられても、きっと追い抜くって頑張ってたあの時を。沙羅は、沙羅のできる事で、皆を幸せにするの!」)
最初は引きずられるように動いていた圭織は、懸命に踊る沙羅に徐々につられて踊りだした。最初はおどおどとした足取りだったが、沙羅を見つめるようになり、背筋が伸び、体中に力が漲っていく。
圭織が目指したのは、全身全霊、楽しんでその役を表現しきる事だった。
(「やるからにはやるしかないの。限界よりも遥か上。演じる楽しさをめいいっぱいに演じるだけ‥‥ライムンドが、希望を取り戻す様を‥‥!」)
「ありがとう!」
最後にはわざとらしいぐらいの振りで沙羅を抱き上げくるりと回ると、その額に圭織は口付けた。
「‥‥!」
夕華は驚いて立ちすくんでいるようだった。ここまで話とかけ離れたアドリブが出てくるとは思わなかったのだろう。蓮華はその様子を見て咄嗟にピアノを離れ、夕華を抱き寄せた。
「俺は‥‥鍵盤が好きだ。軽やかに流れる旋律が好きだ、僕のピアノに合わせて歌うテレーゼの声が好きだ‥‥どうして、こんな事にならなきゃいけない‥‥君と共にいる証明を、諦めなければいけない‥‥」
「‥‥ライムンド」
夕華はその行動に気付き、蓮華をいとおしく抱きしめる。
(「俺はお前と一緒に舞台に立つためにこうしてる。お前も頑張れ‥‥清心だって、全員に悔いの残らない行動を望んでる」)
そう、話しかけるような、力強い瞳に導かれて。
「僕には‥‥ピアノしかない。それ以外の何も知らない。他の何があろうと僕には意味がない‥‥」
歩は動じなかった。主人公の人生の全てを背負ったような、そんな台詞だった。
(「私の全てで夢を追います。貴女の分も。一緒に舞台に立ちましょう」)
胸にした首飾りに語りかけ、夢は動いた。
「それなら‥‥追いかけなければ。貴方は、貴方には、『ピアノしかない』と言える心があるわ。生きている、命があるのよ‥‥」
演技ともいえない強い語気に、ついはっとして歩は顔を上げた。
(「絶望の演技のはずだったのに‥‥!」)
その首飾りは、さる逢魔の物だった。
宝塚に入るのと、満面の笑みで報告してくれた一人の逢魔。
今は、どこへ行ったとも知れない。
(「私は覚醒して、演劇を諦めなければならなくなった。でも、生きて、こうしてここにいる。もう一度舞台に立てる。だから」)
「生きるのが苦しくても、それでも、生きて、笑う。そのために諦めないで欲しい‥‥私はここにいるから。ずっと――」
ずっと、舞台と共に。
夢が台詞を言い終えた時、その場に立つのは二人のみだった。
「これが結果の全てのようだな」
清心は満足げに微笑んで、半ば呆然としている二人に手を差し伸べた。
「おめでとう、圭織、夢。君達がトップだ」 |